第27章  初めての異世界介入

 その事件は、元の世界と連絡が取れて3日目に起こった。オニールと合流したカガリたちは久々にゆっくりと休み、それぞれに自分の時間を過ごしていた。イングリッドはフレイに言われた通りトールとアスランを相手に模擬戦を行い、トールには相性もあって全勝出来ていたがアスラン相手だとだんだんと勝率が下がり、翌日には負け続けになってしまっていた。フレイ自身も幾度か相手をしてみてイングリッドの凄さと同時に、自分たちの知るキラと共通する欠点に気付いてしまっていた。
 これはのちにトールとアスランも交えて話し合い、同じ結論に達していたのでほぼ間違いが無い。イングリッドはMSの操縦センスは凄い、天才としか言いようがないほどのセンスは優れている。だがそれだけだ。かつてのキラもそうだったが、極端に優れた才能を持つ者は努力をしなくなるらしい。イングリッドは戦い方に関しては素人に近いのだ

「……前の大戦で父さんがキラに何を見てたのか、今なら分かる気がするわ」

 困った事にかつてキラはそれでやれていた。自分たちがどんなに努力を重ねてもキラはその先に居て、決して追いつけなかった。余りの壁の高さにトールもフレイもキラは特別なんだと追いつくのを諦めている。
 だが、その壁は崩された。特別なんだと思っていたキラに対抗出来るようなナチュラルの化け物が現れた事と、ザフトの中にはキラと拮抗、ないしは上回るような強力なコーディネイターパイロットが複数現れた事、そしてキラを倒すために生み出されたユーレクという存在。
 キラは強力なコーディネイターだが決して無敵の存在ではない。その認識が2人に更なる努力をする気力を与え、そしてアルフレットがもたらした新戦術によって1人では無理でも2人なら対抗できるという所にまで2人は登ってきた。
 キラに追い付こうと積み重ねてきた努力は、結果的に2人をナチュラルパイロットとしての限界に近い領域にまで至らせた。元々2人にはパイロットとしての才能はあったのだ、そして2人には努力をする才能もあった、そして2人にはナチュラルでもトップクラスのエースたちが教官として付いてくれた。その結果生まれてしまったのがアコードにもそれなりに対抗出来てしまう、壁に突き当たっても努力を重ねて成せば成ってしまうナチュラルパイロットだった。


 フレイには引き分けに持ち込まれ、アスランには勝てないという現実はイングリッドの心を折るには十分な威力があったようで、彼女はパイロットスーツのまま狭いブリーフィングルームで椅子に腰かけて俯きながら理不尽なボヤキを呟き続けている。
 トールとイングリッドの戦いとアスランとイングリッドの戦い、そして自分とイングリッドの戦いのデータをブリーフィングルームの大型モニターに表示させたフレイは、それぞれの戦いの傾向と問題点を指摘していた。

「トールとの戦いは同じ接近戦型という事もあって単純にゴリ押しで押し切ってるわね。悪いとは言わないけど、5戦全部これで勝利はどうかと思う」
「私たちアコードの身体能力と反応速度を生かせるのは接近戦なのよ」
「それは分かるけど、5戦目になると私の時みたいにトールにも反撃を許してるわよ」

 同じタイプなのに後半は圧倒できてないと言われてイングリッドはガクリと項垂れてしまう。その後も幾度かトールとイングリッドは模擬戦闘を行っていて最終的にイングリッドが勝利を収めているが、フレイの目にはイングリッドの敗北と映っていた。これがアスランならばトールはもっと完膚なきまでに負けている。

「そしてアスランとの戦いだけど、これは最初だけはアスランに勝ててたけど動きが見えるようになったら全く勝てなくなってたわね」
「それが分からないの、なんでコーディネイターに勝てないの?」
「いや、元々貴女とアスランってそこまで差は無いからね。それが動きを読み切られればただのカモにしかならないわよ」
「カモだなんて酷い、もう少し手心を加えて……」

 この艦に乗って以来凹まされ続けているイングリッドは遂に限界に達したのかフレイに泣きごとを言い出してしまった。彼女にしてみれば能力的に下位にあるはずのコーディネイターに良いようにあしらわれたり、ナチュラルに引き分けに持ち込まれたりと碌な目に合っていない。その心は自尊心とまとめてすっかり打ち砕かれてしまっていた。
 とはいえ、流石にここまで叩きのめされれば学習も理解もする。フレイの言う通り自分の攻め方は単調で幅が無いのだろう。

「でも、戦い方の幅ってなに。どうすればアスランに勝てるようになるの?」
「そうねえ、仕掛ける時にフェイントを入れるようにするとか、中距離から射撃戦を考えるようにするとか」
「でも、距離を置いた射撃戦だと私たちの身体的優位が生かせないでしょう?」
「そこはあんまり関係ないと思う、現に私は射撃戦が中心だけどイングリッドに相打ちに持ち込めたじゃない」
「…………」
「これは、イングリッドが必ず接近戦を挑んでくるって分かってたからよ」
「攻め方が読み切られてたから、罠が張り易いって事?」
「私の場合はそうね。トールもイングリッドの攻め方が分かってからは簡単に負けなくなってたし、アスランは多少の能力差を跳ね返してイングリッドを撃墜してたわ」

 とにかく距離を詰めてくるって分かっているなら対策は立て易い、というフレイにイングリッドはまだ唸っていたが、言っている事は理解していた。次に何をしてくるか分かっていれば確かに相手にはし易いのだろう。
 だが、これまでアコードとして接近戦を主体に考えてきたので距離を取って射撃戦と言われてもそこまで強くなれるのかは疑問だというと、フレイは別に接近戦みたいにやれる必要は無いという。

「別に得意でなくても良いのよ、要は相手に射撃戦を仕掛けてくる可能性があると意識させるだけで良いの。例えば私は射撃戦が得意で接近戦が苦手だけど、だからって接近戦を放棄してる訳じゃ無い。つまり相手に選択を強要するのが大事なの。戦いの基本は相手に選択を強要しつつ自分の得意を押し付ける事よ」

 距離を詰めてくる、接近格闘戦を仕掛けてくる、これだけでもイングリッドは物凄く強いがそれが来ると分かっていると対策の立てようがある。だがもしここで距離を取って射撃戦を仕掛けて来るなどの可能性が入ってくれば、相手は常にその可能性を考慮しなくてはいけなくなる。
 勿論そこには得手不得手があり、フレイは射撃戦が多いという事でそこを突かれることはある。トールが安定して強いのは接近戦重視だが格闘戦も射撃戦もバランスよくこなせるからだ。だから何をしてくるかが読み難く、同等の実力になるとトールの方が勝率が高くなってくる。逆に大きな強みが無いので格上相手だと弱くなってしまうという弱点もある。
 アスランはトールと同じタイプだがより格闘戦寄りと言える。これに加えて本人の能力が物凄く高いので弱点らしい弱点が無い最高レベルのオールラウンダーというチートじみた存在となっている。キラとの戦いでも最初の頃は負けていたが双方とも実力を上げてきた頃になるとアスランにキラは勝てなくなってしまった。

「とまあ、これが私やトール、アスランの特徴ね。それぞれに差はあるけど得手不得手は別としてそれしかしないってことは無いのよ」
「フレイの話を聞いてると、器用貧乏型が強いって聞こえるけれど?」
「同格相手ならトールみたいなタイプが一番厄介よ、私もトール相手は苦手だしね。トールはとにかく引き出しが多いのよ」
「でも、私が相手をした感想だとトールが一番楽だったんだけど」
「トールはこれで勝負するって武器が無いから、イングリッドみたいな明確な格上相手だと実力差でそのまま押し負けるのよ。私は射撃を鍛え上げてきたからこれだけは負けないって自信があるの」
「ええ、それはもうよっく思い知らされたわ」

 まさか回避方向を予知のような力で察知してこちらが動く前にもうそこを狙って撃ってくるなんて思わない。置き撃ちや見越し射撃と呼ばれる射撃技術に近い物であるが、普通は偏差射撃、照準を少しずらす程度の僅かな範囲内で行われる射撃法だ。だがフレイのそれはより大きな動きの先へ弾を送り込んでくる。アスランの話では回り込こもうとした味方機が射撃位置に入った途端、彼女が事前に放っていた銃撃に襲われて撃破される場面を見た事があるという。
 経験から来る予測ではなく何となくそこに来ると分かるなどという方法で狙われるので、やられた方は驚くというレベルの話ではないだろう。あの話を聞いたときはアスランと組んで卑怯すぎると文句を言ったものだ。
 あの時を思い出してフレイが乾いた笑いを漏らしていると、いきなり艦内に警報が鳴り響いた。何事かと持ってフレイが内線端末から艦橋を呼び出して何事かを尋ねる。

「こちらフレイです、何が起きました?」
「潜んでいた海域沿岸の都市の近郊で戦闘が発生した模様。艦長がアルスターさんを艦橋に呼んでいます」
「分かりました、すぐそちらに伺います」

 頷いたフレイが内戦を閉じるとイングリッドを振り返り、頷き合うと2人で艦橋へ急いだ。艦橋では既にカガリやアスラン、トールもいて、こちらのカガリとサイも連れてこられていた。
 全員が揃ったのを見てマリューがモニターに先ほど観測された戦闘の様子を表示させる。試験艦というだけあって観測機器は充実しているようで、離れている海域の海中に居るにも関わらず詳細な情報が得られている。

「揃ったわね。早速状況を確認したいんだけれど、良いかしら?」

 マリューは特にこの世界の3人を見ながら言う。

「現在地球連合のMSと思われる機体を装備した一団が沿岸の都市バクーに向かっているわ。バクー近郊にも迎撃の部隊が集結を始めているけど、これは何?」

 マリューがこちらのカガリとサイを見る。それにカガリはサイを見て、頷いたサイが答えだした。

「おそらく、バクーに向かっているのはブルーコスモスの部隊だと思います。バクーにはコーディネイターが多く住んでいるユーラシアのアゼル自治州がありますので、そこの破壊と殺戮が目標でしょう」
「ブルーコスモスねえ、こちらじゃ強硬派が未だに現役なのね」

 まだ居たんだと言いたげにマリューが呟く。

「それで、問題は侵攻側に居るこの謎の巨大MSというかMAなんだけど、これは何?」

 画像が拡大されて侵攻軍の後方に居る謎の黒い巨大MSなのかMAなのか良く分からない兵器が表示される。頭部に当たる部分には良く分からない円盤のような部分を持つ、自分たちの世界には無い機体だ。これは何かと尋ねられたカガリとサイは露骨に嫌悪の表情を見せていて、禄でもない何かだということを伺わせる。
 これが何か、という問いにはイングリッドが答えてくれた。

「これは、デストロイですね。先の戦争でブルーコスモスが投入してきた大型のMSというかMAに近い機体です」
「MAみたいなMSねえ、効率が悪いように思えるけど、どういうMSなの?」
「巨体を生かして大量の火器を装備した、拠点防衛、殲滅用のMSです。装甲も強靭でTP装甲で身を守り、陽電子リフレクターで対ビーム、ミサイルへの防御力も有しています」
「その陽電子リフレクターというのは何?」
「え、そちらには無いのですか?」

 驚いたようにイングリッドが問い返すが、マリューは聞いたことも無いと首を横に振った。それでイングリッドは説明をしたが、聞いていたマリューや幹部クルーの顔色はどんどん悪くなっていった。

「陽電子を力場で固定って、対消滅の問題はどうしているの?」
「あまり大気圏内で使わない方が良い、環境に優しくない装備と思っていただければ」

 一応周辺の大気と触れないように多少配慮はされていますと視線を逸らせて乾いた笑いを浮かべるイングリッドに、流石に放射線撒き散らすのはどうなんだとマリューは思った。一応本来は要塞や宇宙艦艇の防御装備だそうで、大気圏内で使うのは例外的らしい。
 何とも物騒なシールドであったが、とにかく今は置いておいた。問題はこれをどうするかだ。

「双方の戦力を考えると、ブルーコスモスは短時間で守備隊を粉砕してバクーに突入するわね。あのデストロイとかいうMSの存在を考えるとバクーの壊滅は時間の問題だわ」
「あの、バクーにはどれくらいの人口が住んでいるんでしょうか?」

 トールが気になっていることを尋ねた。それを聞いてイングリッドを見るが、イングリッドも首を横に振っている。

「残念だけど、正確な人口は分からないわね。かつては100万人以上が住んでいたこともあるようだけど、現在は何万人が住んでいるのか」
「行政が死んでるのは分かってるけど、大まかにも分からないのか?」
「戦乱で人口流出と難民の流入が同時に発生していて、今どうなっているのかは外部からは全く分からないわ。まあこんなのは今どきでは珍しくも無いんだけど」
「例外的な事例であった欲しかったよ」

 嘆息してトールがぼやく。この世界に来てからというもの良い話を滅多に聞かない。本当に何処に行っても戦いばかり起きているし、虐殺だ殺戮だという話も聞き飽きてきた。この世界の辞書からは平和という文字が落丁でもしているのかと思う。
 だが、頭痛のしてきた頭をトールが押さえているとイングリッドが、ある意味致命的な情報を伝えだしてしまった。

「あと、デストロイのパイロットは生体CPUが使われるのが特徴ですね。極めて特殊な能力を要求されるそうでコーディネイターでも扱いきれる者は少ないらしく、それ用に特別に強化された生体CPUが使われるとか」

 生体CPU、その言葉が出た途端に艦橋内の空気が変わった。何が起きたのかとイングリッドが周囲を見渡すと、フレイとカガリとトール、それにマリューが今何を言ったという顔でこちらを見ていて、異様な空気にアスランやこちらのカガリとサイが身を引いている。

「ねえイングリッド、今何て言ったの?」
「せ、生体CPUの事?」
「ええ、まだそんなの使ってるの?」

 フレイの様子が明らかにおかしい。怒っているというよりも失望しているような表情だ。どうしてこんな顔をと思っていると、カガリがイングリッドを見て生体CPUの治療は可能かどうかを尋ねてきた。

「イングリッド、この世界には強化人間の治療技術はあるか?」
「いえ、聞いた事も無いわね。元々生体CPUは使い捨て前提で子供を改造して作ると聞いているから」

 その発想から嫌悪される技術ではあるのだが、並のコーディネイターでは対抗も出来ないほどの力を得ることが出来るので無意味な技術という訳ではない。だがそれはカガリたちには嫌悪どころか憎悪の対象ですらあったらしい。それに先ほどの言い方だと、向こうの世界には治療技術が存在するのだろうか。

「まさか、そちらでは生体CPUの治療が可能だと言うの?」
「ああ、私とフレイが資金を出してアズラエルに研究を継続してもらって、大戦終結ごろには完成して生き残った強化人間の治療と開放が行われたんだ」
「よくそんな物を完成出来たわね。でも、こちらにはそんな技術は無存在しないから、治療法は存在していないわ。少なくとも私が知る限りではだけど」

 そちらの世界に治療技術があったとしても、こちらの世界には無い。だから仮に貴女たちが望んでもデストロイのパイロットを救う方法は無いとイングリッドは言ったが、それで納得するような4人では無かった。

「ラミアス艦長、この艦で治療は可能か?」
「不可能ね、この間は病院船では無いし、強化人間の治療には専門の技術者と設備が必要なはずよ」
「だが、私たちが向こうに戻るまで安定させるくらいは出来るよな?」
「…………何時まで持つかは分からないわよ?」

 生体CPUはその強化の具合にもよるが、総じて長生きは出来ない。クロトのように治療技術が完成しても助けられなかった事例もある。もし艦に連れてこれても向こうに戻るまでに死んでしまうかもしれないというマリューに、カガリはそれでも良いと言った。

「やってみよう、可能性があるなら賭けてみようじゃないか。ステラやスティングみたいなのが目の前に居るってんだからな」
「ええ、特に私は見捨てる事なんて出来ないわ」

 カガリの言葉にフレイが大きく頷き、トールも同感だと頷いている。アークエンジェル関係者やドミニオン関係者には生体CPU、ブーステッドマンやエクステンデッドは辛い記憶だ。6人の強化人間の中で助かったのはたった2人でしかなかった。同じ境遇の被害者を見捨てるという選択は彼女たちには無かった。
 トールとフレイが助けたいと言ったので、イングリッドもしょうがないかと軽く肩を竦める。

「分かったわ、私も協力する」
「イングリッド、ありがとう!」
「良いわよ、貴女達がそういう人なのは良く分かってるから」

 そしてそれは、マリューも同じであった。

「昔にステラちゃんを助けようと頑張った時みたいな話になったわね。でも、私も全く同感よ」
「待ってください艦長、この艦は戦闘用ではありません!」

 副長が慌てて割って入って来るが、マリューは意思を変えるつもりは無かった。

「この艦で直接戦闘をするつもりは無いわ、火力が低すぎて足手纏いになるから。だからMSを出して迎撃を行います」
「ですが、出せるのはウィンダムが4機です。それだけでは」
「リベレイターとルドラも入れれば6機になるわ」
「無茶です、6機でどれだけの相手が出来ると思って……」

 艦長の無謀な作戦を諫めようとした副長はそこで言葉に詰まってしまった。アークエンジェル隊にまつわる逸話を思い出してしまったのだ。1隻の戦艦と数機のMSや戦闘機で師団規模のザフト部隊を粉砕した、遭遇戦で数倍のザフトを殲滅してしまったなどといった出鱈目な逸話がこの部隊には付いて回っている。
 流石に冗談だと思う者も多かったが、この艦長は6機のMSで数倍の敵に勝てると思っている。そして振り返ってトールたちを見ると、こちらも別に恐れている様子は無い。数倍の敵を相手に命令をくれという顔をしている。
 この非常識人たちを前にして、副長は後ずさってしまった。自分がおかしいのではない、おかしいのはこいつらだと思いたかったが、艦長も現場のパイロットたちもすっかりやる気になっている。このままでは不味いと思って副長は艦橋内を見回したが、誰もこちらを見ようとしていなかった。
 味方は誰もいないと悟った副長は、遂に諦めて頷いた。

「了解しました、MSの準備をさせます」
「ええ、お願い。艦の直掩にウィンダムを2機残して、ここにいる4人は街へ向かわせます。場合によっては本艦も街の防衛に回ります」
「艦長、それは!?」
「試験装備のフライヤーとディフェンダーを使います。本艦の防御用と、フレイさんが使う分を準備しなさい」

 マリューが命令を出し、アスラン、フレイ、トール、イングリッドが敬礼を残して急いで格納庫へと向かう。それを見送ったマリューはカガリを見て、予備シートを勧めた。

「カガリさんはどうせ言っても戻らないでしょうから、予備シートに座っていてもらえるかしら」
「ああ、何時も無理を通してすまないな」
「いいえ、慣れているから」

 アークエンジェルの日々を思い出してマリューが懐かしそうな笑顔を浮かべ、カガリもくすぐったそうに笑いだす。その姿はまるで仲の良い戦友のようで、とても一国の代表と他国の軍人の関係には思えずサイがどういうことかと問いかけてきた。

「あの、ラミアス艦長とそちらの代表は、とても仲がよろしいのですね?」
「あん、そりゃ昔に散々世話になった艦長で大戦を戦い抜いた戦友だからな。当然だろう」

 何かおかしいかと真顔で聞き返してくるカガリに、サイは絶句してしまった。為政者としての立場があるだろうに何を考えているのかとサイは苦言を呈したが、カガリはそんな物に興味は無かった。

「外面が必要な時はそうしてるさ、そうじゃない時は友人に肩肘張る気は無いってだけだ」
「そんな簡単に切り替えができるとは思えません!」
「出来ていなかったら、叔父貴やユウナが許してる訳無いだろうが。私は私でいたいんだよ」

 自分が自分であるために友人との間に壁は作りたくない、これはカガリが長い旅の中で掴んだ彼女の答えだ。ユウナたちには諫められたが代表としての仕事はきちんとこなす代わりにそこだけは譲らず、彼らにこれを受け入れさせている。今ではそんな部分も含めてカガリなんだと国民に知られるようになり、ユウナも何も言わなくなっている。むしろ彼もこの空気に馴染んでフレイたちと気軽に付き合える間柄だ。オロファトでは私人として友人たちと一緒に歩いているカガリに姿は見慣れたもので、大騒ぎされる事も無い。そして彼女を仕事に連れ戻すために探しに来るユウナの姿も見慣れた光景となっている。
 自分を飾るつもりはないというカガリにサイは気後れして自分の上司を見るが、こちらのカガリは厳しい顔で異世界の同一存在を見ていた。その表情からは胸の内を推し量る事も出来ず、サイは困った顔でこちらのカガリを見ていた。




 パイロットスーツを着込んだ4人は格納庫へ駆け込んでくると、リベレイターと2機のウィンダム、そしてなんだか外観が違うルドラが出撃準備に入っているのを見た。指揮を執っていたセランが4人に気付いて駆け寄ってくる。

「出撃準備は出来ています、カタパルトとかは無いんで上部甲板にエレベーターで持ち上げた後、そこから飛んでいってください」
「まあ、技術試験艦ですしね」

 フレイが戦闘艦じゃないからしょうがないかと頷き、搭乗する機体を尋ねた。それにセランがボードを見て説明してくれる。

「フレイとトール二尉はウィンダムに乗ってください。リベレイターにはザラ武官が、ルドラにはイングリッドさんに乗ってもらいます」
「俺が大西洋連邦の新型にですか。良いんですか?」
「艦長の指示です、今は建前よりも実力優先だそうでして。ただ、リベレイターはまだ調整に手間取っているんで、少し待ってください」

 艦長は貴方を信頼しているようですよと言われて、アスランは照れ臭そうに頭を掻いてしまった。
 これで搭乗機は決まったので4人はそれぞれの機体へと向かっていくが、イングリッドはなんだか装甲が変わっているルドラを見てこれはどういうことかと問いただしていた。

「あの、これは一体どういうことです?」
「ああ、ルドラは見られると不味いと聞きましたので、誤魔化せるよう追加の装甲を付けて外観を変えてみたんです。遠目にならそうそう分からないでしょう?」
「確かにそうですが、これだとフェムテク装甲の利点が生かせませんね」
「極力回避の方向でお願いします。あと手持ち火器はどうしますか?」
「選べるのですか?」
「はい、手のコネクタ部はこちらの火器にも合うように取り替えて改造を加えましたから」
「……ガウスライフルをお願いします」

 ルドラ用のビームライフルは強力だが守る戦いでは威力が過剰過ぎる。それに加えてイングリッドはシミュレーターの繰り返しの中でこの火器が意外に便利で使いやすいと思っていたので、これを使うことにした。



 まずイングリッドのルドラがハンガーから離れてエレベーターへと移動していく。それにトールが続いてフレイも続こうとしたが、そこにセランがやってきてコクピット内に上半身を突っ込んできた。

「フレイ、ちょっと良いですか?」
「セランさん、どうしました?」
「艦長からフレイに大気圏内用に調整したフライヤーとディフェンダー、それに誘導弾を装備させるよう指示を受けています。フライヤーは省くとして、ディフェンダーはビームバリア展開用の防御用フライヤーと思ってください」
「ビームバリアを張れるフライヤーって、凄い物が出来てるんですね」
「結構便利な装備です。でも問題なのは誘導弾の方で、扱いは慎重にお願いします」
「どういうことです、スターファイアやミサイルパックみたいなものじゃ?」
「いえ、これはMSの戦闘距離で使われる中・近距離用ミサイルです。フレイがフライヤーをザフトの核動力機に特攻させていたのを見ていたアズラエル氏が最初からミサイルにしましょうよと言い出して開発されたそうで、空間認識能力者用の能力で正確に目標を襲います。先端部が高速振動スピアとして機能してPS装甲にも突き刺ささって、その直後に後部の炸薬部が穿った開口部へと突入して爆発して内部から破壊してしまいます」

 セランの説明を聞いたフレイはその意味を理解して顔色を無くしてしまった。つまりこの武器は、当てる場所を選べば確実に相手を撃墜する事が出来る兵器だ。

「つまり、コクピット周辺を狙えば?」
「はい、確実に相手のパイロットを殺傷します。これはそういうミサイルなんです。だから扱いはくれぐれも慎重にお願いします」

 貴女なら大丈夫とは思いますが、と付け加えてセランはコクピットから出て行った。フレイは端末を操作して機体に装備されているミサイルを確認し、両足に6連装ポッドが2基装備されている。そのように使えば確実に相手パイロットを仕留められるというのは戦場では大きな威力となる武器であったが、フレイは嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
 だが、強力な武器であることは確かだ。要はそういう使い方をしなければ良いのだと自分に言い聞かせて、フレイは機体をハンガーから移動させた。

 イングリッドのルドラに続いてトールのウィンダムも甲板上にエレベーターで持ち上げられるのを見てそれに続こうとしたとき、もう2機のウィンダムも動き出してこちらへと歩いてきた。その片方が片手でフレイ機に触れて通信を繋いできて、ボーマンがサブモニターに現れる。

「俺たちは艦の直掩だ、街の方は任せるぞフレイ」
「出来る限りやりますよ。ボーマンさんこそ、帰る場所を無くさないでくださいね」
「ああ、任された」

 ボーマン機が手を放し、フレイは機体をエレベーターへと運ぶ。持ち上げられた先では先に出ていた2機が待っていた。フレイのコクピットモニターにトール、イングリッドに加えてまだ格納庫で調整中のリベレイターに乗っているアスランも出てくる。
 その中でトールが全員を代表するように言った。

「それじゃあ行くか、指揮はフレイに頼む」
「でも、アスランやイングリッドの方が良いんじゃ」
「謙遜しなくても良い、俺もトールと一緒でお前を信頼している」
「私も指揮官向きでは無いから、お願いするわ」

 アスランもイングリッドもそれで良いようなので、フレイはまた押し付けられた気がするとぼやきながら機体を飛行させた。それに他の2機が続いていくと、オニールから出てきた6機の小型機がフレイ機に追い付いて機体の周辺に展開して追随し始めた。イングリッドが興味深そうにこれは何かと尋ねると、トールがフライヤーだよと教えてくれる。

「これがフライヤーさ、前に教えた地球連合のドラグーンみたいな兵器」
「これがなの、本当に小型のMAというサイズなのね。ドラグーンとは比較にならない」

 MSと比較する大きさの無人機にイングリッドは驚いている。こんなものが大気圏内で使えるのも驚いたが、それ以上にこれが無人機ということに驚いている。話には聞いていたが本当にこんなものを実用化していたとは。
 イングリッドの驚きに3人が笑い声を上げ、そしてフレイが街に迫るブルーコスモス軍を見る。

「それじゃ、行きましょうか。目的は街の防衛と生体CPUの救出、良いわね!」

 フレイの掛け声に応じて、3機のMSがバクー市へと向かっていった。



 3人を見送ったアスランはまだ機体を格納庫から出せない事にもどかしさを感じていたが、彼もベテランのパイロットでこういう事もあるという事を理解していたのでじっとシートの上で我慢している。ただ、自分が大西洋連邦のパイロットスーツに身を包んで大西洋連邦の試験機に乗っているというこの状況には改めて不思議な感覚を覚えていた。

「俺が大西洋連邦のMSに乗る日が来るとはな」
「言いたい気持ちは分かるけど、お仕事は真面目にお願いしますよ」

 アスランの呟きを聞いたのか、コクピット前で端末を手にあれこれデータを撃ち込んでいたセランが口を挟んでくる。突っ込みを入れられたアスランは恥ずしそうな顔をして誤魔化すように小さく咳払いし、視線をセランへと向ける。

「心配しなくても、任務には全力で取り組みますよ。それだけが取り柄ですから」
「本当に頼みますよ。これまでのシミュレーターである程度は分かっていると思いますが、このリベレイターはジェネレーターの電力を火器ではなく防御と機動性に振っている強襲機のような性格を持ったMSです。貴方の使用経験で言いますとジャスティスが近いですね」
「ヴァンガードとデルタフリーダムの特徴を合わせたようなMSという話でしたが、よりヴァンガードに近いMSだと?」
「あれほど無茶苦茶なMSでは無いですが、使いこなすにはかなりの技量が必要な機体です。とにかく機動性と運動性が高くて、兄さんが死にそうになりながら必死にテストパイロットをしていましたよ。他の試験隊のリベレイターはまた違う調整がされてるらしいので、量産型は大分違う仕様になっているかもしれません」

 ニコリともせずにセランは端末を操作しながらアスランに返事を返す。彼女とは先の大戦時にマドラスで偶然会って一晩泊めてもらったことがあって多生の縁がある間柄だが、溌溂として元気の良い人だと思っていたのだが仕事に対しては真摯に取り組んでいる。特に今は出撃間際という事もあって真剣そのものだ。
 なお彼女はアスランの事をちゃんと覚えていて、フレイとの仲を揶揄って2人を慌てさせて楽しむような事をしていたりする。アスランの事を黙っていたのは大戦前からの知り合いだったからという言い訳で納得してくれていた。戦争が起きた時にはよくある悲劇の1つで、そういう事は珍しい話しではない。
 やがてセッティングが完了したのか、セランが端末を閉じてケーブルを抜いた。

「これで問題無い筈です、他の調整と補給が完了したらすぐに出撃ですよ」
「色々ありがとう」
「礼は仕事で返してください。ザフトの赤い死神と呼ばれたあなたの力、期待してますよ」

 そう言ってようやく笑顔を見せて、セランは他への指示を出すためにコクピットを離れていく。それを見送ったアスランは改めてリベレイターに取り付いている整備兵たちの数と、支援する艦内設備を見て敵わないなと零した。

「MS1機にこれだけの整備兵を付けて、艦内設備も充実していて、大戦末期に乗せてもらったアークエンジェルやクサナギの艦内を見ても思ったがやはりこういう所はプラントでは決して及ばないな」

 少数精鋭主義の行き付いた末路があのプラント大戦だ。あれでベテランと新兵を大量に失ったザフトは急速に弱体化して、最後は訓練生まで実戦に投入して敵の生贄にしてしまった。そのダメージは今もザフトを蝕んでいて、ごく少数のベテランが大多数の新兵を取り纏めている。しかも才能があると認められた者は繰り上げさせて前線に投入して使い潰したので、現在のザフトに配属されている新兵たちは訓練生時代に才能が無いとして投入されることが無かった者たちとなっている。
 このために少数精鋭主義を維持することは困難な状況なのだが、今のザフトは彼らを鍛えて使えるようにすることが求められている。能力がどうとか言えるような状況では無い。
 そしてザフトにとっては追い打ちをかけるように、地球にアルビム連合が建国されたことがダメージを拡大させている。こちらはプラントに比べると能力主義に染まっておらず、ナチュラルと変わらないコーディネイターでも暮らしやすい国だ。このためにプラントで肩身の狭い思いをしていた能力に劣るコーディネイターたちがアルビム連合に流出し、ただでさえ足りない人手が奪われるという事態になっている。
 単純に人手が足りないというプラント大戦前には考えもしなかった問題にザフトは悩んでいた。
 アスランはあの大戦を思い出して、この人材の層の厚さとこの羨ましくなるバックアップ体制に、プラントがもう一度地球連合に戦いを挑んでももう以前のような勝利を得ることは出来ないだろうなと考えてしまった。そもそもヤキン・ドゥーエに居る地球連合軍だけでも現在のザフトより強力なのだから。
 そんな事を考えていると、通信機からセランの声が聞こえてきた。

「調整と補給完了、何時でも出せますよ!」
「了解した、リベレイター出撃する」
「頼みます、フレイたちを無事に連れ帰ってくださいね」

 整備兵たちが散っていき、ハンガーに固定されていた機体のロックが外される。それを確認したアスランはリベレイターをゆっくりと前に出した。アスランにとって、ラクス紛争以来となる久しぶりの実戦の時が来たのだ。


ジム改 ついにガチバトルへ。
カガリ 生体CPUかあ、ディスティニーの頃から確実に殺しに行くんだよな。
ジム改 まあ強化人間を助けようなんて主人公くらいしか思わないからな。
カガリ ……あれ?
ジム改 細かい事は気にするな。
カガリ んで陽電子リフレクターだが、本当にこれで行くの?
ジム改 陽・電子さんが作ったビーム砲ネタを採用しない限り、あれは大気圏内で使うと放射線撒き散らすんだよ。ただ劇場でミレニアムが変な装甲で陽電子砲を防いでるから陽・電子さんのビーム説が濃厚になってきているんだが。
カガリ 装甲で陽電子ビームは防げないのか?
ジム改 原理的には通常物質と反物質は触れたら即反応しちゃうから、この世界で装甲に使える物質である以上反物質は防げない。まあ対消滅程度じゃダメージ受けないような化け物もSFには出て来るけど。
カガリ じゃあ陽電子砲を防ぐ手段は無いのか?
ジム改 いや、電荷があるから磁気シールドなら防げるぞ。あれも荷電粒子砲の一種だから。
カガリ 使い難いにも程があるな。
ジム改 実は反物質を使えるなら核分裂兵器なんて使う意味が無いんだよね、破壊力が桁違いだし。
カガリ 核ミサイル作るより全ての艦に陽電子砲積む方が強いのか?
ジム改 制限が無いならヤマトの波動砲みたいに陽電子砲を並べて一斉射撃するのが一番効率的かな。
カガリ ガンダムのビーム兵器で一番ヤバいのはどれなんだろうな。
ジム改 技術力が高いほど強いだろうから、頂点はターンXを作った謎の文明を別とすれば髭を作った文明かGかレコンキスタの過去の文明のビームだろうな。ただXや髭、Gセルフがミノフスキー物理学で動いてるし、正暦でもギンガナム艦隊がカイラスギリーを最強の砲として運用してるから、ガンダム世界で最強はメガ粒子砲って事になるか。
カガリ そこにGが入ってるのに違和感が。
ジム改 Gは作中で地球の技術だけで恒星の海に出れる条件を満たしてる超文明だぞ。あの世界は重力制御、超光速、完全な冷凍睡眠が作中で使われてるからな。最終話でカッシュ博士が言ってる亜空間通信って超光速通信に使われる技術だ。ついでにあれのせいでガンダム世界にはこの世界とは異なる別次元が存在する事が立証されてたりする。
カガリ そんなに恐ろしい世界だったのか。
ジム改 あとビームより実弾の方が強い世界でもある。だからあの世界のビームがメガ粒子砲より強いかは分からんが、自由の女神砲よりカイラスギリーのが上のようだからメガ粒子砲のが強いのかも。
カガリ そんなに強い印象が無いんだが。
ジム改 あれ数億度の高熱粒子を加速器無しで光速の10%くらいで飛ばせるという狂ったビームだから。しかも電荷を帯びない設定から重力やIフィールド以外だと余り干渉できないから、防ぐのも難しい。昔はメガ粒子砲も荷電粒子ビームの一種だったんだが、今は荷電粒子ビームとは別原理のビームに設定が変わって中性粒子ビームみたいな感じになってるようだ。照射点に対する破壊力は核の火球以上だぞ。
カガリ …………
ジム改 しかもSEEDまでは確実に黒歴史に入ってるから、SEED世界でメガ粒子砲を使う事は不可能じゃないぞ。
カガリ ミノフスキー粒子が無いだろ?
ジム改 見つければ良い。ミノフスキー粒子はミノフスキー博士が発見した粒子で作った訳じゃない。つまりCE世界にもミノフスキー粒子は存在する。
カガリ 見つけたら世界が崩壊しそうだから勘弁してくれ。
ジム改 ミノフスキー粒子の性質が分かってたUCでも大量散布したら大惨事になったからな。知見が無いCEで戦闘濃度散布なんかしたら艦船もMSもコロニーも全て機能停止して棺桶になってしまうかも。
カガリ 見つけんで良いわそんな悪魔の粒子!

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