第23章 懐かしの再会
オニールからの誘導電波を頼りに7人はどうにか沿岸部までたどり着いた。車を海岸に止めた車から6人が降り、林の中に隠したルドラからイングリッドが降りてくる。アスランは信号の発信方向からこの辺りの筈なんだがと言いながら周囲を見渡していると、通信機から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「来たのね、待っていたわ」
「ラミアス艦長ですね、海岸には到着しましたが、ここからどうすれば良いのですか?」
アスランが通信機から聞こえてきた声にここからどうすれば良いのかを尋ねると、少し待つように言われたのでしばらくそこでじっと待つことにした。すると、見ている先の海面が盛り上がったかと思うと、艦船の上甲板らしき構造物が現れた。
7人が驚いているとフレイがその船に見覚えがあるのに気づいた。
「この船、確か私たちがカガリとステーションに行く途中で見かけた大西洋連邦の軍艦じゃない!」
「ああ、言われてみれば!」
フレイに続いてカガリも思い出し、この船も巻き込まれていたのかとマリューたちの運の無さに同情してしまった。
マリューが上甲板に乗ってくるように言ってきたのでアスランがMSの収容は可能かを聞いて、可能との回答を得てイングリッドに全員を抱えてあの甲板に移動するように頼んだ。それを受けてイングリッドが再度ルドラに乗り込み、海岸近くで腰を降ろして両手を広げ、2人ずつ抱えてオニールの上甲板へと運んで戻るという作業を繰り返して移動を完了する。甲板上にはよく見ると長方形のエレベーターらしき部分があり、そこに全員で移動すると予想通りその部分が下降を始め、ルドラも含めて艦内へと収容された。
艦内へと収容された6人とルドラがエレベーターから離れるとエレベーター部が上昇して元へと戻り、完全に閉じると鈍い振動が伝わってくる。そして艦が移動を始める振動が伝わってきた。下降する感覚からどうやらまた海中へ戻っているようだ。
艦内には人影のようなものは見られないが、ここはどうやら格納庫のようだった。MS用ハンガーもありトールやフレイには見慣れたウィンダムが5機に、見た事もないMSが1機固定されている。
7人が物珍しそうに見回していると、格納庫に入る扉の1つが開いて数人の軍人が入ってきた。その先頭には見慣れた人物が居て、表情を輝かせてフレイとトールが駆け寄っていった。
「ラミアス艦長!」
感極まったフレイが抱き着いて泣き出してしまい、トールがマリューの前で嬉しそうな顔で敬礼をする。マリューは抱き着いてきたフレイを懐かしそうに抱き留めながらトールへと答礼を返し、視線を他の5人へと向ける。
「ここは異世界とは聞いていたけれど、これを見ては否定出来そうにないわね」
マリューは2人のカガリを見て少し表情を厳しくした。多少の差異はあるが、全く同じ人間が2人同時に目の前に居るのだ。これではいかに信じ難い話でも受け入れるしかなかった。マリューの言葉にトールは残念ながらと言って苦笑いし、アスランとカガリも引き攣った笑いを浮かべていた。本当にこれが冗談だったらどれだけ嬉しい事だろうか。
マリューに抱き付いて泣いていたフレイがやっと泣き止んでマリューから離れる。そして気恥ずかしそうに謝るフレイに泣き虫なのは変わらないのねとマリューは微笑んで、どういう状況かの説明を求めた。
「それで、貴方達はともかく他の人たちはどういう状況かしら。アスハ代表が2人にサイ君にアスラン・ザラに、見覚えのない女性が1人」
「アスランと髪の長いカガリは私たちと同じ世界の人間です。見慣れない人はイングリッド・トラドールさんといってこの世界で得た私たちの……友達です」
満面の笑顔でイングリッドを友達と紹介し、それを聞いたマリューは頷くと残りの2人を見る。
「そうなると、あちらのサイ君とアスハ代表は……」
「はい、この世界の2人で、私たちの存在に勘付かれたので仕方なく同行してもらいました」
「それはまた厄介な事ね」
マリューは迷惑そうな顔で2人を見る。フレイが友達と言ったイングリッドはまだしも、こちらのカガリとサイに対しては彼女らは明らかに仲間と認識していない。そしてマリューは2人から感じる違和感に眉を顰めてもいた。この感じは何なのだろうか。
マリューの表情から察したのか、トールが真剣な顔でその理由を説明してくれた。
「2人に違和感を感じますか、ラミアス艦長」
「ええ、理由は分からないんだけど、どういうことなの?」
「どうも、知人に会うとこんな違和感を感じるようです。親しい相手ほどそれは強くなって、カガリは自分に会って恐怖心すら抱いたと」
トールの説明になるほどと頷いて、マリューは7人に付いてくるように言った。マリューの指示で元の世界の4人はともかく、この世界の3人には警備兵が左右について警戒を見せている。4人はイングリッドにすまないと詫びを入れていたが、警戒されて当然ですからと言ってイングリッドは受け入れていた。
7人が通されたのは艦内のブリーフィングルームで、警備兵に囲まれた状況で7人はテーブルを囲むように椅子に腰を降ろし、マリューも椅子に腰かける。そして改めて7人を見ると、深刻そうな表情になった。
「それでなんだけど、この世界の状況は分かるかしら?」
「その言葉が出てくるってことは、大まかには分かってるんじゃないのか?」
カガリの問いにマリューは力無く首を横に振った。
「残念だけど、通信傍受だけでは十分な情報は得られなかったわ。分かってるのはこの世界のあちこちで戦いが起きていることと、時々コンパスとかいう組織が戦いに参加してることくらい」
「そういうことか、それだったらイングリッド、悪いけど説明を頼めるか?」
「分かりました」
カガリに促されてイングリッドが立ち上がり、現在の世界情勢を簡潔に説明していく。それを聞いていたマリューや幹部乗組員の顔色はどんどん悪くなっていき、話を聞き終えた頃には誰もが青ざめた顔で俯いている。この世界の状況の余りの酷さに誰もが絶望しているのだろう。
やがて航海長が弱弱しく手を上げ、イングリッドに質問をしてきた。
「仮に、なのだが、この世界の何処かに我々を受け入れてくれそうな国はあるだろうか?」
「受け入れるですか。大西洋連邦の国籍マークを付けているとはいえ、この世界に存在しない軍艦です。無事に受け入れてくれるとは思わない方が宜しいかと」
「事情を話しても無理かね?」
「異世界から来た、などという話を信じろという方が無理というものです」
切って捨てるように言われてしまい、航海長は気落ちしてしまう。何故そんな馬鹿げたことを聞くのかとイングリッドが戸惑っていると、マリューが深刻な顔で事情を話してくれた。
「実は、補給を受けられる当てが無いから艦内の物資が心許ないのよ。もともと少なくなったら補給に戻れば良いと思っていたから、必要以上に積み込んでいたわけではないの」
「じゃあ、もう欠乏しているんですか?」
「いいえ、そこまで逼迫している訳じゃないわ。一応長期航海の予定だったから。でも、補給が無ければいずれ尽きてしまう」
そういう事かとイングリッドは納得した。少しずつ減っていく物資に幹部乗組員は頭を痛めていたのだろう。そこに更に自分たちが転がり込んできたのだ。躊躇せず受け入れてくれはしたが、状況はさらに悪化したのは間違いない。
これは自分にもどうしようもないとイングリッドも気落ちしてしまうが、そこにアスランが助け船を出した。
「あまり気は進まないが、1つ方法があります」
「どんな方法なの?」
マリューが期待を込めた顔で食い付いてくる。それを受けてアスランはこの世界のカガリとサイを見た。明らかに警戒されている2人は居心地悪そうにしていたのだが、突然自分たちに視線が向けられて露骨に怯んでいる。
「この2人はオーブの現代表閣下と官僚らしい。この2人をオーブ日引き渡す代わりに補給を受ければ良いのではないですか?」
「それって、人質に使えという事?」
「背に腹は代えられんでしょう?」
しょうがないというアスランにマリューは考え込んだ。最善は物資が尽きる前に元の世界に戻ることだが、それが叶わないのならばやるしかないのかもしれない。もし戻れないとしたら、この世界で生きていくためにオーブに亡命を願い出る必要もあるかもしれない。
「……まあ、それは物資が尽きそうになったら考えましょう。とりあえず現在の状況は分かったわ。今出来ることは迎えが来るまで海底に潜んでいる事ね」
「そうですね。それも出来れば位置を変えた方が良いでしょう」
「どうして?」
「俺たちがここに来るまでの道中で、発見されていないと言い切れません」
追手がいる可能性があるとアスランは言う。それを聞いてマリューは頷いて出港準備を航海長に命じた。それを受けてクルーがブリーフィングルームから出ていき、マリューも出て行こうとする。だが扉の辺りで思い出したことがあったのか、フレイを振り返った。
「そうだフレイさん、格納庫に行ってみなさい。貴女の友人がいるわよ」
「え、友人ですか?」
「ええ、大戦時の戦友がね」
そう言い残してマリューは部屋から出て行った。残されたフレイは戦友って誰の事だろうと首を捻ったが、トールに行けば分かるんじゃないかと言われて頷いて格納庫に向かうことにした。
格納庫には先ほどは見なかった整備兵が沢山いて、見慣れないルドラに群がって珍しそうに機体を確認している。その中で指揮を執っている若い曹長を見てフレイは表情を輝かせた。
「セランさん!」
「おや、戻ってきましたねアルスター少尉、あ、今は二尉でしたか」
フレイの声に振り返った女性、かつてマドラス基地で出会い、その後は第8任務部隊でも共に戦った友人のセラン・オルセンが居た。当時は軍曹だったが、今は出世して曹長になってこの艦の整備兵を束ねているようだ。
フレイは嬉しそうに駆け寄ってセランの手を取り、懐かしそうにその顔を見ている。
「今は退役した予備役二尉ですよ、フレイで良いです」
「そうでしたね。大戦時のスーパーエースがその若さで退役とは勿体無い話ですが」
「軍が逃がしてくれなくて、今でも片足は軍籍に置いているような状態なんです」
「それはそうでしょうね、私がオーブの担当者でも同じことをしますよ」
セランは笑いながらフレイにの手を握り返し、旧交を温めている。彼女はフレイにとって初めてできた同性のコーディネイターの友人で、フレイを立ち直らせてくれた恩人の1人だ。
美人だが結構豪快な性格で、誰にでも分け隔てなく接するさっぱりした女性で、マドラスに居た頃はフレイのMSの整備を請け負ってフレイに色々なアドバイスをくれていた。
セランと会ったことのあるトールとカガリもやってきて、昔話に花を咲かしている。アスランも見覚えはあったのだが、流石にあの輪に加わるのは憚られた。
「あ、そうだフレイ、兄さんもこの艦に乗っているんですよ」
「え、ボーマン中尉も?」
「今は大尉ですが。誰か、兄さんを呼んできて!」
セランが周囲に声をかけ、少し待つとボーマン大尉の声が近付いてきた。
「なんだセラン急に呼びつけて……あれ、アルスター少尉か!?」
「ボーマンさん、お久しぶりです。それと私の事はフレイで」
「ああ、軍を除隊したんだったか。久しぶりだなフレイ」
懐かしそうにボーマンがフレイの頭をポンポンと叩き、それにフレイがくすぐったそうな顔をして笑っている。あんな事をされたら普通は怒りそうなものだが、それを受け入れているところにフレイの2人への好意の大きさが見て取れた。
ボーマンに続いて何人かの整備兵がフレイの周りに集まってくる。どうやら同じ元マドラスの整備兵のようで、フレイも見覚えのある顔に喜んでいた。
大勢のクルーに囲まれているフレイを見てこちらのカガリとサイは驚いていた。あんなに大勢に慕われているフレイを見るとは思わなかったのだ。イングリッドもフレイさんはお友達が多いんですねと驚いていて、トールとカガリがちょっと得意そうな顔をしている。
「フレイの奴、あんなに人気があったんだな」
「フレイは世界中に変な友達がいるからな」
こちらのカガリの驚いた声にトールがフレイの交友関係は色々凄いという。知人友人というだけならばカガリ以上に世界中に広がっているのではないだろうか。特に種族を選ばないという点ではフレイの周りは本当におかしいのだ。
「セラン曹長とボーマン大尉はコーディネイターなのに、いつの間にかフレイは仲良くなってたんだよな」
「ああ、少し前までコーディネイターを嫌ってたのにな」
本当にあいつは良く分からんとカガリが笑いながら言う。それは2人には不思議な話だというレベルだが、この世界のカガリとサイには驚愕する事実だった。
「大西洋連邦で、コーディネイターの士官が居るのか?」
「なんだ、居たらおかしいのか?」
「おかしいだろ、ナチュラルの国でなんでだよ!?」
「私たちの方だと今は珍しいってくらいなんだけどな。プラント大戦で地球のコーディネイター勢力が一致団結して地球連合に参加して一緒に戦うようになってから、地球でもプラントと地球在住コーディネイターは別だって考えるようになったし」
「対立はしてないのか?」
「全く無いって訳じゃないけど、こっちみたいに殺し合いまではしてないさ。地球在住コーディネイターが集まって作ったアルビム連合の独立も認められて、何かあったときの受け皿も出来たし」
「コーディネイターの独立国が、地球上で承認されてるのか?」
「そりゃ、地球連合の構成国の1つだからな。うちとも友好国だぞ」
信じられないという顔をカガリはしている。サイもあり得ないと何度も頭を横に振っている。地球上でコーディネイターが国家規模の勢力を持っているのも信じ難いのに、独立も承認されて地球連合に加わっているとかどういう状況なのだ。向こうの地球連合はコーディネイターも受け入れているのか。
この疑問に、カガリは当然だろうと返していた。
「当たり前だろ、あいつらは地球の仲間だぞ」
「コーディネイターはプラントと戦う事に、何も思わなかったのか?」
「個人ではどうだかは知らないけど、アルビム連合は勇敢に戦ってくれたぞ。おかげで連合将兵にはアルビム連合への戦友意識も芽生えてきて、それが民間にも広がって敵はコーディネイターじゃなくてプラントだって変わっていたんだ。まあ各国やロゴスがそういう方向に世論を誘導したのも大きかったんだがな」
誰かに助けてもらったのでも、縋ったのでもない、あいつらは頑張って地球の仲間だと認めてもらったんだとカガリは言う。それはかつて敵として戦ったアスランには苦い記憶であり、仲間として戦ったトールには何度も助けられたという思い出となっている。
だが、こちらのカガリとサイは辛そうに俯いてしまっていた。ここに来てから得てきた情報を考えれば2人が落ち込むのも分からないではないとトールは思っている。この世界のコーディネイターは大戦時のザフトのようにナチュラルを平気で虐殺するし、ブルーコスモスも同様にコーディネイターの皆殺しを目指している。
イングリッドも自分たちの考えはこちらでは非常識だと言っていた。ナチュラルとコーディネイターが住処を分けているとはいえ、国家規模でそれなりに上手くやっていけているというのは信じられなくて当然だろう。
だけど、カガリではないがそれは自分たちにはどうしようもない事だ。みんなで頑張らなくては世界は変わらない。他所の世界の事で悩むのは傲慢という物だろう。
久しぶりの再会に会話が弾んでいたフレイたちだったが、やがて話の中心はMSベッドに固定されている見慣れないMSへと移っていった。大西洋連邦の新型のようだが、見慣れないMSにフレイはカタストロフィ・シリーズの新型かと思い、イングリッドは異世界のMSに興味津々という様子で見上げている。
「セランさん、このMSは何なの?」
「こいつはテスト用に送られてきた新型機ですよ。一応ウィンダムの後継機の試験機って話ですが、クライシスみたいなMSです」
「つまり、色々新しい技術が詰め込まれてるんですね」
「そうですね。大西洋連邦のMSですからナチュラル用ですけど、兄さんがテストパイロットをしてるんです」
「ボーマンさん、本当に出世したんですね。何て名前なんです。また物騒な名前ですか?」
大西洋連邦の試作MSは何故か物騒な名前の機体が多い。これもそうなのだろうかと思っていると、セランはそんな事は無いと笑って顔の前で手を振っていた。
「流石にそんな命名基準は無いですよ。こいつはGAT-X503リベレイターです」
「500ナンバー台フレームかあ、本当に新型ですね」
フレイの世界ではウィンダムはストライクなどの第1世代を過去の物にした400番台フレーム機として作られていた。その性能は一般兵向けでありながらカラミティのような強化兵向け新型機にも匹敵する驚異的なもので、大戦時にはザフトの投入してきた核動力MSにすら対応する性能を見せた。
それをはっきりと越える次世代機として出してきたのならば、一体どれほどの性能なのだろうか。ナチュラル用というのならば自分にも乗れるのだろうか。
「セランさん、これ私にも乗れますか?」
「そうですね、ナチュラル用MSだからフレイにも問題なく乗れますよ」
フレイならコーディネイター用でも使えそうな気がしますがとセランは笑いながら言う。フレイはそれは無理ですよと返すが、実はアルフレットのような一部の超人はコーディネイター用MSを動かすことが可能だった。ザフトのトップエースだったクルーゼも実はナチュラルだったことが知られており、ナチュラルでも極端な上澄みならコーディネイター以上の能力を示すという証左となっている。
フレイは次世代機というリベレイターを見上げて、確かに物騒な名前だったこれまでの大西洋連邦の試作機と比べると少し可愛い顔をしているかななどとちょっとおかしい感想を抱いている。その横でイングリッドが性能などをセランに尋ねていた。
「このナチュラル用の新型機ですが、武装などはどうなっているのでしょうか?」
「ええと、貴女は?」
「イングリッド・トラドールと言います。この世界の人間です」
「ああ、貴女がフレイのお友達っていう異世界人ですか」
まさか異世界でまで友達を作ってるとは思いませんでしたとセランは言い、そしてルドラの方を見る。
「後であちらの機体の事も教えてくださいね」
「構いませんよ、気が済むまで調べていただいても」
「それはありがたいです。それでリベレイターの武装ですが、これは機体の基本性能の向上を目指した次世代機なので、武装は意外にシンプルなんですよね。最新の兵装関係は他の試験機で試す予定なので」
基本的にはデルタフリーダムとヴァンガードを参考にナチュラルでも使えるように色々改良された操縦システムを持つ新型MSで、かつてはキラやシンのような規格外でないと動かすのも困難だったMSをナチュラル用にした、基本性能の向上を追求した高級機である。そのコンセプトからダガーLではなくウィンダムの後継機と位置付けられていて、数年後の完成を目指して鋭意開発をしているという。
兵装はごくシンプルで、手持ちの粒子砲が1門に頭部に30mm機関砲が2門、胸部に50mmガウス砲2門が補助火器として搭載されていて、両腰に2本のビームサーベルを備えていている。重視されているのは防御面で両腕部に光波シールドを装着し、両肩部には小型化されたゲシュマイディッヒパンツァーを組み込んだABシールドが装備されている。攻撃よりも防御力に比重を置いたMSなのだ。この他に対PS装甲用の実体装備として高周波剣も用意されている。
大西洋連邦の技術の他に大戦後に接収したプラントの技術も導入されて作られたMSで、動力にはプラントで開発されてインパルスへの搭載が予定されていたデュートリオン送電システムを利用したハイパーデュートリオン機関が搭載されていて、これらの防御システムやVPS装甲への電力供給を賄っている。
「まあこんな感じですね。攻撃力はデルタフリーダムには大分劣りますが、防御力は比類ないですよ。必要に応じてまだ防御装甲も増やせますし」
「…………」
エグゾスター砲をMS用火器に採用したのは正気を疑うような暴挙でしたねと笑いうながら言うセラン。向こうの世界で現在も最強の戦闘艦の座にあるヤマト級戦艦には24門の粒子ビーム砲が搭載されており、恐ろしいまでの粒子収束性が生み出す長射程と破壊力からローエングリン砲を上回る最強の艦載砲とされている。
かつてキラが使っていたデルタフリーダムの主砲もこのエグゾスター砲をMSサイズにダウンサイズしたもので、艦砲に比べれば大分威力が落ちていたがそれでもMS用の防御装備では防ぐ方法が無いほどの破壊力を持っており、対ジェネシス戦では核ミサイルやローエングリン砲と並んでジェネシスの装甲を破壊できるのではと考えられるほどだった。
イングリッドにはデルタフリーダムやヴァンガードというMSの詳しい事は分からなかったが、このMSが頭のいかれた代物であることは理解できた。対ビームはゲシュマイディッヒパンツァーとビームシールド系の盾で防ぎ、対弾はVPS装甲で賄っている。ルドラのフェムテク装甲に比べればまだ普通の防御装備だが、問題なのはこれを一般兵向け量産機だと言っていることだ。
「あの、これを普通のパイロットが使うと?」
「いえいえ、そんな事は無いです。これはただの試験機の1つですからね、他にも数種類の試験機があってテストをしていますよ。それらのデータを基に作られるのが本格的な量産型です」
欠点も多い試験機をそのまま量産なんてしませんよとセランは笑って言うが、イングリッドは頭痛がしてきて額を押さえてしまった。そういえばアスランもプラントで次世代量産機としてディスティニータイプの開発をしていると言っていたが、向こうでは超高性能機を一般のパイロットに使わせるのが普通なのか。
「まさか、サードステージ級のMSをナチュラル向けに作るなんて」
「サードステージ?」
「こちらの世界のプラント製MSの分類です。インパルスがセカンドステージで、その次の世代をそう呼んでいます」
「なるほど、確かにそういう意味ではその分類に当てはまりますね。その意味ではデルタフリーダムやヴァンガードは2.5世代という辺りでしょうか」
「2.5世代?」
「デルタフリーダムはフリーダムを連合の技術で強化改造したMSで、ヴァンガードはザフトの核動力MSを超えることを目標に作られた連合製核動力MSです。どちらも余りにも使い難いMSになってしまって、一部の化け物級のパイロットでないと動かすのもままならない欠陥品でしたね」
アークエンジェル隊のキラ・ヤマト少尉やシン・アスカ准尉でも乗りこなすのに苦労してましたねえというセランに、イングリッドはどんな無茶なMSだったのかと青い顔をしている。もしかして自分たちでも動かせないような代物だったのではと思ってしまった。
イングリッドがセランからリベレイターの説明を受けている横ではトールとフレイが懐かしそうな顔でウィンダムを見上げていた。
「ウィンダムかあ、こうして見るのは3年ぶりね」
「ああ、そんなに長い間乗ってた訳でもないのに、愛機て感じがするよな。でも俺たちが使ってた頃より少し違うところもあるな」
「まあ3年も経ってるんだもの、改良もされてるでしょ」
オーブのM1は昔のままだけどと苦笑し、離れた所で聞いていたカガリが仕方ないだろと文句を言う。お金が無くて軍備の更新にまで手が回らず、オーブ軍は従来のMSをほぼそのまま使っていて、金持ちの大西洋連邦と一緒にしないで欲しいとカガリはブツブツ言っている。
カガリたちから少し離れた所で、こちらのカガリとサイも艦内のMSを見ていた。見知らぬ異世界のMSは2人にとっても興味深い物のようだ。2人の背後には余計な事をしないようにアスランが立っていた。
「こいつが異世界のウィンダムか、見た目は似てるけど、色々中身は違うんだろうな」
「背中はストライカーパックではないようです、これは換装機能を持っていないようですね」
「汎用性を捨てたのか、なんでそんな事を?」
カガリに疑問にアスランが少し忌々しそうに答えてくれた。
「こいつは対MS戦に特化しているんだ。俺が相手をしたのはトールとフレイが使っていた機体だったが、ジャスティスでも手を焼かされたよ」
「お前が使うジャスティスが手を焼くって、冗談だろ!?」
フレイがパイロットだとは聞いていたが、まさかトール共々そこまで強いのかとカガリは驚愕してしまった。それはナチュラルじゃないだろうというが、アスランはまあ見た事が無ければそう思うだろうと苦笑いを浮かべている。あの2人もおかしいがそれ以上に強い奴もいるのだが、この世界にはそういうナチュラルはいなかったのだろうか。
ようやく昔の仲間と合流できたカガリたちは久しぶりの穏やかな空気の中で一時の休息を楽しむことが出来た。だが、彼らはこの世界の動乱に止めておけばいいのに首を突っ込んでしまうことになる。
機体解説
GAT-X503 リベレイター
兵装 粒子砲
胸部50mmガウス砲×2
頭部30mm機関砲×2
光波シールド×2
ゲシュマイディッヒパンツァーシールド×2
高周波剣
ビームサーベル×2
〈解説〉
大西洋連邦が開発した次世代量産機計画で生み出された試験機の1機、MSとしての基本性能の向上に主眼が置かれており、強大なパワーと高い運動性を持たされている。大戦時の戦訓が十分に反映されていて攻撃力より防御力に重点が置かれ、パイロットの保護に重点が置かれている。パイロットの生存性向上のためにMS用の脱出装置も初めて組み込まれている。デルタフリーダムやヴァンガードのような暴れ馬をナチュラルでも使えるようにAIサポートユニット、神経反応ヘルメットが装備され、対Gシートとパイロットスーツもこの機体の運動性能に対応する物が開発された。
特徴的な粒子砲はデルタフリーダムのエグゾスター砲をベースにした量産モデルで、攻撃力は落ちたが大分使い易くなっている。また高周波剣は対艦刀に相当する装備で、接近戦で使用する両手剣となっている。原理的にはヴァンガードの高周波槍と同じもので相手の装甲を削り取って両断する事が出来る。
性能的には革新的な機体であったが本体の運用試験の為に持ち込まれた機体なので、兵装などは従来の物から余り変化していない。実戦で使う予定があった訳ではないので仕方が無いのだが、この状況では不安材料となっている。
GAT-04E ウィンダム
兵装 ビームライフル 又はガウスライフル
ビームサーベル×2
頭部30mm機関砲×2
ゲシュマイディッヒパンツァーユニット×2
ABシールド 又は シールドリアクター内臓シールド
〈解説〉
大戦時に活躍したウィンダムの最新モデル。基本性能の向上はあるが武装面での変更点は無い。大戦時には見送られた両肩部への簡易型のゲシュマイディッヒパンツァーユニットの装備が目に見える変更点で、左右からのビーム攻撃に対して高い防御力を有する。フォビドゥンのような可動シールド型ではなく、固定された発生器であるので正面や背面には向けられない。
シールドリアクター内臓シールドはウィンダムの基本兵装ではなく、試験部隊用に特別に準備された大型シールドで、強力なビームシールドを展開するための原子炉を内蔵した実体シールド。単体でもそれなりの広域を守ることが可能なビーム展開能力を持つが、同型のエネルギーシールド発生器と連携することで更に防御範囲を拡大することが可能。試験機を守るために用意されていた。
技術試験艦 オニール
兵装 単装ゴッドフリート1基
連装レーザー機銃4基
6連VLS×2
〈解説〉
大西洋連邦が建造した新装備をテストするための艦艇。戦闘用ではなく、兵装は自衛用に最低限が施されているにすぎない。半面観測機器や様々な装備を搭載、運用するための機能は充実していて、故障の多い試験装備を修理する能力も高い。また地球上、宇宙を問わず試験場に向かう必要があることからどちらでも航行可能な能力を有し、大気圏突入能力も有する。ブースター装備により離脱も可能。VLSは海賊対策として船体左右に埋め込まれていて、この艦の主兵装と言える。
流石に潜航は考慮されている機能ではなく、当然ながら深深度に潜ることは不可能。浅海面を低速で移動するくらいしかできない。
ジム改 ようやくマリューと合流。
カガリ なんか物騒なMSがあるんだが。ウィンダムも強くなってるし。
ジム改 ウィンダムに関しては流離う翼で言及されてた見送られた装備を搭載した完成版だね。
カガリ この新型は?
ジム改 ナチュラル用のディスティニーみたいなもの。
カガリ 誰が乗るんだよこんなの。
ジム改 ナチュラル用だからお前やサイ以外なら誰でも。
カガリ コーディ用じゃないってのが地味に嫌だな。
ジム改 むしろナチュラルの方が機械の力で能力差を埋めていくべきだと思うんだがなあ。
カガリ でもいいなあ、うちなんて改造もしてないM1使ってるのに。
ジム改 一応、デルタフリーダムとヴァンガードはオーブにあるぞ。
カガリ え、返してなかったのか?
ジム改 デルタはオーブでフリーダムを改造した機体で、ヴァンガードは譲渡されてるからね。
カガリ でも使える奴が居ないだろ。
ジム改 だから実質ただのオブジェなんだよ。一応ストフリやインジャ相当のMSなんだが。
カガリ あれそんなにヤバかったのか。