第14章 異世界での遭遇
町にバクゥが迫っていることはルナマリア達が出撃して大分立ってから分かった。守備隊は急いでルナマリア達を呼び戻そうとしたが通信は繋がらず、やむなく戦車隊での迎撃を決めたが勝てるかどうか分らない。
町の人たちは急いで町を捨てて逃げていく、あるいは地下室などに逃げ込んでやり過ごそうとするが、MSがこちらを蹂躙するつもりで来ているなら逃げ切れるとは思えない。
アスランは車で町を離れようと思ったが道路が渋滞を起こしているのを見て諦め、カガリとイングリッドを地下へと連れて行こうとした。アスランは2人を町から一度村へと戻そうと思っていたのだが、トールとフレイを心配した2人が頑として動こうとしなかったので仕方なくアスランが折れたのだが、それが最悪の事態を呼んでしまったと言える。
「ここは不味い、安全かは分からないが地下に逃げ込もう!」
「それしかなさそうだけど、何処に行く。地下鉄でもあれば良いけど」
「残念ながら無さそうだ、今は何処かのビルの地下室でも良いから逃げ込もう」
アスランは2人を促したが、それにイングリッドは反応しなかった。何故かトールたちが向かった方向をじっと見ている。逃げようとしないイングリッドにカガリが声をかけた。
「どうしたんだイングリッド、早く逃げるぞ」
「……いえ、私は高い所に行きます」
「何を言ってるんだお前!?」
自殺行為だとカガリは怒鳴ったが、イングリッドはこれまでの彼女とは違う、強い意志を感じさせる目でカガリを見返した。
「私は大丈夫、自分の身くらいは守れます。私はフレイさんに力を貸そうかと」
「フレイに、力を貸す?」
「はい、多分フレイさんは私たちと似た力を持っていますので、意識を繋げるはずです」
訳の分からないことを言い出すイングリッド。カガリは何を言っているんだと思っていたが、アスランがまさかという顔でイングリッドに問いかけた。
「イングリッド、君はまさかテレパシーが使えるのか?」
「テレパシーの様なものですね。私たちアコードはアコード同士で精神をリンクさせることで互いに意識情報を共有したり、他人の精神に干渉して操ることが出来るのです。普通はアコード同士でしかリンクはしないのですが、フレイさんは前に一度無意識に繋がってしまったことがあるんです」
「コーディネイト技術の中にそういったものの研究もあった事は父上から聞かされていたが、この世界では実用化しているのか」
「おい、アスラン!?」
イングリッドの前でこの世界などと言うなとカガリは思ったが、焦るカガリにイングリッドは微笑んで首を横に振った。
「申し訳ありません、貴方達が異世界からの来訪者であることはもう知っています」
「え、どうして?」
「相手がアコードで無くても、相手の表層意識くらいは意識を集中すれば読めるのです。出会った頃は警戒して貴方達の考えを読んでいました」
「ああ、君が時々意識を集中させてはおかしな言動をしていたのはそれか」
イングリッドの告白にアスランは得心した。彼女は時折自分で勝手に納得していたりしたが、あれば自分たちの考えを読んで裏を取っていていたのだと考えれば納得できる。自分の頭の中を勝手に見られていたというのはいい気はしないが、彼女の立場を考えれば警戒するのは当然なのでアスランも怒りはしなかった。
「ですが、意識を読まなくても皆さん結構自分の世界の事を口にしていましたよ。知られたくないのでしたらもっと気を付けた方が良いです」
イングリッドのツッコミに心当たりがあり過ぎる2人は気まずそうに顔を反らしてしまう。その様を見て隠し事や嘘を吐くのは向いていませんねとイングリッドに言われてしまった。
「今はしていません、貴方たちが本気で私を善意で助けてくれただけだというのが理解できましたので。ただ、この世界ではそういう考えは異常なのだということも理解してください」
イングリッドは今まで黙っていてすいませんと謝罪すると、早く避難するように言って近くの非常階段を駆け上がって屋上へ向かった。それを見たカガリがアスランを見る。
「あんなの放っておけるか、アスラン後を追ってくれ!」
「だが、カガリを置いては……」
「私はそこの地下室に逃げ込む、あとで迎えに来てくれ!」
「分かった、くれぐれも慎重にな」
仕方がないという顔でアスランはカガリに拳銃を手渡し、イングリッドの後を追って階段を駆け上がり始めた。それはイングリッドより速く、彼女に追い付けそうである。
それを見送ったカガリはアスランに伝えた地下室に逃げ込んだ。しっかりと変装してあるから気付く奴は居ないと思うが、念のため上着の襟を立ててフードを被り顔を隠す。そのまま地下室の奥に入って身を隠すように物陰に潜んでアスランたちの迎えを待つことにしたが、その時いきなり誰かに肩を叩かれた。
「このような所で何をなさっているんです、カガリ様?」
その聞き覚えのある声にカガリは心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。全身を寒気が走り、嫌な汗が滲んでくる。まさか、ありえない。こんな所にあいつが居る訳が無い。そして何より、あいつは私をこんな所でカガリ様なんで呼ばないし敬語も使わない。
恐る恐る声のした方を見ると、そこには思った通りの男、サイ・アーガイルが居た。だが彼がこんな所に居る訳が無い、このサイはこちらの世界のサイだ。
「サ、サイ?」
「そうです。こちらにいらっしゃるとは聞いていましたが、どうしてこんな所に1人でいるんですか。護衛はどうされたんです?」
サイは怒っているような顔で自分を見ている。それは上位者の無謀な行動に怒っている部下の態度で、カガリはまた怖気に震えてしまった。違う、この男はサイの顔でサイの声で喋っているが、間違いなく別人だ。
全くの別人が自分の知っている人間として振舞ってくるとここまで違和感を覚えるのか、とカガリは思い知らされた。これまで分かってはいたがまだ実感が足りていなかった。これが異世界に来るという事なのだ。
屋上に上がったイングリッドは改めて意識を集中し、フレイの気配が急速に町に向かっていることを感じ取った。彼女はかなり早い段階、恐らくは攻撃が始まる前に別動隊を察知して戻ってきたのだろう。
「素晴らしい判断力ね、母上やオルフェ達はナチュラルなど使い物にならないと馬鹿にしていたけど、優秀な人もいるじゃない」
「それはそうだ、俺たちが本気で恐れた部隊の1人だぞ」
背後からアスランの声がかけられる。驚いたイングリッドが振り向くと、アスランは既に自分の背後まで来ていた。
「いつの間に?」
「カガリに言われて君を追ってきたんだ」
「後追いで私に追い付いてきたというんですか。貴方は本当にただのコーディネイターなんですか、アコードの身体能力にコーディネイターが付いてこれるはずが無いんですが?」
「少なくとも父上から特殊な生まれとは聞いてないな、まあ周りからはちょっと運動能力が高いと言われたことはあるが」
「ちょっとというレベルでは無いでしょうに」
ナチュラルのトールやフレイといい、コーディネイターのアスランといい、一体どうなっているのだ。向こうの世界の人間はもしかしてこのレベルが当たり前に居るというのだろうか。
もちろん向こうの世界では3人とも普通から外れている扱いをされているので、イングリッドの悩みは杞憂である。
自分の常識外の事態の数々にイングリッドは頭痛のしてきた頭を右手で押さえたが、すぐに気を取り直すと改めてフレイに意識を向けた。
「……やはり、フレイさんの力はアコードのそれに近いですね。リンク出来そうです」
「リンク出来ると、何か良いことがあるのか?」
「ええ、フレイさんに私の力を貸すことが出来ます。私の見ている物を彼女も見えるようになりますし、彼女の代わりにこちらで必要な計算をすることも出来ます」
「ナチュラルの頭脳をコーディネイター並みに出来ると?」
「はい、外付けの追加演算装置とでも思っていただければ良いでしょう」
「それは、フレイの体は大丈夫なのか?」
彼女の身に何かあったら許さないぞ、と警戒を見せるアスランに、イングリッドは苦笑を浮かべた。
「アスランさんは、本当にフレイさんを大事にされているんですね」
「……フレイだけじゃないさ、俺は友人が傷つけられるのを決して許さない」
「そのようですね。ですが大丈夫です、私もフレイさんを傷付けたくないですから」
「どうしてそう思うんだ?」
「……初めてなんです、何かの理由もなく当たり前に優しくしてもらったのが、打算も無く楽しいからと一緒に笑ってくれる人が傍に居たのが」
とても悲しそうな、涙を流さずに泣いているような顔でイングリッドは言う。それを聞いたアスランは彼女が何時も辛そうな顔をしていた理由を察した。彼女は常に結果を出すことを求められて誰にも心を許すことが出来ないような環境で生きてきたのだろう。
昔の自分も一時期イングリッドのような結果を求められるだけの環境で暮らしをしていた時期があるから、彼女の苦悩は察することが出来る。あれは一種の虐待に近い。ましてそれがずっと続いていたというのなら、イングリッドが自分たちになかなか馴染めずずっと戸惑っていたのも当然だろう。
だからアスランは、彼女が分かっていない事を教えてやることにした。
「イングリッド、そういう相手を友達って言うんだ」
「……友達ですか?」
「ああ、一緒に遊んで、一緒に笑って、一緒に居て楽しい、そういう相手を友達って言うんだ。多分カガリもフレイもトールも君を友達だと思ってるよ」
アスランに言われてイングリッドは戸惑った表情を見せる。それがアスランにはおかしく思えたが、彼女は多分そういう相手を持ったことが無いのだ。まああの3人は自分から見てもかなりお人好しだから余計に簡単にイングリッドを受け入れてしまったのだろうが。
「だから、あいつらを裏切るような事はしないでくれよ」
涙を流しているイングリッドに釘を刺すように言うアスラン。それにイングリッドは小さく頷き、涙を拭って笑顔になった。そして目を閉じると、フレイの意識に自分の意識を繋いでいく。
「フレイさん、聞こえますか?」
「え、イングリッドさん? え、あれ、通信じゃないよね?」
「はい、今あなたと精神を繋いでいます。今は細かいことの説明は省きますが、今から私と貴女を同調させます」
「え、え、同調ってなに、私オカルトの類は苦手なんだけど?」
「ご心配なく、フレイさんには何も問題はありませんから。ただ私を受け入れてください」
「……そうすると、どうなるの?」
流石に不安そうに聞いてくるフレイ。その反応は当然だったが、イングリッドは苦笑を隠せなかった。初めての精神リンクの筈なのになんでこの人は当たり前のようにこちらに反応出来ているのだ。過去にも誰かとリンクした経験があるのではないのか。
「私と同調して、私の力を貴女も利用できるようになります。細かい演算はこちらで請け負って貴女は思ったことがより正確に出来るようになると思ってください」
「例えば、ここから遠くのMSを狙い撃てるとかも?」
「はい、細かい弾道計算などはこちらで請け負います。貴方は狙って撃ってくれれば良いです」
「何だか良く分かんないけど、ならやってみるね」
イングリッドの言葉を信じてフレイは受け入れるってどうやれば良いんだろうと思いながら警戒心を解いていく。すると自分の中に何かが入ってくるような不思議な違和感を感じて、視界が急に開けたような感じになる。
「こ、これ何、なんだか見えるものがおかしい!」
「大丈夫です、すぐに元に戻ります。私の見ている物が見えますか?」
「イングリッドさんの見える物って……」
戸惑うフレイだったが、すぐにイングリッドの言う通り視界が元に戻った。そして意識をイングリッドに向けるとそれまで見ていた物に重なるように町中の様子が見えてきた。
「これは、町の様子が見える。高い所から見下ろしている?」
「はい、それが私の視界です。こちらに近付くバクゥが見えますね?」
「え、ええ、見えるけど」
「そのバクゥを狙ってください。細かい補正はこちらでやります」
「……分かったわ、よろしくね」
どうして他人の視点で攻撃ができるのだろうとフレイは疑問に思ったが、自分の視界に戻しても先ほど見たバクゥの位置がなぜか良く分かる。これがイングリッドの言っていた補正なのだろうかと思いながらフレイはビームライフルを向けてバクゥに向けてビームを放った。
狙われたバクゥは狙い過たずフレイが狙った右足をぶち抜かれてその場に倒れこんで動かなくなる。この超遠距離射撃が本当に当たったことにフレイは驚いたが、それは狙われたバクゥのパイロットたちも、見ていたアスランも同じだった。
「なんだ、何処から撃ってきた!?」
「近くに反応は無いぞ、後ろって事しか分からん!?」
背後から撃たれたこと以外何も分からずに2機のバクゥが急いで遮蔽物の陰に逃げ込もうとするが、すぐに2発目が飛んできて胴体を撃ち抜かれて破壊されてしまう。何処から撃ってきてるのか分からない狙撃に襲われる恐怖に震えた3機目のバクゥは戦意を喪失して逃げようとしたが、逃げ出そうとした瞬間に頭を吹き飛ばされてその場に仰向けに転がってしまった。
町の守備隊はそれまでこちらを圧倒していた3機のバクゥが訳も分からないうちに撃破されたのを見て唖然としていた。彼らからも何処からビームが飛んできたのか全く分からなかったのだ。
戦いが終わったのを見てイングリッドは疲れた顔でその場に膝をついた。どうやらかなり消耗しているようだ。流石に心配になってアスランが声をかける。
「どうしたんだ、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。こんな使い方をしたのは初めてで少々疲れただけです」
「初めてって、どうしてやれると分かったんだ?」
「アコード間で精神をリンクさせて情報共有は普通にできるのですが、アコード以外に対して全てこちらで調整して繋いで負担も引き受けるなんてのは初めてだったんですよ」
「なんて無茶な事を」
「ですが、やらなければ町は破壊されていました。そうなったら貴方達は悲しむのでしょう?」
これまでの付き合いで貴方達が何処かの誰かの為に心を痛められる人だということは分かっています、とイングリッドは言う。そう言われてアスランは俺はそこまでお人好しじゃないと言い返したが、それにイングリッドは優しく微笑んで返した。優しくない人は友達の事を本気で心配なんてしませんと。
こうして町の2度目の防衛戦は終結した。だがそれは、カガリたちに新たな問題を引き込むことになってしまう。
町を守った3人は機体を基地に戻してようやく一息ついていた。傍目には大した損傷も無しに敵を壊滅させているので完勝といえるが、疲労はかなりきついものがあった。特に予備役になって以来訓練が足りていないフレイは困憊して床に座り込んでいる。
ルナマリアは汗で重くなった髪を右手で鬱陶しそうに掻きあげるとトールとフレイに礼を言った。
「協力感謝するわ、私だけじゃ防げなかった」
「それは良いんだけどさ、流石に1人でこれやろうとしてたのは色々おかしいだろ。人手不足ってレベルじゃないぞ」
「仕方がないのよ、ファウンデーション事件でコンパスも人員と装備を喪失してて機能停止寸前なんだもの」
「そこまで酷いなら、一度解体して作り直した方が良いんじゃないか?」
それはもう組織として崩壊していると言った方が良いだろとトールが文句を言うと、同感だとルナマリアも頷いた。これまでシンへの付き合いと義務感でやってきたが、今日の仕事は2人の協力が無ければ殺されてていたのは自分の方だった。せめてインパルスが使えればと思うが、大きな損傷は無くても無理をさせ過ぎて中はボロボロになっていてこれも大規模な修理を必要としている。
現状で使えそうなのは重点検と整備が間に合ったディスティニーくらいだが、これは逃亡中のアコードがもしルドラを出してきた場合への対策として気軽に動かせない。アコードは能力的にはシンに勝り、ルドラも性能ではディスティニーを上回っているから、もし今回の敗北を糧に成長でもされていたらディスティニーでも対処できない可能性すらあるのだから。
疲れて床に座ったまま顔も上げられないフレイを置いてトールとルナマリアは文句を言い合っていたが、そこにルナマリアの耳になんだか聞いたことのあるMSの推進機の音が聞こえてくる。まさかと思っているとそれは基地に着地したようで、しばらくしてこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえてくる。それを聞いたルナマリアは右手で顔を押さえてしまった。
「えっと、なんだ?」
「気にしないで、うちのアホが勝手に出てきただけだから」
ディスティニーは万が一用じゃなかったのかとルナマリアは頭痛を堪えながら文句を言う。そして足音は扉の前で止まり、勢いよく扉が開けられた。入って来た男を見てトールが目を見開いて驚いてしまった。部屋に入ってきたのは自分が知っている人物とは少し違う感じがしたが、間違いなくシン・アスカだった。
「ルナ、仕事はもう終わったのか!?」
「……シン、あんたこそ仕事はどうしたのよ?」
「アスランに任せてきた。それより、前に勧誘しようとした2人って何処に居るんだ?」
シンが全く詫びれない様子でそう言い、ルナマリアは内心でアスランが切れてるだろうなあと思いながら隣で椅子に座っているトールと床から起き上がれないフレイを紹介した。
「トール・ケーニッヒさんとフレイ・アルスターさんよ。今回の仕事を手伝ってもらったわ」
「それで、どれくらい強いんだ?」
「……ちょっと色々言いたい事はあるけど、私やアグネスと同等かそれ以上ね。ナチュラルってここまで強くなれるんだって思ったわ」
「つまり、フラガ大佐くらいか。凄いじゃないかルナ!」
引退を考えているフラガの代わりが十分務まるパイロット2人を見つけたとシンは飛び上がって喜んでいたが、それにルナマリアが水を差した。
「残念だけど、コンパス入りは断られたわ」
「……なんで?」
「もう戦いたくないんですって」
両腕を広げて肩を竦めて見せるルナマリア。自分もこの2人が来てくれればとても助かると思うのだが、来たくないと言っている者を無理やり連れてくるのは不味いだろう。第一そんな方法で連れてきても戦力になるとは思えない。見ればトールは顔の前で×印を作っているし、フレイはまだ顔を上げていない。
仕方ないから諦めなさいとルナマリアは言ったつもりであったが、シンはそんな裏など読むことは無くトールに迫っていた。
「頼む、俺を助けると思ってきてくれ。このままじゃ冗談じゃなく過労死する奴が出るんだ!」
「誰がそんな職場に行きたがると思うんだ?」
「そこをなんとか、休みは出せないし給料も見合ってないし雰囲気もアットホームとは言えないけど遣り甲斐だけはあるから!」
「お前本当に勧誘してるつもりあるか?」
ルナマリアをチラリと見てこいつ本当に大丈夫かと目で問いかけると、ルナマリアは目を閉じて処置無しと頭を左右に振った。先のアグネスとの戦いでの口論でもシンがアホという点だけは同感だったのだ。
トールが取り付くシマもないのを見てシンは今度はまだ疲れて顔を伏せているフレイに矛先を向けた。屈んで顔を近づけてフレイに声をかける。
「なあ、あんたはどうなんだ。コンパスに入ってくれないか」
「……なに、こんぱす?」
ゆっくりと顔を上げるフレイ。まだちょっと焦点の合っていない目はじっとシンを見つめ、凄い美人にじっと見つめられたシンは顔を赤くしてしまっている。そしてフレイはじっとシンを見て、なんだかボケた様子で声をかけてきた。
「シンじゃない、どうしたのよそんな疲れた顔して?」
「え、あ、何を?」
「テスト勉強頑張り過ぎじゃないの、訓練じゃないんだから頑張り過ぎは駄目っていつも言ってるでしょ」
「え、え、テスト?」
何を言われてるのか分からずに混乱するシンの頭にフレイは両手を伸ばすと、優しく抱いて自分に引き寄せて顔を近づけた。
「全く、しょうがない子ね。ほら、ステラも見てないで止めてあげないと」
「いや、何を言って?」
心臓をバクバクさせながらされるがままになっているシン。何故かは分からないが、この人の言う事には逆らうことが出来なかった。
恋人が目の前で他の女に抱き寄せられて顔を真っ赤にしているのを見てルナマリアは見て分かるくらいに不機嫌になっていたが、トールはシンの様子に苦笑いすることしかできなかった。フレイにああされたらそりゃ男なら抵抗できないだろうなあと同じ男として理解できてしまう。加えてフレイはシンの師匠で彼の面倒を見ていた時期があるので、なんだかんだ言ってシンのことを可愛がっている。多分今のフレイは元の世界のシンと目の前のシンを間違えて疲れた様子のシンを心配しているだけだろう。
とはいえこれ以上続けるとルナマリアが爆発しそうなのでトールはまだボケているフレイの頭を軽く叩いた。叩かれたフレイはむっとした顔でトールを見上げる。
「おい、いい加減目を覚ませフレイ。お前誰かと勘違いしてるぞ」
「痛いわねトール、私が誰と誰を間違えてるっていうのよ?」
「お前、今自分が何してるか分かってるか?」
「今って……」
トールに言われて状況を確認すると、何故か自分が両手でシンの顔を包んで抱き寄せていて、シンは顔を真っ赤にしてあうあうと喘いでいる。フレイはさっきまで自分が何をしていたのかを思い出そうとして、一瞬で顔が真っ赤になって慌ててシンを離した。
「わわわわ、私一体何をして!?」
「お前、なんか寝ぼけたみたいになってたぞ」
「なんで止めてくれなかったのよトール!?」
「そりゃ、見ていて面白かったし」
寝ぼけるフレイも顔を真っ赤にしてされるがままにしてたそいつもねと言ってトールは楽しそうな笑い声をあげ、ルナマリアはまだ顔を赤くして落ち着かない様子のシンに食って掛かっている。フレイは自分がやっていたことに顔を赤くして恥ずかしがっている。この混乱はしばらく収まりそうも無かった。
「あれ、そういえばさっきステラが居なかった?」
「居る訳無いだろ、ボケ過ぎだぞお前?」
義妹の姿を探すフレイを見てトールは呆れながらもう一度彼女の頭を軽く叩いてやった。
ジム改 カガリ、遂に顔馴染みと遭遇。
カガリ サイとかあ、確かにうちだとこういう場所ならカガリ呼びだろうなあ。
ジム改 お前は友達に敬語で呼ばれると拒否反応起こすからな。
カガリ でもなんかイングリッドが可哀想なんだが。
ジム改 身内にさえ気を許せない状況で何年も生きてきたらしいからなあ。
カガリ でもアコードの中じゃマシってだけで、イングリッドも割と危険人物だよな?
ジム改 他が酷いから目立ってないけど、レクイエムの使用とかは気にしてない感じだからな。
カガリ まああの辺のシーンは他も気にしてなかったけど。
ジム改 誰もそんなに気にしないならグロくせずに都市が破壊されましたで良かったと思うんだがな。
カガリ こっちだと大都市が消し飛ぶなんて毎年の事だから誰も気にしてないとか?
ジム改 嫌すぎる日常だな。
カガリ 早く帰りたいなあ、なんかそのうちキラとかアスランが出てきそう。
ジム改 お前はその前に自分と遭遇する危険があるんだがな。
カガリ とこで、イングリッドの能力がヤバいんだが。
ジム改 せっかくテレパスが出たんだからSF的に盛ってやろうかと思って。
カガリ これ失敗するとどうなるんだ?
ジム改 多分イングリッドが廃人になる。
カガリ 無茶苦茶危険な事してるじゃないか!
ジム改 相手の精神に干渉して失敗したら廃人になったり精神が戻ってこなくて死亡ってなるのはこの手のネタでは多いんだよ。
カガリ でも遺伝子操作で超能力って手に入るもんなのか?
ジム改 昔のSFだと遺伝子操作で普通に獲得出来てたぞ、超能力者の軍隊なんてのもあったし。
カガリ 反乱とか起きそうだなあ。
ジム改 反乱よりも暴走、肉体の変容とかで世界の敵になる展開のが多かったかも。