第13章 常識外れの2人組
軌道上にて浮きドック内に係留されながら損傷個所の修理を受けているコンパスの拠点をやらされているミレニアムにて、シンはルナマリアが敵と交戦に入ったことを知らされていた。
シンは自分のデスクで山のような書類を遅々としながら処理し続けていて目の下には濃い隈が出来ていて、一体いつから書類の相手をしているのかすら分からない。ただ周囲に撒き散らしている怨念だけが彼の心境を露骨に物語っている。
元々デスクワークなど全く向いていないシンがデスクワークをやらされている事が既におかしいのだが、組織とはしばしば適材適所という言葉とは関係が無い人事をしてしまうものなのだ。パイロットと指揮官には求められる能力が違うという事が分からない組織の犠牲者が彼である。
シンはデスクのモニターに出てきたオペレーターからの報告を聞いてペンを動かすのを止めると、ホッと一息ついて報告に耳を傾けた。
「そうか、ヒルダさんが倒れたから今はルナが1人でやってるんだよな、大丈夫なのか?」
「地上で協力者を確保したそうです」
「協力者?」
「多分、以前シン隊長がスカウトしようと探させていた連中ではないかと」
それを聞かされたシンは椅子から立ち上がると、隊長室から出ていこうと歩き出した。
「隊長、どちらへ?」
「ちょっとルナの支援に行ってくる」
「え、でもアコードへの対応で隊長は温存している筈では?」
「大丈夫、なんかあったらアスランに回しといて」
アスランに丸投げしてシンはその場を後にしてしまった。残された部下は協力者でしかないアスランに投げてしまって本当に大丈夫なのかと思ったが、現隊長のシンの指示なので本当に良いのかと悩んでしまう。ここで上の命令だからで流すことが出来れば気苦労は減るのだが。
なお投げられたアスランは無言で額に青筋浮かべて艦橋のシートに座っていたらしい。コノエ大佐は浮きドックから戻ってこようとせず、艦橋スタッフはこの最悪の空気の中でひたすら胃痛に堪える羽目になるのであった。
目標とした町にはルナマリアからの情報より少ない6機のゲイツRが居た。予想と違ったのは向こうもこちらの出撃に気付いて迎撃準備をしていたことだろうか。周囲に散開してこちらを迎え撃とうとしているのが分かる。
その様子を見たルナマリアは完全に強襲になると呟き、フレイが町に向こうの偵察が居たんだろうと予想する。とはいえここまではまだ予想の範囲内であり、最初から強襲前提なのだから今更手を引く理由にはならない。
「こういう時キラ隊長が居ればズバッと突っ込んで全部無力化しちゃうんだけど、私じゃそんな芸当出来ないし、地道に行くしかないわね」
「……え?」
それまでどう戦うかを考えていたフレイだったが、聞いたことのある名前に目に見えて動揺を見せた。キラもコンパスに居るのだろうか。
「今、誰って言ったの?」
「え、キラ隊長の事?」
「ええ、キラ隊長って、まさかキラ・ヤマトなの!?」
「ちょっと、どうしたのよ。貴女キラ隊長の知り合い?」
急に様子が変わったフレイにルナマリアは面食らった様子で返したが、知り合いかと問われたフレイは言葉に詰まった。ここは自分たちの世界ではない、ここで自分とキラが知り合いという保証は無いのだ。現にこの世界のルナマリアは自分の事を知らない。
「いいえ、ちょっと知ってるだけよ」
「そんな感じじゃなかったけど、キラ隊長だったらラクス総裁と一緒に行方を晦ましちゃってるわ。今どこにいるかは私も知らないの」
おかげでこんな苦労をしているのだと愚痴るルナマリアだったが、フレイはそんな事を聞いてはいなかった。そうか、こっちじゃキラとラクスがそういう関係なんだと思い、胸の内を?き乱されてしまう。ここは異世界でキラもラクスも自分の知っている2人ではないと頭では分かっていても今すぐに割り切れと言うのは難しいだろう。
「ラクスもキラに好意を持ってたのは気付いてたけど、そっか、こっちじゃそうなんだ……」
「え、何を言ってるの、こっちってどういうこと?」
「……ううん、何でもないわ」
フレイはまだ収まらぬ動揺に苦しんではいたが、それを隠してルナマリアに答えた。それを聞いてルナマリアは戦えるのかを尋ねてきて、大丈夫だと返す。そして大きく深呼吸して気を落ち着かせようとすると、トールが接触回線で気を使った声をかけてきた。
「フレイ、落ち着けってのは無理だろうけど、余り気にするなよ」
「……大丈夫よ、やれるわ」
「強がるなよ、フレイがキラの事で気にしないなんて出来るわけないんだからさ。俺だってミリィがこっちじゃ別の男と付き合ってるって言われたら穏やかじゃないぜ」
「トール……」
「気持ちは分かるよ、だから後で幾らでも愚痴ったり泣き言言ってくれて良いからさ。幾らでも聞いてやるよ」
「うん、ありがとうトール」
目に溜まった涙を拭うと、トールに礼を言ってフレイは顔を上げた。
「後で思いっきり胸貸してよね!」
「いや、俺の胸はミリィ専用のつもりなんだけど、これ浮気にならないよな?」
「あら、今のは嬉しかったわよ、ちょっと惚れちゃいそうかも」
「勘弁してくれよフレイ」
良いのかなあと思いつつ、トールはウィンダムにビームライフルを構えさせる。いよいよ敵との交戦圏に入りそうな距離まで近付いたのだ。
「2人とも、そろそろ会敵するわ、期待した分は働いてよね!」
「ああ、報酬は出してくれよ!」
「MS1機で幾らかしらね!」
ルナマリアに軽口を返してフレイは強く感じる殺気に向けてライフルを向け、ビームを放った。それは開戦を告げる号砲であった。
地上で激突したツァレグ自治区のMS隊とコンパスのMS隊は、慎重に動こうとしたフレイとトールの思惑をひっくり返すようにルナマリアが突撃してしまったことでいきなり乱戦模様になってしまった。
「ちょっとルナマリアさん、何やってるのよ!?」
「ちまちまやってられないわ、一気にケリをつける!」
「だからっていきなり無茶してどうするのよ!」
頼むから連携とか支援体形とか考えてくれ、これだから自分勝手なコーディネイターはと怒鳴ってフレイは機体を前に出した。その隣にトールも付く。2人にとってはこういう相手に対応するのは初めてではないというか、むしろ慣れているので今更慌てるような事態ではない。
「どうするフレイ?」
「行くしかないでしょ、1機で突っ込まれたら孤立して袋叩きよ!」
「だよなあ。でもあの戦い方は昔のキラを思い出すな」
「すぐに突撃してたからね。キラは凄く強かったから何とかなってたけど、あの悪癖は父さんに叩き直されるまで治まらなかったのよね」
「コーディネイターの悪癖なのかなあ」
「あるいは、格上にぶっ叩かれた経験が無いかね」
2人の知るキラはユーレクなどの格上の相手やアスランと戦って負けるうちに反省してアルフレットに師事して戦い方を変えていったが、この世界のルナマリアはそういう経験が無かったのかもしれない。
自分やトールのようなナチュラルはそもそも相手のコーディネイターが最初から格上だったので身に着けて当然の考え方なのだが、コーディネイターにはそういった考えが最初から薄いというか、他者と協力しようという考えが余り無い。キラもそうだったが、そこは自分たちがフォローすることでどうにか誤魔化していたのだ。
最もザフトも敗色が濃厚になってきた大戦の終盤になると一部の部隊が集団戦を取り入れて地球連合軍に対抗するようになっていたが、その頃にはもう一部の部隊の勇戦以上の物にはならず、敗戦を食い止めること出来なかった。戦後にアスランに聞いた話では地上で苦労した生き残りがその辺の改革を進めようとしたが上手くいかなかったらしい。
「それじゃ、昔のやり方で行くか」
「ええ、彼女をトールに見立ててね」
頷き合うとトールとフレイは同時に動いた。トールのウィンダムがルナマリアの隣りに出て側面をカバーし、フレイがやや後方に移動して周辺警戒に入る。ルナマリアをワントップに置いた、かつてアークエンジェルで艦載機部隊が使った戦術である。攻撃役をトールが行い、その直接支援にスティングのマローダーが付いて、少し後方からフレイが周囲を警戒しながら指示を出して支援攻撃を行うのがアークエンジェル第2MS小隊の基本的な戦い方で、これで戦えなかった相手は居なかった。
だが、前に出ようとしたところでトールとフレイは森の中を動き回る人影に気付いた。ミサイル攻撃を狙う歩兵かと思ったが、武装しているどころか軍服を着てすらいない。
「え、民間人が居る!?」
「こっちでも確認した、逃げ惑ってる民間人が居るぞ!」
「ちょっと、どういう事よルナマリアさん!?」
フレイは話が違うと激昂してルナマリアに怒りをぶつけた。フレイからの怒声を受けたルナマリアは顔を顰めたが、目の前の現実に歯軋りをして町の住民だろうと言った。
「多分町の住民ね。さっきの村みたいに殺したりせず確保しておいたのね、あいつら戦場に住民を押し出したのよ!」
「俺たちが戦い辛いようにってか!」
トールも怒りを滲ませた声で怒鳴る。ふざけた手を使ってくれると怒りに顔を歪ませ、外部スピーカーに繋いで音声で逃げ惑う人々に呼びかけた。
「逃げてる奴はこちらの後ろに向かって走れ、心配しなくても俺たちは攻撃しない!」
「ちょっと、戦闘中に何言ってるの貴方!?」
外部スピーカーで呼びかけだしたトールにルナマリアが驚いて苛立ちをぶつけてくるが、トールはそれに付き合わなかった。その隣にフレイのウィンダムが並んで同じように呼びかけ、ルナマリアにも呼びかけろと言う。
「良いからルナマリアさんも呼びかけて。それともなに、民間人を巻き込んで戦えっていうの!?」
「そうは言わないけど!」
「だったら手を貸しなさい、この人たちを守るわよ!」
フレイはシールドを前に出して受け止める体制をとりながら敵との距離を詰めだす。その様子を見て地上の人々は戸惑いを浮かべてウィンダムを見ていた。なぜ逃げないのだとフレイは苛立ちを見せているが、フレイは拡大した住民の表情を見て意味を理解した。彼らは戸惑と同時に恐れを見せている。多分ユーラシア軍は彼らを守っていなかったのだろう。
逃げてくれないならこちらから前に出て彼らを背後に置いて守るだけだとばかりにフレイはウィンダムを前に出して、トールもそれに続く。横に並んだトール機を見てフレイはトールに前に出るように言った。
「トール、私がここで盾になってるから、あなたは前に出て戦線を押し上げて!」
「了解、ふざけた奴らだぜ!」
「ええ、こんなに腹が立ったのは久しぶり!」
怒りさえ浮かべてトールは突撃していき、フレイは周囲に気を配りながら後方に流れ弾が行かないように気を配り、ビームを盾で受け止め、ミサイルを機銃で叩き落として民間人の防護に意識を向けながら、前に出た2人を支援するためにライフルを向ける。2人が本気で戦おうとするのは、実に3年ぶりであった。
フレイ機が自分たちに攻撃が及ばないように動いてくれているのは、前に出たMSが敵をこちらに来れないように押さえてくれているのは逃げ惑っていた民間人にもだんだんと理解が出来てきて、本当に助けてくれるんだと分かった人々が我先にフレイ機の背後へと走っていく。
今も砲撃を受け止めてくれたウィンダムを見上げている女性は、手を引っ張っている子供にも気付かずに信じられないという顔をしていた。
「私たちを守るために闘ってくれるの、あのユーラシア軍が?」
ユーラシア軍のマークを付けたウィンダムが自分たちの盾になって戦ってくれている。それが信じられなくなるほどに、この国はもう壊れていたのだ。辺境への影響力を失い、ファウンデーション王国の独立を許すなど弱体化が著しいユーラシアには、もう都市部以外の治安を維持する様な戦力も無かったのだろう。
人々がやっと逃げ出してくれたことに安堵したフレイは改めて敵の動きを確認する。6機のゲイツRは市街戦に持ち込もうとしているのかトールとルナマリアの攻撃を避けながら後退している。ただ数で優っているのに積極的な攻めはしておらず、まるで時間稼ぎをしているように思える。
単純に相手が前のように素人同然のパイロットだからなのか、何か別の狙いがあって誘っているのだろうか。
「何だか妙な感じ、偵察情報と比べても数が少なすぎるし、伏兵を町に置いているの、それとも本当に陽動なの?」
サブモニタに地図データを表示させて現在の敵機の位置を表示させ、伏兵を置くならここだよねと呟きながらルナマリアとトールの動きを見る。2人は6機を相手に優勢に戦いを進めているが、未だに1機も数を減らせていない。向こうも手練れなのかと言いたいが、単に消極的な動きで逃げ回っているだけのようにも見える。
どちらにせよ今はまだ動けない。もう少しここに居て逃げている人たちを守らなくてはいけない。だからフレイは伏兵が居るという前提で動くことにした。
逃げ回るだけで距離を詰めようとしないゲイツRにルナマリアの苛立ちが限界を迎えようとしていた時、ふいに動態センサーが近くで動く何かを捕らえた。何かと思ってそちらをモニターに写すと、新手のゲイツR2機が現れていた。崩れかけのビルの陰から姿を現していた。これまでセンサーを誤魔化すために可能な限り熱反応を抑え、じっと隠れていたのだろう。
確実に仕留められるタイミングを見計らっていただろう2機のゲイツRがビームライフルをこちらに向けているのを見たルナマリアは恐怖に顔を引き攣らせた。
「嘘、隠れてるのが居た!?」
慌ててそちらを向こうとするが、ザクには手持ちのシールドは無い。防御も回避も間に合わないと思ったルナマリアは思わず目を閉じてしまうが、予想していた直撃の衝撃は無い。どうしたのかと目を開けると、1機のゲイツRが胴体に直撃を受けて吹き飛ばされ、もう1機はビームが飛んで来た方に慌てて牽制の射撃を加えてその場から逃げていく。
完全な奇襲を仕掛けた筈が逆に不意打ちを受けてパニックを起こしたのだろう。慌てて逃げていくゲイツRを見送ったルナマリアは追撃することも忘れて呆けていたが、フレイに声を掛けられて我に返った。
「ルナマリアさん、大丈夫!?」
「え、ええ、助かったわ。ありがとう」
民間人を逃がすために盾になっていた場所から動かないでいたフレイが伏兵を狙撃してくれたらしい。あの距離から正確に当てたのも凄いが、余りにもタイミングが良すぎる。あそこに隠れていたのを見切っていたとしか思えない。
凄腕だと思ったから誘ったのだが、ここまでとは思っていなかったルナマリアは舌を巻いていた。
「完全に気付いてなかった、彼女が居なかったら今ので死んでたわよ。どうやって隠れてるのを見抜いたのよ?」
「そりゃまあ、俺たちの自慢の隊長だからな」
ルナマリアの呟きにトールが茶々を入れてきた。聞かれたのかと思ってルナマリアは少し焦るが、隊長というのが引っかかった。
「ねえ、隊長って何?」
「フレイは俺たちの部隊の隊長だったのさ。
少し自慢げに言うトールに、ルナマリアは驚いた。何時戦っていたのかは知らないが、2人とも20前後だろうに。その若さで部隊を率いていたというのだろうか。
でも、指揮官経験があるというのなら視野が広いのも頷ける。彼女はその経験から敵の動きを読み切っていたという事だろう。後方でずっと支援の位置に自分を置いているのも、ああいった奇襲から仲間を守るためだと考えれば納得が出来る。現に自分はそのおかげで九死に一生を得たのだ。
「……やっぱり欲しい。ねえ、やっぱりコンパスに入って頂戴!」
「それはさっき断っただろ」
「待遇なら保証するから、なんならシンに言ってアルスター隊を編成するから!」
「階級にも興味無いって!」
ただ強いだけじゃない、指揮官適正もあるなんてどれだけチップを積み上げてくるのだこの2人はとルナマリアは思っていた。今のコンパスには指揮官として経験を積んだと言える人間はいない。そもそも初代司令官だったキラからして指揮官向きとは到底言える人間ではなかった。
だからコンパスの小隊は部隊ではなく、強い個人の集団でしかなかった。とはいえコーディネイターとはそういう物で、ナチュラルのように群れを作るなど性に合わないという個人主義者の集団である。ルナマリアはまだ仲間と戦うという考えに理解がある方だ。
ルナマリアのしつこい勧誘をトールが断っていると、いきなりフレイの呆れた声が入ってきた。
「はいはい、そこまでにしといてよ」
「フレイさん?」
「避難民は十分に逃げてくれたから、私も前に出るわ。勝負を決めましょう!」
「分かった。ルナマリアさんは前に、俺が左を固める。フレイは援護宜しく!」
「了解、ルナマリアさん、ワントップ行けるかしら!?」
「え、ええそれは大丈夫だけど」
ルナマリアが同意したので素早くトールがルナマリアの左に付き、フレイが少し後方に移動する。それはこの世界では珍しい、チームで戦おうとする動きであった。
ツァレグ自治区の部隊は1機を失って奇襲を失敗したことで逃げるのを止めて反撃に出ることにしたようで、こちらを包囲するように左右に広がり始めた。これまでの戦いでコンパスの部隊の方が腕が良いんは分かっているだろうが、数では倍以上で勝っているのだから当然の戦術だ。
ルナマリアは周囲から包囲しようとしてくるゲイツを鬱陶しいと思っていたが、左側に入ったウィンダムが片側からの攻撃を防いでくれて後方からもう1機のウィンダムが敵の動きを教えてくれながらゲイツの動きを牽制する射撃をしてくれているのであまり左右からの攻撃を気にせずに済んでいる事に気付いた。
「……これがナチュラルの戦い方なのね、何と言うか楽だわ」
とはいっても、ルナマリアには2人の戦い方が不思議だった。少なくともこれまで自分が相手をしたナチュラルのMS隊にはこんな風に戦うMSは居なかったのだから。もしこれまで戦ってきたナチュラルの部隊がこのような戦い方をしてきていたら、自分たちはもっとずっと苦戦していたはずだ。
加えてどちらも腕が良い。いや、腕が良いというより、何かがおかしい。
「なんでこの2人、ナチュラルの筈なのに私の動きに付いてきてるの?」
ザフトの赤服でコンパスにも派遣されている、上澄み中の上澄みの自分に平然と連携をとれているこの2人は何なのだとルナマリアは微妙な不快感を感じていた。実はナチュラルというのは嘘でコーディネイターではないのか。
もっとも、ルナマリアからすれば異常に見えるのだが2人からするとキラやシンみたいな規格外に比べればずっと連携を取り易いというのが本音だったりする。アルフレットも規格外だが彼は自分から周りに合わせて連携を取ろうとするので方向性が違った。
味方のコーディネイターがキラやシン、ソキウスといった面々で、敵もアスランやイザーク、フィリスたちやザルクの戦闘用コーディネイターのような時代の頂点のような連中だったトールとフレイにとって、ルナマリアは普通のパイロット扱いであった。
なんでナチュラルなんかにと不満に感じながら1機のゲイツRのコクピットをビームで撃ち抜いて撃破する。これで残り6機と思った時には左側で1機のゲイツRがウィンダムのビームサーベルで両足を切り裂かれ、右側に居たゲイツRが頭部にビームの直撃を受けて吹き飛ばされている。
残り6機かと思っていたのに4機に減っているのに気づいてルナマリアはいつの間に数を減らしてたんだと驚いた。
「あ、あれ、もう2機食ってた?」
「おいルナマリアさん、戦場で止まらないでくれ!」
隣でカバーをしていたトールが突然足を止めたルナマリアに文句を言う。その文句とコクピットに鳴り響いた警報に我に返ったルナマリアが回避運動に入って相手の照準を外しにかかる。
ゲイツRから放たれたビームがザクの至近を通過して機体に焦げ目が走り、装甲が持っていかれる。
至近弾の衝撃に顔を顰めるルナマリア、それ以上の追撃を避けるために退こうとしたが、トールのウィンダムがシールドで追撃を防いでくれてフレイのウィンダムが左右のMSを牽制して動きを封じている。
「ルナマリアさん、被弾したんなら退いてくれ、あとは俺とフレイでやる!」
「ば、馬鹿にしないでよね、ちょっと掠っただけよ!」
「ならすぐ立て直してくれ、詰められたら不味い!」
トールはこちらが崩れたらすぐに詰められて押し潰しに来ることを警戒していたが、何故かゲイツRは距離を詰めてこずに遠巻きの射撃に徹している。一方的にやられて怯んでいるのは想像できるのだが、それにしても余りにも積極性が無い。
実戦の経験が無いというのは訓練である程度補えるはずだし、指揮官が指示を出せば動けるはずだ。だがその様子が無く、思えば最初から待ち伏せから遠くからの射撃戦しか仕掛けて来ない。それで射撃に自信があるのかといえば特にそうとも思えない。前に戦った連中と比べれば大分マシなのだが、これでは軍人の動きではないと考えたトールは、先ほどのフレイの言葉を思い出した。
「……傭兵でも雇って陽動に使っているのか、だとするとフレイの悪い予感がまた当たったかな?」
「どういうこと?」
「ルナマリアさん、町の周辺の捜索をすぐにやらせてくれ、確実に別動隊が居る。民間人もこいつらの支援のつもりで使ったんだ!」
「別動隊って……」
「こいつら弱すぎる、間違いなく俺たちを引きずり出すための囮だ!」
トールの言葉にルナマリアはすぐに町の防衛隊に通信を繋いで指示を出そうとするが、上手く繋がらずに焦っている。上手く通信が繋がってももしそれで敵が見つかったらどうすれば良いのか。流石に間に合わないぞと思っていると、フレイがルナマリアに進言してきた。
「ルナマリアさん、私が町の防衛に戻るわ」
「でも、まだ4機残ってるのよ?」
「2人で十分勝てると思うけど、ルナマリアさん凄く強いし」
フレイの素直な評価にルナマリアは貴方達の方が強いでしょと言い返してきたが、それにフレイはルナマリアの方が強いと返した。
「何言ってるのよ、単純に1対1でやったら私じゃ押し切られるわよ」
「どこがよ、私のフォローから援護まで完璧じゃない。見てて凄いと思ってたのよ」
「それは私が集団戦前提で訓練してきたからよ、1対1なら多分勝てないわ。まあ簡単に負けるつもりはないし、その時が来たら何しても勝ちには行くけど」
フレイの評価ではルナマリアの強さは大戦時のイザークより一枚落ちるくらいだ。現役だった頃の自分ならともかく、予備役の今では勝てるという自信は無い。戦闘勘も咄嗟の反応も明らかに悪くなっている自覚はあるのだ。トールは現役だがイザーク相手の戦績は機体性能で優ってれば拮抗できるくらいなので、このウィンダムでこのルナマリア相手だと互角くらいだろう。とはいえ勝てないのはあくまで勝負の話なので、実戦で対峙したら負けてやるつもりもないのだが。
フレイに強いと言われたルナマリアはまだ納得していない様子だったが、フレイが戻るのは受け入れた。ルナマリアの許可を貰ってフレイは急いでウィンダムを町へ向けて推進剤の消費も気にせずにエールパックを吹かせて跳躍飛行を繰り返死て急ぎ、町がはっきり見えた頃になっていきなり爆発の光が見えて唇を噛んだ。
「やっぱり、別動隊が居たんだ」
町が燃える前に止めて見せると叫んでフレイが機体を加速させたとき、いきなり何か大きな違和感を覚えた。何かまるで頭の中に何かが入ってくるような不思議な違和感。そして頭の中に聞き覚えのある声が響いた。
ジム改 2人への勧誘は続くよ何処までも。
カガリ かなり必至だなあ。
ジム改 そりゃまあ、目の前にお宝が置いてあるようなものだから。
カガリ この2人でこの扱いだと、アスランとイングリッドが出てきたらどうなるのやら。
ジム改 単純な技量だけならアスランはこの世界のシンより大分上ではある。
カガリ 主人公なのに噛ませにされそう。
ジム改 しかもフレイが居るからなあ。
カガリ なんか不味いのか?
ジム改 フレイはその特徴からシンの天敵になるの。
カガリ やっぱりシンを虐める気じゃないのか!
ジム改 大丈夫だ、シンはきっと立ち直れる。
カガリ すでに負けること前提!?