38章  明日を求める手

 これまでに幾度か見た光がオニール号の正面に現れ、複数のコンテナが姿を現す。目の前に突然コンテナが現れるのを見るのはこれが2度目となるが、何度見ても突然何も無かった場所に強い光が一瞬輝いて、直後に色々なものが現れるのには驚きを隠せない。
 元の世界の科学者たちの話では物を瞬間移動させているのではなく、世界の間に開けたトンネルを通ってそちらに物を移動させているだけだというのだが、見ているだけだと本当に瞬間移動にしか見えない。
 ウィンダムに乗って待機していたトールたちは早速コンテナをオニール号に運び込むために掴みにかかったのだが、その時いきなり通信が入ってきた。

「こちらアズラエル財団から派遣された医療チームだ、聞こえるか?」
「こちらオーブ軍のトール・ケーニッヒ二尉、話に聞いてた人員ってのはあんたたちか。どのコンテナに居るんだ?」
「赤い色のコンテナがあるだろう、それが我々や機材を積んだコンテナだ。今からハッチを解放して外に出るから、掴み上げるのは止めてくれ」
「了解した」

 コンテナに手を出さずにMS隊が待っていると、赤いコンテナの壁面の一カ所が情報に上がって開口部が出来て、中から医療チームと思われる白衣を着た集団が出てきた。他にも技術者や軍人と思われる者の姿もあり、結構大勢がこちらに移動してきたのが見て取れる。
 コンテナから出てきた人たちが中から自分たちで荷物を出したりしているのを見ていると、また通信機越しに声がかけられた。

「全員外に出た。これから必要な機材の搬出を行うから、そちらは悪いが我々を避けながら他のコンテナを搬入していてくれるか」
「了解した。そっちは搬送車とかあった方が良いかい?」
「ああ、お願いできるかな」

 トールの問いに素直に応じる向こうの代表者。トールはそれを受けてマリューに連絡を入れて車両の応援を求め、やがて艦から地上車がこちらへと向かってくる。それを確認したトールは自分もコンテナを運ぶべく場所を移動していった。



 コンテナには先の戦いで確保できなかった衣類や油脂類に加えて食料やMSや艦艇の補修部品、追加装備などが詰め込まれていて、暫くは安心できるだけの物資を手に入れることが出来た。
 必要な物資を得られたマリューは機嫌が良さそうにニコニコしながら送られてきた目録を確認していて、整備班と主計課が送られてきた物資を確認して所定の倉庫へと移動させていく作業を監督している。整備班を纏めるセランはやっと不足していた品が揃ったと安堵の表情を浮かべている。
 そんな事をしていると格納庫に医療チームと機材を載せた車両が入ってきて、降りてきた白衣のやや不健康そうな色白の男性とザフトの緑服を着た赤いツインテールが特徴的な少女がマリューの前へとやって来て白衣の男性は一礼し、ザフトの少女は敬礼をしてくる。

「アズラエル財団から派遣されたリーと申します。強化人間の治療の研究に完成まで携わっていました」
「このような所までご足労頂き、感謝します。リー先生とお呼びしても?」
「それで構いません」

 マリューの問いに特に表情を変えずに返して右手を差し出し、マリューがそれを握り返す。軍人らしくはない人物で、民間人協力者なのだろうと推察するマリューだった。そして視線を今度は隣のザフトの少女へと向ける。

「それで、貴女は?」
「メイリン・ホークと言います。今回はザフトからこちらへ派遣された連絡要員のような物と考えてください」
「連絡要員ね、という事はザフトも私たちの救出計画に本腰を入れて協力するつもりなの?」
「本国がどう考えているのかは分かりませんが、少なくともアズラエル会長の計画には協力していますね。私もその部隊に挨拶してからこちらに来ましたので」

 どうやらユウナの言っていた事は本当らしいと分かり、マリューは聊か複雑な表情を浮かべていた。事態がどんどん大きくなっている。ユウナが自分たちを助ける為に大西洋連邦やプラント、アルビム連合に協力を求めたのは分かるのだが、そこからあっという間に話が広がってしまったようだ。
 ハルバートンも戦時では頼りになる上官なのだが、平時だと血の気の多いタカ派なので多分嬉々として今回の動きを起こしているのが想像できる。

「……ハルバートン提督の計画が実施されないうちに戻りたいわね」
「そちらがどれくらいの規模になるのかは私にも分かりかねます」

 流石に上が進めている計画までは把握しきれないとメイリンは肩を落とす。マリューもそれは仕方が無いかと頷き、視線をリー先生へと向ける。

「それでは、早速だけど仕事にとりかかってもらえるかしら」
「機材の搬入が完了次第始めさせてもらいます。ただ結構な機材を持ち込んでいるので、それなりにスペースを使いますよ。あと、まだ機材は揃ってはおりません。今回持ち込んだのは検査用と初期治療用の物なので」

 今回持ち込まれた機材は全てではないと言われてマリューは承知していると頷く。元々ユウナからそれなりに大型の機材が必要になるような事を言われていたので、事前に倉庫を1つ開けて治療機材を運び込む部屋にする準備はしていたのだ。
 機材の搬入が進められるのを見ながらマリューは軍医にあの娘を連れてくるように伝えようかと思ったが、その時メイリンから質問をされた。

「ところで艦長、この艦にはアスラン・ザラ駐在武官が乗艦されていると伺っているのですが」
「アスラン・ザラ? ええ、彼なら乗艦しているわよ。今はトール君たちとコンテナの搬入作業をしていると思うけど」
「そうですか、では挨拶をしてきます」
「え、ええ」

 なんだか妙にテンションが高い娘ねと思いながらマリューはアスランを探しに行くメイリンを見送った。



 送られてきたコンテナを今度は妨害を受けずに無事に回収することが出来たトールたちは仕事をやり終えてMSをハンガーへと戻して機体を降りてくる。トールが地上に降りるとヘルメットを外したフレイが駆け寄って来てコンテナを指さして嬉しそうに声を掛けてくる。

「ねえトール、コンテナの中身見た。食材が一杯入ってたわよ」
「食べ物が無くなると不味いから、助かるな」
「こっちの世界に来て最初の頃は必死に非常食を使い伸ばしたからね」
「そうだったな、思えばこっちに来て結構経ったんだよな」
「そうね、そろそろ帰ってソアラのご飯が食べたいしアカデミーにも行きたいわ」
「俺も軍の仕事がなあ。いや、カガリの護衛をユウナさんに命じられてるんだからそっちは他に振られてるか?」
「帰ったらデスクの上に数か月分山積みになってたりして」
「冗談でも止めてくれよ」

 トホホ顔でフレイに泣きごとを言ってくるトール。自分でもその可能性を否定できないので本当になるのが怖いのだ。
 トールとフレイが騒いでいると、そこに今度は同じ大西洋連邦の白いパイロットスーツ姿のアスランとイングリッドもやって来た。

「どうしたんだ2人とも?」
「なんだか楽しそうね?」
「あ、アスランにイングリッド。それがトールが元の世界に帰ったら仕事が溜まりまくってたらどうしようって悩んでるの」
「なんだ、そんな事か」

 フレイの話を聞いたアスランが安心させるようにトールの肩を2度軽く叩いた。

「トール、どうしようなんて考えるな、全部溜まっているさと考えておけば気が楽になるぞ」
「どういうアドバイスだよ!?」

 なんだそりゃとトールが言い返して、ふとアスランの様子がおかしい事に気付いた。まるで壊れた玩具のように小さな笑い声を上げ続けているが、目は自分を見ているように見えて焦点があっていない。隣のイングリッドもアスランの様子に気付いたようで彼の肩を軽く叩いた。

「ちょ、ちょっとアスラン、大丈夫?」

 なんだか様子がおかしいアスランを心配してイングリッドが声を掛けるが、アスランは何だか遠い目をして空虚な笑い声を上げ続けている。その様子が余りにも恐ろしくてトールとイングリッドが後退り、フレイがまだ治ってなかったのねと呟いている。

「アスランったら、まだ仕事中毒時代のダメージが抜けてなかったのね。こっちに来てから普通だったから油断してたわ」
「どういうことだよフレイ?」
「アスランはザフトがオーブを占領してた時に私の家に居候してたんだけど、その時にはもう典型的なワーカホリックでね。仕事し過ぎで倒れてドクターストップがかけられたほどよ」
「そんなに働かされてたなんて……」
「普通の真面目な軍人だと思ってたけど、アスランも苦労してたんだな」

 まだ壊れているアスランを同情の眼差しでイングリッドとトールが見ている。一体どれだけ働かされたらこんな風になるというのだ。その辺の事情を間近で見ていたことがあるフレイは2人の疑問に誤魔化し笑いを浮かべて答えず、様子がおかしいアスランの手を引いて何処かに座らせることにした。

 アスランを適当な箱の上に座らせて正気に戻るのを待っている間に3人はこれからどうするかを相談していたのだが、そこに自分たちのカガリがやって来て機材の搬入が終わった事を伝えてきた。

「おい、リー先生かいうのが持ってきた治療機材の搬入と設置が終わったぞ、これからあの娘の本格的な検査が始まるらしい」
「そう、いよいよね」
「ああ、上手く治療の目途が付けばいいんだが」
「……クロトの例があるからな、検査しても手遅れだったなんて可能性もあるんだよな」

 強化人間の治療も全てが成功したわけではない、中にはクロトのように手の施しようが無かった者も居たのだ。助け出したあの娘もどうなるかはまだ分からない。イングリッドは折角助けたのだからどうにか助かって欲しいと言っているが、こればかりは検査結果を待つしかない。
 4人でそんな事を話していたら、ようやく正気を取り戻したのかアスランが話しかけてきた。

「そんな事を悩んでいてもしょうがないさ、今は信じよう」
「あら、正気に戻ったのアスラン?」
「ああ、昔はこうなっても仕事の手は止まらなかったんだが、すっかり体が鈍ったみたいだな」
「アスラン、それは多分体が正常に戻ってきてるんだと思うわよ」

 あの正気を無くした状態でも手は動いていたってどういう状態なんだとフレイは呆れ顔になっていて、トールとイングリッドとカガリはアスランの余りにも酷すぎる職場環境に完全にドン引きしていた。
 そんな感じで談笑していた5人の元へ、ボーマンがやって来て声を掛ける。

「お、居た居た。フレイ、そっちにアスラン・ザラは居るか?」
「ボーマンさん? はい、ここに座ってますよ」

 ボーマンに声を掛けられたフレイがそっちを見てボーマンに手を振る。見慣れたセランの兄は手を振る自分の方に歩いてきていたが、その隣に初めて見るザフトの緑服の女性兵士を連れているのを見て首を傾げてしまった。

「あれ、この艦にアスラン以外のザフト兵士なんて乗艦してたっけ?」
「いや、居なかったはずだけど」

 コーディネイターはセランやボーマンが乗ってるから他にも居るかもしれないが、大西洋連邦の軍艦にザフトの兵士が乗っている筈はない。となると彼女は誰なのだと思っていたら、傍で何かが動く音がした。そちらに視線をやるとアスランが焦りで引き攣った顔をして箱から立ち上がっている。
 なんだか怯えすら見せるアスランを心配してイングリッドとカガリがこれはいよいよ不味いのではと顔を見合わせているが、そんな事はお構いなしにボーマンはザフトの兵士を連れて5人の前へとやって来た。

「この娘がアスランに会いたいと言ってきてね。ザフトから派遣されたこっちとの連絡要員らしい」
「ザフトの連絡要員で、アスランに会いに来た?」

 どうやら自分たちの世界からやってきたザフトの人間のようだが、なんだかまた面倒そうな話になって来たなと思ってアスランを見ると、何故かアスランは数歩後退っていた。

「アスラン?」

 一体どうしたのかと思ってイングリッドが声を掛けるが、アスランはイングリッドの問いかけに気付く事すらなくやってきたザフトの兵士に話しかけていた。

「メ、メイリン、何故君がここに?」
「こちらに連絡要員として派遣されました。でもそれは今は置いておきましょう」

 メイリンはニコニコと笑いながらアスランへと近づいてきて、アスランはじりじりと後ろに後退っていく。それを見てトールとカガリはどうしたらと2人をきょろきょろと交互に見ていて、フレイは事情を理解したのかまたかという顔をしている。

「あの、メイリンだっけ。貴方はひょっとしてアスランの」
「はい、恋人志願中です」
「……中々積極的ね。エルフィとは違うタイプだわ」

 なるほど、アスランが苦手なタイプだとアスランの動揺した姿に納得したフレイはどうしたものかと考えていると、メイリンと名乗った少女はフレイにとんでもない事を聞いてきた。

「ところで、貴女はザラ武官とはどういう関係でしょうか?」
「え、私とアスラン?」
「はい、先ほどから妙に親しそうですが、もしかしてザラ武官と深い関係とか?」

 探りを入れるどころかド直球に聞いてくるメイリンにフレイは最初何を言われたのか分からないという風にキョトンとしていたが、隣でパニックを起こしているアスランを見て状況が飲み込めると、隣でパニックを起こしている人間が居ると人間って落ち着きを取り戻せるなあと思いながら、少し考えるとそっとアスランの左腕を取って抱き寄せた。
 アスランは突然腕を取られて一体何をと疑問を浮かべてフレイを見たが、その目に悪戯っ気な光が宿っているのを見て物凄く嫌な予感がした。そしてその予感は外れる事無くフレイはアスランに左腕に抱き着いてとんでもない事を言い出した。

「私は、アスランのオーブでの恋人です」
「な、何言ってるんだフレイ!?」
「ちなみにそっちのイングリッドはこっちの世界でアスランが捕まえた女性よ」
「ちょっとフレイ!?」

 何言ってるのとイングリッドは吃驚してフレイを見るが、フレイは悪戯っ気な笑顔で自分を見て来て片目を瞑ってみせる。それを見たイングリッドは気が進まなそうにおずおずとアスランの右腕に自分の腕を絡めた。

「イ、 イングリッドです、よろしく……」
「イングリッド、フレイの悪ふざけに付き合わないでくれ!?」
「またライバルが増えた―!?」

 自分の右腕を抱き寄せて顔を赤くしながらもじもじして恥ずかしそうにしているイングリッドにアスランが悲鳴を上げ、メイリンがライバルが増えた事に頭を抱えて声を上げる。もしイザークとディアッカに見られたら即座に制裁の嵐が吹き荒れるだろう羨ましい光景であったが、3人の少し後ろに逃れていたカガリとトールにはアスランが追い詰められているのが見て取れていた。

「あ~、思い出したわ。そういやアスランってザフトで女の子にモテモテだったな」
「よく知ってるなトール?」
「前に会った時にイザークとディアッカが怒ってたからなあ。確か5又してたんだったか」
「ご、5又だと。フラガ級じゃないのかそれ?」 
「いやまあ、あの様子だと本人にその気は無かったと思うけどな。フレイの話だと本命はラクスで次にミーアさんだと思うって言ったし」
「よくそんなこと知ってるなあいつは。それで、その辺を承知で小悪魔モード出してんのかあいつは」

 おそらく情報源はラクスか、ザフトの友達たち辺りなのだろう。アスランは今でもラクスを愛しているのだろうが、フレイはラクスの生存を知らないのでミーアといずれ付き合うようになるのだろうと思っていたりする。
 この惨状を見て困ったもんだとカガリは呆れた顔で楽しそうなフレイと恥ずかしそうなイングリッドに両腕を掴まれて慌てふためいているアスランと、頬を膨らませて怒っているメイリンを見ていた。
 そしてそんな若者たちの青春を見ていたボーマンは、自分がおじさんになってしまったような錯覚に捕らわれて少し悩むことになる。





 軌道上の監視衛星システム。軌道上から地上を光学観測しているこの衛星群はコンパスが地球上を常時観察するために構築した地球監視システムであり、これにより彼らは地上で起きた戦闘を感知する事が出来る。地球上の国々からは自分たちを監視下に置く為の物だと激しい反発を受けていたが、ラクスはこのシステムを完成させてしまった。
 先の戦争でこの衛星群も多数破壊されてその機能を大きく損なっていたが、ミレニアムに居たメイリンは確信をもって北アフリカとその周辺の監視に衛星を集中させていた。本来ならユーラシアの国境紛争を監視させるべきなのだろうが、メイリンはあの謎の武装勢力の発見をするためにこのシステムを利用していた。
 結果的にメイリンはこの賭けに勝利した。監視していた衛星の1つが一瞬ではあったが北アフリカ沿岸部に発生した閃光を確かに捉えていたのだ。それはバクーでの戦闘時にも確認された謎の閃光と同じものだとメイリンは判断し、ここの確認に行くことにした。
 ただ1つ不思議なのは、この閃光が観測された際に一瞬ではあったが計器類が膨大なエネルギーの放出を観測した事である。普通これだけのエネルギーが観測されればそれは発生した地域に破滅的な破壊を引き起こす筈なのに、何故かそのような災害が発生したという様子は無い。一体何にこのエネルギーは消費されたのだろうか。
 さっそく移動手段としてミレニアムに残されていたキャバリア―アイフリッドを借り受ける為に艦橋に向かい、コノエ艦長に機体の使用許可を申請した。艦長席でメイリンの申請を受けたコノエは他に聞かれないよう立ち上がって後方のスペースに移動し、メイリンもそれについていく。申請を受けたコノエは暫くの間複雑そうな顔をしていたが、やがて小さくため息を吐くとそれに許可を出した。

「あの0番機はターミナルの所属でうちの機体じゃないから、好きにしてくれ」
「ありがとうございます」
「だが、何時までアレをミレニアムに置いておくんだい。こう言っては何だが、コンパスとターミナルの関係は何時切れるか分からないぞ」
「その時はその時です、私の身の振り方も含めて」
「……今のは聞かなかった事にしておくよ」

 もしコンパスとターミナルが分かれたら自分がターミナルに残るとは限らないと暗に言ってくるメイリンに、コノエは深入りを避けた。ただでさえ微妙な立場のコンパスに更に厄介事を持ちこまれては困るのだ。
 特に今はユーラシアと東アジア、汎イスラム連合が激突しているのでコンパスとしても微妙な状況にある。コノエとしては静観を望んでいたが、シンの決断次第では勝ち目の無い戦いに身を投じないといけないかもしれない。いや、その前に汎イスラムの支援を名目にプラントが介入してきてそちらに戦力を向ける事になる可能性さえある。
 本当にどうして急にどの国も急に動き出したのかが分からないのだが、元々仲がいい訳では無い国々が一方の急な弱体化で状況が動くというのは歴史的にも珍しい事ではない。問題はこれが世界中に波及するかどうかだ。

 この状況が理解出来ていない筈は無いのだが、メイリンは何故か自分の都合で何かをしようとしている。それが何かは分からなかったが、自分にはターミナルの人間の行動をどうこうする権限は無い。彼女がターミナルの機材で動くというのならば好きにしてもらうしかない。
 ただ、それでも興味はあったのでコノエはメイリンに何をするつもりなのかを尋ねた。

「君は、これから何をするつもりなのかな?」

 コノエの問いにメイリンは少し考えると、今は誰も座っていない艦橋の司令官用シートを見る。実はほとんど座っていなかったがかつてはキラ用のシートで、現在は彼が突然出奔した為にシンに押し付けられた、新品のように使われた形跡が無いシートを。

「シン、国家間の戦争には手が出せないコンパスの戦力不足を嘆いてますよね?」
「そうだね。でも、数機のMSと戦艦1隻では介入出来る戦場は一カ所だけで、それ以外には手が出せないからね」

 今の数倍の戦力があれば、たらればの話になってしまうがコノエもそうなんだも思っていたのだ。少数精鋭と言えば聞こえは良いが、その限界はすぐに訪れた。特に今は先の謎の武装勢力との衝突で全MSを損傷させられ、特にディスティニーは中破してしまっている。何とかしたくても何もかも無いのが今のコンパスだ。
 だが、悔しそうに語るコノエにメイリンはもしかしたらと前置きして、自分の考えを語った。

「コノエ艦長、これから話すことはここだけに留めてくれますか。私の妄想がかなり混じっているかもしれませんので」
「ターミナルの諜報員が妄想をね」
「はい、これは今現在で集まっている情報から組み立てた私の推測です。報告したアスランに呆れ顔で捨てられてしまうような妄想ですが、私は多分真相の近くに居ると思っています」

 そう前置きしてメイリンが語ったのは、先のバクー市を巡るブルーコスモスの襲撃戦で街を防衛した謎の武装勢力と接触する事であった。メイリンがこれまでに入手した情報を総合すると、その武装勢力に関わっている人間たちは多分コンパスのメンバー以上にお人好しな連中で、事情を説明して協力を求めたら力を貸してくれると判断したという、なんとも突拍子の無い話しであった。
 これを聞かされたコノエは暫しの間絶句していたが、戦った敵の中にはルナマリアやシンが実際に会ってコンパスへの参加を強く求める程に良い人だった2人が混じっていて、実際に彼らは街を防衛してブルーコスモスを撃退し、デストロイを動かす生体CPUを連れ去って戦場を離脱している。
 皮肉な事に、彼らとの交戦で出た死者はコンパスに協力したムラサメ隊からしか出ておらず、コンパスが介入しなければ本当に犠牲者ゼロで戦いを終わらせてしまう所だったのだ。
 その手際といい、実力といい、コンパスが求める要素を全て持っているような連中なのは間違いなのだとメイリンは言う。
 その辺りの報告はコノエも受けていたので否定はしなかったが、やはりアコードが関わっている事に難色を示した。ファウンデーション事件で世界の敵となったアコードに生き残りが居て、しかもそれがコンパスに加わったなどという事になればどんな騒ぎになるか分からない。そもそもそんなお人良し集団にどうしてアコードが混ざっていられるのだと思うのだが、これはルナマリアの報告から二つ返事で生体CPUの連れ去り、彼らが言うには助ける為にという計画に手を貸してくれるような人物だという。
 信じろという方が難しい話しなのだが、少なくとも行動を見る限りこの武装集団は悪党という訳では無いようだ。それが更にコンパスのメンバーを困惑させる要因にもなってしまっているのであるが。
 この世界の何処にシンたちを撃破するほどの技量を持ったMSパイロットで、そんな善良な連中が居たというのだろう。ただ善良な人というだけなら普通にいるだろうが、戦闘記録から判断するに彼らはいずれも歴戦の凄腕としか思えず、素晴らしい技術と豊富な経験、そして誰もが見た事も無い高度な連携戦術まで披露していた。何処かの軍に所属していたのは間違いないのだろうが、そんな連中の噂など聞いた事も無い。
 このコノエの疑問に対してメイリンは正気を疑うような仮説を口にした。それを聞かされたコノエはまたしても絶句してしまっている。

「い、異世界?」
「シンが保護した少女、ステラちゃんの話を考えるとそうなります。正直私も最初は信じられませんでしたが、彼女が持っていた私物には明らかにこちらでは作れないような高度な技術の産物が混じっていました。それに彼らが残していったと思われる遺留品を調査したのですが、軍服、油脂類のどちらも今使われている物よりも明らかに品質が良いそうです。作れなくは無いでしょうが、量産するとなると難しいと」
「だが、それだけで異世界と判断するのは……」
「……これはシンが教えてくれた事なんですけど、シンは先の戦争中に自分の腕の中でステラちゃんを看取ったそうです。その亡骸を自分の手で湖に葬ったと」
「は……?」
「自分がその死を見届けた筈の少女が元気な姿で自分の前に現れて、シンはパニックを起こしていました。彼女はこの世界に来てしまったフレイお姉ちゃんを助けに来たと言っています。そして私の姉はフレイと名乗る例の謎の武装勢力に属する女性と遭遇しています」

 こちらの世界の人間の証言と、状況証拠がステラの話を裏付けしている。それを聞いたコノエはだからといって異世界などという話は流石に受け入れられないのか、頭を抱えて唸りだしてしまった。
 だが、やがてそれを飲み込めたのか、深い溜息と共にコノエは頷いた。

「彼らの装備は明らかに何かおかしかったが、この世界とは別の技術で作られたものだというのならあの異質さも当然なのかな?」
「そうかもしれませんね。きっと他にもいろんな違いがあるんだと思いますよ。何しろ、人の生死さえ違いがあるんですから」
「さっき言っていたステラさんかい?」
「それだけじゃありませんね。ステラちゃんが教えてくれたんですが、彼女の世界では第1次プラント大戦で戦争に巻き込まれて亡くなったシンの家族が生きているそうですから」
「…………」
「だから、向こうのシンはこっちのシンとは性格も少し違うようです。心を閉ざしてプラントに来ることも無く、普通にオーブで学生をやってるそうですから」

 だからきっと、出会ったら私もお姉ちゃんも驚くに違いないですとメイリンは笑って言う。それにコノエも確かにと笑って返し、メイリンに頷いて見せた。

「上手く接触できたとしても協力を受けられるとは限らない、もしかしたら敵対することになるかもしれない、それでも良いんだね?」
「はい。それにこれはもう私の個人的な意地も入っていますので。苦労して用意した報告書を上司に理不尽に捨てられた私の怒りです」
「なるほど、融通が利かないアスラン君らしい」

 こんな話の報告書を出されたアスランがどんな反応を見せたのかが想像できて、コノエは声に出して笑ってしまっていた。そして改めてメイリンに許可を出し、期待しているよと伝える。それに笑顔で頷いてメイリンは艦橋を後にした。





 地球の何処かで、僕は戦っている。見覚えのあるフリーダムのコクピットの中で、フリーダムに乗って全速で飛行しながら、襲い掛かってくるザフトのMSを砲撃で仕留めていく。僅かに視界に入る周囲の景色から恐らくはオーブのカグヤ・マスドライバーの近くだというのは分かった。
 だが、僕はこの戦場を知らない。遠くには地球連合の戦闘機が見えてオーブの空軍機と一緒にザフトの飛行型MSと戦っているのが見えるが、ディンとスカイグラスパーが戦っているのだから第1次プラント大戦の時のオーブ防衛線の光景の筈なのに、なぜザフトと僕が戦っている。何故地球連合の戦闘機がオーブ軍と一緒にザフトに立ち向かっている。
 そんな疑問が頭に浮かぶのに、夢だと分かるその戦いの光景は続いていく。オーブ防衛線で自分と一緒に戦っていたのはアスランのジャスティスの筈なのに、何故か2機のM1が自分と一緒に戦って、一緒に宇宙港の方に向けて飛んでいる。
 自分は一体何をしているのと思っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

「3人とも、滑走中の往還機の格納庫に飛び込んで!」

 カズィの声だ。懐かしいと思ったが、それに続いてまた聞き覚えのある声が聞こえる。

「出鱈目言うな!?」
「シン、今は突っ込むしかない!」
「ああもう、とんでもない所にきちまったよお!」

 シンの声だ。自分が知っているシンよりも大分幼い感じがするけど、間違いなくシンの声だ。シンと自分が話している。そしてシンが乗っていると思われるM1がまず格納庫に飛び込み、こちらにM1が手を伸ばしてくる。加速するフリーダムがその手を取り、M1が力任せに引き込んでくれた。
 そして、今度は僕がフリーダムを使って最後のM1に手を伸ばす。

「フレイ、早く!」
「わ、分かってるわよ!」

 その名と声に、大きく心が掻き乱される。そして同時に大きな疑問も浮かんでくる。どうして彼女がM1に乗っていて、戦場で戦っているのだ。全速で往還機に向かってくるM1にフリーダムが手を伸ばし、あと少しというところで突然接近警報が響き渡り、モニター上に迫るジャスティスの姿が映し出される。

「アスラン、まだ諦めてなかったのか!?」
「逃がさんと言った筈だ、キラ!」

 憎しみさえ感じさせる怒声を自分に浴びせてくるアスランにキラはショックを受けたが、自分には何も出来る事は無い。夢の中で迫ってくるジャスティスに向けてシンのM1がフリーダムの後ろから牽制のビームを放ってジャスティスに回避を強要したが、それでもジャスティスは数発のビームを放ってくる。それらの大半は往還機を掠めただけで終わったが、1発が自分に手を伸ばしているM1を直撃し、フレイの一瞬の悲鳴を残して姿勢を崩したM1が滑走路に叩き付けられて砕けていく。それを見たキラはフレイが死んだあの瞬間を思い出して悲痛な叫び声を上げてしまった。



 ベッドの上でキラは跳ねるように上半身を起こした。全身を冷や汗が流れ、呼吸もかなり荒い。先ほどの夢がどれだけ彼にとって負担の大きい物なのかをその姿が教えてくれていた。ベッドで上半身を起こしたキラは右手で顔を掴み、必死に自分を抑えようとする。
 相方が突然飛び起きた事に気付いたのだろう、隣で寝ていたラクスが目を開けるとベッドの上でゆっくりと体を起こした。

「キラ、どうしました?」
「……い、いや、何でも無いよ。ちょっと怖い夢を見ちゃってね」
「怖い夢、ですか?」
「心配いらないよ、ラクスは眠ってて。僕はちょっと夜風にあたって来るから」

 そう言ってキラはベッドから降り、裸の体にローブを纏ってバルコニーへと移動していく。それを見送ったラクスはまた昔のように精神的に不安定になってきているのではないかと疑いを持ってしまっていた。最近のキラは悪夢に魘される事が多く、ああやって飛び起きては1人で気を静めに行くことが多い。
 だが、不安に思っていてもキラは何も言ってくれない。アークエンジェルの関係者から聞いた話で彼の心の傷を知っているラクスはまた守れなかった親友や彼女の事を思い出したのだろうと思ってはいたのだが、キラは昔からこの辺りの話をしてくれない。だから部屋を出ていくキラをただ見送る事しか出来ないでいた。

 ベランダに出たキラは、特に上等とは言えない宿から見える東欧の街並みと夜の雑踏の明かりを見ながらじっと考え込んでいた。ここ最近に見る夢が何なのかが分からない。これまでずっと見てきた悪夢は何時も花をくれた女の子やトールやフレイの最後だった。あの光景が何度も思い出されては自分を苦しめていたのに、ここ最近見る悪夢はそれらとは方向が違う。見た事も無い戦場で、見た事も無い戦いをしている自分を何度も見たのだ。

「あれは一体、誰なんだ?」

 自分そっくりの顔で、自分のような戦い方をしていて、あれは自分だと分かるのに同時に自分では無いとも感じてしまう。今日見た夢は昔の戦争のようだったが、やはり見た事も無い戦場だった。大半は自分の知らない昔の自分たちの夢であったが、何度か明らかに自分よりずっと年を取った自分が夢に出てきていた事もある。この夢が何なのかが理解出来なくてキラは気持ちが悪かったのだ。
 そして何より、あの夢に出てくる昔の自分にキラは苛立ちを感じていた。あの夢の中の自分は、サイやミリアリアやカズィ、そしてトールやフレイと仲良くしているように見える。自分が欲しいと願っていたのに手から零れ落ちていった希望を掴み取っている自分の姿に、どうしようもない嫉妬心を感じてしまうのだ。
 あるいは、零れていった希望に対する執着がこんな夢を見せているのだろうかとも思うが、それにしては戦っている戦場がおかし過ぎる。自分の願望が夢に出てきているのならば経験した戦場が出て来るものなのではないのだろうか。

 ここ最近になって急に見るようになった夢に、キラは心を掻き乱される日々を送っていた。なぜ急にこんな事になっているのか、それを想像する事さえできない立場に居る今のキラには、ただ耐える事しか出来なかった。





 カガリが居なくなったオーブは、機能停止を起こしてた。カガリが居なくなったことで物事を決定する上位者が居なくなってしまい、カガリの判断待ちで業務が停滞してしまっていたのだ。カガリの元で学んでいたトウヤが代行すれば良いと思われたが、今回は彼に権限が委譲されていない。加えて彼はカガリではない、周囲の扱いはカガリの後継者というより予備という方が近い。周囲が彼に従うのはカガリがそうしろと命じたからでしかないのだ。
 カガリが居ない、この現実にぶつかったオーブの高官たちはとにかくカガリ様を探し出せと大量の捜索隊を旧ファウンデーション領に放っていたが、彼らが朗報を持って帰ることは無かった。捜索隊を指揮していたレニドル・キサカはカガリの手掛かりが全く無いということに苛立っていたが、それ以上に厄介な問題が捜索活動の拡大を困難なものにしていた。東アジア共和国と汎イスラム共同体のユーラシア連邦領への侵攻である。
 カガリの捜索を行うためには現地の調査隊への安全を確保する必要があるが、現地にオーブ軍を展開させるのは本国でも意見が割れていて実現していない。ユーラシア国内にオーブ軍を送り込めばオーブの侵略行為だと言われるだろうし、例えユーラシア軍の妨害を排除出来ても今度は汎イスラム軍の攻撃を受けかねない。現地に送り込める程度の部隊では戦争をする気でやってくる汎イスラム軍とぶつかれば確実に殲滅されてしまうだろう。
 国内の穏健派は軍を動かすなど正気の沙汰ではないと反対し、強硬派はカガリ様救出の為ならばあらゆる手を尽くすべきだと軍による捜索隊の護衛を主張する。両者の主張は平行線を辿っていたが、彼等とは別の方向から軍の出動に反対する勢力もあった。カガリ様原理主義とでも言うべきこの勢力は、カガリの許可を得ずに軍を動かすのは許されるのかと疑問を口にし、穏健派と強硬派の双方もカガリに無断で動くのかと言われると勢いを無くしてしまう。

 カガリを象徴して祭り上げすぎて崇拝者とでも言うような連中まで生み出してしまったオーブの歪みが露呈してしまっていたが、それが1つの深刻な問題を引き起こしてしまう。オーブにある地下の秘密工場にコンパスのアルバート・ハインラインが入って施設の使用許可を求めてきたとき、誰もがカガリの問題で頭が一杯になっていて彼の申請に好きにしろと返してしまっていたのだ。
 好きにしろと言われたアルバートはフリーパスを得たと考え、喜んで地下工場へと入っていく。そこはオーブの施設ではあったが、国民にも秘匿された政治的に極めて危険な場所でもあった。ここでは対外的に秘密にしておきたい装備の隠匿や開発などが行われていて、自動工廠設備がアルバートの入力したデータに従って部品の製造を開始している。
 その作業を眺めながらアルバートは、1つの深刻な問題に悩んでいた。

「さて、部品の製造は開始した。必要な予算は何時ものようにオーブの国庫から拝借するとして、問題は資材か。流石の吾輩も無から有は生み出せぬし、さてどうしたものか」

 オーブには困った事に資材が不足していた。これでは自分が閃いた理想を具現化は出来ぬと考えこんだアルバートは出荷予定で倉庫に置かれているライジングフリーダムとイモータルジャスティス、プラウドディフェンダーを見る。いずれも製造2号機でコンパスへ納入予定の機体だ。
 流石にこれをバラして部品にするのは不味いだろうとアルバートのなけなしの正気が止めている。だがではどこから使える部品を入手するかというと、これがなかなかに難問だった。幾らなんでもMS2機分の不足資材などそうそう転がっているものでは無い。
 こうなったらオーブのM1なりムラサメなりを強奪してばらしてしまおうかなどと物騒な事を考えていると、工場内のデータを確認していた手を止めて一点に視線が釘付けになる。そしてその顔が少し危険な笑みを浮かべる。

「あるじゃないか、もう使えそうもないスクラップが」

 彼が見つけたのは、キラとラクスがオーブ海岸に乗り捨てていった大破したストライクフリーダム弐式とプラウドディフェンダー1号機であった。あの後オーブ軍に回収されて地下工場に収容されて修理されることも無く倉庫に置かれていたのだ。
 コンパスに納入予定の機体は不味いだろうが、修理出来そうもない機体であればバラして流用しても問題はあるまい。勝手に頭の中でそう結論を出すとアルバートはこの2機の利用方法を考え始めた。この2機を分解してもまだ足りないかもしれないが、その時はその時でまた考えれば良い。
 とりあえず部品はどうにかなりそうだと思って、アルバートは高笑いをしながら大型モニターに計画図を表示させる。それは、MSと呼ぶには余りにも巨大な人型ロボットであった。





 シンたちの世界が大変な事になり始めた頃、カガリたちの世界でもまた1つの小さなトラブルが起きようとしていた。
 地球から遠く離れた火星の赤い台地、その軌道上に多数のプラント型コロニー群や宇宙ステーション、資源小惑星などが浮かんでいる。一見するととても栄えているように見える光景であったが、内情はプラント以上に厳しい環境の中で必死にやりくりしているというのが正しい。
 また、地球から離れた影響なのか住民の中に先天的な障害を持って生まれてくる事が起きてもいる。コーディネイターが多いのだがそれでも防げない障害というものが出てきてしまう。
 この火星と地球の間を往復する道が火星航路となるが、惑星間を何か月もかけて航行するので双方の惑星位置が変わってしまうため、綿密な軌道計算が必要となる。途中で目印でも設置できればよいのだが惑星公転で絶えず双方の位置が変わってしまうのでこればかりはどうしようもない。
 これでも開拓初期の頃は1年以上かかっていたのだから、それを喪えば大幅な短縮がされている。これを更に劇的に縮めたのがヤマト級惑星間航行船で、地球―火星間を双方の位置にもよるが2カ月以内で渡ることを可能としている。途中で海賊に襲われても自力で殲滅してしまえるだけの砲火力もあり、旅費さえ出せるのなら現状最も安全で快適な火星への移動手段となっている。
 このヤマト級の二番艦ムサシが現在火星の宇宙港に停泊していて乗客の乗船を待っていた。この船にチケットを取っていたキースは地球に戻るために宇宙港を訪れていた。軍人であっても移動のために民間船を使う事は特に珍しい事ではなく、大西洋連邦の士官が宇宙港を歩いていても別に奇異に見る者は居ない。
 キースは急いで乗船手続きをしようと出国ゲートへと来たのだが、そこで彼は妙な光景を見る事になった。1人の地球連合軍の制服を着た青年がカウンターで受付に食って掛かっていたのだ。どうやらムサシに乗船したいようなのだが、急な話だったようで部屋が取れないでいるらしい。
 それ自体は珍しい事では無いのだが、問題はキースにはその青年の姿と声にとても覚えがあった事だ。だがそれは、すでに戦死したはずの戦友のものであった。

「キラ?」

 まさかと思ったが、似合わないサングラスで隠しているのだろうがその顔立ちは自分が知っている彼より大分大人びてはいたが確かにキラであったし、その声にも聞き覚えがある。何より、あの実に面倒くさい他人への絡み方は腹を立てた時の彼の行動そのものだった。

「だから、どうしてもすぐに地球に戻る必要があるんです。客室が駄目なら倉庫でもなんでも良いですから乗せて下さい!」
「ですから何でも申し上げている通り、正規のチケットをお持ちでな方を乗船させることは出来ません。出国の方は問題ありませんのでチケットを取ってまた出直してください」

 キラは大分興奮しているようだったが、この手のクレーマーには慣れているのか受付の女性は取り付くシマも無い。キースはあれは不味いかもと思って周囲を見回すと、すでに警備員らしい制服姿の人間が動き出しているのが見て取れた。もしキラが余計な動きを見せれば拘束するつもりだろう。
 キースは困ったもんだと思いながらキラが騒いでいるカウンターにまで歩いていくと、キラの隣りのカウンターでチケットを出した。

「大西洋連邦軍所属のキーエンス・バウァー大尉です。乗船手続きをお願いしたい」
「はい、少々お待ちください」
「それと、このチケットは2人部屋用だと思うのですが」
「そのようですね。ですが料金は2人部屋用で払われているので問題ありませんよ」

 受付の男性が問題無い事を確認して手続きを進めている。それを見ながらキースは隣を見ると、既に口論は終わっていて呆然とした顔のキラがこちらを見ていた。

「じゃあ、こいつを相部屋で乗せてやれますか?」
「こちらの方を、ですか?」
「ええ、こいつは私の元部下でしてね。こんな所で騒いでいてはご迷惑でしょうし、私が引き取っていこうと思いまして。ついでに説教も必要なようですしね」

 そう言ってキースは硬直しているキラにニコリと微笑む。その姿にキラとやり合っていた女性が口元を隠して肩を震わせ、キースの相手をしていた男性の受付もちょっと意地悪な笑みを浮かべて手続きをしている。
 ほどなくして手続きが終わり、キースは荷物を手に取ってまだ硬直しているキラの首に手を回した。

「まあ、積もる話は船内でゆっくり聞こうじゃないか、行方不明のヤマト二尉?」
「キ、キ、キースさん」
「ははは、お前にそう呼ばれるのも4年ぶりだな、ええ?」

 表情は笑っていたが首に回された腕はがっちりとキラを固定していて逃がさない。そのままキースは青い顔をしているキラを引きずってムサシの中へと進むゲートに入っていった。



 客室に入ったキースは荷物をベッドに置くと、そのままベッドに腰かけて疲れたと呟いて肩を落とし、まだ呆然としているキラを見た。

「そんな所に居ちゃ話も出来んぞ。お前も荷物を置いて座れよ」
「で、ですが、なんで?」
「死んだ筈の元部下が宇宙港で迷惑行為してたんだぞ、見かけた俺の方が何でって言いたいんだがな」

 キラの言葉に苦笑して返すキース。4年前に戦死したはずの戦友が何でか生きていて火星の宇宙港で揉め事を起こしていたのだ、折角船に便乗させてやるのだから何があったのかくらい話せと促すキースに、キラも観念した様子で自分にあてがわれたベッドに腰を降ろしてこれまでの事をゆっくりと語り始めた。
 ユニウス7で決めた事、クルーゼと一緒にアズラエルの部下になった事、これまでずっとアズラエルの指示で動きながらコーディネイターを生み出した連中や世界を裏側から動かそうとしていた奴らを追い詰めていた事、ラクス紛争へも関わっていた事なども話してしまう。これはキースは話しても大丈夫な相手だと分かっているからであったが、伝えられたキースは何とも困った顔をしていた。

「なんともまあ、16歳のガキが一丁前に生意気な事を考えたもんだ。アズラエルも怒ってたんじゃないのか?」
「そうですね。でも、分かってくれましたよ」
「まあお前が死んでくれた方が世界の為ってのは、その通りなんだろうけどな。でもこっちは良い気はしないぞ」
「それは、すいませんとしか」
「いやまあ、俺は良いんだ。こんな体だし、そっち側の人間だって自覚もあるしな。だけど、カガリたちがどういう反応をするかなあ」

 多分みんな激怒すると思うぞとキラに告げると、キラは震えて縋るような目でキースを見る。

「キースさんの方からやんわりと伝えて怒りが収まるように仕向けられませんか?」
「そりゃ無理だろ、知ってるフレイはともかくカガリとミリアリアは絶対許さないだろうし、諦めて病院送りになれ」
「行き先が火葬場かもしれないでしょ!?」

 撲殺されるのは嫌だと叫ぶキラに苦笑しつつ、キースはアズラエルの送ってきたメッセージを思い出していた。あの異世界がどうこうという話をキラにも伝えて、それでキラが急いで地球に戻ろうとあんな無茶をしていたのだと分かったのだが、同時にあの与太話がいよいよ真実味を帯びてきてしまったと感じている。幾ら何でもジョークで自分だけではなくキラまで呼び戻したりはするまい。
 何とも厄介な事になったと思いながら、キースはまだ隣で騒いでいる蒼褪めたキラを眺めてとりあえず道中は退屈せずに済みそうだと笑みを浮かべていた。


ジム改 原作主人公勢を差し置いて1人だけ事態の真相に向かおうとするメイリンさんでした。
カガリ キラは悪夢に苦しんでるし、シンは部屋から出てこないし、動けそうなのはアスランくらいか?
ジム改 アスランだけだと袋叩きにされるから、シンも復活してもらわないと。
カガリ そして変態が何やら不穏な動きを見せてるんだが。
ジム改 博士の熱意はきっと未来で輝くだろう。
カガリ ストフリとプラウドディフェンダーをいきなりスクラップ扱いしてるし。
ジム改 もっと高性能な機体がロールアウトしてるし、大破してる旧世代機だからねえ。
カガリ 使う奴も居ないし、か。
ジム改 キラ専用というか、個人の才能依存系MSの弱点だな。乗り手が引退したら使う奴が居なくて倉庫の置物になるのは。
カガリ NT専用とかと違って一応誰でも乗れるはずなんだけどな。
ジム改 使い難過ぎて他のMS乗った方が成果出せると思う。
カガリ ちゃんと2番手に引き継がれたZとかは恵まれてたんだな。
ジム改 この手の主人公機って兵器というよりスポーツマシンと言った方が正しいからな。
カガリ スポーツマシン?
ジム改 使う個人に特化して開発された機体に専用の調整されたスペシャルメイドだぞ、色んな人が使う前提の兵器とは真逆だろ。
カガリ まあ確かに。
ジム改 だからストフリってモビルファイターと同類なのよね。
カガリ 一気に胡散臭くなったぞ!?

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