第12章 コンパスと共闘
久しぶりに5人で町に買い物に来ると、そこではちょっとした騒ぎが起きていた。車を降りたアスランはキナ臭い空気に戦場に似たものを感じ取り、顔を顰めている。
カガリとトール、フレイも同じものを感じたのか周囲に視線を走らせていたが、別に戦いが始まるという様子は無い。あるいはすでに一戦交えて敵を撃退した後なのだろうか。
運転席から周囲を見回したトールは隣のアスランに尋ねた。
「どうするアスラン、一度帰るか?」
「それが良さそうなんだが、食料の補充をしておきたいんだ」
地味に後回しにすると命に係わりそうな問題を出してきたアスランに、トールはそれは仕方ないかと呟いてハンドルに両手を置いて頭を乗せる。この世界に来て以来、食料の確保は何時も頭を悩ませる問題だ。村に居付いて商店で買い物をするようになってからは大分マシになったが、それまでは軍用の簡易食でどうにか食い繋いでいたのだから。
食い物が足りなくなるのは避けたい、そう考えて仕方なくトールは車を駐車場に止めた。
周囲を警戒しながら店までの道のりを歩いていると、こちらに気が付いた兵士が駆け寄ってきた。
「君たち、あの時のパイロットだろう!?」
「……またMSに乗れってのかい?」
前のように戦闘があってまたMS戦でも生起したのかと思ったが、トールは乗り気ではなかった。フレイも同様な感じであったが、兵士はかなり焦った顔をしている。手を貸さないと面倒な事になりそうだったので、アスランたちに買い物の方を頼むと言って彼らに付いていった。
2人が通されたのは駐留部隊の司令部らしきビルで、何処かの建物を接収して使用しているようだ。その中で前に見た士官が2人に向けて手を振り、よく来てくれたと感謝を述べて隣に立つ赤いパイロットスーツの女性を紹介してきた。
「こちらはコンパスのルナマリア・ホーク中尉だ。君たちに用があるらしい」
「はあ、コンパスですか」
トールはあえてとぼけた返事をしたが、フレイは少し厳しい顔をしていた。この女性の顔には見覚えがある。アスランの部下で自分の家に間借りしていた女性だ。勝ち気で向上心が強く、アスランを狙っていたようだがこちらではどうなのだろうか。
2人が警戒しているのを見てルナマリアはあえて表情を緩め、安心させるように表情を崩した。
「そんなに警戒しなくて良いわ、別に捕まえようとかじゃないから。少し話を聞きたいのだけど、良いかしら?」
「話、ですか?」
「ええ、実は貴方達が前にここで起きた襲撃戦で侵略側を圧倒して撃退したと聞いたのよ。パイロットとしての技量も戦い方も素晴らしかった」
べた褒めであったが、それに喜ぶような2人ではない。一体何を言われるのかと警戒している。
その2人の警戒を見てルナマリアは肩を竦め、率直に言う事にした。
「実はね、私たちは貴方達に興味があるの。うちにスカウトしたいと思ってる」
「スカウト?」
「ええ、コンパスは年中人手不足でね、優秀なパイロットが欲しいのよ。貴方達の戦い方は映像で見せてもらったけど、正直言ってストライクダガーであれだけの動きができるなんて信じられなかった。一体どこで訓練をしたの?」
前の戦いの映像を見て興味を持たれたという事か。2人は厄介な事になったと思ったので、彼女の問いには答えないことにした。
「悪いけど、その辺を教える気は無いよ。俺たちは戦いたいわけじゃないんだ」
「私も同じです、悪いけどコンパスへの参加は断ります」
「…………」
その答えにルナマリアが残念そうな顔をするが、すぐにそれを消すと苦笑いを浮かべた。
「そっか、まあ仕方無いわね」
「随分とあっさり手を引くんですね」
「無理強いも出来ないしね、それに今日は引くだけで、また見つけたら改めて声をかけるかもよ」
「そいつはぞっとしないな」
ルナマリアの揶揄うような答えにトールがわざとらしく身を振るわせてみせる。それを見てルナマリアは楽しそうに笑ったが、笑いを収めると真剣な顔でトールとフレイを見る。
「コンパスに誘うのは諦めるんだけど、今回はちょっと手を貸してもらえないかしら」
「どういうことです?」
「実は、ユーラシア領内のツァレグ自治区の部隊がこちらに向かっているの。前に貴方達が撃退したところとは別のコーディネイター勢力なんだけど、前より装備が良いのよ」
「装備が良いって言っても、コンパスは火消しみたいな組織なんでしょう。負けることなんてないんじゃ?」
「……来たのは私だけなのよ。言ったでしょ、人手不足だって」
本当はヒルダと来る予定だったのだが、とうとうヒルダが過労で倒れてしまったのでルナマリアが1人で降りてきた。だが降りてきてみれば敵の攻撃部隊は思ったよりも大規模だし、味方の部隊は頼りない。正直味方を増やせるなら形振り構っていられる状況ではなかった。
「敵はゲイツ系を中心とするコーディネイター勢力の部隊よ、数は10機前後」
「かなり多いな」
「ええ、私もザクで来てるけど、流石にこの戦力差はね」
トールの感想にルナマリアが頷く。そしてフレイが質問をしてきた。
「敵の進路と、周辺の地形はどうなっているの?」
「この地図を見て」
フレイの問いにルナマリアがモニター地図データを表示させる。町より少し離れた場所にある山に挟まれた盆地に敵部隊のマークが表示されている。そこで襲撃出来れば町は守れるが、いささか遠かった。もし迎撃に出ても敵機が迂回してたら取り逃してしまう。何より気になるのは、敵がいる場所には居住地を示す記号が記されていることだ。
「向こうにも町があるのかしら?」
「昔はナチュラルの街があったみたいだけど、今は廃墟ね。もしかしたら不法居住者が居るかもしれないけど確認する術は無いわ。後は周辺に幾つか村落があるくらい」
「町に、この地形か。散らばられたら厄介ね」
「その通り、せめてゲルググメナースが使えてれば良かったんだけど」
「そのゲルググとかいうのは知らないけど、俺たちが参加するとして使えるMSはあるのか?」
トールの問いにルナマリアはユーラシアから借りたウィンダムが2機あると言った。コンパスからの要請という形でMSはそれなりに良い物を確保していたようだが、それを聞いたトールとフレイは複雑そうな顔をしていた。
「ウィンダムかあ」
「乗れるかしらね?」
「え、あれだけの腕なのにウィンダムを使ったことが無いの?」
ナチュラルでエース級なら使っていて当然と思っていたので意外そうにルナマリアは言う。それに対して2人は顔を見合わせて、105ダガーまでしか乗ったことはないと答えた。自分たちの世界のウィンダムと同じ機体とは思えなかったからだ。それを聞いたルナマリアは105ダガーが使えるなら大丈夫でしょと答えた。
「ストライカーパックはエールストライカーを装備してるわ、必要ならほかの装備も可能だけど」
「……いや、良いよエールで」
「ということは、手を貸してもらえるってことで良いかしら?」
「断ったとして、ここから出してもらえるの?」
複雑そうな顔でトールが言い、フレイが視線を扉へと向ける。おそらく断っても出してはもらえないだろうと思っている。特にフレイには扉の向こうに居る複数の兵士の気配が感じ取れている。
トールの疑わしげな声にルナマリアはすまなそうな顔になった。
「バレてたのね。悪いけどそういう事よ、私1人じゃ町を守れないから」
「幾ら何でも人手が無さ過ぎだろ、どうなってんだコンパスってのは?」
「こっちにも事情があるのよ、とにかく増援のアテがないの!」
苛立ったようにルナマリアが両手を机に叩きつけて怒鳴る。働き過ぎで気が立っているのだろう。目の下に見える隈にトールとフレイはどうしたものかとユーラシアの士官を見るが、士官はすまなそうな顔でこちらを見ている。どうやら彼にもどうすることも出来ないようだ。
トールとフレイは顔を見合わせて、仕方なく協力を約束した。ただ連れが居るから連絡をさせて欲しいと伝えると、ルナマリアはそれを承諾したしたので2人はカガリたちと話をするために部屋を後にした。
部屋から大分離れた所でトールがフレイに問いかけてきた。
「どうするフレイ、このまま逃げる?」
「止めた方が良いわ、出してはくれたけど付いてきてる人が居るから」
「ちっ、やっぱそうか」
「でもルナマリアかあ、とうとうこっちで知人に会っちゃったなあ」
「知ってるの?」
「私たちの世界じゃアスランの部下やってた娘よ。ザフトにオーブが占領されてた時にうちに居候してたザラ隊の中に居たわ。ステラとスティングの退院祝いにも来てくれてたけど、覚えてない?」」
「……悪い、ちょっと覚えてないかも」
世界が違うとはいえ、知人があの態度で来るのは堪えるに違いない。もしこちらでサイやカズィに会ったらどういう顔をすればいいのだろうか。
悩みながら歩いていると、フレイが肘でトールを小突いて窓の外を指さした。そこには変装で身を隠したアスランが居て、こちらに視線を送っている。どうやらこちらが面倒になっていそうなのを察したようだ。それを見てフレイは頷くと、ちょっと用を足してくるねと言ってトイレの前にトールを待たせてトイレへと入っていく。そこで誰も居ないのを確かめるとトイレの中で書ける物を見つけて素早くペンを走らせ、状況を記して窓から下へと放った。
それを拾ったアスランは小さく頷くとその場を後にする。それを見てホッとしたフレイはトイレから出ると、待っていたトールと合流した。
「アスランに連絡は付いたわ、上手く動いてくれると思う」
「カガリとイングリッドさんだけは逃がさないとな。アスランは最悪自力で何とかするだろうし」
「こういう時にアスランを当てにするのは悪いと思うんだけどね」
アスランの圧倒的な身体能力はこういう時は本当に頼りになる。トールとフレイは監視役が付いてきていることを承知しながら建物の外に出て、予定通り近くのコーヒーショップで待っているアスランと合流した。アスランは何時もより顔がばれにくいように偽装をしていたが2人が入ってきたのを見ると片手を上げて呼びかけてきた。
呼ばれてトールとフレイがアスランと向かい合うように腰掛け、コーヒーを注文する。それは一見するとただ待ち合わせていた友人に話をしているだけに見えるが、アスランがそのように誘導しているのだ。
「それで、MSに乗って戦うとはどういうことだ?」
「落ち着いて聞いてねアスラン、ルナマリアが居たわ」
「……そうか、こっちでは割と強権的なのか?」
「いえ、なんだかすごく疲れてるみたいだから、感情が抑制しきれてないみたい」
「なんだ、こっちではそんなに働かされてるのか?」
「そうみたいね、例のコンパスって組織に所属してるみたいだけど」
「コンパスか……」
イングリッドから話だけは聞かされていた、世界の平和を維持するために紛争に介入する武力を与えられた国際機関という話だったが、なんでそんな組織が維持できているのかが分からない。普通に考えれば何処が戦力を出すのか、何処の軍人を使うのかで揉めるだろうし、彼に編成できたとしても所属している軍人は自国の問題への介入などできるものではないだろう。
アスランの身に当て嵌めてみれば、ザフトの部隊が大西洋連邦に攻撃をかけたら自分がザフトを攻撃しなくてはいけないのだ。それができる自信は流石のアスランにも無い。しかもその装備と予算をプラントからも供出するなど納得できるはずが無い。だから自分たちの世界でもそのような武力組織は存在していない。
地球連合軍も各国が戦力を出し合って作られた常設の交際的な武力組織ではあるが、これも個々の部隊はそれぞれの国籍で固められていて、上級司令部は各国から集められた高級士官で編成されていてここから命令が出されている。つまり問題が起きれば関係の無い国の部隊を派遣することが可能なのだ。
地球連合軍総司令官の職務は軍の指揮というよりも更に上位にある各国の首脳たちとの折衝であり、大規模な作戦となれば各国政府の間で事前調整が行われる。このように複数の国家から戦力を抽出して作られた武力組織とは運用が非常に面倒なもので、紛争にその都度介入する様な迅速な対応が出来るような組織ではない。この世界ではその辺りの厄介な問題をどうやって解決しているのだろうか。
「まあ、状況は分かった。お前たちとルナマリアが組むんなら心配はいらないだろ」
「なら良いんだけどね」
「何か心配か?」
「……この世界のルナマリアが、私たちの知ってるルナマリアと同じっていう保証が無いわ。私たちを捨て駒にするようなところが無ければいいんだけど」
自分たちの知っているルナマリアはエネルギッシュで溌溂とした女の子だった。こちらでもそうだと良いのだが、経験は人を変える。自分だってキラやアスランと出会わなければ今でもコーディネイターを嫌ったままだったと思うし、今のような状況にもなっていなかっただろう。
本当にヘリオポリスに居た頃から随分と変わってしまったものだと、思ってしまう。
「ねえアスラン、貴方は考えた事ある、私たちが出会わなかったら今どうなっていたかなんて?」
「…………この世界に来るまで考えたことは無かったが、実はここに来てから何度か考えたことがある。俺たちが出会ったからって何かが変わったなんて思いたくは無いんだが」
バタフライ効果という言葉がある。どこかで起きたほんの小さな変化が、巡り巡って巨大な変化を起こしてしまうという例えだ。何がこの世界と自分たちの世界を分けたのかは分からないが、きっと何かの切っ掛けはあったはずなのだ。
「考えても仕方ないさ、悩んだってこの世界が平和になる訳でもないし」
フレイとアスランの話にトールが悩んだって仕方ないと言う。確かにその通りなのだが、フレイとアスランは考えてしまうのだ。
そしてアスランは俺は買い物を済ませたら戻って来ると告げて席を立ち、払いは済ませておくと言って立ち去って行った。それに少し遅れて2人も立ち上がり、コーヒーショップを後にした。追跡者はアスランの方には行かなかったようで安心したが、面倒な事だ。
戻ってきたトールとフレイを見てルナマリアはホッとした顔になった。逃げられると思っていたのだろうか。
「戻ってきたわね、出撃は出来る?」
「パイロットスーツの用意くらいはしてくれるんだろ?」
「ええ、更衣室で好きなのを見繕って頂戴」
ルナマリアに言われて2人はパイロットスーツに着替えると、彼女の案内でMSのところに行った。そこで待っていたウィンダムは自分たちの知っているウィンダムと少し違う姿であったが、概ねよく似ていた。ただ自分たちの知っているウィンダムはストライカー換装システムを排除していたが、こちらではダガーLに続いて採用しているらしい。そこが大きな違いだろうか。少し離れた所にあるザクは自分たちもよく知っているザクウォーリアだった。
2人はそれぞれに与えられたウィンダムに乗り込んでいく。コクピットレイアウトは似ていたが神経反応ヘルメットなどは無く、やはりいろいろと違いがある。
「思ったより違いがあるわね、まあ操縦方法は同じみたいだけど」
起動シークエンスを実行しながらフレイは呟いた。起動したウィンダムを立ち上がらせたフレイは軽く教本通りの基本動作を行わせてみて、ストライクダガーよりは遥かにマシだが操作に対する反応は昔使っていた愛機より悪いと感じていた。こちらの世界にはパイロットの能力不足を機械でサポートして埋めるような思想が無いのか、技術的にそういう面で遅れているのかは分からないが、自分が使っていたウィンダムとの感覚の違いを埋めるのが厄介そうだった。
「まあ贅沢は言えないか、会敵するまでに動きの違いを掴まないとね。トール、そっちはどう?」
「ああ、ちょっと感覚が違うけど何とかなりそうだ。でも武装がビームライフルか」
「ガウスライフルがメインだったから使い勝手は違うけど、そこは仕方ないでしょ」
あちらの使い慣れた武器を懐かしむのは分かるが無茶を言うなとフレイが言い、機体を前に出す。大西洋連邦製らしい誰にでも扱い易い機体と感じさせる。この辺りはダガー系と共通で、自分たちが使っていた特定のパイロットに紐付けされるようなウィンダムの方が珍しかったのだろう。
その意味ではオーブ製MSは独特の操縦の癖があるとフレイは思っている。オーブ軍でしか使う予定が無いからだろうが、パイロトを選ばないという点では大西洋連邦製が一番だ。
「それでルナマリア……さん、どういう予定で動くの?」
「このまま前進して敵の集結ポイントを強襲よ、散らばられる前にさっさと片付けて戻らないといけないのよね」
「強襲、か」
気が進まなさそうにフレイが呟く。こちらの動きくらいは向こうも監視しているだろうに、焦り過ぎているのではないのかと思ってしまう。ただあのルナマリアの疲れた顔を思い出すと急ぎたくなる気持ちも理解できないではないのだが。
「別動隊の可能性を頭に入れておいた方が良いかなあ。ナタルさんだったら町の襲撃用に別のMSくらい用意してるだろうし」
自分に戦術教育をしてくれた恩師を思い出してフレイは呟いた。あの経験が後に生かされて現場で指揮官的な仕事をやらされる事も多く、オーブ防衛戦ではカガリに頼られて前線で大部隊の指揮も経験したし、ゲリラを纏めて地下活動をしたこともある。
何ともおかしな経歴であるが、だからこそフレイにはこの戦いの先行きに不安を感じていた。行く先に居る部隊は見せ金の囮ではないのかと。
「ねえルナマリアさん、目標以外に敵は居ないってのは確認できてるのよね?」
「ええ、偵察機が周辺を捜索してるけど他に敵機の反応は無し。ブルーコスモスが動いてる様子もないわ」
「……分かったわ」
指揮官であるルナマリアがそう言うのなら信じるしかないかとフレイは引き下がった。自分の位置はあくまでも傭兵なのだから、ルナマリアに従うべきだろう。
フレイとルナマリアの話を聞いていたトールがフレイのウィンダムに機体を寄せて近距離通信で聞いてきた。
「フレイ、こいつは陽動だって思ってるのか?」
「私ならそうするから」
「分かった、俺も頭に入れておく」
「トール?」
「アークエンジェルMS隊の実質的隊長の言葉だ、信頼してるよ」
アルフレットはともかく、後任のフラガは指揮官向きではなくキラもシンもすぐに突撃するタイプだったので、現場でMS隊を指揮するのは何時もフレイの仕事になっていた。自分もスティングもフレイの指示に従っていたからあの激戦を生き残れたと思っている。
トールの信頼の言葉にフレイは気恥ずかしくなって顔を赤くしたが、すぐに気を落ち着けるとルナマリアに続いてウィンダムを前進させた。この悪い予感が当たらなければ良いと思いながら。
3機のMSが進軍していると、途中で破壊された村落を発見した。住民の死体が多数確認出来て、その様子にルナマリアとトールは苛立たし気に舌打ちして村を通り過ぎようとしたが、何故かフレイのウィンダムが動こうとしなかった。足を止めたフレイ機にルナマリアが不審げな声をかける。
「どうしたのフレイさん、急に止まったりして?」
「ねえルナマリアさん、敵の目的は何なの?」
「え、そりゃあ、勢力の拡大じゃないの。私たちの居た町を落とせばこの辺りを制圧できるし」
急に何を言い出すのだとルナマリアは思ったが、それにフレイは恐ろしい答えを返してきた。
「それもあるのかもしれないけど、それだけじゃないと思う。多分、敵の目的には殺戮も入ってるわ」
「殺戮って……」
「何か気付いたのかフレイ?」
言葉を失うルナマリア。トールは何か見つけたのかとフレイに問い、フレイはビームライフルの筒先を村の外周に向けた。
「見て、村を囲うように何かが激しく燃えた跡がある。それに村の人たちの死体がその円の中央に集まってる。襲撃側は逃げられないように炎で村を囲んでから村人を殺して回ったのよ」
「だけど、焼け死んだって可能性もあるだろ」
「……拡大してみれば分かるわ、あの死体は大口径の機関砲で撃たれてる」
中央に追い立てられるように砕けた人体の残骸が転がり、中央に沢山の砕けた人体の残骸が集まっている。炎で逃げられなくした後でMSか攻撃ヘリで中央に向けて狩り出したのだろう。余りにも残酷な、殺戮を目的とした攻撃方法だ。村を制圧する気ならこんな攻撃をする必要が無い。
「なんで、そんな事を?」
「……ルナマリアさん、この村の住民はナチュラルだった?」
「さ、さあ、多分そうなんじゃないかしら」
「つまりそういう事よトール。分かるでしょう、戦争の頃を思い出して」
「ふざけやがって、ナチュラルの住民なんか不要って事かよ!」
吐き捨てるようにトールは罵声を放った。トールの罵声にルナマリアは歯を噛みしめて同胞の行為に苛立ちを見せ、フレイは辛そうな顔で村に向かって頭を下げた。
「私たちが、仲間に一言なんて言って時間を無駄にしてなければ、もしかしたらこの村は助けられたかも」
「よせフレイ、そんなこと考えるな」
「でもトール、私たちがもっと急いでたら!」
涙声で悔恨の声を上げるフレイに、トールは苦々しい顔でそれ以上考えるなと言う。
「泣くのは、終わった後にしようぜ。今やらなくちゃいけないのは、こんな事をするクソ野郎どもを片付けることだろ」
「…………」
「だから、行こうぜ。この村の人たちの埋葬は地上部隊にやってもらおう」
「……うん」
戦いの中で死体には慣れた、戦友を失う事もすぐにでは無かったが無理やり受け入れられるようになった。だけど民間人が虐殺される場にはどうしても慣れることが出来なかった。
トールに促されてフレイも進軍を再開させ、ルナマリアも続いていく。この光景に取り乱したフレイを見て、ルナマリアはこの2人がもう戦いたくないと言った理由を何となく察していた。この2人は優し過ぎるのだ、戦いに向いているような性格ではない。
だけど、コンパスに必要なのはそういう人だと言える。この2人が本当にうちに向いている人材なんだと理解してしまって、ルナマリアは心底残念に思っていた。うちに来てくれたら、どんなに頼りになっただろうかと。
ジム改 ついにルナマリアと接触。
カガリ 元の世界との温度差で風邪ひきそうなんだが?
ジム改 ぶっちゃけこっちだと4人は全員曇る情報だらけなんだよね。
カガリ フレイとトールは死んでるし、私はアスランとくっついて代表引退しようとしてて、アスランはもう何て言えばいいのか。
ジム改 色々陣営変えて今じゃターミナルだからな。
カガリ 向こうじゃターミナルって取り締まり対象にされてたっけ。
ジム改 各国の情報を勝手に持ってってあれこれ利用してるヤバい連中だから、流離う翼じゃテロリスト扱いだな。
カガリ 世の中が変われば立場も変わるんだなあ。
ジム改 向こうじゃルナマリアはアカデミーの教官だからな。
カガリ 戦争が無ければ凄腕は後方でそういう仕事なんだな。
ジム改 もっと偉かったらアスランみたいに色んな仕事振られるんだけど、ルナマリアはそこまで偉くないし。
カガリ 私も引退すれば楽になるかなあ。
ジム改 お前は無理だろ、ホムラとユウナとミナが担ぎ上げてるし。
カガリ 国を放り出して逃げるって訳にもいかないしなあ。
ジム改 頑張って世界の平和を維持してくれ、向こうが平和なのは間違いなくお前の功績だから。
カガリ なんか実感無いぞ。
ジム改 カガリがフレイと一緒に旗振りして大勢が共に歩んだのが流離う翼なのだよ。
カガリ あれ、主役はキラでは?
ジム改 主役はキラだが世界を救ったのはオーブ代表のカガリの功績が大きいの。
カガリ キラの立場って。
ジム改 そもそもパイロット1人が世界を変えるなんて出来る訳無かろう。