第9章  謎の2人組

  町の人の避難誘導に協力しながら、イングリッドはカガリとアスランに本当に大丈夫なのかと尋ねていた。ナチュラルである以上多少強くても2倍以上のコーディネイターが操るMSには太刀打ち出来ないと彼女は思っていたのだ。
 だがイングリッドの懸念をカガリとアスランは無用の心配だと言い切っていた。

「心配すんな、その辺の奴らじゃ2倍くらいでどうにか出来る2人じゃない」
「全くだ、それでどうにか出来るなら俺の苦労はどれだけ減ってたか」

 カガリが絶対の信頼を込めてそんな心配はいらないと笑い飛ばし、アスランがうんざりした顔で言う。アークエンジェル隊に苦しめられ続けてきた男だけあって色々思い出す事もあるようだ。

 だが、カガリとアスランの話を聞いてもまだイングリッドは信じられないようで、2人を心配して何度も戦場の方を見ていた。それを見たカガリとアスランはまあ実際に見た事が無ければ信じられないよなと思い、イングリッドの好きにさせておくことにした。どうせすぐに分かる事なのだか。


 あの2人に同格のMSで確実に勝つにはアスラン級の化け物レベルのパイロットが必要で、拮抗するにもイザーク級が必要になってくる。最もトールはともかくフレイは往時の技量を維持出来てはいないので、イザークに対抗するのは難しいだろうが。
 だがこれはあくまで1対1の話で、実際にはトールやフレイはチーム戦で戦うタイプなので1対1で戦ってくれる事はまず無く、常に2機、ないし3機で襲ってくるのだ。アスランもオーブ撤退戦ではフレイ、トールの2人を同時に相手にする場面があり、その時はかなり追い詰められた上にアルフレットのIWSPクライシスまで加わって来て敗退している。
 アークエンジェル隊との戦いで集団戦の利を理解したアスランはプラントに帰国後にドクトリンの変更を訴えたが聞き入れられる事は無く、アカデミー校長時代に教育の中に僅かに取り入れたり、ジュール隊など一部の優秀な部隊が独自に取り入れたりした程度となっている。
 これはコーディネイター全般に共通する個人能力主義がもたらした弊害で、仲間との協力よりも優秀な個人に力を発揮させた方が良いという思想から抜け出せなかったのだ。だから部隊を組んでも戦場に行くまでの集まりに過ぎず、チームとして動くことは殆どなかった。特に優秀な赤服程その傾向が強く、むしろ能力的に劣る者で編成された部隊の方が仲間意識が強かったと言われている。優秀なコーディネイターとはつまりそれだけ金を掛けられたエリート出身という事でもあるので、家の資産がそのまま能力に出てくるという点でも優秀なコーディネイターを集められた部隊は劣っている一般部隊からは嫉妬の対象となっていたのだ。
 クルーゼ隊から分離されたザラ隊、ジュール隊の赤服たちは全員評議会議員の子息で、その下に配置された補充の赤服や緑服も多くは相応の有力者の親族で固められていてザフト最強の部隊と呼ばれたのだから、一般部隊の嫉妬も間違っているとは言えない。一般人上がりだが物凄いパイロットに上り詰めたミゲルやグリアノス、シンのような例外も居るが、大半はそんな幸運に恵まれる事なんて無い。


 このMSを用いた集団戦術はアークエンジェル隊が使い始めた戦術がその勇名と共に地球連合軍全体に広まっていったとされているが、正確にはマドラスでアルフレットが研究していた戦術をフレイがアークエンジェル隊に持ち込み、その後にアークエンジェルでトールが部下や同僚と運用を検討したり、オーブでフレイがオーブ軍に広めたりしていった戦術だ。アークエンジェル隊でもキラやシンは持ち前の高い能力から他者と合わせるのを苦手としていたが、それでもキラとシンはしばしば手を組んで戦う事はあったし、フレイに怒られて無茶な突撃を止められる事も多かった。アルフレットのアークエンジェル隊合流後はキラやシンも震え上がる怒声が飛んでくるようになってチーム戦という物を徹底的に叩きこまれた。
 もっとも、この集団戦術は結果的にザフトの脅威となってしまっただけで、本来はコーディネイターという驚異に弱者であるナチュラルが対抗出来るように考えられた戦術であり、未熟なパイロットをベテランがカバーしながら戦う事が当初の目標であった。それが実力者揃いのアークエンジェル隊で使われるようになって味方が効率よく敵機を狩り出す恐ろしい戦術へと化けていっただけで、フレイがオーブでやったような未熟なパイロットたちでも仲間同士でお互いをカバーしながらザフトと戦えるように運用されたのが本来のコンセプトだった。
 もしグリマルディ戦線でアルフレットが戦い続けていたら、集団戦術を取り入れたメビウスゼロ部隊が月面で活躍してザフトを叩き出していたかもしれない。


 


 町に対する襲撃部隊は5機のMSを持ち込んでいた。隣のエリアからここを勢力下におこうと進軍していたのだが、彼らは自分たちに向かってくる2機のストライクダガーを確認した。
 ナチュラルがたった2機で迎撃かと嘲笑った彼らは、それでも念の為に遮蔽物に身を隠して敵の接近を待つ事にしていたのだが、次の瞬間にはいきなりジン1機が右足を撃ち抜かれてその場に横転してしまったのを見て動揺した声を上げた。

「この距離で当ててきた!?」
 
 驚愕したほかの4機が慌てて散開を始めたが、離れようとした1機のジンの前に何時の間にか敵のダガーが迫っていた。慌てて重突撃機銃を向けるがトリガーを引く一瞬にダガーの姿が掻き消える。
 どこに消えたと思う間もなく警報がコクピットに鳴り響き、下に屈んだダガーがライフルを押し当てて足を撃ち抜き、次いで右腕を吹き飛ばす。
 一瞬で2機を落とされた他の3機は散開して距離を詰めてきたダガーを狙おうとしたが、すぐに彼らは離れた所から飛んでくるビームをにそちらに意識を向けさせられる。その意識を持っていかれた瞬間で飛び込んできたダガーは後ろに下がってしまっていた。

 ジン2機を仕留めたフレイとトールは向こうの意識がこちらに向いたと判断すると、町から離れるように敵を誘導しながら相手の気を引く為に牽制の射撃を加え始めた。

「フレイ、このまま町から引き離せば良いんだな?」
「ええ、流れ弾が町に行かないようにね。悪いけど歩兵や車両は向こうで何とかしてもらいましょう。あとトール、難しいとは思うけどなるべく殺さないようにね」
「他所の世界だからってのは分かるけど、厄介な頼みするよなあ」
「他所の世界でまで殺したくないのよ」

 フレイは人殺しなんかしたくないと言い、トールも別に好きで殺すような男ではないからフレイの言葉に応じている。ただし無理と判断すれば殺すことに躊躇いはない。あくまでも2人に余裕がある時だけの配慮だ。言ってしまえば2人からすればこの敵機は手加減してやれる程度の相手ということになる。
 プラント大戦の頃に戦ったザフトの方が余程手強かった、そう思いながらトールはフレイの援護を受けて再度突っ込みをかける。向こうはたじろいだ様に射撃を集中させてくるが、こちらに砲火を向けてくればフレイが嫌がらせの射撃をして相手の気を反らす。フレイの射撃を無視しようものなら容赦なく機体をぶち抜かれるので無視することも出来ない。
 牽制で撃ち込まれる射撃が確実に機体を抉る射撃なのは相手にしてみれば厄介な事この上ない。訓練では敵の立場でも味方の立場でもこの射撃を受けたことのあるトールなので、相変わらず上手いなと思いながらこっちとフレイのどちらを相手するかで迷っている様子のストライクダガーに向けてシールドを前に向けて一気に加速し、そのまま機体を相手にぶつけて弾き飛ばした。これはPS装甲機にも有効な戦術で、衝撃で相手のパイロットの気絶を狙う事が出来る。無事でも転倒させれば自重で機体が何処かしら壊れるものだ。
 押し倒したストライクダガーの頭を頭部のイーゲルシュテルンで破壊すると直ぐにその場から動いた。戦場で動きを止めるのは自殺行為だからだが、トールが予想していたような追撃は無かった。
 あっという間に味方を半減させられたことで向こうが恐慌状態に陥っているようで、バラバラに動いてこちらから距離を取ろうとしている。それを見てこいつら素人だとトールは思った。

「フレイ、こいつら素人みたいだぞ」
「トールもそう思う、MSを動かせるだけって感じよね。どういう訓練を受けてるのかしら」
「どうする、あいつら逃げ腰だけどこのまま全滅させるか?」
「私たちが何度も守れるわけじゃないし、全滅させてこっちに手を出せないようにした方が良いと思う。MS5機を失えばそうそう手を出して来なくなるでしょ」
「んじゃ、やりますか」

 町からは十分に距離を取っただろうし、ここで全滅させると決めた2人は、残りの2機に向けて襲い掛かった。逆に襲われた側のパイロット達は想像もしていなかった事態に冷静さを失い、パニックを起こしていた。ユーラシアのストライクダガー2機を早々に始末してこの町を奪うはずが、逆にこちらが何が起きたのかも分からないままに一瞬で戦力を半減させられたのだ。これで落ち着けという方が無理だろう。

「おい、どうなってるんだ、なんでユーラシアにこんな部隊が!?」
「そんなの後にしろ、来るぞ!」
「コンパスなのかこいつら!?」

 後退しながら距離を詰めてくるストライクダガーに射撃を集中しようとするが、それは自殺行為だった。せめて片方は後方のダガーに備えるべきだったのだ。遮蔽を取りながら小刻みに動いていたフレイは自分から注意が逸れたことを察すると迷わず前に出で距離を詰め、射撃で敵のストライクダガーの頭を吹き飛ばす。
 この攻撃にそれまで遠くに居た筈のフレイのダガーが何時の間にか近くに来ていたのを見て慌てて反撃をしようとするが、それは距離を詰めてくるトールに対して隙を作る事だった。

「ありがとよフレイ!」

 自分を囮にして相手の注意を一瞬引いてくれたフレイに礼を言ってトールは至近距離からライフルを敵に投げつけて素早くビームサーベルを抜いてストライクダガーの左腕を肩から切り落としてそのまま左腕をシールドを横に大振りして最後のストライクダガーの頭を吹き飛ばし、右腕を切り落とした。

 全ての敵機を無力化したのを見てトールとフレイは緊張を解き、ヘルメットのバイザーを上げた。久しぶりのMS戦闘は中々疲れる物で、トールもフレイも少し荒くなった息を整えようとしている。

「久しぶりの実戦は疲れるな」
「あら、久しぶりの割には上手く動けてたわよ」
「フレイだって相変わらずの射撃の腕だな、食らう方じゃなくてよかったよ」
「でも少し鈍ってるわね、やっぱり現役を退いて予備役になったらこんなものかあ」
「あれで鈍ってるのかよ……」

 遮蔽を取って視界に入っていない筈の相手に長距離狙撃で直撃当てておいて良く言うぜとトールは内心で冷や汗をかいた。相変わらずどういう射撃のセンスをしているのやら。
 戦いも終わったし町に戻ろうかというときになって、トールは機体の警報に気付いた。駆動系がオーバーヒートを起こしかけているようだ。あれだけ振り回したらストライクダガーじゃこうなるかとトールは呟いて機体をゆっくりと歩かせることにした。町までは歩かせないといけないのだから。これに関してはフレイの方も同様だったが、こちらは支援メインだったのでトールほど酷くは無かった。  




 戦闘は一方的に終結した。主力のMS5機をあっという間に全滅させられた侵攻軍の他の地上部隊は勝機が無くなったことを悟って町へと侵攻することなく慌てて引き上げにかかり、それを見た防衛側が追撃をかけて多少の戦果を上げている。
 フレイとトールが追撃に参加すれば壊滅させられたかもしれないが、そこまでするつもりは2人には無かった。町を守りたくて戦っただけで必要以上に虐殺をしたいわけではない。
 戦いを終えた2人は機体を駐屯地へと戻し、屈ませてハッチを開ける。すると外から兵士たちの歓声が出迎えてくれた。勝ち目など無いと思っていたのに終わってみれば一方的な圧勝に終わったのだ。喜ぶなという方が無理だろう。
 昇降機で降りた2人は基地の将兵にもみくちゃにされてしまった。それに笑いながら答えて2人は機体から離れ、指揮官らしき士官の元へと向かった。その士官は信じられないという顔で2人を出迎えている。

「なんなんだお前ら、その強さは?」
「言ったでしょ、ダガーの操縦は出来るって」
「そういうレベルじゃない、一体どこで今まで戦ってたんだ。あの腕前なら相当に名が知られてるはずだぞ」

 ストライクダガー2機でコーディネイターの使うMS5機を蹂躙するなど聞いたことがない。彼の驚きも当然であったが、2人はそれに困った笑いを返すだけだった。まさか他所の世界じゃエースとして世界的に知られてますなどと言える訳は無い。
 トールは士官の質問には答えず、話を切る様に咳払いをすると報酬を要求した。

「それで、あいつらを撃退したらボーナスを弾んでもらえるって話だったよね。何を貰えるの?」
「確か、何でもくれるって話だったわよね」
「も、もちろんだ。この町で欲しいものがあったら好きにしてくれていい。払いはこっちに回してくれ。必要なら軍需物資も一部分けてやる」

 まさかこうなるとは思っていなかったのだろう、指揮官の表情が聊か焦った物になっていたが、2人が敵機を撃破してくれなければ攻撃を受けて失われていた筈の物資であり町の物品だ。文句を言うことなどできる訳が無い。
 必要な物は持って行って良いと言われてフレイ表情を輝かせてトールを見た。一度帰ろうとした時はあれこれ諦めないといけないなと思っていたのに、これで問題が一気に解決したのだ。

「だってトール、どう思う?」
「食料とかソーラーパネルとかは追加が欲しいかな。あとは町で家具も買いたいな」
「私は諦めてた化粧品とか欲しいかなあ。こっちに来てから碌に手入れ出来なかったし、欲しいのはあったけど諦めたあれとかこれとか」
「ああ、その辺はまた後でな。一度帰って荷物降ろしたらまた来よう」

 トールとフレイは士官の気前の良さに喜んで欲しい物を考え出したが、そんな2人に指揮官が頼みごとをしてきた。

「君たちさえ良ければなんだが、これからもMSに乗ってくれないか。こちらで出来ることは可能な限り応じさせてもらうぞ」
「ここユーラシア軍の駐屯地でしょう、パイロットくらい用意出来るんじゃないの?」
「そうだ、ユーラシア連邦がMSパイロットを用意出来ないなんてことは無いだろ」

 指揮官の求めに2人は困り顔で返す。すると指揮官は苦しそうに顔を歪ませ、視線を落とした。

「ユーラシア連邦は首都モスクワを吹き飛ばされて崩壊状態だ。残念だが応援の当てはない。我々も命令が来ない状況で近くの町に移動してそのまま防衛に当たっているだけなんだ」
「国レベルで指揮系統が失われてるのかよ」

 そこまで酷いのかとトールが驚き、フレイは悲しそうに顔を伏せた。ユーラシアの首都が吹き飛ばされたとなると一体何百万人が犠牲になったのだろうか。
 そしてトールはフレイを見ると、指揮官に向けて頭を振って見せた。

「悪いけど、俺たちはもう戦争をやる気は無いんだ。今回はたまたまこの町に居たから身を守るために手を貸しただけだよ」
「そこを何とか頼む、君たちが居てくれれば心強い!」
「言いたいことは分かるけど、今回だけってことにしてくれ」

 トールは指揮官の懇願を拒絶すると、悲しそうなフレイの肩を抱いて士官の前から立ち去って行った。




 敵の侵略を退けたことで町の人たちは大喜びしていた。町に被害は無く、犠牲者も出ていないのだ。喜ぶなという方が無理だろう。
 その戦いを住民に避難に協力していた3人も見ていたが、カガリとアスランは流石だなと笑っていて、イングリッドは驚きを通り越して唖然としていた。MSに乗れるとは言っていたが、まさかここまで強かったとは。

「なんですかあの強さは、フレイさんとトールさんはコーディネイターなんですか?」
「いや、2人はナチュラルだぞ」
「ナチュラルがあれほどの強さになれると?」
「まあ驚くよな、俺たちもあいつらと戦ってコーディネイターというだけで勝てるなんて甘すぎる考えだってのを思い知らされたよ」

 過去の戦いを思い出してアスランがあの時は苦労したなあと思い出し笑いをしている。当時はナチュラル如きがって思っていたなあと思い出して、相手を侮っていた昔の自分をぶん殴りたくなる。
 だがそんなアスランの答えにイングリッドはまた考え込んでしまった。アスランとカガリはそれをコーディネイターにありがちな能力的優位への拘りがあるんだろうと思って特に気にしなかった。


 戦いを終えて2人から報酬の話を聞かされた3人は驚き、そして急いでトールはフレイとカガリは車で家に戻って荷物を降ろすことにし、アスランとイングリッドは諦めた購入予定品の確保をするために改めて商店へと戻っていった。
 諦めていた家具や日用品、食料、嗜好品を払いを軍に回して入手する事が出来た5人はホクホク顔で町を後にした。戦いに参加することに難色を示していたアスランも予想外の報酬にすっかり機嫌を良くして戦いに参加したトールとフレイを讃え、こんな美味しい報酬が貰えるならまたやってもらっても良いかもななどと物騒な事を言っている。
 アスランの軽口にカガリがトールとフレイは傭兵じゃないんだぞと笑って返していたが、それにトールが笑いを消して真顔に戻っていった。

「まあ、いざとなったらそういう道も考えなくちゃいけなくなるのかもな」
「トール、急にどうしたの?」

 急に真顔になったトールにフレイが戸惑って声を掛けるが、それにトールは何とも憂鬱そうに答えた。

「いや、もしこのままここで暮らすって事になったら、仕事を探さないといけないだろ。だったらこういうのも一つの道なのかなって思ってさ」
「あっきれた、傭兵稼業でも始めるつもり?」

 先ほどのような雇われ兵のような事を考えているトールにフレイは呆れ顔になったが、アスラン苦笑を隠しきれずにトールの言葉に頷いていた。

「そう怒るなフレイ、トールももしもで言っているだけだ」
「でもアスラン」
「それに、そうなったらなったで結構稼げるかもしれないぞ。何しろこっちには凄腕パイロットが4人も居るんだからな」

 悪戯っ気のある笑顔で後席を振り返って言うアスラン。俺たち4人で傭兵を始めれば相手が誰だろうと負けはしないだろうとフレイに言い、それを聞いたフレイはうーんと唸って考え込み、そして不承不承頷く。

「それはまあ、確かに稼げそうだけど、私は平和に生きたいんだけどなあ」
「まあ、最後の手段とでも思ておいてくれ。でもそうだな、もしそうなったら顔役はカガリに頼むか」
「わ、私が傭兵団の顔役!?」

 いきなりアスランに変な役割を振られてカガリが吃驚し、その光景を思い浮かべたトールが噴き出すように笑いだした。

「あははははは、そりゃ良いや」
「笑うなトール!」
「カガリが顔役かあ、じゃあ部隊紀章はデフォルメしたカガリの顔ね」
「なんだよそれは!?」
「ほら、メカカガリとか」
「あんなもの紀章に使うんじゃない!」

 フレイの言葉に激高したカガリが雄叫びを上げ、トールとフレイが大笑いしている。アスランも思い出してツボに嵌ったのか腹を押さえて苦しそうに噴き出している。そんな4人を見ていたイングリッドはメカカガリとは一体何だろうと思って、やらないと決めていた思考の読み取りをしてしまった。
 意識を集中して4人の思考に手を伸ばし、そのイメージを自分の中へと取り込んでいく。そして頭に中に現れた巨大メカの姿に彼女は絶句してしまった。
 MSを優に超える巨大ロボット、それはまだ良い。問題なのはそれが5等身くらいで尻尾が生えた全身金ピカのカガリっぽい姿をしているという事だ。4人が4人とも同じようなロボットを思い浮かべているからこれがメカカガリなのだろうが、何故こんな物があるのだ。彼女たちの世界の人間は一体何を考えてこんな代物を作り出したのだ。しかもカガリのイメージだけ何故か空を飛んでいる。
 あの金色はもしかしてアカツキに使われているヤタノカガミなのではと思い至ってしまったイングリッドは、これオーブが建造したのかと察してしまい向こうの世界のオーブ人は何を考えているんだと額を押さえて唸り声を漏らしてしまった。力を使ったのとは全く関係無い頭痛が彼女を襲っている。
 もし彼女がこの化け物が実はオーブだけではなく色んな勢力から資金や技術を持ち寄って作られていると知ったらその頭痛は更に酷くなるに違いない。しかもアスランたちが思い浮かべているのは大戦時のスーパーメカカガリであったが、カガリだけは現在もユウナやアズラエルたちの悪ふざけで様々な最新技術が投入されて改良を続けられているスペースメカカガリを思い浮かべていたりする。
 あちらの世界の人間は、イングリッドの想像を超えて頭がおかしい人間が多い世界なのだ。

 そしてイングリッドは、自分をデフォルメしたロボットの存在に怒っているカガリを見て、この姿がモデルなのかなと思ってメカカガリマークを両肩に付けたルドラを思い浮かべてしまって、余りのアンバランスさに彼女も吹き出しそうになって必死に口を押えて肩を震わせてしまった。騎士をイメージしている筈のルドラが一気に可愛くなってしまったように思えたのだ。

 こうして大笑いをしながら家路についた5人であったが、それはギリギリのタイミングでもあった。町を離れるのがあと少し遅れていたら面倒な事態に巻き込まれることになっていただろうから。




 戦いが終わって5人が町を離れた後、要請を受けたコンパスの部隊が町に降りてきていた。遂にシンがこれ以上現場を抜けられないと諦めて出動していて、ルナと一緒にザクで地上に降りてきている。
 だが降りてみれば既に戦いは終わっていて町に被害は無く、犠牲者も出ていないと聞かされて吃驚していた。

「凄い、ここのユーラシア軍はそんなに大規模な部隊を展開させてるんですか?」
「いや、部隊規模は大したことは無い。我々が助かったのはたまたま戦闘に参加してくれたパイロットが居たからだよ」
「戦闘に参加したパイロット?」
「傭兵か何かですか?」

 ユーラシア士官の回答にシンは何だそりゃという顔になり、ルナマリアが傭兵かと尋ねるが、士官はそんな感じではなかったと答えた。

「いや、本当にたまたまこの町に居ただけという感じだったな。傭兵という感じではなかった。おそらく元は何処かの軍人ではないかな」
「それで2人がストライクダガーに乗ってコーディネイターが乗ってるMS5機を一方的に殲滅して周りの被害をゼロに抑えたって、一体どこの誰なのよ。在野にそんな凄腕が居るなんて聞いたことも無いけど」

 そんな凄腕ならそれなりの噂は聞こえてくるはずだし、コンパスからスカウトくらいかかるはずだ。しかも相手の機体を破壊するだけに留めてパイロットは殺していないという、キラ隊長のように甘い戦い方をしている。
 ユーラシアの士官はその時の映像も見せてくれて、2機のストライクダガーの片方が接近戦を挑んで次々にジンやストライクダガーを無力化し、もう1機が突っ込んだ機体のフォローをしつつ相手の逃げる先を塞ぐようにビームを撃ち込んで巧みに動きを阻害しているのが分かる。
 この射撃に気を取られたら接近戦で撃破され、突っ込んでくるダガーに意識を向けたら即座に機体を撃ち抜かれてこちらも戦闘不能にさせられている。敵に回したら物凄く厭らしい相手であるが、その凄い技量にルナマリアは素直に感心してしまっていた。加えて町を巻き込まないよう町から戦場が離れるように相手を誘導してもいる。迎撃戦のお手本のような戦いの進め方にルナマリアは画面を見ながら何度も頷いていた。

 一体どこの誰なのかと思ってルナマリアはシンを見たが、シンは何故かテーブルに両手を付いて俯いていた。その肩が僅かに震えている。

「ど、どうしたのシン?」
「……探すんだルナ、その2人を」
「え、探す?」
「ああ、相手を殺さずにMS5機を圧倒、町への被害も局限させて追撃には参加していない。コンパスに是非とも欲しい奴らじゃないか!」

 顔を上げたシンは表情を輝かせていた。この結果を見る限りかなりの凄腕で周りの被害に配慮出来て人命を尊重出来るという、今時ありえないような優良人材だ。もしキラが居れば迷わず誘いをかけているだろう。
 ナチュラルなのかコーディネイターなのかは分からないが、これだけ凄腕ならどちらでも構わない。これで性格も良ければ文句は無いが戦い方を見る限り虐殺をするような奴らではないのは確実で、多少の事には目を瞑ればいい。

「この2人をスカウト出来れば1個小隊を追加できる。そうすれば2個編成になるからどちらかは予備に出来るぞ」
「昔の体制に戻せるか。それが出来たら嬉しいけど、見つけられるの。どこに行ったか分からないって話だけど」
「この町で買い物してるんだ、周辺に住んでるのは確実だろ。ある程度張っていればそのうち買い物に来てくれるさ」
「たまたま立ち寄っただけの流れ者だったらどうするのよ?」

 幾ら何でも都合よく考え過ぎだろうとルナマリアは呆れたが、シンはこれで苦労が減るぞとガッツポーズをしている。出撃していなかったから表面的には疲れていなかっただけで、精神的にはかなり限界だったようだ。いきなり管理職にされてしまったことで色々擦り切れてきていたのだろう。
 彼もまた姿を消したキラとラクスの被害者であった。


ジム秋 久しぶりに実戦に出たトールとフレイでした。
カガリ 雑魚相手だと全く危なげないな。
ジム改 現場にいてウィンダム使ってたら頃なら1機で片付けれたぞ。
カガリ こいつらとサシでやりあってたイザーク達って……
ジム改 短時間ならキラやアスラン相手にも粘るからな。
カガリ 2人だったら映画冒頭の無双シーンを止めていたと?
ジム改 前衛型のトールなら不利だけどキラを止めることは出来たな。後衛で防御向きなフレイだと本当に暫く持たせてくる。
カガリ もうやだこのコーディネイターのトラウマ製造機ども。
ジム改 実際イザークとかミゲルはショック受けてたからな。
カガリ そしてなんか変な方向から追撃が来てるんだが。
ジム改 溺れる者は藁をも掴むのだよ。
カガリ あそこに行くとアスランが居るのに。
ジム改 原作アスランより流離うアスランは人当たりが良いから、出会ったら戸惑うだろうな。
カガリ 何が2人を分けたんだ?
ジム改 流離う世界だと父親と揉めてないしラクスにも見限られてないし仲間も大勢いるからな。
カガリ 心労は桁違いに多いのに。
ジム改 その辺は枯れることでむしろ性格が丸くなる事に貢献しているのだ。
カガリ 過労で壊れただけだろそれ!?



        


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