第42章  遺伝子の因果

 地中海を望めるコテージで、キラとラクスはのんびりとした昼食の支度をしていた。とはいえキラは食べる専門で殆どラクスにお任せをしていたのだが、キラはテーブルに並べられていく大皿に上に乗った茶色い物体に顔色をどんどん悪くしていた。

「キラ、地元の方に伺ったのですが牛脂で揚げるとさっぱりとして食べやすくなるそうですわ」
「へ、へえ、そうなんだ……」

 沢山食べて下さいねと笑顔で行ってくるラクスは見ていて微笑ましかったが、今のキラにそれを楽しむ余裕は無かった。既に眼前には揚げ物の1個大隊が鎮座していて、更にこれに続々と増援が到着している。
 この致死量としか思えない揚げ物の山を前に、キラは最近出てきたお腹を触ってこっそりベルトを少し緩めた。
 そしてまた新たな大皿がテーブルに置かれて、ラクスは満面の笑顔を向けてきた。

「さあキラ、どうぞ召し上がって」
「うん……」

 フォークでコロッケを刺して、無造作に口に運ぶ。それは確かにラクスの言う通り油っ気が少なくてすっきりと食べられるコロッケだった。

「美味しいですか、キラ?」
「うん、美味しいよラクス」

 キラの返事に嬉しそうにするラクス。
 だが、問題はそこではない。キラにとって今最大の関心事は味でも無ければ口当たりでも無かった。この量だけがキラの全てであった。
 こんなに揚げ物を食べていたら太ってくるのは当然で、キラの体はコンパスを離れた短期間で大分ふくよかになってきている。前に着ていたパイロットスーツはもう着れない気がする。あの忙しく体に負担となっていたコンパス勤務が、皮肉な事にラクスの会食で得られる油分と塩分と糖分を消費させていたのだろう。
 だがそれが無くなった今、キラの体には当然のように消費し切れなかった分が溜め込まれていったわけだ。

 心の中で涙を流しながらかき揚を口に運ぶキラ。もはや口の中が油しか感じなくなっているが黙々と揚げ物を食べ続けているキラだったが、内心でなんでなんでこんなにラクスは揚げ物を作るのか疑問に思っていた。ラクスの揚げ物大量生産はストレス発散の手段だった筈なのだが、何故ラクスは揚げ物をこんなに作るのだろうか。実はこの旅に不満がったりするのだろうか。

「ねえラクス。もしかして、コンパスに戻りたいと思っている?」
「え、何故ですか?」
「いや、揚げ物を良く作ってるから何か不満があるのかなと思って」
「ああ、違います。せっかく自分の時間を持てるようになりましたので料理に凝ってみたんです」
「……そ、そうなんだ」

 にっこりと微笑んで返してくるラクスにキラはそれ以上何も言えなかった。料理を楽しんで作ってくれているのならば何の問題も無いのだから。ただなんでそれが揚げ物大量生産になるのかはちょっと思う所もあったが、それを口に出すことは出来なかった。
 そして諦めを胸にコロッケを口に運び、キラはもしかしてコンパスに戻った方が良いんだろうかなどと離れた時と決意は何処に行ったのかと言いたくなるような事を考えていた。このままだと体が大変な事になるのも時間の問題で、悩みは深刻だった。ラクスもこの変化には気付いているのだが抱かれ心地が良くなりましたわと何故か喜んでいて、キラは複雑な心境になっていたりする。





 マリューの引き起こした惨劇の夜の翌朝、ようやく復活したクルーがまだ弱っている様子ながら職場へと復帰してきて、艦の機能が復活していった。手空きのクルーの中には食堂で休憩がてらに食堂で提供されている胃に優しそうなスープをチビチビと口に運んでいる者もいる。まだ固形物を入れるのは辛い者も多いようだ。
 イングリッドとこの世界のカガリ、サイも同じなのかスプーンでスープを口に運んでいる。かなり憔悴しているようで3人共精彩が無く、ぐったりとしている。特にイングリッドは喋る元気も無いようだ。
 その3人にトールとフレイが昨日やって来たコンパスからの奇妙な使者の話をしていた。

「という訳で、俺たちに助けを求めてあの娘が来たって訳だ」
「……まあ、話は分かった」

 カガリが視線を移すと、そこにはテーブルを挟んでコンパスの制服を着たこの世界のメイリンと、ザフトの緑服を着たメイリンがテーブルを挟んで、何とも困った様子で向かい合っている。その2人の間に立つように向こうのカガリとアスランが椅子に座って双方に何かを話している。
 そして視線を戻すと、カガリはトールに声を掛けた。

「傍から見ると、あんなに異様な光景なんだな、同じ顔が向かい合ってるってのは」
「双子以上に似てるからなあ、同一人物なんだから仕方ないんだけど」

 まさか異なる世界の間で移動なんて事が起きるとは思わなかったからなとトールは笑い、フレイが肩を落とす。

「この世界に来たばかりの頃に、神隠しってこういうのかって言ってたけど、いよいよ笑えない話になって来たわね。向こうで聞いた話だとこの世界で次元に壁を引き裂くようなエネルギーの放出があった影響だとか科学者さんたちが言ってたらしいけど、本当に自然的に発生したエネルギーで空間に穴が開いて他の世界に落ちる人が居たのかも」
「そんな事も言ってたなあ、落ちた人は本当に苦労したんだろうな」
「……ねえ、落ちる所って、この世界だけなのかな?」
「どういう事?」

 フレイの躊躇いがちな声にトールが首を傾げ、カガリとサイも何の事だと顔を向けている。

「私たちは自分の世界以外に平行世界と言うか、異世界があることを知ったわ。でも、こんな世界って他にもあったりするのかな?」
「……」
「ここは私たちの世界に似てるけど、もしかして全然違う世界もあったりするのかしら。そもそもCEじゃなかったり、人間が住んでなかったりとか」
「それは……何とも言えないな」

 トールは困った顔になる。異世界が存在することを知ったのがついこの間なのだ、他の世界が更にあるのかなどというのは考えた事が無い訳では無いが深く考えるような事では無いと直ぐに放り出したものだ。そもそも考えたからといって意味があるとは思えない。

「フレイ、俺たちは元の世界に帰るんだ。他にも世界があるのかなんて考える必要は無いだろ。他の世界に来るなんて碌なもんじゃないってのはフレイにも分かってるはずじゃないか」
「ええ、それは勿論よ。私が考えちゃったのは、この世界に他から落ちてきた人もいるんじゃないかって事」
「他から?」
「そう、私たちはたまたまあの科学者さんたちがワームホール装置なんて物を作ったときにたまたま謎のエネルギーがこの世界から放出されて穴が開いたって話だったけど、そういうの無しに穴が開いちゃってこの世界に引き込まれた全然関係ない世界の人とかも居るのかなって」

 自分たちの世界でオーブの予算を不正使用して異空間からエネルギーを取り出すためにワームホール装置なんて物を作っていた科学者たちも迷惑な存在だったが、大本のエネルギーはこの世界から発せられた謎の高エネルギーが空間に穴を開けた事だ。それがたまたまこちらの開いたワームホールに繋がったから自分たちはこちらに来てしまったわけだが、他にも同じように穴が開いてしまった世界があるのではないだろうか。
 それを聞かされたトールはなるほどと頷いたが、でもそれは俺たちにはどうにも出来ない事だとやや突き放し気味に返す。正直自分たちの事でも手に余っているのに他から来てしまったかもしれない不幸なお仲間の事まで気にかける余裕は無い。
 言われたフレイも分かっているのか神妙な顔で頷いている。とはいえ頭では理解できても感情では納得していないのが丸分かりで、この辺りの情で動いてしまうのがフレイの良い所であり悪い所でもある。
 父親を失って色々暴走した結果があのアークエンジェルでの騒動なのでまた妙な事にならなければ良いなとトールは思っていた。

 そんな事を話していると、サイがフレイに質問をしてきた。

「なあフレイ、フレイたちはこちらで発生した高エネルギーって言ってるけど、それっていつ頃の話なんだ?」
「え、そんなに昔の事じゃないわよ。こっちに来て三カ月くらい……よね?」
「忙しかったから俺もちょっと自信が無いが、それくらいじゃないか。こっちに来た直後くらいにイングリッドを拾ってるから、本当にこっちに来る数時間前とかじゃないかな?」

 フレイとトールが顔を見合わせて何時頃だったかを擦り合わせ、それを聞いたサイがファウンデーション事件の終盤くらいかと頭の中で計算をしながら呟く。だがその頃にそんな巨大なエネルギーなど想像が付かなかった。レクイエムは確かに強力なエネルギーだがあれが原因なら1年前にも同じことが起きている筈だ。
 一体何がとサイも首を傾げていると、それまで黙っていたカガリが1つだけ心当たりを口にした。

「世界を引き裂くようなエネルギーと言えるのかは分からないけど、その頃に使用された新兵器なら1つ心当たりがあるな」
「え、本当にあるの!?」

 フレイの驚きの声にカガリがどういう意味だと怒りの声を上げる。

「そりゃどういう意味だフレイ!」

 疑われて怒るカガリに、何故かフレイとトールは目を瞬かせて暫く固まってしまい、そして自分たちの仲間のカガリを振り返ってから改めてカガリを見てきた。

「こういう所を見ちゃうと、根っこはカガリなんだと思い知らされるわね」
「ああ、フレイへの文句の言い方がうちのカガリとそっくりだ」

 自分たちのカガリが文句言ってきたのかと疑ってしまうほどに良く似ていたという2人に、カガリは何とも言えない微妙な気恥ずかしさを感じてそれまでに勢いを無くしてしまった。

「ああ、まあいいや。それで新兵器なんだが、キラのフリーダムにはディスラプターっていう新兵器が積まれてたんだ。存在自体が機密で知ってるのも極一部なんだけどな。理屈は私も良く分からん、分子を切断して目標をぶった切るとか言ってたな」
「何それ、聞いた事の無い武器ね」
「俺も知らないな、後で艦長たちに聞いてみるか」

 ディスラプターなんて武器は聞いた事が無いというフレイとトールに、カガリはキラがジェネシスみたいな兵器が出現した時に備えて極秘で開発した超兵器だよと答える。それを聞かされたトールはあのキラが兵器開発なんてするのかと表情を曇らせ、フレイは首を傾げている。

「ねえトール、キラってアカデミーで工学系の勉強しててプログラミングが上手かったという事は知ってるけど、新兵器開発なんてやれるほど勉強してたの?」
「いや、そう言われちゃうと……むしろ怠けてたような。課題を何時もギリギリまで溜め込んでパニック起こして泣き付いてきた事もしばしば」
「うん、私のキラのイメージもそんな感じなのよね。キラが頑張って集中する時って追い込まれて逃げ道無くなってやるしなくなったから、というくらいになって凄い集中力見せて一気にやるって感じで」
「フレイ、好きな男なのに評価が低すぎないか?」

 キラの事を駄目人間のように言うフレイにカガリが呆れた顔をするが、呆れ顔のカガリにトールとフレイは顔を見合わせて苦笑いを浮かべてしまった。

「キラだからなあ」
「キラだもんねえ」
「お前らの間ではキラはそれが共通認識なのか、それで良いのか?」
「まあ実際そういう奴だったしな。だがサイもこっちのキラは怠け者の駄目人間じゃなかったって言ってたし、こっちじゃ相当に苦労してたんだろってのは分かるぞ」

 前にイングリッドたちの特訓を眺めながらサイの話を聞いた時に、サイはキラを怠け者とは思わないと言っていた。つまりこちらのキラは本気で頑張らなくてはいけないほど追い詰められた日々を送っていたことになる。
 それを考えてしまうと、こっちのキラとは環境が違い過ぎてもはや別人だろうと思ってしまうのだ。

「うちと違って、こっちのキラは常に課題締め切り間際の缶詰生活のような状態だったのかな?」
「トール、それじゃキラが原稿上げられなくて監禁された漫画家みたいよ」
「いや、アカデミーだとキラは何度かその状態になった事がある」
「何度もって、反省って言葉はキラには……無いわね」
「ああ、何度言っても駄目だったんだ」

 多分キラとフレイが拗れてた頃が一番キラが頑張ってた頃だと思うなとトールが言う。そこまでしないと駄目なのかとフレイが脱力しながら文句を言い、カガリは何でそっちのキラはそんな余裕があったのかを聞いた。

「そっちのキラは、まあフレイとのあれこれが解決してるって言うなら色々大丈夫になってるってのは分かるんだが、それにしても余裕あるなそっちは。トールとフレイがあれだけ強いんだから戦力は足りるんだろうけど」
「足りるって言うか、話聞く限りだとむしろこっちの戦力が少なすぎる気がするんだけど」
「ああ、俺もフレイもキースさんもオルガも居ないって、キラとフラガ少佐だけだろ。戦力が不足し過ぎだぞ」
「それはしょうがないんだよ、アークエンジェルには何の支援も無かったんだから」
「そこが良く分からんのだよなあ、うちも充実した支援って訳じゃ無かったけど一応友軍は助けてくれたし補給も受けられたし」
「実戦データ収集も兼ねてたけど、新型MSの支給もあったしね。デュエルとか105ダガーとか。オルガさんも加わってくれたし」
「そうなんだよな。少なくとも味方から見捨てられてるなんて考えは無かったぞ」

 自分たちの世界だと友軍は助けるものだったし、助けに来てくれる存在だった。窮地にはいつも誰かが助けに来てくれたし、自分たちも何度も友軍の窮地を救ってきた。
 アラスカ到着後は沢山の友軍と肩を並べて作戦行動するのが当たり前になったので、地球連合軍は最後まで味方だったのだ。そしてキラは孤立する事は何度もあったが、キラが助けて欲しい時に助けてくれる仲間や頼りになる先達もこちらには居た。だからキラが色々追い込まれたのは本当にフレイとのゴタゴタがあった頃だけなのだ。

「そんな訳で、キラが追い込まれた事が無かった訳じゃないけど、1人にはならなかったのさ。本当にヤバい時はフレイが連れ戻しに行ってたし」
「ちょ、ちょっとトール!?」

 ニヤニヤ顔で言うトールにフレイが顔を赤くして文句を言うが、恥ずかしがりながらなのでまるで力が入っていない。そんなフレイの姿にカガリまでニヤニヤ笑いを始めてフレイはとうとう顔を真っ赤にして腕を枕にテーブルに突っ伏してしまった。
 フレイをやり込めて少しすっきりしたカガリだったが、こんな風に恥ずかしがれる彼女にちょっとうらやましくも思っていた。自分とアスランではこうはならない。

「4年前の戦いで離れ離れになってから一度も会ってないとは聞いてたけど、それでもすぐに恥ずかしがるなこいつ。純情お嬢様って訳じゃあるまいし」

 呆れ顔でトールを見ると、何故かトールは気まずそうに顔を逸らす。それを見てカガリは隣のサイを見るが、サイも露骨に視線を逸らせていた。

「おい、まさか?」
「……少なくとも、俺も知ってる4年前のフレイはそうでした」
「今もそうなんだよなあ。フレイって無自覚なのか知らんけど男と余り一緒に遊ばないんだよ。キラが居た頃も2人きりで動くって殆ど無くて、そもそも最初のデートがキラがフレイを罠に嵌めて約束させたマドラスの時だったらしいからなあ」

 カガリやミリアリアみたいな女友達とは一緒に良く行動しているので、単純に男性と一緒に居る事が少ないだけなのだ。とはいえ全く無い訳では無く、自分やサイ、カズィと一緒に行動している時もある。だが逆に言うと一緒に居るのが付き合いの長い自分たちやシンくらいしかないのだ。
 父子家庭で育った影響なのか父親が過保護過ぎたのかいけなかったのか、フレイは無意識レベルで同世代の男性を避けるような部分があるとトールは思っている。勿論無意識レベルではあるので、別に自分を嫌っている訳では無いしアスランにも普通に好意を持って接している。シンに対しては弟扱いに見えるがあれは別だ。
 普通ならばこの問題は時間が解決してくれるはずなのだが、キラを待ち続けて3年以上という時間は皮肉な事に彼女の純情乙女な部分を余り修正してくれなかった。そのせいで自分のコイバナになると直ぐこうなってしまうのだ。

「多分、キラが帰って来ないとこれは改善しないんじゃないかなあ」
「でも、そっちのキラは今どこに居るのは不明なんだろ」
「ああ、連絡1つも寄越さないらしいからな」

 困ったもんだと腕組みして眉を顰めるトールだったが、その時何故かカガリの顔はちょっと怒っていた。

「ああ、何と言うか、向こうの私がキラが帰ってきたらとりあえずぶん殴るって言ってた気持ちが分かってきたぞ。確かにこれは私もぶん殴りたくなってきたな」
「お、おいカガリ?」
「今までキラにこんな気持ちを抱いた事は無かったんだがな」

 キラへの殺意のような物を滾らせているカガリを見て、トールは何だかだんだんうちのカガリに似てきてないかと不思議に思っていた。



 メイリンのもたらした情報はオニール号には深刻な問題提示となった。まさか自分たちの知らない間に戦争が起きてユーラシア連邦が侵略を受けている事を知らなかったというのは流石に冗談では済まない。迂闊に動いたら戦場に飛び込んでしまう危険があるのだから。
 この問題に対してマリューは一度街に人を出して現在の状況について情報を集めた方が良いと考え、部下たちにもその考えを伝えた。その考え自体には特に異論は出なかったのだが、問題はこの世界でどうやって情報を得るのかだった。

「情報を得ると言っても、出来る事は街で新聞や雑誌を購入してくるくらいか」
「それでも現在の情勢を確認するには十分だと思いますが、問題は我々にはこの世界での知識が無いという事ですね。

 流石に地理が違うとは思わないが、貨幣などが自分たちの持っているそれと同じだという保証は無い。データ媒体で購入してもそのファイルを再生できる保証も無い。ここは異世界で、自分たちの持っている道具が使えるとは限らないのだから。
 だがこの問題に対しては、オニール号の中に全く問題が無い人物が何人か乗艦していた。そう、この世界の住人であるイングリッドたちと、この世界で暫く生活していたアスランたちだ。アスランたちはこの世界での生活の為にそれなりの現金を入手して物資を購入していたし、イングリッドやカガリはともかくメイリンとサイは個人で使うためのクレジットスティックくらい持っている。

 だから、自然とこの世界で行動していた彼らを中心にしたチームを近くの街に派遣する方向で話が纏まることになった。
 ただ、問題はその面々の中でも話が拗れた事だった。

「嫌だ、私も遊びに行くぞ!」
「カガリ様、観光じゃなくて情報収集ですよ!?」
「そういう名目の観光だろうが!」

 こっちのカガリが自分も遊びに行きたいと文句を言い出していた。カガリが姿を消したことでオーブがパニックを起こしている事はメイリンからの情報で知っているのだが、オーブの捜索隊が旧ファウンデーション領を中心にうろついているらしく、見つかると不味いからという理由で候補から外されていたのだが、いい加減艦内に閉じ込められている事に我慢できなくなったようでカガリは出かけたいと我儘を言っていた。
 それをサイが必死に諫めているのだが、キサカならともかくサイの言葉ではカガリが聞くはずも無かった。それを見て右腕で頬杖を突いたトールが呆れ顔をしていて、アスランとカガリが我関せずと何処に行こうかと目的地の選定を始めていて、フレイはコーヒーを淹れていた。
 そしてこのカガリを、それまで何も言わなかったイングリッドがテーブルを叩いて黙らせた。突然の音に他の5人が吃驚してイングリッドを見ている。

「貴女が帰りたくないと言ったから匿ってもらっているのでしょう。文句があるのでしたらオーブに戻ったらどうなのです?」
「なんだと!?」
「貴女が帰りたくないと言うからこちらは配慮しているんです、退屈程度は我慢しなさい」
「何でお前にそんな事を言われなくちゃいかんのだ」
「それは彼方たちの管理を艦長から頼まれたからですね」
「何で私たちがお前の管理下なんだよ、世界に戦争吹っ掛けた犯罪者だろうが!?」

 艦長は何考えてるんだとカガリは声を上げて文句を言っていたが、これは単純にカガリたちに対してフレイたちは信用していない訳では無いが仲間とは思っていなかったが、イングリッドは信用していたし仲間と思っていた。これを察したマリューはイングリッドは自由にさせていたがカガリとサイの行動には多少制限をかけている。彼女たちが動くときは常に誰かが付いているのも2人に対する警戒からだ。
 そしてこの2人の管理を、マリューは何故かイングリッドに任せていた。単純にこの世界のオーブ要人の身柄を自分たちがどうこうすると後で面倒そうと思ってこの世界の人間であるイングリッドに任せてしまっていた。
 これを知ったカガリは何でアコードに管理されなくちゃいかんのだと文句を言っていたが、イングリッドは文句は艦長に言ってくださいと言い返して取り合わなかった。

 このカガリとイングリッドの戦いを頬杖ついて眺めていたトールは、毎度毎度飽きないなあと呆れた顔で呟いている。

「こっちのカガリは本当にイングリッドの事が気に食わないんだなあ」
「ファウンデーション事件の被害を思えば仕方ないと思うけどね」

 トールの呟きに軽く返してフレイがトールの前にコーヒーを置く。それに礼を言ってトールはカップを取って一口啜り、そして一息つく。

「それで、どうする。こっちのカガリとサイが出れないのは艦長の指示だから決定事項として、やっぱ俺たち4人か?」
「う~ん、やっぱりこっちの事情に通じてるイングリッドは来て欲しいし、あともう1人欲しいわね」
「なら丁度良いし、そこのメイリンさんに来てもらうか。色々詳しそうだし」

 アスランとカガリにあれこれ説明されているこちらのオールバックのメイリンをを見てトールが言う。確かに彼女は色々詳しそうだが、この辺りの事情にも詳しいのだろうか。だが、フレイは彼女ともゆっくりと話してみたいと思っていたのでトールの言葉に頷いていた。

「そうね、何処で何が起きてるのか、聞くのも良いだろうし」
「おいフレイ、まさかあの娘の頼みを聞こうなんて思ってないよな」
「そこまでは考えてないけど、もしあの村や町が戦火に見舞われそうなら助けに行きたいなくらいは思ってるわよ」
「……まあ、その時は誘ってくれよ」

 もしあの世話になった村が戦火に巻き込まれるとなったら、トールも助けには行きたかったのでその時はフレイに味方しようと思ってしまっていた。
 結局、この騒動はアスランたち5人にメイリンとオルセン兄妹を加えた8人で何処かの街に向かう事が決まった。この後何処の街に向かうかを話し合う事になるが、これが厄介な事件を引き起こす事になる。





 ファントムペイン隊の新造艦レオニダスは月面で訓練に明け暮れる日々を送っていた。乗組員も後はプラントからの最後の増員とMSが到着すればようやく全員が揃う予定で、艦とMS隊の訓練にもいよいよ熱が入っている。プラントに行っているネオ・ロアノークもこの最後の輸送艦と同行して戻る予定で、これが到着すればいよいよオニール号救援の為に異世界に向かう事になる。
 ナタルの指揮の下でレオニダスが兵装テストを兼ねた主砲発射や対空砲の発射が行われていて、MS隊が対空砲火に対して回避しながらレオニダスに向けて突入してきている。レオニダスの周囲にはダイダロス基地配備の駆逐艦4隻が護衛として付いており、レオニダスを守るように激しい対空砲火を放っている。地球軍のドレイク級駆逐艦は大戦後により護衛艦としての性格を強めた艦隊型と、航路警備用の哨戒艦に二分される形で改装を受けていて、ここに居るのは全て艦隊型となる。MSもMAも搭載せず、ミサイルやMSに対する迎撃を行って主力艦を守ることに特化している。
 4隻の駆逐艦とレオニダスの濃密な対空砲火の中へと突っ込んでいくMS隊。その中には地球軍からダガーLを借りて参加しているシホとジャック、エルフィも居たのだが、3人は大戦時よりも遥かに強化されている対空砲火に舌を巻いていた。

「なんて濃密な砲火、これが今の地球連合艦隊ですか」
「大戦時を超えてるね。外観は大きく変わらなかったけど、中身は大分強化されてるんだ」
「新米じゃとても突破できそうにないな」

 シホとエルフィが驚き、ジャックが冷や汗をかく。敵機の迎撃は技術で掻い潜ることが出来るが、対空砲火に当たるかどうかは運の要素が大きい。とはいえ突っ込まない訳にはいかないので3機はジャックのダガーLを先頭にレオニダスの頭上から一気に突入を開始する。
 突入してきたダガーLめがけてイーゲルシュテルンの火線が集中され、モニターが真っ赤に染まる。それでも突入する際は速度を緩めてはいけない。こういう時は速度だけが唯一の防御となるからだ。
 機体に何度か衝撃がはしり、シールドで受けられなかった直撃弾が機体各所を抉る。機体に積み重なるダメージがサブモニターに表示され、動かなくなる箇所が増えていく。それでもどうにか距離を詰めた3機はレオニダスの近くで散開し、背負ってきた対艦ミサイルを発射し、ビームライフルを乱射してそのままレオニダスの下へと駆け抜けていく。放たれた6発のミサイルは3発が撃ち落されたが、3発が船体を直撃して大きなダメージを受けた。



 艦橋のモニターでシホたちの対艦攻撃の様子を確認していたナタルは、感心した様子で隣に立つアルフレットを見た。

「流石にかつての特務隊ですね、攻撃を成功させて全機離脱できています」
「確かに上手いが、もう一歩踏み込んで欲しかったですね。放ったミサイルの半数が落とされています」

 模擬弾を続けて受けたジャック機は判定で中破と言える状態になっていてコンピューターが被害箇所にロックをかけて動きに大きな制限を受けているが、ジャックがダメージを引き受けた事でシホとエルフィのダガーLは軽微な被害でレオニダスに近接戦闘を仕掛け、ジャックのダガーLの離脱を援護しながら3機とも脱出に成功している。
 結果を見れば攻撃成功して撃墜機をゼロに抑えているのだからナタルの目には大したものだと思えたが、アルフレットにはまだ足りなく見えるらしい。

「相変わらず、想定しているラインが厳し過ぎますね二佐。オーブでもその調子なんですか?」
「流石に新人にここまでは要求しませんよ艦長。あいつらは叩けばもっと伸びそうだからやらせたいんです」
「……彼らも恐ろしい人に気に入られましたね」

 アルフレットは無類の特訓狂いだ。その直系の弟子と言えるキースも同類で、その教え子たちもその資質を受け継いでしまった。その被害者が今のオーブ軍であったが、そのおかげでオーブのパイロットたちは全体的な技量が高く保たれている。
 そのアルフレットの目から見てザフトの3人は久しぶりに叩きがいのありそうな奴らが来たと思っているらしい。昔のトールやフレイが気に入られて短い間とはいえ面倒を見てもらって、悲鳴を上げていたのを思い出してナタルは同情した眼差しで離脱を完了した3機を見ていた。

「艦長、オーブのガーディアンエンジェル隊が演習準備に入りました」
「そうか、では陣形を整えさせろ、次の防空演習に入るぞ」

 ミリアリアの報告を受けてナタルがカズィに僚艦への指示を出す。

「ノイマン、今度はこちらも回避運動を入れろ。動きは任せる」
「了解しました。ですが、護衛艦が付いてこれますかね?」
「そこは護衛艦の練度に期待だな」

 護衛艦は守る主力艦の動きに追随して陣形を維持しながら動くことが求められる。それをどこまで上手くやれるかが駆逐艦の乗組員に求められるのだが、付いてこれますかねとお道化た様子で言うノイマンにナタルは肩を竦めて期待しようと答えている。付いてこれるとは思っていないようだ。
 艦隊が次の準備を進めているのを横目に、アルフレットはミリアリアの管制席に近付くとミリアリアに頼んでガーディアンエンジェル隊に通信を繋いでもらった。

「おう、聞こえてるかアサギ?」
「に、二佐ですか。どのような御用でしょうか?」

 通信機越しにでも分かるほどに動揺した声を返してきたアサギに、艦橋内に苦笑が溢れた。訓練中にアルフレットから声を掛けられたらアークエンジェル時代のフラガやキースですらこうなっているので、彼の特訓を受けた者は骨の髄まで恐怖心が染みついてしまうらしい。
 アルフレットも苦笑を隠せなかったが、笑いを噛み殺すとアサギに指示を出した。

「アサギ、今回の対艦攻撃演習だが、被撃墜機をゼロに抑えろよ。分かったな?」
「あの対空砲火に突っ込んでですか!?」
「生きて帰ってくるのが大前提だぞアサギ、ほらさっさと突っ込みな」

 アルフレットはアサギの泣き言を聞かず、早くしろとアサギを急かしてくる。アルフレットの悪い癖であるが、訓練を課すに際しては部下の力量を考えて出来ると思ったレベルの少し上の課題を課してくる。それに必死に食い付いてこればどんどん実力が上がっていくのだが、そこまで食らい付いていける者はそれほど多くは無かった。
 もはや抗議をする気力も無くしたアサギは部下の3機を率いて対空砲火の薄い箇所を探し始める。その動きを見ながら、ミリアリアはきつくないですかとアルフレットに話しかけた。

「アルフレットさん、M1であれは厳しくないですか?」
「心配すんな、俺はやれねえ事は言わねえよ。M1の性能と今回追加された新装備があれば十分やれるはずだぜ」
「キラは死にそうになっていましたけどね」
「でも死んでねえだろ?」

 恐ろしい事を凄みのある笑みを浮かべて言うアルフレットに、ミリアリアは変わって無いなこの人はと苦笑するしかなかった。大戦時にはこの剛腕で自分たちを引っ張ってくれて、この人がいれば何とかなると思わせてくれた偉大なエースだった男だが、この狂人と紙一重としか思えない特訓好きはやはり恐ろしい。
 そしてミリアリアの見ている管制オペレーター用のモニタの中で、向こうの世界でトールが使っていたのと同じシールドリアクターを構えた4機のM1が艦隊に突入を開始した。



 プラントではいよいよ月面へ向けて参加部隊と装備を送る船の出港準備が整おうとしていた。ミネルバ級6番艦ケレースの出港準備が整い、クルーが最終点検を行っている。そこに1台の政府の車がやって来て、何事かと港の作業員や兵士たちが見ていると車から評議会議長のギルバート・デュランダルと連合軍の士官が降りて来て仰天してしまっていた。
 デュランダルは車を降りると、元気が無い様子のネオへと歩み寄っていった。

「どうした、元気が無いようだが?」
「誰のせいだと思っている。まさか食事に誘われて付いていったら自宅で山のような揚げ物を食わされるとは思わなかったぞ」
「ははははは。すまないね、昨日はイングリッドの機嫌が悪い日だったんだ」

 恨めしそうに文句を言うネオに、デュランダルは右手で頭を掻きながら誤魔化し笑いを浮かべる。
 昨日、アコードの中で唯一普通の学校に通っているリデラート・トラドールが他の生徒に虐められて怪我をしたという連絡が飛び込んできたのだ。これを知らされた補佐官のイングリッド・トラドールは表情を能面のようにしてディスティニープランを進めているコロニーの行政庁舎を出ていこうとして、同じ部屋で執務をしていたオルフェ・ラム・タオに呼び止められていた。
 
「イングリッド、何処に行くんだい。まだ仕事は残っているよ?」
「……ちょっとリデラートの学校に行ってきます」
「何を言っているんだい、我々は今日の執務をこなさなくてはいけないんだ。そんな些細な事は誰か適当な者を送って確認させれば良い」

 何を馬鹿の事を言っているんだと言うようにイングリッドの言葉を鼻で笑うオルフェ。彼にも一応同胞への愛情はあるのだが、それよりもディスティニープランの遂行という使命感が勝っている。リデラートが学校でトラブルになったというのなら行政府から適当な事務員でも派遣して法律通りに事務的に対応すれば良いだけの事だと彼は考えていた。
 だが、それを別のデスクに向かっていた同じアコードのリュー・シェンチアンとダニエル・ハルパーが聞いて呆気に取られてオルフェを見て、そして顔を見合わせて急いで逃げようとしたのだが、既に時遅かった。突如として室内の気温が急激に下がったと錯覚する様な肌寒さと息苦しさが3人を襲い、リューとダニエルは俺たちを巻き込まないでくれと抗議する目でオルフェを睨んでいたが、当のオルフェはまるで蛇に睨まれたカエルのように冷や汗を流して息苦しそうにしている。そんなオルフェに、イングリッド・トラドールは青い髪をゆらりと動かし、凍てつくような目で上司のオルフェを睨んでいた。

「妹が怪我を負わされたのが、些細な事ですかオルフェ?」
「い、いや、そういう意味では……」
「ではどういう意味でしょうか、納得のいく説明をお願いします」

 背後にブリザードを背負っているかのような錯覚さえ覚えるようなイングリッドの凍てつく問いかけに、オルフェはその頭脳をフル回転させて弁解の言葉を探していたが、どうにも言い繕えぬくらいに先ほどの一言が不味かったと分かったので、次善の策として弾き出された回答を実行に移した。

「早退を認める、すぐに学校に行って事情を確認してきてくれ」
「……承知しました」

 一礼して部屋を後にするイングリッド。彼女が出ていった直後に室内の空気は元に戻り、オルフェとリューとダニエルは太った体を揺らして安堵の息を吐いた。

「全く、毎度のことながらいい加減学習してくださいよオルフェ。リデルか絡んだ時のイングリッドは刺激するなと何度言えば分かるんです?」
「俺らを巻き込むのは勘弁して欲しい……」
「す、すまない。仕事中はどうしても効率が優先されるのでな」

 2人に責められたオルフェは素直に頭を下げる。あの状態になったイングリッドには誰も怖くて文句も言えなくなるのだと分かっているのに、お仕事モードになっている時はその事が頭から抜けてしまっている。仕事人間過ぎると言ってしまえばそれまでだが、怖くて逆らえない相手がいるというのはオルフェ達に自重というものを学習させていた。

「さてと、イングリッドが学校に向かうとなると、不味い事になるな」
「大丈夫です、既にシュラが先行して学校に向かっています。彼女が付く頃には話は終わっていますよ」
「流石のあいつも全部終わった後なら手は出さないしね」

 シュラ・サーペンタイン、アコードの中でも特に高い戦闘能力を持ち実質的な戦闘隊長的なポジションにいる男だったが、戦乱の時代が終焉を迎えたこの時世にあってはその力を発揮する場に恵まれず、様々な雑事に対応する何でも屋のような役回りとなっている。
 本人にとっては当然不本意な状況であったが、アコードの能力を周囲に見せ付けて目立ってしまう事は今はまだ早く、シュラは不満を抱えながらもただ訓練を重ねながら無聊を慰める日常を続けている。
 そんな彼であったから、緊急時には彼に連絡が行くことが多い。今回も緊急で出動要請を出され、急いで学校に向かったのだ。そしてイングリッドに先んじて学校に到着したシュラは現地で教師と妹から話を聞き、虐めでは無くただ友達と言い合いになって手が出てしまって擦り傷を作った、という話が尾鰭を着けて伝わっただけであったと判明していた。



 この後、学校にやって来たイングリッドは何故か自分より先に学校に居て教師と話を終えている風のシュラを見て怪訝な顔になり、状況の説明を求める。そこでシュラが教師とリデラートから聞き取った話を要約して伝え、ただの子供の他愛のない口喧嘩だから騒ぐような話ではないと言って場を収めようとする。その隣で橙色の紙をセミロングにして背中に流しているリデラートがうんうんと頷いている。
 シュラもリデラートもこのまま穏便に事を終えたいと思っている事は明らかだった。シュラにしてみれば子供の些細な口喧嘩程度に首を突っ込むなど馬鹿馬鹿しかったし、リデラートも友達相手にこれ以上大事にしたいとは思っていない。つまり2人とも話をここで終わらせないとイングリッドが事態を悪化させると思っていて、だからこそどちらも話は終わった、何でもない事だからもう帰ろうとイングリッドをこのまま帰らせようとしているのだが、イングリッドは凍てつく眼差しでシュラをじっと見つめた。それにシュラが一瞬気圧されたが、別にだましている訳では無いので動揺は見せない。そんなシュラを見てイングリッドはようやく視線に込めていた圧を緩めた。

「そういう事なら、これ以上追及は止しましょうか。リデラートの学生生活に支障が出てもいけないでしょうし」
「あ、ああ、納得してくれて良かった」
「うんうん、私は大丈夫だからね。お姉もお仕事忙しいだろうしこれで解散って事で」

 シュラとリデラートは内心の安堵を必死に押さえ込んで表面的にはいつも通りの態度を保っていた。イングリッドもソファーから立ち上がると、教師に一礼して部屋を出ていこうとする。その背中にシュラが声を掛けた。

「このまま庁舎に戻るのか?」
「いえ、今日は早退にしてもらっています。折角ですので商店で夕食の食材を調達していこうかと」
「夕食の食材?」
「はい、久しぶりに時間が取れましたし、今日は思いっきり作ろうと思っています」

 そう言い残してイングリッドは部屋を後にした。残されたシュラとリデラートは顔色を蒼褪めさせてイングリッドが出ていった扉を見つめていて、そして顔を見合わせた。

「ど、どうしよう、お姉がまたストレスを料理にぶつけようとしてるよシュラ!?」
「またか、どうしてあいつは直ぐこうなるんだ?」
「オルフェがもうちょっと仕事以外にも目を向けてればお姉も落ち着くのに」
「うん、何でオルフェが仕事以外に目を向けるとイングリッドが落ち着くのだ?」

 本気で分からないという様子で聞いてくるシュラに、リデラートは呆れてしまい残念な人を見るような目でシュラの顔を見ていた。



 こうしてイングリッドは購入してきた食材を使って満足するまで大量の揚げ物を量産し、ネオは丁度運悪くその日に食事に招待されていたという訳だった。食卓の上に山と積まれた揚げ物にネオは仮面の上からでも分かるような動揺を見せて自分を誘ったデュランダルを睨み、そして諦めの表情で食卓に向かっている若い6人の男女を見る。この中で太っていないのは一番年下の橙色の髪の少女と銀髪の青年だけで、他はデュランダルも含めて全員ふっくらとしている。
 デュランダルを見て何故こうなったと疑問に思っていたが、その解答が目の前にあった。

「ギル、君も苦労しているのだな」
「なに、今日は君にも手伝ってもらうのだし、何時もよりマシだよ。それに量はアレだが味は私が保証するよ」

 何とも嬉しそうにネオを道連れにしようとするデュランダルの笑顔に、ネオは戦慄して改めてテーブルの上を見る。そしてネオは明日は胃もたれで大変だろうなと考えながら椅子に腰かけていた。

 こうして大量の油物を口にしたネオは翌日胸やけと胃もたれに苦しむことになり、こうしてぐったりしながら宇宙港へやって来たのだった。
 この後、デュランダルに見送られながらネオはケレースに乗艦してプラントを出立して月のダイダロス基地へと向かう事になる。なお、その道中でディアッカがネオを見ながら訝しげな顔で何度も首を傾げたり、レイが表情を輝かせてネオと話している姿が目撃されてルナマリアとアグネスがその彼らしくない姿に驚いていたりと、中々に騒がしい旅路となっていた。


ジム改 いよいよナタルの部隊も陣容が整いました。
カガリ 1隻に集められた戦力としては最高レベルだな。
ジム改 実はまだ来てないのが1つあるんだけどな。
カガリ まだあるのかよ!
ジム改 それにアルフレットは今回は艦載機を纏める総指揮官だから基本艦橋に居てナタルの補佐だぞ。
カガリ 今のメンバーだとあいつより強いのユーレクだけなのに。
ジム改 50歳近くだから、流石に後方だよ、トップガンのマーヴェリックだって50歳くらいで教官役だったろ。
カガリ それだと最後にMSで現場に出てきそうなんだが。
ジム改 そしてようやく向こう側でもアコードが出てきました。
カガリ 塩分と糖分と油にはアコードの体でも勝てないのか。
ジム改 遺伝子を強化しても勝てない脅威というのはあるんです。
カガリ 厳しい現実だな。
ジム改 20を過ぎたお前も油断すると直ぐだぞ。
カガリ ああ聞こえない聞こえない!

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