第47章  それは運命の出会いなの、その2

 カガリたちがパレルモの街でのんびりしていた頃、オニール号には元の世界から久しぶりの通信が届いていた。もはや見慣れた感のある輝きを見て、膨大なエネルギーの開放を感知してすぐにそれが消え、メインスクリーンに宇宙ステーションに居るユウナが姿を見せる。
 スクリーンに映るユウナは軽く右手を上げて友好的な態度を見せ、マリューに近況を尋ねてきた。

「ラミアス艦長、早速だけどそちらはどうなっているのか教えてくれるかな」
「そうですね。こちらはNJ干渉が酷くて電波放送が殆ど受信できませんので、街に人を送って書籍を入手して世界の情勢を確認しようとしているところです」
「……紙媒体で情報収集ね。こっちでも前の戦争以降は主要媒体として復興したけど、アナログは強いよね」
「そうですね、デジタルと違って他の機材を用意しなくても読めますし、データの形式を気にする必要も無いですしね」

 デジタル媒体は便利であるが、通信が妨害され社会インフラも崩壊した先の大戦後の復興期において紙媒体の新聞や雑誌は劇的な復活を果たした。デジタル媒体と違って現物を手にそのまま読むことが出来るし、電気が通っていなくても何かで運んでくれば人は手に取って読むことが出来る。
 大戦で通信インフラが使えなくなった事で、新聞や書籍といったな媒体の価値が見直されて再び社会に必要とされるようになったのだ。とはいえ衰退してもはや趣味の領域にまで市場が縮小していた紙媒体の印刷製本業界に急に生産を拡大できる余地があるはずも無く、暫くは生産量拡大の為に施設の拡大が行われたりしている。これはNJの除去が進むまでは電波利用が困難という現実がある事から各国で国策として行われていて、有線通信の復活と合わせて世界の情報インフラとして復権していったのだ。
 軍用の回線は存在するがそんな物を民間が使える訳もなく、世界は昔のようには戻ることは出来ず、世界を動かす通信インフラは先祖返りを強要されていたのである。だから異世界でも同じ苦労があると言われてユウナも納得できたのだが、その購入に向かったメンバーが予想出来てしまったのか、既に作り笑顔が引き攣っている。

「ええと、それで艦長、買い物に出かけたのはやっぱり……?」
「はい、カガリ代表含む面々です。あとお守のサイ君を置き去りにしてこの世界のカガリさんもですね」
「それはまあ、サイ君も可哀想に」

 こちらの世界のサイは政府の下級官僚であったが、それでもいずれは上級職に進むのが見込まれている。そんな有望株のサイであったが、代表の随員として同行して代表を見失ったなどとなれば失態どころではない。普通の業務中であれば彼は責任を取らされて出世は見込めなくなるに違いない。だが、今は仮に失敗があってもカガリが言わなければ発覚しないので多分大丈夫だろう。
 ユウナはサイに同情しながらも、伝えるべき情報をマリューに伝える事にした。

「艦長、こちらではそろそろ増援艦の新造空母アキレウスの準備が整いそうだよ」
「空母ですか、指揮官はやはり?」

 空母というのが意外であったが、マリューは指揮を執っている相手に確信を持ちながら問いかける。それにユウナも苦笑いを浮かべて答えた。

「ああ、艦長のご期待通り、ナタル・バジル―ル中佐だよ。あ、今は地球連合軍大佐だったね」
「あら、遂に並ばれてしまいましたね」
「メンバーも信頼出来る人間ばかりだよ。集めたのはアズラエルさんだけどね」
「……そういえば、ロゴスの理事を退任されていたのでしたね。今まで理事とお呼びしていましたから、違和感がありますけど」
「本人がアズラエルさんでと言っているから、大丈夫だと思うよ。仕事が減って本人は喜んでるようだけどね。前に奥さんと娘さん連れてオーブに遊びに来てたし」

 奥さんはおっとり美人で娘さんは利発そうなお子さんだったよとユウナに言われて、マリューは何であの人は昔は周囲から悪の権化みたいに扱われていたのかなあと苦笑してしまった。とはいえマリューも出会った最初の印象は割と最悪で非常に嫌っていたのだから、彼も大分人が良くなったのだ。

「まあ元理事の事は置いておいて、ナタルが助けに来てくれるなら安心ですね」
「元副長への信頼は絶大だね。部下にもリンクス二佐や旦那さんも加わってるし、人材面には不安は無いから安心して欲しい」
「あら、ムウも来るんですか?」
「いや、そりゃ夫だし来るでしょ。今はもう女性関係も清算して艦長一筋になっているって聞いてたし」

 元アークエンジェル関係者のトールとフレイからムウさんも心を入れ替えたみたいですと聞いてたけど、と自信無さそうに聞いてくるユウナ。ムウ・ラ・ラミアス少佐のかつての女性遍歴は凄まじいものがあり、むしろよくマリューは我慢できたなと周囲が称賛するほどであった。
 そのムウが心を入れ替えて過去を清算してマリューに向き合ったというのだから、彼を知る戦友たちの驚きは凄かった。2人の結婚式では集まった戦友たちの面子が連合のエースたち揃踏みの錚々たるメンバーだったのは、戦友愛もあったがあのフラガが本当にという疑いと好奇心で集まった者が多かった。
 このように色々あったが、今ではムウはマリュー一筋であると周囲からは認識されている。過去のあれこれから当時の事をネタに揶揄われる事はあっても、本気で彼がまた浮気をすると思っている者は多くは無い。現在一番彼を揶揄って遊んでいるのは上官のネオ・ロアノーク大佐だろう。ムウを揶揄うネオ大佐は本当に楽しそうだという。

 ユウナの話を聞いていたマリューはちょっとこめかみをヒクつかせていた。

「あ、あの、ラミアス艦長?」
「お気になさらないでください、ちょっと昔を思い出しただけですから」

 戦時中もムウの女性遍歴は中々のものでマリューの折檻は何時もの事だったという。その折檻の凄さはカガリとフレイが気まずそうに口籠るほどで、ユウナもオーブでマリューに引き摺られていくフラガ少佐を見た事があった。
 今は落ち着いたと言っても、やはり過去は消えていないらしい。ユウナはこの話はこれ以上続けるのは不味いと察して話題を変える事にした。

「と、とにかく、もうすぐ艦を送れそうだよ。あといよいよ科学チームが送り込むためのワームホールの新技術を完成させたらしい」
「新技術ですか?」
「まだ往復は出来ないらしいけど、今迄みたいに空間の歪みに消えていくような物じゃなくて、はっきりと回廊を形成できるようになったらしいんだ。ただその分目立つだろうから、こんな風に通信だけの為にとかだと逆に不便になりそうだけど」
「ワームホールの回廊形成、ですか。凄いですね」
「科学者たちはスターゲートと呼んでるみたいだけど、それなら異世界じゃなくて太陽系外と繋いで欲しいよね」
「それは確かに。世界を渡るんですからワールドゲートの方がらしい気がしますね」
「僕もそれを言ったんだけど、語呂が悪いって却下されたんだ」

 ユウナは異世界よりもアルファケンタウリなんかに繋いで欲しいと言って笑い、それにマリューも確かにと頷いた。異世界なんか来るものでは無いと何度も思ってきただけに、スターゲートの技術の素晴らしさは認めるがユウナの言うような方向に使って欲しいものだ。
 そしてユウナは、オーブから試作装備を出すからテストお願いしてきた。

「アキレウスに乗艦してるオーブMS隊には、M1の新装備搭載型が送られることになってるんだ。もし機会があったら実戦データの収集を頼みたいんだけど」
「……そういう機会は無いに越したことは無いですわ」
「そうなんだけどね、クローカー博士が折角完成させた対光波シールド装備搭載機だから軍務担当としてはテストをしたいって気持ちもあってね」

 そちらの報告だと光波シールドに似たエネルギーシールド装備機が複数居たとあったから出す事にしたんだ。と言うユウナに、マリューは技術者として興味を惹かれてしまいどういった装備を持たせたのかを尋ねた。

「ユウナさん、対光波シールド装備と言うのはどのようなものです?」
「構想的には大西洋連邦の一部MSが採用してたランサーダートの発展型と言えるのかな。あれはロケット推進式の対PS装甲質量兵器という変わった物だったけど、クローカー博士があれを参考に光波シールドもPS装甲もぶち抜く超高速質量弾を作ったんだよ。それをM1に試験装備させたんだ」
「それはまた、随分と力技ですね」
「ザフトのアーバレスト砲と一緒で、当たったら確実に貫通しますとクローカー博士は言ってたよ。単純な力は単純だけに防ぐことが困難なんですよって」

 小手先の工夫など正面から粉砕してくる圧倒的な力、というのはただ単純であるだけに防ぐことが出来ない。かつてザフトが運用していたアーバレスト砲がまさにそれで、ただ極めて頑丈な大口径砲弾を超高速で目標にぶつけるという極めてシンプルな大砲で、終戦まで防ぐ方法は存在しなかった。
 それは現在でも同じであり、運用面が最悪であることを覗けば最高の実弾砲をして君臨している。その破壊力は地球軍にも注目されていて戦後に技術は地球軍に接収されており、その技術を応用、もしくは発展させた兵器が研究開発されている。
 オーブもその派生兵器の1つを生み出したという事なのだろう。マリューは納得して頷いたが、何時も金が無いとカガリが嘆いているオーブによくそんな金があったなと不思議に思っていた。



 パレルモの街を彷徨うように、キラは歩き回って、遺跡らしい観光名所の2階の窓際に立って街を見下ろしていた。その表情はラクスと一緒に居た時とは異なり、無気力感を漂わせて酷く陰鬱な空気を纏って辛そうな顔をしている。仲間が居る時は表面的にでも普通にして見せる程度の配慮は出来るようになっていたが、他の目が無い場所で1人で落ち着くとこうなってしまう。
 無くしてしまったものが自分を責め立てる刃となって今も自分を切り刻んでいる。壊れてしまった心を2年の休息でゆっくりと繋ぎ合わせて再び動き出せるようになったが、治ったわけではない。一度壊れた心は元に戻ることは無い。
 とはいえ、記憶は少しずつ薄れていく。悲しみも記憶と共に薄れていく。キラを責めているのは周囲でも死者でもなく、キラ自身なのだろう。だからキラはあの戦いで見てしまった心の傷を時折思い出し、その記憶が薄れている事に心を軋ませながら左手で窓の縁に手を付き、右手で顔を押さえて何かを堪えるように呟く。

「大丈夫だよ、忘れてない、忘れてないから……」

 今でもトールとフレイの声が聞こえる時がある。2人が死んだ時の瞬間は目に焼き付いているのに、死んだと分かっているのに、聞こえるような気がするのだ。それが壊れた心が生み出す幻聴なのか、本当の死者の声なのかはもはや自分にも分かってはいない。
 気を落ち着かせたキラは改めて街に視線を向ける。そこには平和な町並みが広がっていて、大勢の観光客が楽しそうに町を巡っていて店の客引たちの威勢の良い声が響いている。その光景が自分の戦ってきた成果だと思えればまだ気持ちも楽になるのかもしれないが、それが出来る人間ならこうはなっていない。
 目を閉じて気持ちを落ち着けていると、また声が聞こえてきた。トールの声が聞こえてきて、キラの表情が歪む。

「トール……御免……」

 彼の声が妙にリアルに聞こえてくる。その声にキラは耳を塞ぎたくなったが、それをすることは出来なかった。

「トールさん、これお土産にどうですかね?」
「お皿? そんなの買って帰っても誰か喜ぶか?」
「いや、艦のみんなじゃなくて母さんとマユに異世界土産で」
「ああ、そっちね。なら俺も母さんたちに……いやもう少し考えた方が良いか」

 トールとシンの声が聞こえる。まるでお土産を探す観光客のようで、それが更にキラの心を掻き乱して……

「……え、お土産? シンの声?」

 何時もと違う声にキラが戸惑い、窓から身を乗り出して町をキョロキョロと見回す。必死に声のする方を探していると、遂に声の出所を見つけることが出来た。そこにはお皿を持って何か騒いでいるシンと、シンに向き合ってどうしようかと考えているトールの姿があった。

「トール、どうして……?」

 そこに居るのは自分の知るトールではない。もし生きていたらこんな感じになっていただろうと思わせるような数年の成長を感じさせる、青年となったトールがそこに居た。
 そんな馬鹿な事が、と混乱しながらもトールを凝視するキラだったが、更に耳を疑うような声が聞こえてきた。

「何見てんだお前ら?」
「この辺りの有名なお土産の陶器みたいね、私たちの世界だと産地が壊滅状態だから結構貴重品の筈だったかな」
「お前らの世界、本当に世界全土で戦争してたんだな」

 その声に、心臓の鼓動が大きくなるのを感じる。ありえないと否定したいのに、その声は確かに聞こえてくる。2人の声は少し違うがどちらもカガリだと感じるが、もう1人は聞き間違えるはずも無い、あの娘の声だった。
 驚愕して声のした方を見ると、2人のカガリとトールのように成長した姿のフレイがそこに居た。

「……フレイに、2人のカガリ?」

 呟いてから、その異常さに更に頭が混乱してしまう。死んだ筈のトールとフレイがどうしてここに居る。そしてどうしてカガリが増えている。理解出来ない目の前の光景にキラは混乱し続けていた。これは自分の罪悪感が見せている幻覚なのか。それにしてはカガリが増えているのが説明できない。
 理解出来ない、その混乱がキラの中を埋め尽くしていた。そしてそれは1つの衝動となり、それに突き動かされてキラは駆けだしていた。会いたい、という衝動に衝動に突き動かされて。



 アスランとイングリッドがラクスと遭遇していた頃、カガリたちは何時の間にか姿が見えなくなっている2人に気付いてちょっとした騒ぎになっていた。気付いた時には2人の姿が無かったので最初はシンとトールとメイリンが大騒ぎをして、どうしたのかと集まって来たカガリたちもそれを聞かされて驚いてしまった。

「アスランとイングリッドが、2人して姿を晦ませただと!?」
「それってまさか、そういう事なの!?」

 カガリとフレイが驚いて顔を見合わせ、何やら興奮している。それを見てセランとメイリンも気付いたのかそういう事ですかと相槌を打ち、5人で何やら恋愛談義に花を咲かせている。
 一方で脳内お花畑と化した女性陣に付いていけないでいるボーマンとトール、シンは少し離れた所で彼女たちの話に疑わしげな顔を向けあっていた。

「あの2人がそんな風になると思うか?」
「いえ、アスランもイングリッドも多分お互いに恋愛感情はゼロだと思いますよ」
「あの人たち絶対に楽しんでるだけですよ」

 ボーマンとトールが疑わしげな声でそんな訳無いだろうと言い合い、シンは楽しそうな女性陣を見ながら呆れた顔をしている。何でそんな事でそこまで楽しそうに話せるのかと思うのは男が故の感性なのだろう。
 それでもそれを聞かれないように離れた所でぼそぼそと言い合っているのは、一応迂闊な事を口にすれば自分の身が危ないという事を理解しているのだろう。ついでに言うとトールとシンは迂闊にフレイを刺激したら帰路を待たずにここでお仕置きされかねない。
 だが、本当に2人はどうしたのだろうか。真面目な2人の事だから何処かにふらふらと行ってしまったという事は無いと思うのだが、じゃあ一体何処に行ったのか。3人でそんな事を話し合っていると、セランが声を掛けてきた。

「兄貴、トール君、シン君、そろそろ何か食べましょ!」

 何時の間にか昼食時になっていたらしい。3人は何時の間にかそんな時間にと驚き、そして店選びを始めている女性陣と合流するべく歩き出した。まああの2人だから心配しなくても上手く合流してくるだろうと思えたのだ。



 同じ頃、アスランとイングリッドはラクスの捜索の目を躱しながら仲間を探していたのだが、探し回ってもなかなか見つからず、少し困っていた。探し回ったのに運が悪いのか仲間たちの姿が見つからず、アスランは困り顔になってしまっていた。

「参ったな、みんなは何処に行ったんだ?」
「流石に疲れてきたわ。アスラン、何処かで休みましょう」
「そう、だな。時間も丁度良いし、昼食にしよう」

 疲れた顔のイングリッドを見てアスランも頷き、何を食べようかと周囲を見回す。観光地らしく開放的な飲食店は多いが、アスランにはどれも同じに見えるようでどれにしようかと考えこんでしまう。だが考え込むアスランにイングリッドが提案をしてきた。

「アスラン、この辺りは魚介とトマトを使ったパスタが有名らしいわよ」
「そうなのか。イングリッドは物知りだな」
「行くことは出来なかったけど、何時か行けたら良いなと思って調べてはいたから」

 そう言ってイングリッドは少し歩きながら店を見て回り、食べてみたい店が見つかったのかここにしましょうとアスランを呼ぶ。その少しはしゃいだ様子のイングリッドにアスランも笑顔を浮かべると彼女の元へと駆け寄っていった。
 2人が入った店は路地に入ったところにある観光客向けというより地元民向けの店で、出てくる料理も焼きパスタやブジアーテといった地元でよく食べられる料理が中心だった。アスランはタコやイワシを使った、プラントでは馴染みが無い料理を珍しそうに口に運んでいる。イングリッドは地球の料理に馴染みがなさそうなアスランを楽しそうに見ていた。

「農産物はまだしも、海産物はプラントだと入手が難しいから、こういうのは地球でないと食べられないな」
「流石に人工環境で海産物は厳しいわね。重力制御が可能になってサイズも小さな国くらいの巨大コロニーでも作れないと」
「植物や動物はある程度出来るんだがな」

 最終的には循環サイクルまで再現しないと駄目よねというイングリッド。陸上養殖という方法でも全てをゼロから賄うのは大変な事で、宇宙で生鮮食品を作るのが既に無茶な事なのだろう。実は栄養を摂るだけならば合成食糧だけで問題は無いのだが、これだけで続けると普通の人間は精神的に持たない。何らかの形で生鮮食品の供給、無理なら視覚的にそれと思えるような工夫が必要とされる。
 生産地からの流通が機能していれば考える必要の無い問題であるが、この能力が人類が進出できる距離の限界になってくる。

「俺たちの世界でもプラントでの食糧生産の研究は続けられているんだが、ある程度は出来るんだが、どうしても限界がな。量は作れるんだが種類が余り増やせないし味も微妙だし、時折原因不明の全滅が起きたりするしで、まだまだ先は長いよ」
「結局、コロニー環境ではどんなに頑張っても星には及ばないって事かしら」
「かもな。そう考えると、宇宙の人工居住地も仮住まい以上には出来ないのかもな」
「それはまあ、結局宇宙塵の衝突や放射線を浴び続けたりで外側も劣化していくし、いずれ作り直さないといけない物でもあるからね」

 決して変質しない材料は無いし、それらの外的要因を防げるようなシールドを用意する技術も無い以上、宇宙空間での生活にはいずれ限界が来る。その限界が来る前に何らかのブレイクスルーが起きることを期待したいところだが、今のところその目途すら見えていない。
 火星のテラフォーミングが上手くいけば恐らくコロニーは居住用ではなく拠点として使われるようになっていくのだろう。折角天然のバリアと重力を持つ環境があるのに、危険なコロニー環境に住み続ける理由は無いからだ。確かにコロニーは衛生的で気候も安定していて住み易いが、終の棲家には出来ない脆い世界なのだから。
 その種の極めて安定した宇宙居住地を生み出すには高度な磁気シールド精製技術と重力制御技術が要求されるのだろう。それによって星のように宇宙線を防ぐバリアを生成できるようになれば、より長い寿命を持つ居住地を建造できるようになるのかもしれない。

 2人で食事をしながらそんな事を話していると、アスランが自分たちをじっと見ている視線に勘付いた。そちらを見たと気取られないように注意しながら目の動きだけでそちらを伺い、そこに建物から小さく顔を出してジト目でこちらを監視しているラクスの姿を見てしまった。どうやらまだ探していたらしい。
 驚くべき執念と言うべきか、アスランは驚きの余り口にしていた料理を吹き出しそうになるのを懸命に堪えて咄嗟にグラスを掴んで水を口にした。

「ま、まさか、ここまで追いかけてくるとは」
「アスラン?」
「イングリッド、君の背中の方向にラクスが居て顔だけ出してこっちを見ているんだ」
「……まだ探していたのね」
「ああ、正直驚いたよ」
「ですが、キラ・ヤマトはどうしたのかしらね。確か話では彼女はキラ・ヤマトと一緒に姿を消したと聞いていたのだけれど」

 ファウンデーションとの戦いが終わったのち、2人は表舞台から姿を消した。少なくともそのように扱われている。なのにラクスだけでキラの姿が無いという事にイングリッドは疑問を感じているようだ。
 それにアスランが何か答えようとした時、ラクスが頭を引っ込めるのが見えた。まさかこっちに来るつもりかとアスランとイングリッドは警戒したが、暫く待っていても彼女はやってこない。どうやら他所へ行ったらしいと思って2人は安堵の息を漏らした。
 一体何でこんな目に合うのだと笑い合いながら2人はようやく落ち着いて食事を再開しようとしたが、その時離れた所から聞き慣れた女性の悲鳴が聞こえてきた。



 アスランたちの観察を止めたラクスは、聊か不機嫌そうな顔でホテルへの道を歩いていた。最初はアスランの浮気かと思って面白半分で追いかけていたのだが、そのアスランがちゃんと真面目に女性をエスコートしてデートをしているのを見て、だんだん腹が立ってきたのだ。見つけた時から自分の時はあんなに雑に扱っていたのにという不満を抱いていたのだが、それがだんだん膨れ上がってとうとう見ているのが不快になってきてしまい、立ち去ってしまたのだ。
 とはいえあそこまで来るとアスランと同一人物とは思えないという疑いも出てきていたので、もしかしたらアスランのそっくりさんで別人なのかもしれないと思う自分も居た。

「別人、だったのでしょうか。あんなアスランはカガリさんと一緒の時でも見た事が無いですし」

 もしそうなら浮気と疑ったのは悪かったなと反省するラクスだったが、その時何処からか女性の悲鳴が聞こえてきた。

「放してこの変質者!」

 という叫びと共に何かを叩く音が2度響き、その後に「フレイから離れろこの変態が!」という叫び声が轟いて何かが叩き付けられるような音が響き渡った。
 一体何が、という疑問と同時に何か聞き覚えがある声だった気がするラクスだったが、1人目の方は覚えはあるが思い出せず、2人目は覚えがあるがこんな所に居るはずが無い相手であり、似ているだけだろうと思って面倒に巻き込まれる前にその場から離れる事にした。
 この時、興味を惹かれて見に行っていれば大きく運命が変わったのかもしれないが、不幸にしてラクスはそれをただの観光客のトラブルだろうと思って離れる道を選んでしまった。





 2人のカガリとフレイ、セランは頼まれていた雑誌などの書籍を購入して回り、バッグに詰め込んでいた。とはいえ雑誌も量が揃えばなかなかの重量で、詰め込まれたバッグはかなりの重量となっていて背負ったフレイはその重量に苦笑いを浮かべていた。

「体力作りの訓練を思い出すわね、昔に歩兵の訓練に付き合ってた時に良く荷物を背負って動いていたわ」
「完全装備で走らされるからな、私もやった事あるけどあれは辛かった」
「お前もやってるのか、私もやった事あるぞ」

 フレイの言葉に2人のカガリが懐かしそうに返しているが、それを聞いたセランが不思議そうに聞いてきた。

「あれ、カガリってオーブの代表だったわよね。何で歩兵装備を背負って訓練に参加なんてしてたの?」

 セランの疑問に2人のカガリは顔色を変えて話を誤魔化しにかかった。まさか北アフリカでゲリラに参加するために武器の使い方覚える為にやってた、などと言える訳が無い。一方昔のカガリの所業を知っているフレイは慌てふためいている2人のカガリの様子が可笑しくて必死に笑いだすのを堪えている。
 こちらの世界では分からないが、向こうの世界ではカガリの行為は表沙汰になったらオーブにとって洒落にならない歴史上の汚点となる行為で、プラントに宣戦布告されかねない大問題になると言われていた。知っている者は知っているが誰も口に出そうとしないのは相応の理由があるのだ。

 そんな事を話していると、シンとトールがお土産屋で皿を手に騒いでいるのが見えた。どうやらこの辺りで有名な焼き物を手にしているようで、5人は自分たちもそのお土産屋に合流して自分たちでも少し物を選び、フレイから自分たちの世界だともう手に入り難いと言われて向こうから来たメンバーが気に入った皿や壺をお土産にと購入していった。
 この後にトールとシンが食い物が欲しいと言って先に行ってしまい、それを追って2人のカガリとメイリンが行ってしまう。それを見送ったフレイは一緒に残っていたボーマンとセランを見た。

「どうします、私たちも行きますか?」
「そうですね、時間があれば遺跡巡りとかしたいところですが」
「流石にそれはなあ、余り長引くと艦長たちも心配するだろうし」

 セランが残念そうに呟き、ボーマンが観光に来たんじゃないんだぞと苦笑している。フレイはセランに同意して自分も観光したかったですと言い、名残惜しそうに周囲を見回している。もう2度と見る機会が無いだろう景色を少しでも見ておきたいという欲が出ているのだろう。
 だが、何時までもそうしている訳にはいかず、フレイはセランとボーマンに促されて歩き出したが、その時背後から駆け寄ってくる押し音が聞こえてきて、何かなと思った時にいきなり開いていた左腕を後ろから誰かに捕まれた。

「ま、待って、フレイ、フレイだよね?」

 その声に、心臓が大きく跳ねるのを感じる。まさか、という驚きと同時に懐かしさが込み上げてくるが、自分を落ち着かせてゆっくりと振り返ったとき、フレイは久しぶりに感じる強烈な違和感を感じてしまった。
 そこに居たのは自分が知っている彼より大分成長した、青年になったキラだった。大分成長しているが全体の雰囲気は余り変わっていない。ただ自分の知っているキラに比べると全体に重苦しい空気を纏っているのが気にかかる。あと、声を掛けてきた直後からずっと荒い息を吐いていて、まるでここまで全力疾走してきた直後のようだ。キラだから何も言っていないが、傍から見たらただの不審者の類だ。
 自分の左腕を掴んだまま必死に呼吸を繰り返して時折咳き込んでいる、強烈な違和感を感じるキラを前にしてフレイは一瞬だけ込み上げてきた感情の高まりが急激に落ち着いてくるのを覚えて、むしろ引き気味になっていた。
 傍にいるセランとボーマンもキラを見て声を無くしてフレイを見やり、フレイの様子が自分の予想と違うのを見て戸惑っていた。何と言うか、不審者にドン引きしているよう被害者の様な顔をしている。
 そしてようやく呼吸が落ち着いたのか、キラは改めてフレイを見た。

「フレイ、どうして君がここに居るんだ。君はあの時、ヤキン・ドゥーエで……」

 死んだ筈だろ、とは言えなくてキラが言葉に詰まる。だがそこから次の言葉を継げずにもごもごとしていると、目の前のフレイは大きく溜息を吐くと困惑した顔で答えてきた。

「あの、人違いじゃないですか。私はフレイなんて名前じゃないですけど」
「え?」
「私は、アネット・バゥアーと言います。フレイなんて名前じゃないです」

 困惑するキラに自分はアネットだと名乗り、セランとボーマンを見てそうですよねと同意を求めるフレイ。2人も最初戸惑っていたがすぐに察して頷いてくれた。

「そ、そうですよ、彼女はアネットです。フレイなんて方は知りませんね」

 セランが誰と間違えてるんですかとやや強引に笑い、ボーマンも少し表情が引き攣っているが同意して頷く。それを見てキラは戸惑うように2人とフレイの顔を交互に見ていたが、やがて納得したのか手を離して一歩後退った。

「ご、御免、昔の知り合いにそっくりだったものだから、つい……」
「い、いえ、大丈夫ですよ。ちょっと驚きましたけど」

 本当は以前にサイやカガリに会った時以上の違和感、というより不快感に堪えていたので早く何処かに行ってくれとさえ思っていたのだが、まさかそれを口にする訳にもいかず表面的には淑女らしく振舞っていた。あとここには居ないキーエンス・バゥアーに勝手に亡くなった妹の名前を拝借してしまったことを詫びてもいた。
 目の前の彼女はフレイではない、という当たり前のことを突き付けられたキラは呆然としていたが、それでも目の前で亡くなった筈の彼女が生きていたというよりは人違いだったの方が余程当たり前の結論であったので、キラは自分が暴走していたのだと理解して少しだけ落ち着きを取り戻していた。

「すいませんでした。その、戦争で亡くなった知人にそっくりだったから」
「そんなに似ているんですか?」
「うん、声も容姿も瓜二つと言うか、数年したらこうなっていただろうなって思う姿そのものだったから」

 だから、考えるより先に体が動いていたんだと言い訳するキラ。それにフレイが気にしなくて良いですと答えて身を翻し、キラの傍から離れる。そんなフレイの傍によってセランが小声でフレイに耳打ちした。

「ええと、アネット、良いんですか放っておいて?」
「良いんですよ、彼は私の会いたいキラじゃないですから。それに、あの違和感を我慢するのもかなり大変なんです」
「いえ、そうじゃなくてですね。こっちじゃフレイとどういう関係だったのかとか、聞いてみて欲しいって事です」
「それセランさんの興味じゃないですか」

 こっちの世界ではラクスと付き合っていると分かっているのだから、今更死んだ私との事なんて掘り起こしても困らせるだけですよと言い返すフレイに、セランは残念そうな顔で、でもまだ未練があるようでちらちらとフレイの方を見ていた。
 ボーマンが2人より一歩先に出てその後ろをフレイとセランが歩いている。その後ろ姿を見送ってきっとトールも別人だったんだろうなと反省しながらキラも踵を返したのだが、その時後ろの方からとても聞き慣れた大声が飛び込んできた。

「おいフレイ、この焼き物すっごく美味いぞ。お前も食ってみろよ!」
「カガリ、名前呼ぶんじゃないわよ!」

 なんでこのタイミングで最悪のやらかしをするのよあんたはと怒るフレイだったが、背後で人が動く気配がしたから咄嗟に体が逃げる方向に動いてしまって、再度掴みかかってきたキラの右手を空振りさせることに成功した。だが、肩か腕を掴もうとしたであろうキラの右手はそのまま下へと降り、勢いで半歩踏み出してバランスを崩していたキラは伸ばした右手でフレイのスカートを掴んで、そのまま引き下げてしまった。
 やらかしてしまったキラは一瞬硬直し、その手を離してしまう。スカートを降ろされたフレイは慌てて左手でスカートを掴んで引き上げ、顔を真っ赤にして悲鳴と共に右手が振り抜かれた。

「放してこのスケベ、馬鹿キラ、変質者!」
「ご、ごめブベラ!?」

 体を起こして慌てて謝ろうとしたキラだったが、彼は自分の目にすら捕らえられない速さで振り抜かれた右手に左頬をビンタされて頸椎が心配になるほどに勢いよく頭を右に向けられてしまう。それでもまだキラは耐えてフレイに向き直ろうとしたのだが、そこにスカートを戻したフレイが思い切り右足を蹴り上げてきて、キラの股間に見事に直撃した。
 股間を蹴り上げられたキラは一瞬時が止まったかのような空白の後、耐えることなど不可能な衝撃に襲われて声にならぬ呻き声を漏らしながら脂汗を流して股間を押さえながらよろめいた。悲痛な声を漏らして震えながら崩れ落ちそうになったキラは、耳に飛び込んで来た大声に苦悶の表情を浮かべながら顔を上げた。

「フレイから離れろこの変態が!」

 キラの目に飛び込んできたのは、腰までの長い髪を靡かせながら全力疾走してきて一気に跳躍して飛び蹴り姿勢で突っ込んでくるカガリの姿だった。

「カ……ガリ?」

 何で、という言葉を続ける時間も貰えず、カガリの右足がキラの胸を捕らえ、キラは吹き飛ばされて壁に叩き付けられ、そのまま壁をずり落ちてドサリと道路に転がった。
 キラをライダーキックで沈めたカガリはスカート押さえて涙ぐんでるフレイを抱き寄せて変態は仕留めたから大丈夫だぞと慰めている。だが周囲のボーマンやセラン、こちらのカガリは目を点にして固まってしまっていた。そして我に返ったカガリが慌てふためいて駆け寄ってくる。
 
 「キ、キラ、おい大丈夫なのか?」
 「何、キラだと?」
 
 フレイを慰めていたカガリが驚いて倒れている男を見やり、確かにキラの面影があると気付いて吃驚して慌ててフレイを見た。
 
 「おいフレイ、泣いてる場合じゃないぞ。早く追い打ちしないと復活しちまう!」
 「キラを何だと思ってるんだお前は!?」
 
 股間を押さえながら完全に白目向いて気を失っているキラを見ていたこちらのカガリは、この状態からすぐに起き上がってくると警戒しているのを見て何を言ってるんだお前はと思ったが、言ったカガリと言われたフレイは何を言ってるんだお前はという顔をしていた。
 
 「何って、キラだぞ?」
 「そうよ、キラはこの程度じゃ直ぐに復活するじゃない。このまま止め刺しておかないと」
 「よく見ろ、完全に気絶してるぞ!」
 
 カガリに言われて2人も疑わし気にキラを確認し、カガリが拾った棒で突いてみたが反応しないのを確かめて首を傾げてしまった。
 
「これくらいでキラが無力化できただと?」
「こっちのキラは虚弱体質なのかしら?」

 本気で不思議そうにしている2人にカガリはお前らの世界のキラは本当に人間なのかと疑わしげな声で問うと、2人は顔を見合わせてかなり真剣に考え込んでしまった。イタラに聞いた話を考えるとその辺りはかなり微妙な所なのだ。真っ二つにしたら再生して2人に増えたらどうしようと他ならぬキラ本人が深刻に悩んだくらいだ。
 自分が人間と言える存在なのか、という悩みはメンデルの研究に触れた事でキラに表舞台から去るという決意に繋がったのだろうとカガリとフレイは考えていたが、それを確かめる術は無かった。
 その後に合流してきたシンとトールも加わって、さてどうしようという話になった。シンとトールとボーマンはキラの惨状に心底同情した眼差しを向けていて、セランが使い物にならなくなる可能性があるからあそこを狙うのは駄目だとフレイを叱っている。
 この混沌として、かつ衆目も集めている現場に食事を終えたアスランとイングリッドが何事かとやって来て、股間を押さえながらぶっ倒れているキラを見て何があったのかと仲間に問いかけた・

「なあトール、何でキラがこんなこんな事になっているんだ?」
「いや、それがその、不幸な事故と言うか何と言うか……」

 トールが少し離れた所から見た出来事をそのままアスランとイングリッドに伝えると、2人は同時に飽きれたような溜息を付いてから倒れているキラを見る。

「フレイの姿を見つけて、色々な感情が爆発して冷静さを無くしたんだろうとは想像がつくな」
「それでフレイを掴もうとしたら躱されて、運悪くスカートを掴んで引っ張ってしまったか。まあ事故と言えば事故なんでしょうが」

 何とも運の無いと言うか、流れるように最悪の状況を呼び込んでしまったようだ。しかし、同情はしても助けようという気にならないのは、2人ともキラに対して忸怩たる感情を持っているせいだろうか。
 そんな事を考えていると、周囲が騒がしくなった。どうやら警察がやって来たらしい。それに気付いたカガリが不味いなと呟き、どうしようかと周囲を見回す。するとアスランとイングリッドは自信ありそうに任せておけと言った。

「警察の相手は任せろ、何とか誤魔化してやる」
「ええ、上手く丸め込んでやるわ。ああ、悪いけど周囲の店に監視カメラの映像を出してもらってきて。キラ・ヤマトのやらかし現場が映ってるのがある筈だから」

 お役所仕事が長い2人は自信ありげに不敵な笑みを浮かべて請け負い、それを見た一同はちょっと引いてしまった。その姿はどう見ても職権で悪さをしてきた悪徳官僚としか思えない物だったからだ。





 あの騒動の後、また何かに巻き込まれてはたまらないとカガリたちはキャバリア―に戻って艦に戻る事にした。ボーマンとセランはこちらのカガリにキラと一緒に向こうに戻らないのかを尋ねたのだが、カガリはサイと一緒に戻らないとあいつに迷惑がかかると言って付いてきた。
 カガリが帰ろうとしない事でサイの心労がどんどん増えている事を知っている2人は心配するところを間違えていると呆れ顔になっていたが、それを言っても誤魔化すだけなのでもうツッコむこともしなかった。こういう所は本当に自分たちの知る昔のカガリに似ており、世界が違って細かい違いはあっても同じカガリなのだと思わされる。
 艦に戻るキャバリア―の中では、フレイに向かって正座をしているアスランとトール、土下座しているシンという異様な光景が広がっていた。フレイは両隣のイングリッドとカガリを交互に見て、どちらも戸惑っているのを見て仕方なさそうに自分で理由を尋ねた。

「いきなり何してるの、彼方たちは?」
「いや、船で後でぶっ飛ばすと言ってたから」
「先に反省の様子を見せれば許さるかなと」
「命だけは助けて下さい」

 1人だけ深刻度が違うようだったが、言われたフレイは少し考えて電波扱いされた事かと思い出してそう言えばと頷き、改めて3人を見る。

「もう良いわよ、気にしてないから」
「ほ、本当か、突然ぶっ飛ばされたりとかは?」
「しないわよ、なんかスッキリしちゃったから」
「スッキリした?」

 アスランとトールが疑わし気に聞き返してくる。両隣のカガリとイングリッドもどうしたのかとフレイを見るが、フレイはキラを張り倒した左手を見て答えた。

「キラを思いっきり引っ叩いたら、なんだかすごくすっきりした気分になっちゃった。だからもう気にしてないわ」

 とても爽やかな顔で言うフレイに、カガリとイングリッドは顔を見合わせて小声で語りだした

「やっぱ、色々不満溜めてたんだな」
「そりゃ帰って来ると言い残して4年も放置されれば溜まるでしょうね」

 不甲斐ない駄目男に一撃入れて色々スッキリしたと言われては、もう納得するしかない。カガリとイングリッドは困ったもんだと苦笑し、男たち3人は助かった喜びに表情を輝かせて胸の前で手を組んで生贄となってくれたキラに感謝を捧げていた。ありがとう、キラ。と。



 この日の日暮れ時、キラが戻ってこないことを不審に思いながらもラクスはホテルのロビーでソファーに腰を降ろしていた。いつもなら先に戻っている筈のキラの姿が無く、どうしたのだろうと心配していると、何やらロビーの中が騒がしくなっている事に気付いた。大勢がロビーにあるTVモニターの前に集まり、何かを話している。
 何か大変な事件でも起きたのだろうかとラクスも手荷物を持って人だかりの方に歩み寄ってTVモニターを見ると、そこには驚愕のニュースが映し出されていた。

「本日、コンパスMS隊隊長のキラ・ヤマト氏がパレルモにて観光客女性に迷惑行為を行ったとして現地警察に拘束されました。発表によると相手女性からの被害の訴えなどは無く、警察はキラ・ヤマト氏から事情聴取を行う予定だそうです」

 ニュースキャスターが速報を読み上げ、画面に警官に両脇を掴まれながら内股でひょこひょこと歩いて車両に乗り込んでいくキラの姿が映し出されている。周囲の警官の眼差しが少し同情気味なのは気のせいだろうか。
 それを見たラクスは持っていた手荷物を落としてしまい、笑顔のまま怒気を漲らせて額に血管を浮かべてしまった。その怒気に周囲の人間が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「何をしているのですか、キラ?」

 それは、これまでに彼女がキラの名を呼んだ事例の中でも、最も物騒な響きを持っていた。



 そして、宇宙でもまた小さな騒動が起きていた。地上のオーブから緊急の通信を受け取ったミレニアムの艦橋で内容を確認したコノエは頭を抱えてデスクに突っ伏し、それを休憩室で休んでいた主要メンバーへと送った。
 休息室のモニターでそのニュース映像を見たアスランは頭の中で何かが切れる音を聞いて立ち上がると、艦橋に降下用シャトルを頼んでシンを見た。
 
 「シン、ちょっとあの馬鹿を連れ戻しに行ってくる」
 「あ、ああ、お気を付けて」
 
 激怒しているアスランの怒りに気圧されてシンが身を引きながら何度も頷く。部屋から出ていったアスランを見送ったシンは、ルナマリアとアグネスを振り返って何があったのかと質問をぶつけていた。

「キラさん、何があったのかな」
「観光地で女性に手を出すような人じゃ無い筈だけど……」
「分かんないわよ、キラ隊長だって男なんだし」

 あのキラがそんな事をするかと疑問に思う2人に、アグネスは男なんてそんな物と言い、2人を黙らせてしまう。
 そしてもう1人、休憩室を掃除していたステラはモニターに映るキラの姿を見て驚いていた。

「キラさんだ、こっちでは無事だったんだ」

 驚いて呟くステラの声に、シンはそう言えばと呟いた。ステラの世界ではキラは戦死しているらしいのだ。

「ステラの世界だとキラさんは……」
「うん、4年前に帰ってこなかったの。それでオーブでキラさんの死を悼んだカズィさんたちが新しい映画を作ったんだよ」
「前に言ってたスーパーメカカガリだっけ。そういえば観るのはお勧めできないって言ってたけど、どんな内容なの?」
「う~ん、内容に問題がと言うか、キラさんの扱いがかなあ。シンはキラさんが大好きなんだよね?」

 ステラに言われてシンは照れ隠しするように顔を背け、ルナマリアとアグネスはあれは大好きじゃなくて飼い主にじゃれつく犬よねとか言っている。2人の評価を聞いたステラがシンは犬さんなのと首を傾げていたが、それでも端末を取り出して必要なデータを読みだした。

「スーパーメカカガリを見せることは出来るんだけど、シン、1つ聞いても良い?」
「な、何かなステラ?」

 先ほどからルナマリアとアグネスに犬とか駄犬とか言われ続けて心が折れそうになっていたシンは、精神的に折れかけて負け犬の顔になってステラに答える。その姿を見てステラはこの3人は本当に友達なのかなあと疑問に思いながら、シンに大事な事を確認した。

「シンは、キラさんが女の子だったらどう思う?」
「……はい?」

 余りに意味不明過ぎる質問に、シンだけでなくルナマリアもアグネスも虚を突かれて呆けた声を出してしまった。そしてこれがキラにとってとんでもない事件の幕開けとなるなど、想像もしていなかった。


ジム改 キラ君とラクスさん遂に本格参戦です。
カガリ いきなりとんでもない事になってるんだが?
ジム改 君とアスランの時もこんな感じだったじゃないか。
カガリ あのせいで私は未だに恋人無しなんだぞ!
ジム改 実は作中で明確に成立してるのってムウとマリュー、キースとナタル、トールとミリアリアくらいなんだよな。ジャックとエルフィとシホはまだそこまで行ってないし。
カガリ あれ、イザークとフィリスは?
ジム改 フィリスの片想いです。
カガリ …………あいつは一度海に沈めた方が良いのでは?
ジム改 ああいう奴だからはっきり言われないと進まないのだよ。
カガリ フィリスはイングリッドより露骨にアピールしてる気がするんだが。
ジム改 まあそれはそれという事で。
カガリ あいつそのうち刺され……るくらいなら平気か、嫉妬団だし。
ジム改 流離う世界の住人は人間辞めてる奴が多いなあ。
カガリ お前のせいだろうが。ところでキラが女の子ってなんだ?
ジム改 何を言っている、この件はお前のやらかしが発端だぞ。
カガリ はて、何かあったっけ?
ジム改 完全に忘れてやがる。
カガリ まあこれでキラとラクスもコンパスに戻って来て主力が勢ぞろいだが、私たちには戦う理由が無いような?
ジム改 お前たちには無くても、コンパスはお前らを警戒してるから見つけたらまた来るぞ。
カガリ 悪質ストーカー並みにしつこい連中だな、戦争始まってるんだからそっち止めろよ。
ジム改 お前らコンパスの主力を真っ向勝負で粉砕したのを忘れてないか?

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