第28章  私たちの戦い

 軌道上に留まっているミレニアム内にもはや聞き慣れたエマージェンシーコールが鳴り響く。それを聞いた者たちはまたかという顔で出撃の準備を始める。ファウンデーションとの戦い以降、もはや日常と化したような騒動だ。あの戦い以降ナチュラルとコーディネイターの関係は険悪化し、ブルーコスモスへの賛同者が増えてきているという。当然資金の流入も増えている筈で、最悪またユーラシアや大西洋連邦からも協力者が出てくる可能性もある。
 この動きに対抗するようにプラントも地球の協力勢力に支援を強化していて、結果としてコンパスへの支援は先細りとなる一方であった。

 シンは何時ものようにうんざりした様子で艦橋に上がってきて、ルナマリアとヒルダ、アグネスも続いて入ってくる。アグネスはルナマリアと協力してシンを全殺し半歩手前に追い込んだ件でわだかまりも解けたようで、前のように任務に復帰してくれることになった。性格は相変わらずだがもう慣れているので今更どうこう言う者もいなかった。
 ヒルダは彼女の復帰に少し難色を見せていたが、増え続ける仕事に圧し潰されそうになっていたことと、アスランがカガリの消息が分からなくなったという話を聞いてオーブに戻ってしまったので仕方なく納得している。
 艦橋に入ってきたシンを見てオペレーターが報告を上げてきた。

「カスピ海沿岸のアゼル自治州にてブルーコスモスの侵攻が確認されました。現在戦闘中のようです」
「またか、最近あの辺りでの戦闘が多いな」
「そうね、妙に活気があるというか、何でなのかしらね?」
「ファウンデーションが潰れて周辺に色々流出したってだけじゃないの?」

 オペレーターの報告を聞いてシンが嘆息しルナマリアが不思議そうに疑問を口にし、アグネスが難しく考えなくても良いでしょと斬って捨てる。それよりさっさと行きましょうよとアグネスは急かしたが、それをオペレーターの報告が止めた。

「ただ状況が妙です、ブルーコスモスは現在進路上にあったバクーの手前で何かと交戦しています」
「なにかって、アゼル自治州の守備隊じゃないのか?」
「いえ、守備隊は既に敗退しているようです。その後に別の何かと交戦していて、デストロイを含む部隊が止められています」
「ちょっと待ちな、デストロイを含む部隊が止められてるってどういうことだい?」

 ヒルダがおかしいだろと言い出す。デストロイはその圧倒的な火力と防御力から対応するのが極めて困難な相手で、コンパスで使われている主力級MS、最新のジャスティスやフリーダム級のMSでなくては対処が困難だ。シンのディスティニーでも対抗は可能だが、逆に言えばそれくらいしか対抗手段が無い。
 一体何が戦っているのかとヒルダが疑問をぶつける。それに対してオペレーターが現地部隊に確認を続けていたが、やがて現地からの映像と思われるものが送られてきて、それを見たコンパスンメンバーは食い入るように映像を見つめ、そして呆然としてしまった。

「え、ウィンダムが2機に、良く分からない白いMSが1機?」

 アグネスがありえないでしょと呟くが、それにシンもヒルダも頷いてしまった。どうやったら未確認MS1機とウィンダム2機でデストロイを止めるのだ。しかもウィンダムの1機はより後方で街の防衛に回っていて、実質2機でデストロイとブルーコスモスのMSの相手をしている。白いMSに付いているウィンダムの周囲には小型の戦闘機のようなものが取り巻いているが、あれは何なのか。
 ただ、ルナマリアだけはその3機の動きに見覚えがあった。この民間人を守ろうとする姿勢と、先頭の1機を暴れさせて支援機が徹底して援護に専念する戦い方は、つい最近に自分がやらされた戦い方なのだ。

「まさか、トールさんにフレイさん?」
「なんだってルナ、あの2人があそこで戦ってるってのか?」
「ええ、あの戦い方には覚えがあるもの。でも、一体どうして?」
 
 あの民間人を守ろうとする姿勢も、徹底して支援体形を崩さない戦い方も、あの2人が見せてくれた戦い方だ。あんな戦い方をするパイロットをルナマリアは他に知らない。
 その戦いを見ていると遂にデストロイが街を射程に捕らえたのかMA形態のデストロイが背負っている4門の高エネルギー砲が発射されたが、右側から放たれた2条のビームは先頭の白いMSが装甲で受け止めて見せて、残りの2条は後方に居たウィンダムがシールドを構え、何時の間にか近くに来ていた2機の小型戦闘機と一緒に展開させた巨大なエネルギーシールドで受け切ってしまった。

「え、何あの巨大な光の防壁は。陽電子リフレクターじゃないわよね?」

 ウィンダムにあんな装備があるなんて聞いた事も無ければ、MSで運用できるようなあんな巨大なエネルギーフィールドも聞いた事が無い。あれは一体何とアグネスがヒルダを見るが、ヒルダも知らないようで首を左右に振っている。
 その時、シンが大きな声を上げた。

「あの白いMSのビームの防ぎ方、まさかフェムテク装甲か!?」

 前に見たビームの直撃を散らしてしまう装甲。あんなことが出来るのはフェムテク装甲だけだというシンはモニターをじっと凝視している。直撃を受けた白いMSは白い部分が大分失われていて、その下にあった黒い本体が露出していた。それを見たシンが怒りを見せて全機に出撃を命じ、急いで艦橋から出ていく。そのシンにルナマリアが慌てて声をかけたが、彼は行ってしまった。
 まだ艦橋に留まっていたルナマリアはもう一度モニターを見上げてそこで戦っているルドラと2機のウィンダムを見て、おかしいよと呟いた。

「何かがおかしいよシン、トールさんもフレイさんもアコードに手を貸すような人じゃないし、あのルドラは街を守って戦ってるじゃない」

 トールとフレイが街を守って戦っているのは不思議ではない。あの2人なら街が危ないと知ったら口ではあれこれ言ってもお節介で介入してくると思う。だがどうしてルドラが街を守る、アコードにそんな優しさなど無かった筈だ。そしてルドラとあの2人が力を合わせて戦っている。何かがおかしいのだ、最初から前提が間違っているような違和感がある。もしかして自分たちが知らないだけでアコードの中にはあの2人のように優しい人が混じっていたのだろうか。
 あの白い外装は偽装だったのだろう。でもそれが失われるのを承知でデストロイのビームを受け止めている。あのルドラを使うアコードは本気で街を守ろうとしているようにしか見えない。
 そしてあのルドラのアコードが敗北を糧に立ち上がってきたのなら、もしあの2人と一緒に居て戦い方を学んでいたりしたら、あの2人がルドラと一緒に立ち向かってきたら、それはシンが恐れていた最悪の可能性が現実となったことを意味しているのではないか。

「シン、今度はディスティニーでも勝てないかもしれないわよ……」

 敗北を糧に立ち上がって来たアコードに、あの2人が援護に入ったらどうやって勝てばいいのか、ルナマリアはこの最悪の可能性に顔色を蒼褪めさせていた。





 アゼル自治州の守備隊は勝ち目の無い戦いを命じられて最初から戦意が低かった。プラントから放出品を買い付けただけのジンが少数あるだけで、後は戦車があるだけでデストロイを含むブルーコスモスと戦えと言われたのだから戦意を保てという方が無理だろう。
 それでも敵を追食い止めなくてはという義務感で彼らは出撃していったが、初撃で放たれたデストロイの大口径砲の砲撃を受けて、その破壊力を目の当たりにして僅かな義務感を吹き飛んでしまった。

「冗談じゃないぞ、こんなの、勝てるわけないじゃないか……」

 クレーターのような穴を穿つ砲撃を受けたジンのパイロットたちは怯えた顔で機体を下がらせていく。それを臆病と謗ることは出来ないだろう。この時代では完全に時代遅れとなったジンで今なお最高クラスの攻撃力を持つ化け物の相手をしろと言われているのだから。
 指揮官が声を枯らして前に出るように檄を飛ばすが、装備の数でも室でも劣る上に訓練も十分に受けているわけではないパイロットたちにデストロイに立ち向かえというのは無茶な話だっただろう。すでに逃げたしている機体もあり、もはや戦線とも呼べなかった防衛線は崩れている。
 彼らに出来ることは、あの厄介者のコンパスが介入してくれることを期待することだけであった。



 一方、侵攻しているブルーコスモス側も順調とは言えなかった。MSの状態も悪く、頼みのデストロイも何処かの戦いで損傷して放棄されていたのではと思うような代物を無理に動かして出撃させている。アフリカでは使い捨て同然の運用で投入されたと聞いているが、その戦法が思いの外有効だったのでこちらでも真似をすることにしたのかもしれない。
 だが、その護衛をしているパイロットの中にははっきりとこの作戦に不満を抱いている者も多かった。デストロイを使い捨てにする作戦だとしたら、護衛の自分たちも当然使い捨てにされることくらいは分かっているからだ。加えて中にはまだ子供をデストロイのパイロットとして使い捨てている事に罪悪感を抱いている者もいる。戦意が高まる訳がなかった。

「何でこんな事になってんだろうな」

 ジェットストライカー装備のダガーLを操縦しながらマチェイがやる気のない声を出す。目の前にコーディネイターの街があるというのに、そこを攻撃することにかつてのような高揚感は感じない。ただ与えられた仕事をこなすだけのような、仕事をしているという感じしかしなくなっている。
 やる気が出ないのが何時からかは分かっている。あの時、ウォロシーロフ中佐の元から離脱してからだ。あの後他のブルーコスモス部隊に合流したが、何故かその事を後悔する日々が続いている。あの時、ウォロシーロフの言ったように自分たちの戦う理由を見つめ直すという考えに付いていけば良かったという思いがずっと頭を過るようになってしまった。
 それは一緒に離脱した仲間たちも同じようで、鬱屈した日々を送ってきた。そしてそれは自分たちから話を聞いた他の兵たちにも伝播していたようで、戦意を失う者は周囲に少しずつ広がっていってしまった。
 上層部もそれを危険視したのだろう、繊維の低い奴らをこの任務に投入して、恐らく磨り潰すつもりなのだ。

 こんな戦い、早く終わって欲しいと思う彼らはこれからデストロイの砲撃で破壊される街並みを見て、ブルーコスモスらしからぬ迷いを抱いていた。本当にこれで良いのだろうかと。



 だが、デストロイの高エネルギー砲が街を射程に捕らえる前に、海上から3機のMSが横合から突く形でブルーコスモスのMS隊に襲い掛かってきた。
 海上から突入してきた3機のMSが空を飛びながらブルーコスモス軍の間を貫いていき、擦れ違いざまに3機のMSをマシンガンのような火器で破壊していった。3機とも脚を砕かれて動けなくなっただけだが、それはブルーコスモスの動きを止める効果があった。
 そして3機はブルーコスモスの正面に着地すると、シールドを構えて戦う姿勢を見せる。その周辺には6機の小型戦闘機のようなものが飛び回っている。それを見たブルーコスモスの将兵は大西洋連邦軍のマークを付けたウィンダムを見て大西洋連邦軍の介入かと思い、部隊の中に動揺が広がっていく。
 もっとも、それはこの世界の大西洋連邦軍では無かったので、彼らの懸念は杞憂であった。ただ杞憂ではあったが、別のもっと大きな問題が起きてもいた。現れたこの新たな部隊は数こそ少なかったが驚異的な強さを持ったMS隊だったのだ。
 指揮官のフレイは敵機を前に改めてイングリッドとトールに指示を出していた。

「最優先は街の防衛、そしてデストロイとかいう物騒な名前のMAからパイロットを連れ出して保護する、良いわね!」
 
 最優先は街の防衛だという点は揺らいでいないようで、フレイはトールに街の防衛を頼み、そしてイングリッドにはデストロイの相手を頼む。

「イングリッドはデストロイの相手をお願い。確かフェムテク装甲にはビームが効かないんだったわよね?」
「ええ、ビーム主体のデストロイの相手は任せて。いざとなったら偽装を捨ててでも防ぐから」
「私はイングリッドの支援に回るわ。私たちの目標はデストロイをパイロットの安全を考えながら無力化よ!」
「改めて聞くと無理難題よね」

 デストロイをパイロットの事を気にしながら無力化しろとは、無理難題にも程があるとイングリッドは思ったが、何故かそれを否定する気にはなれなかった。それどころか自分でも驚いてしまうのだが、そんな無茶に遣り甲斐を感じてしまってすらいる。
 そんなつもりは無かったのだが、自分もすっかり4人のやり方に染まってしまっていたらしいと悟ってしまって、イングリッドは楽しそうに小さく笑い声を上げた。ファウンデーションでやったような戦いより余程気持ちの良い闘う理由だった。

 デストロイに突っ込んでいくルドラを見送ってフレイは最後にトールを見た。

「トール、悪いけど後方をお願い。バクーのMSがどう出てくるか分からないし、流れ弾の対処もあるから」
「心配すんな、このシールドリアクターってのはなかなか便利そうだ」

 オニールに搭載されていたウィンダムが装備していた大型シールドを掲げてトールは請け負った。実際どれほどの防御性能があるのか分からなかったが、MS用の光波シールドとは比較にならない防御性能があると聞かされている。後ろをトールに任せたフレイは小さく頷くとイングリッドの後を追った。





 バクーの市街地で住民がパニックを起こして我先に逃げ惑い、守備に就いている兵士が声を枯らして地下への避難を誘導している。その混乱の中をカメラを持ったミリアリアが駆けていた。何か記事のネタが手に入れば良いと思っていたが、この街が丁度ブルーコスモスとの戦場になるとは思っていなかった。 
 ミリアリアは逃げていく人の流れに逆らって戦場へと向かっていき、街を背に空中に滞空しているウィンダムを見上げながらカメラを向ける。カメラのモニターの中でピントが合ったウィンダムの姿は少し違和感があったが、大西洋連邦のマークがはっきりと確認できる。

「大西洋連邦軍が何でこんな所に居るのよ。でも、これはスクープよね」

 大西洋連邦軍がユーラシア領内でブルーコスモスとの戦いに介入、などという見出しを考えながらカメラのシャッターを切る。そのウィンダムはたまにこちらに飛来するミサイルや砲弾を迎撃するために配置されているようで、マシンガンでミサイルを落とし砲弾をビームシールドのような盾で受け止めている。その技量に大西洋連邦にしては良いパイロットだなとミリアリアが思っていると、ウィンダムから周囲に警告が飛んで来た。

「民間人は建物に入っていろ、出来れば地下室に逃げるんだ!」

 その警告を聞いた時、カメラをシャッターを切るミリアリアの指が凍り付いたようにピタリと止まった。その顔は驚愕というよりも意味が分からないと言うように固まり、カメラを構えたまま一切の動きが止まっている。その頬を冷や汗が流れて地面へと落ちていく。やがて疑問が理解へと変わっていき、表情には恐怖にも似た色が浮かんでくる。ありえない、あってはいけない声を聞いたとでもいうように。

「え? 何の冗談よ……悪ふざけにも程ってものがあるでしょ……」

 聞き間違えるはずが無い、私があの声を聞き間違えるはずが無い。でもそれは有り得ない、彼はあの日、スカイグラスパーに乗って出撃して戦死したのだから。生きている筈が無い、その現実が私の人生を変えてしまったのだから。
 だが、ウィンダムから再度の警告が飛んできて、ミリアリアは目尻に涙を浮かべてしまった。自分の知っている声よりやや低くなったように思えるその声は、彼が生きて成長していたらこんな感じになっているだろうと思える声だった。
 彼は死んだ筈だ、だが目の前にそれを真っ向から否定する現実が付き付けられている。常識的に考えれば有り得ない事だが、そんな物はミリアリアにはどうでも良かった。彼女にとって今問題なのは、目の前にいるウィンダムを操縦しているパイロットだけなのだから。

「何でそんな所に居るのよ、トール!?」

 なぜ生きているのかとか、今まで何処に居たのかなどという問題はどうでも良い。いま彼女の頭の中を占めていたのは、生きてたならなんで帰って来てくれなかったのかという事だけだった。
 だが、ミリアリアの叫びは上空のウィンダムには届いていない。トールの乗っていると思われるウィンダムは巧みに流れ弾を迎撃しながら上空を動き回り、追いかけてくるミリアリアを置いていってしまった。





 ブルーコスモスを迎え撃とうとしていたフレイは、迫るデストロイの巨体を見ながら疑問を抱いてしまった。デストロイは歩行をしておらず、MA形態で浮遊しながら進んできている。それは良いのだが、妙に被弾の跡が目立つが修理はしていないのだろうか。
 フレイの疑問にイングリッドがブルーコスモスには修理を施すだけの力が無いと教えてくれた。

「もうブルーコスモスには修理用の部品を確保するだけの力も無いのよ。落ち目のテロリストに支援をしてくれるスポンサーもいないから」
「そう聞くと哀れではあるわね。こんなこと止めて故郷の復興を頑張ればいいのに」
「それで引き返せるような人ばかりではないのよ、全てを無くして怒りを向け先が他に無い人も大勢いるから」
「……それは、私にも良く分かるわ」

 自分も復讐者だった過去を持つフレイにはその気持ちはよく理解できる。だから止めたいのだが、その声が届くとは限らない。それでも、届く人は確かに居るのだ。

「今は、デストロイを無力化しましょう。イングリッドはデストロイの相手に専念して、周りは私が相手をするから」
「数が多いけど、出来るの?」
「1番機を敵機に専念させるのが2番機の仕事よ」

 任せてというフレイに、イングリッドは分かったと答えてデストロイに突っ込んでいく。デストロイの懐に入ろうとするMSを見て周囲の護衛に付いているストライクダガーやダガーLが迎撃に出てきたが、ルドラにビームを撃つ前に空を飛ぶダガーLが2機、正面から直撃を受けて腰や右腕を撃ち抜かれて落ちていく。後ろからのフレイの射撃だ。
 イングリッドは実戦で使われたガウスライフルの威力に内心冷や汗をかいていた。対PS装甲用の実弾砲とは聞いていたが、自分の後ろから撃ってあの距離で直撃してダガーLの装甲を易々と貫通している。ただ貫通力を極端に優先しているようで、被弾後に爆発を起こすような事は起きていない。弾に炸裂弾は仕込まれていないようだ。

「ビーム兵器より敵に優しいと思うべきか、この弾道性と貫通力は恐ろしいと思うべきか、悩む武器ね」

 ただ、周囲への間接被害はなさそうなので防衛戦などでは便利な武器だろう。貫通力に全てを向けているから対艦攻撃には全く向いていない兵装で、これとは別に補助火器が欲しいと思っていた。

 だが今は、デストロイの主砲を破壊することだ。イングリッドはルドラをデストロイの上空で舞うように動かし飛来するデストロイからのビームを回避し、ガウスライフルでまず背負っているバックパックの破壊を目指す。ガウスライフルの高速徹甲弾は正確に狙ったプラズマ砲の砲口を貫き、連射を浴びせてズタズタにして砲身を両断してしまう。ビームのように一撃で破壊する威力は無いが、その使い勝手の良さは素晴らしいとイングリッドは思った。 
 そして一度仕切り直して上部にある円盤状の兵装コンテナを始末しようかと思ったら、2機の小型機が素早くデストロイの懐に飛び込んでリニアガンの猛射を浴びせて左右に分かれて離脱していくのが見えた。
 あれがフライヤーかとイングリッドは感心し、あのリニアガンの猛射はルドラには厄介な武器だなと思ってしまった。ルドラのフェムテク装甲は対ビームでは完璧と言えたが、対弾ではレールガンやリニアガンでダメージを受けてしまう。このガウスライフルもフェムテク装甲には厄介な火器だ。
 そして今の一撃でデストロイの注意がフライヤーに向いた。その隙を見逃さずイングリッドが距離を詰めにかかる。

「本当に、フレイは良い時に援護してくれる!」

 アスランやトールが信頼する訳だ。今も彼女は少し離れた所で他のブルーコスモスのMSを牽制してくれているのに、ああしてこちらへの支援も忘れずにやってくれている。仲間が適切なタイミングで支援してくれるのがこれほど有り難いとはこれまで思わなかった。
 懐に飛び込んだルドラがデストロイの周りを一周するように動きながら被っているバックパックにガウスライフルを叩きこみ、この厄介な装備の破壊を目指す。
 だが巨体なうえに無類の頑丈さを持つデストロイは簡単には参らず、確実にダメージを与えている筈なのに止まる様子が無い。そして遂に街を射程に捕らえたのか、デストロイの背負う4門の砲身が街を向いた。
 それを見たイングリッドが咄嗟に射線上にルドラを移動させ、フレイが2機のディフェンダーをトールの傍に移動させる。そしてデストロイの4門の方から凄まじい閃光と共に4条の光が放たれたが、そのうち2条はルドラに直撃して周囲に散っていってしまう。そして残る2条はトールのウィンダムが掲げた大型シールドから展開された巨大なエネルギーシールドと、2機のディフェンダーが展開した同様のエネルギーシールドと重なって一つの巨大なエネルギーの防壁を作り出し、これに阻まれた2条のビームのエネルギーは全てシールドに止められて消えてしまった。

「トール、イングリッド、大丈夫なの!?」

 あんな威力のビームを受け止めた2人にフレイが悲鳴のような声で通信を繋ぐが、帰ってきたのはどちらも元気そうな声だった。

「ええ、大丈夫よ。ルドラはビームには強いと言ってあったでしょ」
「こっちも大丈夫だ。このリアクター内臓シールドって凄いな、まるでビームの壁だぞ」

 イングリッドが問題ないと返し、トールがオニールで受け取った新装備の性能に驚嘆の声を上げている。まさかMS用の装備で広域防御を可能にするとは思わなかった。


 デストロイの砲撃を止められたのを見てブルーコスモス軍の動きは止まった。誰もがそんな馬鹿なという顔になり、そしてそれは怖れへと変わっていく。切り札が敗れたという事実は、もともと戦意が乏しかった彼らの心を折るには十分な効果があったのだ。
 ブルーコスモスが逃げ腰になったのを見たイングリッドはガウスライフルを腰にマウントすると素早くバックパックから重斬刀を引き抜いて擦れ違いざまに高エネルギー砲の4門の砲身を両断して破壊してやった。これでもう先ほどのような砲撃は出来ない。

「これでMA形態の火器は大体潰したはず、となれば次はMS形態になってくる」

 中のパイロットを殺さないように気を付けながら長距離砲を破壊していくのは面倒な作業だったが、これが作戦の最優先事項なのだからしょうがない。そしてイングリッドはそろそろ良いかと思い、意識を集中してデストロイのパイロットの思考を読もうとした。だが、そこから流れ込んできた感情にイングリッドは奥歯を噛みしめた。

「苦痛と息苦しさと、デストロイが無力化されていく恐怖と死への恐怖に、私たちへの怖れ……、これが生体CPUですか」

  痛くて、苦しくて、敵が怖くて必死に戦って、言われた目標を撃たないといけないと洗脳されていて、それが流れ込んできたイングリッドは奥歯を噛みしめてそれに耐え、思考を読むことを中断した。そして通信をフレイ機に繋ぐ。

「フレイ、聞こえる?」
「ええ、どうしたのイングリッド?」
「デストロイのパイロットの思考を読んでみたわ。凄く苦しんでて私たちを怖がっている。動かしてるのは多分女の子ね」
「……やっぱりか、あの大きいのから感じる頭の痛くなる何かはそれね」
「どうするの?」
「決まっている、このまま武器を全部潰して転倒させてパイロット強奪よ!」
「フレイって、そういう処は本当に大雑把ね」

 なんで戦闘中の指示や援護は細かいのにこういう処では大雑把なのよとイングリッドが文句を言い、フレイがそれに分かり易くて良いでしょと言い返した時、敵のダガーLが3機突っ込んできてデストロイの援護に入ろうとしてきた。ルドラが気にする様子もなくビームの直撃を受けてそれを散らすが、ダガーLはそれを見て逃げようともせずに距離を詰めてくる。デストロイの援護という役目を果たそうとしているのだろうが、逃げ腰になっている他のMSに比べれば見上げた根性だ。
 3機のダガーLが向かって来るが、そのうちの1機にフレイのウィンダムがシールドを構えてチャージを仕掛け、1機を突き飛ばす。ルドラの邪魔はさせないというつもりだろう。

「邪魔しないで、イングリッドに手は出させない!」

 ダガーLを力任せに押さえ込みながらフレイが怒鳴る。そのままこのダガーLを無力化して残る2機もと考えていたのだが、そのダガーLは体勢を立て直して大地に踏ん張り、ウィンダムの突進を押し止めてきた。
 押し切れなかったことにフレイが苦み走った表情になるが、ビームサーベルで仕留めようと考えた時にダガーLのパイロットが接触回線で話しかけてきた。

「あんた、その声はまさかフレイ・アルスターか?」
「え、誰なの?」

 いきなり自分の名前を出されてフレイは驚いたが、相手の答えを聞いてさらに驚いてしまった。

「ウォロシーロフ中佐の部隊に居たパイロットだ」
「あの部隊の。それがどうしてこんな所に?」
「中佐が活動を中止して部隊からの離脱を認めてくれてな。俺たちは戦いを続けようと思って離脱して、ここにな」

 ウォロシーロフが戦いを止めたと聞いてフレイは驚いたが、すぐに安堵の気持ちがその胸の内を占めて小さく息を吐く。

「そうなんだ、中佐が」
「……なあ、あんたたちは何をしに来たんだ。街の防衛か?」
「それもあるけど、私たちの目的はデストロイのパイロットの救出よ」
「救出?」

 何を言っているのか分からない、と言いたげに相手のパイロットが返してくる。それにフレイは、もう一度同じことを繰り返した。

「デストロイのパイロットの救出よ。私たちはあの娘を助けに来たの」
「生体CPUを助ける?」

 何を馬鹿な事を、と言いたげにダガーLのパイロットが言うが、フレイはもうそれに関わり合おうとはせず他のダガーLに向かっていった。それを見送ったダガーLのパイロットはそんなことが出来るはずが無いと呟いている。生体CPUは一度改造を受けたが最後、長く生きることも無く壊れてしまう部品なのだから。





 イングリッドとフレイとトールがデストロイを食い止めているのを少し離れた海域から見ていたオニールでは、オニールに搭載されている新世代機の性能を存分に引き出しているトールとフレイに艦橋クルーはもとより、格納庫のモニターで見ている整備兵たちも歓声を上げていた。自分たちがテストしていた新兵器が想定されていた性能を発揮した事への喜びと、それを使いこなしてくれるパイロット達への尊敬の声だ。
 新型のウィンダムも、フライヤーやディフェンダーも、リアクターを積んだバリアシールドもこれが初めての実戦だというのに、トールもフレイも見事に使いこなしてくれている。試験部隊にとってこれほど嬉しい事は無かった。
 艦内では膨大な観測データが収集されていて技官たちが興奮している。テストは残念ながら出来なくなったが、そんな事がどうでもよくなるようなデータが集まっているのだ。
 そしてようやくリベレイターの調整も終わったのか格納庫からエレベーターで前部デッキへと上げられてくるのが見える。マリューは備え付けの受話器を取るとリベレイターに繋いだ。

「アスラン、戦いは終わりそうになってるけど、念のため援護に行って頂戴」
「了解した、慣らしも兼ねて行ってくる」

 リベレイターが甲板から少し浮き上がり、一気に加速してバクーを目指して飛んでいく。強力なエンジンのパワーを武装にではなく推進力に振っているだけあってその機動性能は素晴らしかった。ただまだその加速がナチュラルには殺人的で、コーディネイターパイロットに頼っているという問題を抱えている。まあ動かせるだけヴァンガードやデルタフリーダムより余程まともになっているのだが。

 アスランを見送ったマリューだったが、その時オペレーターが突然発生した異常を報告してきた。

「艦長、2時方向よりこちらに迫る高速移動物体を検知しました!」
「戦闘機かなにか!?」
「イングリッドさんから提供してもらったデータと照合出来ました、オーブ軍のムラサメという可変MSのようです。数は4機!」

 この世界でオーブ軍が実用化している戦闘機モードとMSモードを使い分けられる可変MSムラサメ。それは自分たちの世界のオーブでも開発が行われているMSであったが、予算が十分ではなく未だ実用化されてはいない。
 自分たちの世界では未だに試作機止まりになっているMSが出てきたと聞いてカガリが驚いた顔でシートから腰を浮かせる。

「オーブのムラサメだって。こちらじゃ量産されて配備済みなのか!?」
「そのようです、もうすぐ射程に捕らえられます!」
「レーザー機銃とゴッドフリート用意、ランチャーにはスターファイアを装填、アンチビーム爆雷も用意!」

 火器の起動を指示しながら、マリューは何故ムラサメが出てきたのかを疑問に思っていた。少なくとも今の自分たちは街の防衛側で、オーブ軍とは戦っていない筈なのだが。
 この艦で対MS戦をする事になるかとマリューが苦々しい顔になるが、そんなマリューに予備シートのカガリが声をかけた。

「艦長、もう少し陸地に近付こう」
「カガリさん?」

 予備シートに座るカガリを見たマリューは息を飲んだ。そこに座っているのはいつものカガリさんではなく、かつてプラント大戦でプラント侵攻艦隊を叱咤したあのオーブの英雄だったからだ。その顔を見た事があるマリューは一瞬呆け、そして我を取り戻すと両手で自分の両頬を強く叩いた。鋭い音が艦橋に響き、クルーが驚いた顔で艦長を見ている。

「私も鈍ったわね。平和な時が続いたって事だから悪いことじゃないんだけど」
「艦長、それはどういう……」

 突然変な事を言い出した艦長に部下が戸惑った声をかけるが、すぐにそれは萎んでしまった。何時もの優しい艦長が、何時の間にか別人に変わったかのような錯覚を覚えたからだ。だがカガリはそんなマリューを見て満足そうに頷いた。

「艦長もやる気になったみたいだな」
「そうね、貴女を見て私も昔を思い出したみたいよ」

 カガリに頷いて見せてマリューは艦を前進させるように命じた。その命令は部下たちは動揺したが、その命令には逆らい難い強さがあって誰も反論が出来ず、艦長命令に従って艦を前に出させた。

「通信、接近するムラサメにこちらに交戦の意思は無い事を伝えなさい。もし攻撃されれば応戦するとも。管制、ウィンダム隊とディフェンダーを左後方に回して」

 直掩に付いている2機のウィンダムと2機のディフェンダーが艦を守るように左側後方に位置し、接近するムラサメに備える。そして遂にムラサメからミサイルが放たれ、ウィンダムが迎撃に出る。その様子をモニターで見ていたマリューは警告を無視されたかと呟いてミサイルを準備させようとしたが、その時彼女の元新しい報告が届いた。

「艦長、本艦の正面に異常なエネルギーの高まりを検知!」
「敵の攻撃!?」
「いえ、これは以前に我々の世界から通信が届いた時のデータに酷似しています。おそらく、3日前に約束されていた物資の転送ではないかと」

 過去のデータに類似を見つけて技官が報告した時、一瞬前の方で光が現れ、そして通信が入って来てモニターにユウナが現れた。モニターのユウナはオニールが戦闘状態にあることに驚いてマリューに状況の報告を求めてそれにマリューが言い返していたが、ユウナが予備シートに座るカガリに気付いて息を飲み、そして何かを察したのか彼もまた表情を切り替えてきた。それを見たマリューが彼も大戦時の顔になったと小さく呟いている。
 ユウナがすぐに物資を増援を送ると言って通信を切り、マリューは意識を迫るムラサメへと向ける。迎撃に出たボーマンたちは良くやっているようで敵機を近付かせなかったが、それでも遠くから放たれるビームが時折艦に襲い掛かり、アンチビーム爆雷の迎撃が行われ、ディフェンダーが展開したビームバリアで攻撃を受け止めていく。
 マリューは4機のムラサメのうち左側に回り込もうとする2機を狙ってスターファイアミサイル4発を発射させた。これは大戦時には空間認識能力者用に開発されて運用された長距離ミサイルだったが、現在では母艦からの量子通信誘導で一般的に使用されるミサイルとなっている。
 4発のミサイルは正確にムラサメに向かい、ある程度近付いたところで一斉に小弾を発射する。合計32発の小型ミサイルに狙われたムラサメは必死に回避運動を行っているが1機が多数のミサイルに囲まれて四方八方から襲われてしまい、全身にミサイルを受けて木っ端微塵に砕けて爆散してしまう。
 ムラサメが爆散するのを見てこの世界のカガリが怒りの声を上げたが、向こうのカガリはその声を完全に無視しマリューも一瞥しただけでそれに答える事は無かった。それにますます苛立ったようでこちらのカガリが予備シートに座る向こうのカガリに食って掛かろうとしてサイに止められているが、その声にいい加減にしてくれと向こうのカガリが振り返る。

「今は戦闘中だ、文句なら後にしてくれ」
「何言ってるんだ。お前、オーブのMSを落とされたんだぞ!」
「攻撃を受けてるんだ、迎撃するのは当然だろ。それともお前たちの姿を通信で送って攻撃するなって言えば良いのか?」

 激昂するこちらのカガリに対して冷静に返す向こうのカガリ。サイはその様子にカガリ様らしくないと思ったが、それはこちらのカガリも同じだったようで勢いを無くし、気味悪そうな顔で問いかけてくる。

「お前、本当にオーブの代表なのか、オーブのMSを落として何も思わないのか?」
「私たちの最優先目標は自分たちの世界への帰還だ。それに何度も言ったが、ここは私たちの世界じゃない、この世界のオーブに私は興味は無いよ」
「お前は……」
「そもそも、なんであいつらはいきなり撃ってきたんだ。こちらはオーブに敵対行動はしてないはずだぞ。それともあいつらもブルーコスモスなのか?」

 向こうのカガリの問いにこちらのカガリが黙り込む。それを見て向こうのカガリはサイを見て、渋々という感じでサイが答えた。

「多分、コンパスに出向させた部隊です。コンパスはこの艦を敵と判断したんでしょう」
「コンパス、ね。イングリッドやフレイたちから話は聞いてたけど、とうとう敵に回って来たか」

 いつかこうなる気はしてた、と向こうのカガリが呟く。その落ち着き方と堂々とした迫力にサイは息を飲み、こちらのカガリもなんなんだこいつはという疑問を顔に浮かべている。2人は大戦時に英雄の1人に数えられたオーブの若き獅子を初めて目の当たりにしたのだ。何時もと様子の違う向こうのカガリに戸惑うのも無理は無いだろう。


 ムラサメ隊の攻撃を受けながら海岸の上に移動したオニールの眼前に一瞬光りが現れて、それが消え去ると沢山のコンテナと1機のMSが陸地にほど近い場所に滞空しているのが見えた。そのMSに見覚えがあったマリューが声を上げてオペレーターにMSへ通信を繋がせて、モニターに現れたパイロットに懐かしい人に会った顔になる。

「まさか、貴方が来るなんてね。久しぶりシン君」
「マリューさん、お久しぶりです!」

 オニールの前に現れたヴァンガードは、かつてアークエンジェルの艦載機として活躍したオーブ軍のMSだ。プラント大戦に投入されたMSの中でも最強の1機に数えられ、多くの戦場で勇名を残している。
 シンはこの最強のMSの専属パイロットとして活躍した、マリューが知る中でも特に凄腕のパイロットだ。ユウナが約束した援軍としては確かに望みえる最高の物だろう。
 カガリもユウナの約束した援軍に意表を突かれた思いだったが、またMSに乗ってきたシンには複雑な心境のようで喜んでいるという様子は無かった。

「シン、お前またMSに乗ったのか。お前は軍人じゃないんだぞ」
「カガリさんすか。しょうがないだろ、フレイさんが危ないってなったら黙ってられない」
「……フレイは、家族の事を貸しなんて思ってないぞ」
「分かってるよ、僕が借りてるって思ってるだけってのは。でも良いでしょ?」」

 自己満足で何が悪いと言い切るシンに、カガリは初めて笑みを浮かべた。困った奴だと呟き、マリューに後を任せると言い視線を眼前に戻す。シンを預けられたマリューはモニターのシンをン見上げ、シンはマリューに指示を求めてきた。

「マリューさん、僕はどうすれば良いですか?」
「そうね、悪いけど街の前で戦ってるフレイさんの援護に行ってもらえるかしら。向こうに付いたらフレイさんの指示に従って」
「分かりました、昔通りってことですね」
「ええ。あと、極力殺さないようにね」
「了解!」

 シンが元気よく返事を返して通信を切り、オニールから出撃したリベレイターと合流を追うように戦場へと向かっていく。それを見送ったマリューは滞空しているコンテナを回収するために艦を前進させるように指示を出し、ボーマン達にもコンテナの回収を指示した。




 
 フレイがダガーLを食い止めている間に、イングリッドは遂にデストロイの片足を破壊して転倒させることに成功していた。 完全に戦闘力を奪ったデストロイのコクピット前に機体を降ろし、相手のパイロットに呼びかける。

「そちらの全ての武装を無力化しました、もう投降しなさい」
「やだ、怖い、ここから出たくない!」

 強い恐怖と猜疑心、そしてデストロイへの過度の依存。洗脳で植え込まれたそれらの感情にイングリッドは苦しめられたが、それを押さえ込んで務めて優しい声で呼びかけを続けた。敵機はフレイが食い止めてくれると信じていて、実際に邪魔をしてくる者はいなかった。
 この時すでにブルーコスモスのMS隊は撤退に入っていて、最後まで抵抗を続けていた3機のダガーLは何故かこちらへの妨害を止め、デストロイを挟んでフレイと対峙している。まるで何かを期待するように。

 戦いが止まった戦場で、イングリッドの説得する声が通信に乗って流れ続ける。それに怯えながら拒否し続けるデストロイのパイロットだったが、それに遂に変化が起きた。

「本当に……助かるの?」

 怖い、死にたくないと叫ぶばかりだった少女が、初めて見せた変化にイングリッドは安堵した。一度壁が崩れてくれれば、このまま押し切れる。このままこちらに連れ込んでしまえば何とかなると内心で勝利の雄たけびを上げながら、表面的にはあくまでも優しいお姉さんを保ち続けていた。

 コクピットハッチを開けて身を乗り出し、ヘルメットを脱いで素顔を晒したイングリッドにデストロイもハッチが解放され、中から少女が出てくる。まだ10を超えたくらいだろうか。子供を使うとは聞いていたがこんな小さな子供を使ってた事にイングリッドの中に殺意が芽生えたが、それを噛み殺してイングリッドはその少女に手を伸ばした。

「こっちにいらっしゃい、大丈夫だから」
「……本当に?」
「ええ、こっちの人たちは、貴女を戦わせるような人たちじゃない」

 カガリたちは当然、ラミアス艦長を含めて、オニールのクルーも子供に戦えなどと言う人たちではない。それどころか生体CPUを助けようとしてくれる人たちだ。
 大丈夫と微笑んでいるイングリッドに、少女はコクピットから出てきてこちらへと歩いてくる。これで大丈夫と安堵の息を漏らしたその時、オニールからの緊急信がコクピットの通信機から飛び出してきた。

「軌道上から降下してくる降下殻を探知、急速に接近中。各機警戒されたし!」

 まさか、このタイミングでとイングリッドは空を見上げる。上空に点にしか見えない何かが急速に地表に向かい、それが分裂して4機のMSへと姿を変える。ザクが2機にゲルググメナースが1機、そしてディスティニーだ。背中の推進機から特徴的な羽に見える光跡を広げるその姿は、イングリッドの目には翼を広げた悪魔に映った。


ジム改 遂に対コンパス戦です。
カガリ デストロイの火器が通用してないんだが。
ジム改 元々流離う翼の地球連合は防御重視の思想で、それが発展しただけだよ。
カガリ ビームバリア張るフライヤーまで出てきたし。
ジム改 個人的にはこっちがフライヤーの本命なんだけどね。MSに随伴させる攻撃用のフライヤーと防御用のディフェンダーの混成編成が流離う翼で見送ったフライヤーの運用だったし。
カガリ なんで見送ったの?
ジム改 自分で判断して自動で敵弾を防いでくれるバリアビットって、考えてみて反則だと思ったから。
カガリ 今回は良いのか?
ジム改 劇場版でドラグーンが無茶苦茶やってたし、解禁して良いかなって。
カガリ でもこれ、今はフレイが使ってるんだよな?
ジム改 フレイが使ってるから細かい対応してくれてる。オニールが直掩に出してるのは全部オートで動いてる。
カガリ 嫌なビットだなあ。私たちの世界だとこれが普通に使われてるんだろ。
ジム改 なお大気圏内だと空力が使えるので宇宙より推進剤の消費が少ないんで長く戦えたりする。
カガリ 見た目も戦闘機って言ってるからな。
ジム改 宇宙用に外付けの翼付けてるだけなんだけどね。
カガリ んで最後のコンパスがなんかボスキャラ降臨みたいなんだが。
ジム改 完全にそれで合ってるぞ、特にシンのディスティニーはデストロイから見るとこうなる。
カガリ まあ、原作のデストロイ皆殺しは生体CPUを苦しませず一思いにっていうシンの決意だと思うけど。
ジム改 これで次回は決戦、コンパス対オニール組の総力戦になるな。
カガリ どう考えてもシンがボスキャラだろこれ。

次へ  前へ  一覧へ