第7章  小さな村へ

 分裂した降下殻の中から1機の赤いザクが飛び出してくる。ごくシンプルに突撃銃だけを装備し、背中に何かの兵装コンテナを背負ったそのザクは眼下に広がる地表を見下ろし、アフリカの疎らな緑の大地にMSの姿が無いのを見てパイロットは鋭く舌打ちをした。

「事前情報通りか。MS無しの衝突なら現地部隊で対処しなさいよ、何でかんでもこっちに振ってきて!」

 ルナマリアはもう隠す余裕も無いのか、苛立ちを罵声に乗せて吐き出している。その表情には憔悴の色が濃く、疲労が溜まっているのが見て取れた。
 ブルーコスモスではない、プラントが支援している訳でもない、ただ地球在住のコーディネイターの居住地間の小競り合いでしかない。戦車の姿はあるが、数は多くない。大半は歩兵同士の激突だ。こんな戦場ではコンパスは出張って来てもあまり意味が無い。MSは歩兵同士の戦いに介入するのには余り向いていない兵器だからだ。
 ただ、この手の歩兵中心の戦いは凄惨な結果に繋がりやすい。歩兵は相手の町に突入して住民を狩り出して掃討してしまい、その町を占領したり略奪を行うからだ。それを防ぐには攻撃側の頭上から対人兵器をばらまくのが最も有効な戦術だが、それはそれで効果範囲内に地獄を生み出してしまう。
 結局兵士を大量に殺傷するか、民間人が大量に殺傷されるのを見るかの差でしかなく、だからこそルナマリアは腹立たしかった。

 ザクを降下させながらルナマリアは戦場となっている地表に向けて戦闘を中止すること、双方とも部隊を退くようにと警告を発するが、コンパスと知った双方の部隊は撤退するどころかこちらに武器を向けてくる。目の前の敵よりもこちらがより憎まれているのかと思ってルナマリアは歯を噛みしめ、仕方なく背負ってきたコンテナから地上に目がけてロケット弾を一斉発射させる。そのロケット弾は攻撃側の部隊の頭上で次々に子弾をばらまき、その子弾が空中で炸裂して歩兵や軽車両の頭上から致命的な榴散弾のシャワーを降り注がせた。多数の断片と榴散弾が降り注いだ地上では歩兵が体を切り刻まれて倒れ伏し、軽車両がスクラップへと変わって炎上していく。装甲を持つ戦車や運良く穴の中や頭上を追う遮蔽物に隠れていた兵士は助かっているが、そう言った幸運に恵まれなかった兵士たの運命は悲惨なもので、攻撃が終了した跡はまさに地獄の様相を呈している。
 碌な防空システムを持たない部隊の末路ではあったが、その光景は歴戦のルナマリアをして吐き気を催す凄惨さで、ルナマリアは顔を顰めてモニターの映像をリアル画像から切り替えた。
 落ち着こうと荒い息をするルナマリアの耳に耳障りな音が響き、見れば戦車が砲を向けてきている。仲間を失ってもまだ戦意を保っているのか、敵討ちを考えているのか、どちらにしてもルナマリアには鬱陶しいだけだった。

「勝ち目が無くなったんなら、さっさと逃げなさいよ!」

 逃げれば見逃すのに、と叫んでルナマリアはビーム突撃銃を戦車に放つ。連続するビームに撃ち抜かれた戦車はたちまち爆発を起こして炎上し、残骸へと変わる。燃える戦車を見ながら、ルナマリアはヘルメットを脱いで足元に叩き付けると、両手を組んで額を乗せて肩を震わせ出した。

「もう嫌、こんな事何時まで続ければ良いのよ……」

 プラントを守るためにザフトに入った筈なのに、今では地球のこんな辺境で世界平和の為と言って何時終わるとも知れない軍事介入を続けている。何で自分はこんな所でこんな戦いを続けなくてはいけないのか、その答えの無い問いかけがルナマリアの心に渦巻いていた。





 車に乗って近隣を捜索した5人は、地下倉庫からさほど時間をかけずに少しして山に入っていく道に沿って山の斜面に広がる村を見つけることができた。少々寂れてはいたが人の姿もあり、住民が居るのが分かる。
 村の中へと車を乗り入れた5人に住民たちは警戒を露にして家へと入っていき、外に居る人間の姿は途端に少なくなった。世情を感じさせる動きではあったが、それでもこちらを監視するために残っているらしい男に車を寄せてトールが話しかけた。

「やあ、ちょっと聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
「あんたら、何しにここに来たんだ?」
「前の戦いに巻き込まれて住む所が無くなってね、どこか落ち着ける場所を探しているんだ。ここの代表者に話したいんだけど、何処に行けば良いかな」
「……この間のゴタゴタの難民か。分かった、車を降りて付いてこい」

 前の戦争で焼け出された連中だと勝手に勘違いしてくれたようで、男は付いてこいと促した。それを見てアスランとトールは頷き、次いでアスランは後席の3人を見た。

「できれば3人にはここで待っていて欲しいんだが」

 確認するようにアスランは言ったが、言われた3人はそれぞれに拒絶を示した。多分こうなると思っていたアスランはもう諦めたとばかりに溜息を吐き、苦笑しながらトールが服の下の拳銃を確かめた。もし何かあればこいつが最後の頼みの綱だ。先の格納庫から歩兵用の火器も入手しており、全員が拳銃は隠し持っているし、車内には小銃やグレネードも隠してある。アスランとイングリッドが自衛火器無しは危険過ぎると言って持ち出させたのだ。


 5人が案内されたのはそれほど大きいとは言えない木造の家で、中に通された5人はそこで片足の男の出迎えを受けた。40過ぎに見える男は杖を手に椅子に腰かけてテーブルに向っていて、入ってきた5人に椅子を進めてきた。

「話は聞いているよ、まあ座りなさい」
「……失礼します」

 代表するようにカガリが椅子に腰かけ、アスランとフレイ、イングリッドが左右に座っていく。トールだけはカガリの傍で立っていた。
 この村のリーダーらしき男は5人を見てカガリを見ると、何をしに来たのかを訪ねた。

「それで、この村には何をしに。住む場所でも探しているのかい?」
「ああ、行く当ても無くてな。車でずっと移動してたらたまたまここが目に留まって、寄ってみたんだ」
「そうか。まあこのご時世だ、そんな流れの根無し草も多い」

 小さく頷いてリーダーはしばし考え込む顔になった。こいつらを置いても大丈夫なのかと考えているのだろう。そして5人の顔を順繰りに見詰め、何やら珍しい物を見たような顔になる。
 ややあって、もう一度頷くとテーブルに置いてあるベルを掴んで一度鳴らした。それを聞いて先ほど案内してきた男が入ってくる。

「リーダー、決まりましたか?」
「どこか空き家に案内してやってくれ。5人だからそれなりの大きさが良いだろう。ああそれとも分かれるか?」
「いや、助かるよ。ありがとう」
「何、流れ者はあんた達だけじゃない。こんなご時世じゃしょうがないんだがな」

 リーダーは悲しそうな顔で言った。彼の過去に何があったのかは分からないが、おそらく彼も戦災の被害者なのだろう。そしてリーダーの男はカガリを見ると、何とも面白そうに言った。

「面白いお嬢さんたちだな、このご時世にそんなに前を向いた眼をしてる奴を見たのは初めてだ」
「私も諦めた事はあるさ。ただ支えてくれた奴らが居て、立ち上がれただけさ」
「……本当に、面白い奴らが来たもんだな」

 そう言って笑いながら頷くと、この村に好きなだけ住んでくれて関わないと5人に言ってくれた。

 リーダーの家を後にした5人はそのまま男に連れられて2階建ての少し大きな家へと案内された。多少傷んでいるようだが掃除すれば十分に使えそうだ。

「ここなら5人でも住めるだろ、悪いが掃除は自分でやってくれよ」
「ああ、そうするよ。ところでこの辺で買い物が出来そうな場所はあるのか?」
「ああ、それもあとで教えてやるよ。運転手の兄ちゃんは車をこっちに持ってきといてくれよ。道中で店のある隣の町までの道を教えてやる」
「ああ、分かった」

 トールが男について車を取りに歩いていく。それを見送った4人は改めて家を見ると、さてどうしたものかと考えた。

「とりあえず、掃除だな。俺は前に廃屋のような場所を大掃除したことがあるから良いが」

 昔にフレイの屋敷で離れを借りた時の事を思い出してアスランは微笑む。あの時は結局倒れてしまったが、あれも今では楽しい思い出だ。だがそれはアスランの話で、カガリはお姫様でフレイはお嬢様だ、どちらも掃除をしたことがあるとは思えない。それでアスランは一縷の希望を託してイングリッドを見たのだが、イングリッドは頭を横に振っていた。どうやら掃除などした事は無いらしい。
 これは自分が頑張るしかないかとアスランが覚悟を決めると、さも当然のようにカガリとフレイは袖を捲りだした。

「それじゃ、まずは埃払いからね」
「ああ、窓も開けないとな」

 なんだか汚れることなど全く気にして無さそうに2人は家の中に入っていこうとする。その2人にアスランは意外そうな声をかけた。

「あ、あの2人とも平気なのか?」
「何がだ?」
「いや、お姫様やお嬢様は掃除とか無縁だろ?」

 アスランに言われたカガリとフレイは顔を見合わせると、なんだか遠くを見るような目になった。数年前の自分たちの姿が浮かんできて色々な事が思い起こされてしまったのか、虚ろな笑いも漏れている。

「私たちがアークエンジェルに乗ってた頃にどれだけ艦内の大掃除をさせられたと思ってる」
「あの頃は艦内の構造に一番詳しくなってた自信があるわね、トイレもピカピカにしたし」

 フレイはともかくカガリがアークエンジェルに乗っていたという一言にアスランは聞いちゃいけないことを聞いたかもと思ったが、それは口に出さなかった。

「まあ事情は聞かないが、掃除には慣れてるようで安心した。それじゃあイングリッドさんは俺と家具を外に運ぶのを手伝ってくれ。フレイとアスハ代表は室内の掃除を頼みます」
「ええ、分かったわ」

 アスランに言われてフレイは快諾したが、何故かカガリが不満そうな顔をしている。その様子にアスランはどうしたのかと思ったが、いきなりカガリはアスランを指さしてきた。

「そのアスハ代表ってのは止めてくれ。公的な場じゃなければ面倒だからカガリで良い」
「ですが、私はザフトの軍人です。アスハ代表をそのように呼ぶのは」
「私は私的な場では友達にはそう呼ばせてる。現にフレイもトールもカガリって呼んでるだろ」
「友達、ですか。私が?」
「これだけ付き合ってるんだ、それにお前フレイの友達なんだろ」
「いや、友達と言いますか、その……」
「なんだよ、友達じゃないってんなら、まさかフレイに惚れてるとか言うなよ?」

 冗談めかして言うカガリにアスランは呆れた顔になった。

「いや、流石にそれは無いです。確かに美人ですし一緒にいて気楽な相手ではあるんですが、そういうのは無いですよ」
「なら良いけどよ、そういうのは勘弁だからな」

 キラは生きていることをアスランは知らないがカガリは知っているので、もしアスランがフレイにその気があったなどという事になれば本当に面倒な事になる。まあフレイの方はあれでキラに一途だからアスランに靡く事は無いんだろうが。むしろ自分たちの方がフレイに何時までも帰ってこないキラの事なんてもう忘れて新しい恋を探せと説得しているくらいだ。
 フレイが新しい道を見る切っ掛けになるならアスランとそうなっても良いのかなあなどと考えつつ、カガリも長い髪を後ろで纏めながら掃除を始めることにした。日が沈むまでにせめて寝床くらいは確保しないといけない。




 夜までにはどうにかリビングと寝室に使えそうな部屋を2つ掃除を終え、5人は疲れた顔でリビングで何時もの携帯食料で作ったスープを飲んでいた。軍用なので高カロリーで味も濃いので疲れた体には染み込むのだが、流石にそろそろ飽きてもきていたりする。

「そろそろまともに腹に溜まる物が食いたいな、スープばかりじゃ体が持たないぞ」
「携帯性を優先しましたからこればかりになりましたけど、流石に私もちょっと……」

 カガリがもう限界だと訴え、あの自分の意見を出さないイングリッドもカガリの意見に頷く。フレイも同感なのかうんうんと頷いていた。一方男2人はそれほど気にしていなかったようで何を言っているんだと呆れている。

「何を言ってるんだアスハ……カガリ、まだ家の掃除も終わっていないだろう」
「そうだぜ、はやく掃除して追加の家具を買いに行かないと」

 アスランとトールが先にまず家の掃除だろと言うのだが、カガリとフレイとイングリッドは口を揃えてそろそろ違うものが食べたいと言ってくる。女性3人に言われてアスランとトールは顔を見合わせてどうしたものかと思い、そして諦めたように肩を落とした。

「分かった。それじゃあ明日は午後から車を出して店で食材と調理器具の買い出しに行こう」
「まあ良いけどさ、頼むから買い物は早く終わらせてくれよ」

 この中で唯一恋人が居るトールがミリアリアとのデートを思い出しているのか少し寂しそうにしている。ただでさえ彼女が世界中を飛び回っていて会えない日が続いているのに、とうとう世界まで別の場所に分かれてしまったのだ。本当に戻れなくなったら一生会えないかもしれない。
 寂しそうなトールの顔に察してしまったカガリとフレイはそれ以上何も言わず、イングリッドは何故か顔を赤くして黙っている。それを見たアスランは明日も朝から掃除だから今日はこれで休もうと提案し、誰も反対しなかったのでこのまま休むことになった。



 男女に分かれて寝ることにし、カガリとフレイとイングリッドは一緒の部屋で毛布にくるまっていた。できればベッドで寝たいが残念ながら使えそうな状態のベッドは残っていなかったので今日はここで雑魚寝だ。
 毛布に包まれたまま明りを囲んでいる3人、フレイとカガリは楽しそうに、イングリッドは興味津々という顔で女子会をしていた。

「なんか、こういうのも久しぶりね。昔を思い出すわ」
「そうだな、アークエンジェルの頃は立場を忘れて自由にやれてたからなあ。今はとてもできん」
「そりゃオーブの現代表が勝手に遊びに出たら不味いわよ。ユウナさんが卒倒しちゃう」
「ああ、だから自重してるんだ。あいつが探し回るせいで何処に行ってもユウナ様が可哀想だから戻ってやれって言われるんだぞ」

 心底うんざりした顔で言うカガリ。執務室から逃げ出したカガリを探すユウナの姿はもうオロファトの市民からも見慣れたもので「ああ、またカガリ様が逃げたのか」と納得されるくらいだ。
 代表になっても国民からはお転婆なお姫様扱いが続いているカガリ。これでもオーブ以外ではプラント戦争終盤で地球連合軍を叱咤してプラント侵攻部隊の指揮を執り、戦争を終結に導いた英雄と扱われているのだが。あの時のカガリの姿は参加した他国の将兵にも人気があり、彼女の写真が結構広まっていたりする。
 オーブ軍の中ではフレイと合わせてアイドルのような扱いをする者も多く、2人が仲良くしている場を見て喜ぶ兵士が出てくるくらいだ。流石に自国の首長を崇拝まで行かれると色々と問題が出てくるもので、この件はミナやユウナも頭を悩ませる問題である。特にユウナはカガリから首長家の権限を縮小して民政へ移行させたい考えを聞かされていたので、その意味でも崇拝は困るのだ。
 うんざり顔のカガリにフレイは楽しそうに微笑み、余りユウナさんを振り回しちゃ駄目よと言ってカガリを慌てさせている。それを見てイングリッドは意外そうな顔になった。

「アスハ代表は、ユウナ・ロマ・セイランに好意があるのですか?」
「い、いや、そんな事は無いぞ。あいつはただの昔馴染みだ」
「まあユウナさんの方は間違いなくその状態よね」

 慌てるカガリにフレイが茶々を入れて更にカガリを慌てふためかせている。それを見てイングリッドは何かを我慢するように必死に体を震わせていたが、遂に耐えられなくなったのが噴き出すように笑いだしてしまった。

「ぷ、くくっ、アハハハハハハハハッ」
「な、なんだよ、笑うなイングリッド!」
「いや、今のあんたを見て笑うなってのは無理でしょ」

 イングリッドに続いてフレイも笑い出し、カガリがますますヒートアップしていく。だがそれは楽しくはあったが、同時にイングリッドに彼女たちが異世界からの来訪者であることを納得させるものであった。彼女の知識上ではユウナ・ロマ・セイランは逆賊として死亡している筈で、カガリはアスラン・ザラと恋人関係にあると言われている。
 だが目の前の2人は本心からこの話をしている。つまりありえない、この世界ではありえないはずの前提で2人は話をしているのだ。2人の話が本当ならユウナは生存していてオーブでカガリの傍に居ることになるが、それは彼女の知識ではありえない。本当に彼女たちの世界はどういう世界なのだろうか。
 というか、先ほどから異世界の話を自分の前で平気でしている事にこの2人は気付いているだろうか。どうにもこの4人は迂闊と言うか、自分に異世界の情報を極力秘密にしようとしているのに時々それを忘れて口に出している時がある。そういう事に慣れていないのだろうが、ここまで来ると笑えて来る程だ。
 笑っているイングリッドをカガリとフレイは嬉しそうに見ていた。彼女が笑ったのを見たのは彼女を拾ってから初めての事だったから。
 そしてカガリはなんだか嬉しそうなフレイの横顔を見て、ニヤリとした。フレイの追撃が止んだので反撃に出ることにしたのだ。

「ところでフレイ、お前はそろそろどうするんだ?」
「え、どうって?」
「お前もそろそろ20歳になるんだろ。本気でキラを探しに行くのか?」
「な、何よ、悪い?」
「いや悪くは無いけどさあ、流石にちょっと重い女過ぎないかと思ってさ」
「どういうことです、アスハ代表?」

 カガリの言葉にイングリッドが興味津々という顔で聞いてくる。食い付いたイングリッドにフレイが焦りを浮かべ、カガリが好機到来とばかりに話を続けた。

「いや、こいつの彼氏がキラっていって私の弟なんだけど、もうかれこれ3年以上も世界中を飛び回ってるらしくて一度も連絡寄越して来ないんだ」
「それは、酷くないですか?」
「ああ、私たちもそう思うから何度もあんな奴忘れて他の男を探せって言ってるんだが、こいつキラを探しに行く気なんだよな」
「なによ、まだ少しあるからその間に戻ってくるかもしれないでしょ」
「どうかな。お前が20歳になるまでには戻るって約束したらしいが、案外自分で言ったこと忘れてんじゃないかあいつ」
「………‥」

 カガリの言葉に真顔になって俯いてしまったフレイ、過去に似たような事で約束を忘れられていたことがあったので本当にそうかもしれないと思ってしまったようだ。それを見てカガリはヤバいと焦りを見せ、イングリッドが吃驚している。

「あ、あの、フレイさんの心が闇に落ちてるんですけど?」
「待て、悪かったフレイ、キラは絶対戻って来るから安心してくれ!」
「……うん、そうだと良いよね」
「フレイ、悪かったから戻って来てくれ!」

 すっかり落ち込んでしまってカガリの声も届いていない様子のフレイ。その様子にカガリは不味い不味いと慌てている。事態の急変に付いていけないイングリッドは何がどうなってるのかとカガリに尋ねた。

「アスハ代表、一体何がどうなっているんです?」
「フレイは普段はちょっと気が強いお嬢様タイプなんだが、一度落ち込むと長いんだ。特にキラが絡むと昔の事もあってヤバいことになる」
「な、何があったんです?」

 イングリッドの問いかけにカガリも急に真面目な顔になり、イングリッドに顔を寄せて小声で少しだけ教えてくれた。

「詳しく言うと長いんだが、ザフトの攻撃で目の前で親父さんを殺されたショックでおかしくなって、コーディネイターのキラを篭絡して戦場に送り出して死ぬまで戦わせようとしたらしい」
「それは……その……」

 余りと言えば余りの事情にイングリッドも言葉に詰まってしまう。何でキラなのかという疑問もあったが、カガリは話を続けた。

「そんな事をやってたら時間が経って正気に戻ってきたらミイラ取りがミイラになって、キラに本気になっちまっていよいよ拗れた話にな」
「なんですそれ、そんなギリシャ悲劇みたいなドロドロの話が現実で起きたと?」
「ああ、私もそれに巻き込まれたからな。今だから話せるが当時は凄く大変だった」
「でも、先ほどの話だとフレイさんはキラさんとその、上手くいったんですよね。どうやったらその状況からそうなったんです?」
「ああ、まあ何と言うか、お互いにきちんと話して色々吐き出して、関係をリセットしてやり直すことにしたらしいな」
「……良いですね、そういうの」

 何を想像しているのかちょっと夢見がちな顔になるイングリッドに、カガリはフルフルと頭を振った。

「いやそれがだな、フレイはその時に告白して、時間置いてもまだ気持ちが続いてたら改めて気持ちを伝えあおうってなったらしいんだが、言われたキラの方はその後にすっかり忘れていた前科があってな」
「…………」
「イ、イングリッドも落ち着け、なんか凄い顔になってるぞ!」

 カガリの話を聞いたイングリッドがキラに対しての評価を急降下させて苛立ちを見せてしまう。他の世界のキラだからあのラクスを愛していると叫んだキラとは当然別人なのだが、それでも同一視してしまうのは避けられなかった。そもそもややこしい。

「ま、まあ、事情は分かりましたが、フレイさんの反応が怒っているとは違いませんか?」
「ああ、それがこいつの面倒なところでな。さっき言ったキラを利用してた頃の記憶が未だにトラウマになってるみたいで、キラ絡みで不安になるとたまにこうなるんだ。自分が悪いってなって無限ループしてるというか」
「ああ、それで……重い女ですか」
「ああ、情深女だからな」

 困った顔をするカガリだったが、カガリの話はイングリッド自身にも刺さっていた。自分も相当に重い女だという自覚はあるのだ。加えて先ほどまでの話を聞いていてオルフェの事を思い出してしまい、こちらも一気に曇ってしまっている。
 突然イングリッドまでどんよりしてしまってカガリは本当にどうしたんだお前らと騒いで2人の気持ちを立て直そうとあれこれ楽しそうな話を振るのだが、2人が元に戻ることは無かった。



 そんな女子会のドロドロ話を薄い壁の向こうで聞かされた男2人は何とも言えない顔になっていた。トールは当時の事を思い出してしまい、アスランは洞窟で直接フレイから聞いていたから怒る事は無かったがいささか複雑そうだ。

「本当に色々あったんだな、あの2人は」
「当時は艦内の空気も最悪だったからな、正直あんなのは2度と御免だよ」
「しかし俺が言うのもなんなんだが、よくそこから2人の気持ちが続いたもんだな。普通はどちらも身を引く気がするんだが」
「色々とお節介な人が多かったし、なんだかんだでキラもフレイに惚れてたのは丸分かりだったからな」
「でもキラの奴、自分はフレイの泣き顔に惚れたとか言っていたぞ」
「え、マジでか。あいつそんな事言ってたの?」
「ああ、まだ戦争中の時だがな。だがあいつ、どれだけフレイを泣かせてきたんだ?」

 好きな女の惚れるポイントが泣き顔ってどういう事だというアスランに、トールは何も言えなかった。2人の思い出で印象深い場面では確かに何時もフレイは泣いていたような気もする。それに大人になった今からすればお互いに傷付け合っていた頃の2人は、涙を流していなくてもずっと泣いていたように思うからだ。あの頃のキラがフレイに惹かれていったというのなら、確かに彼が惚れたのは泣き顔だったのかもしれない。

「辛い記憶が多いのさ、キラも、フレイも。俺たちもさ」
「……戦争なんて起きなければ良いんだが」
「ああ、俺たちは世界大戦を戦ったんだ、残りの人生は平和に過ごす権利ってのがあって良いと思うよ」

 もう2度と戦争は御免だ、あの戦争に従軍した2人はこの件に関しては全く同じ思いだった。世界の多くの人々も同じ思いだろうし、指導者たちも戦争を起こそうとはしていない。あの戦争の惨劇は未だに癒されない傷なのだ。いずれまた戦争は起きるのだろうが、それはずっと先の話であって欲しい。
 2人もこれ以上話をする気にはなれなくなり、明りを消して眠ることにした。明日も掃除があるのだから


ジム改 やっと住む家を貰えたぞ。
カガリ 今回は昔のおさらい回みたいな感じか。
ジム改 時間軸的には流離う翼たち最終話の少し前位だから、キラは火星だな。
カガリ シンは学生に戻ってるし、主役3人で現役軍人なのアスランだけなのか。
ジム改 だからアスランに役割振ったんだ、
カガリ ところで何なのこの村。
ジム改 住民が逃げ出して無人になった村に戦争難民が勝手に住み着いてるだけ。
カガリ …………
ジム改 統治システムが崩壊すると滅茶苦茶になっちゃうんだよね。
カガリ 取り締まる警察とかもいない訳か。
ジム改 その辺が機能してる地域は攻撃受けてそうだからなこの世界。
カガリ 救いは無いのか?
ジム改 人類が存続できるという前提でだが、あと100年くらいすればコーディネイターが自然減で消滅寸前になってるだろうから、大きな対立軸が消えて多少安定してるかもな。
カガリ つまり私たちの存命中には平和にはならないと。
ジム改 無理だろうなあ。映画でもコーディしか仕事無いし、アニメ当時じゃ例がなかったが今だとトランスジェンダーのスポーツ問題が理解し易い例かもな。
カガリ リアルでも専用枠設けてやらせろなんて言われてるか。
ジム改 個人レベルはともかく両者の種としての融和はかなり困難なんだろうな。多分原作もSEEDでは考えてたと思うけどディスティニー以降は投げ出したテーマだと思う。
カガリ まさか20年後にリアルが追い付いてくるとは思わなかった。
ジム改 創作はリアルに勝てないんだよ。
        


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