第1章 前代未聞の大事件

 CE75年、世界を巻き込んだプラント独立戦争から3年の月日が流れた世界は今だ戦後の復興が続いていた。
 世界大戦で荒廃が進んだ各国は被災地の復旧に難渋する日々を送り、復興が遅れてった地域では不満を抱いた住民の反乱なども頻発していたが、それらの混乱も僻地にまで再建の手が伸びるようになって少しずつ収まるようになり、少なくと軍が出動して鎮圧にあたるような事態は稀な事例となっていた。
 唯一の大規模な戦闘と言えたのが去年に起こった旧ラクス派残党の一斉蜂起、「ラクス紛争」だろう。この時はザフト、ラクス派双方が多数の艦艇まで動員した艦隊戦を行っており、激戦を繰り広げている。最終的にこの戦いは数で圧倒したザフトの勝利に終わり、オーブより誘拐されて旗頭にされたラクス・クラインも戦場で行方不明となっており、事実上死亡として扱われている。
 こうして緩やかな再建の途上にあった世界にあって、オーブの国家代表であるカガリ・ユラ・アスハは非常に不機嫌そうな顔をしていた。彼女は本来ならオーブ本土の執務室で政務にあたっているはずであったが、何故か今は衛星軌道上の宇宙ステーションにやってきていた。
 このステーションはアメノミハシラを失った後に地球連合が共同で再建した軌道ステーションとは異なり、ロンド・ミナ・サハクがオーブ独自のステーションとして個人的に作り始めた宇宙ステーションだった。だからその規模はかつてのアメノミハシラには及ぶわけもなく、性格も軍事ステーションではなくあくまで技術開発を目的としたものとなっている。一応艦隊を停泊させるための宇宙港も作られてはいるが規模は小さく、先の大戦で戦力をすり減らしたまま再建される当てもない現在のオーブ宇宙艦隊の母港としては使えるという程度のものにすぎない。
 
 その宇宙ステーションでカガリが何をしていたかといえば、ここでとんでもない研究が行われていたことが発覚して対処する為であった。

「それでミナ、こいつらがここでやってたっていう研究は本当なのか?」

 カガリが怒りを隠しきれない目で捕縛された科学者たちを見据える。彼らはカガリの視線に怯えていたが、それ以上にカガリの隣りに立つミナに震えていた。ミナはカガリの問いかけに苛立たし気に右手で髪をかき上げ、ジロリと科学者たちを睨みつけている。

「ああ、プラントの科学者と組んで亜空間を観測するためのワームホールを作る研究をしていたそうだ。こちらに提出されていた話では新エネルギーの研究開発のはずだったのだがな」
「ち、違うのですサハク様、我々の目標は間違いなく新エネルギーの研究です」
「新エネルギーの研究か。それがどうして亜空間やらワームホールなどというSFのような代物が出てくるのだ。ワームホールを仮に形成できたとしてどれだけのエネルギーが必要になる?」

 エネルギー問題は解決するための研究だと思っていたら大量のエネルギーを使って科学者のロマン探求の様な事をされていたと知ったミナは怒り心頭だった。加えてそのワームホール実験とやらのためにステーションの電力を文字通り全て持っていかれてしまい、生命維持システム以外がダウンしてしまったのだ。
 苦虫を?み潰したような表情で唸るミナに、カガリの随員として同行していたフレイ・アルスターが科学者に質問をぶつけてきた。

「あの、私は化学には疎いんですがそのワームホールというのと新エネルギーがどう繋がるんですか?」
「おい待てフレイ、こういう奴らにその質問は!?」

 理解できないという表情で問いかけるフレイにカガリが焦った顔で止めようとしたが既に遅かった。聞かれた科学者は表情を輝かせてフレイの質問に答えだしたのだ。趣味で動いているマッドな人間にこの手の質問をするとどうなるかという問いへの回答のように科学者たちは小難しい理論を延々と語り始め、理解するための知識がないフレイはその説明に圧倒されて困り果てた顔で隣にいるトールを見た。

「ト、トール、あなた工学系出身でしょ、何言ってるか分かる?」
「分かる訳無いだろ」

 問われた2人の護衛役のトール・ケーニッヒ二尉は呆れた顔でフレイに返す。そして我慢の限界に達したのだろう、遂にカガリが怒って科学者たちを怒鳴りつけた。

「いい加減にしろ馬鹿野郎ども、うちが付けた研究予算を無駄遣いしやがって!」
「心外ですぞアスハ代表、我々の研究は無駄ではありません!」
「そうです、ちゃんと研究は成果を上げています!」
「どんな成果だ、問題の新エネルギーとやらはどこににある!?」

 人の金で好き放題しやがってとカガリは激高していたが、科学者たちはその問いに当然のように答えを返した。

「亜空間にですよ。我々は亜空間に道を開き、向こうからエネルギーをこちらに引き込もうと考えているのです」
「はあ、なんだそりゃ?」

 訳が分からないという顔でカガリはフレイとトールを振り返り、次いでミナの顔を見上げる。だがそのミナも肩を竦めるばかりだった。彼女も何を言っているのか分からないようだ。

「……まあいい、それでこのステーション中の電力をバカ食いしてくれたワームホールとやらはどうなったんだ?」
「それが、回廊の入り口の形成開始までは上手くいったのですが、そこで電力が途切れてしまい」
「要するに失敗したってわけだな」

 カガリの追及にしどろもどろになる科学者たち。この様子では本当に形成に成功していたかも疑わしいのだが、その点にはカガリは突っ込まなかった。ただ呆れた顔で肩を落とし、疲れた表情でミナの反対側に立つ男を見る。

「うちの科学者も大概だがそっちの連中も何考えてるんだ?」
「ご迷惑をおかけして、まことに申し訳ありません……」

 カガリの問いに在オーブ領事館付き武官のアスラン・ザらは胃痛を堪えるような表情で謝罪をした。彼はラクス紛争までプラントのアカデミーで校長をやっていたのだが、ラクス紛争の際に現場に戻って戦い、その後本国から逃げるようにオーブの領事館に籍を置いている。とはいえここも一時的な仮住まいであり、そう遠くないうちにスカンジナビアへ移動する予定であった。
 まさかその一時的な配置でこのような面倒事に巻き込まれるなどとは想像もしておらず、 彼は自分の身に降りかかる不幸の数々に心の中で涙している。
 この研究自体は最初はプラントで行われていたらしいのだが、研究予算の打ち切りにより潰れてしまうはずだったものを当の研究者たちが成果を手にオーブの科学者たちに話を持ち掛け、それに乗った馬鹿どもがミナに話を持ち掛けてこのような事態を招くことになったらしい。

 本当にワームホールが形成されていたらどうなっていたのかは誰にも分からないが、カガリはこんな怪しげな研究が頓挫してくれたことを内心で安堵していた。どう考えても碌な未来が訪れるとは思えなかったのだ。

「しかしまあ、また珍妙な機械を作ったもんだな」

 科学者たちが言うワームホール発生器とやらに歩み寄ってカガリは呆れた声で感想を漏らす。その隣にフレイが歩いてきて装置を見上げ、よくこんな物を作ったものだと場違いな感想を口にしている。

「まったく、金がないって言ってるのにふざけたことに金使いやがって。私がここに来るときユウナにどれだけ文句言われたと思ってんだ」
「まあまあカガリ、それでも行かせてくれたんだから良いでしょ。私やトールを引っ張ってきたのはどうかと思うけど」
「仕方ないだろ、ちょうどそこにいたんだから」

 面倒な時に私の傍にいたお前らが悪い、と返すカガリにフレイとトールは苦笑いを浮かべるしかなかった。2人はたまたま宇宙港に居ただけだったところを往還機に向かっていたカガリに見つかって次いでとばかりに連れてきてしまったのだ。本当ならちゃんとした随員を手配するべきところだったがカガリから現地で随員捕まえたと聞かされたユウナは苦笑しながらそれを受け入れていた。カガリのこの手の横紙破りはオーブの官僚にもユウナにも慣れたものだったので今更この程度で騒いだりはしない。むしろフレイとトールならカガリに遠慮なく口出しができるのでカガリのストッパー役を期待できるまである。
 宇宙港から往還機で宇宙にでる途中でフレイとトールはようやくカガリから事情を聴くことができた。とはいえワームホールがどうとか言われても3人とも良く分からないのだが。
 窓から外を見て宇宙は久しぶりだとフレイが昔を懐かしんでいると、建造中の国際ステーションの近くからこちらへとゆっくり移動している大西洋連邦の艦船が見えた。

「見慣れない船ね、新型艦かな?」
「なんだフレイ?」
「ほらあれ、大西洋連邦のマークがついてる見慣れない船よ。あの型は知らないわ」
「新型か、良いなあ。うちだと戦没艦の補充もままならないのに」

 金持ちは良いなあとカガリが嘆く。カガリが国内の復興と周辺国との折衝でいつも苦労しているのは良く知っているのはフレイもトールも何も言えなかった。
 この時フレイたちが見つけたのは大西洋連邦の技術試験艦「オニール」だった。艦長席に座っているのは2人も世話になったマリュー・ラミアス中佐で、戦後に技術士官に戻ったがその後にアークエンジェル艦長であった経歴を買われて新造艦の艦長に就任している。今日は大西洋連邦で試作された新型機の試験項目を消化する予定でテスト宙域に向かおうとしていたのだ。
 2人が最後にマリューと会ったのはムウ・ラ・フラガ少佐との結婚式の時で、世話になった子供たちは全員で結婚式に参加してマリューに祝いの花束を贈っている。参加こそできなかったがカガリも世話になったマリューに電報で祝辞を打っていたりする


 3人が問題のステーションに到着した時には、ミナと一緒にもう1人待っていた男が居た。プラントの駐在武官のアスラン・ザラだ。アスランの姿を見てフレイが小さく手を振り、それにアスランが柔らかい笑顔で頷いて返している。
 アスランはプラント領事館からオーブ政府からの苦情を受けて慌てて別の機で送り込まれていて、カガリたちに先行する形で合流していたのだ。

 2人で呆れた顔をしていると、急に2人の周囲が奇妙な光を発しだした。装置は電力が止まって停止しているはずなのに何が起こったのかと周囲が慌てだしカガリとフレイも何が起きたのかと周囲をきょろきょろしている。

「お、おい、なんだこれ?」
「ちょっと、何か凄く嫌な予感がするんだけど!?」
「止めろ、お前の嫌な予感はこれまで碌な目にあったことがない!」

 フレイの嫌な予感は外れないと言われるほどに必ず禄でもない事が起きる。というのはフレイの周囲ではもはや常識となりつつある予言級の厄ネタだ。そのフレイの嫌な予感を聞いてカガリが悲鳴を上げたとき、2人は周囲の叫んでいる声を聞いた。

「カ、カガリ、アルスター、お前たち姿が薄くなってるぞ!」
「え、姿が?」
「薄くって?」

 何を言われているのか分からないという顔で2人は叫んだミナを見たが、ミナは見た事もないほど狼狽した様子で取り乱しており、トールが焦りまくった顔でこちらに駆け寄ってきている。そしてトールの手がカガリの肩に届いたとき3人の姿はかき消すようにその場から消えて後にはただ淡い光だけが残っていた。

「カ、カ、カガリ?」
「消え、た?」

 ミナとアスランが呆然として疑問を口にする。電力を斬られて完全に停止しているはずなのに一体何が起こったのだ。3人はどこに行ったのだ。それらの疑問が2人の頭に渦巻いていたが、やがて我を取り戻したミナがどういうことかと科学者たちを睨みつけた。

「おい、一体どうなっている、何が起きたのだ!?」
「わ、分かりません。あのような反応は我々も初めて見ました」
「言い訳は良い、すぐに3人がどうなったのか調べろ。内容如何ではどうなるか分かっているだろうな!?」

 科学者たちの答えに激怒したミナは事態の調査を死ぬ気でやるように命じた。もしこれで3人が本当に死んでしまったなどということになれば影響はどこまで広がるか想像もつかない。特にカガリもフレイも世界中の有力者に謎の交友関係を持つ意味不明の人脈を持っているので2人に何かあったなどということになれば彼らが黙ってはいないだろう。オーブの今後のことを考えても何が何でも3人の無事を確認し、かつここに戻ってもらわなくてはいけないのだ。そもそもミナの隣りでまだ呆然とし硬直しているアスラン・ザラもフレイの友人であり、プラントの要人である。いずれプラントで要職に就くことは確実視されている人材なのだ。

 科学者たちはミナの殺気を受けて必死の形相で観測機器を起動させて目の前で起きている異常現象の調査を開始する。さすがに命がかかっている状況では彼らにもこの謎現象に心ときめかせる余裕は無いようだ。
 アスランもどうにか自分を取り戻したようでミナの隣りで焦った表情を浮かべている。

「ロンド外務卿、もしこのまま3人が戻らないなどということになったら大変な事に」
「分かっている、特にアズラエルには絶対に知られるわけにはいかん。何が何でも事態をこの場で終わらせなくては」

 オーブの外交担当であるミナにとって2人の交友関係は非常に強力であると同時に諸刃の剣であることをよく理解している。2人のつてを使って交渉をしやすくなるのはありがたいのだが、あくまでも個人的な友誼によるものだ。だがそれだけにもし2人に何かあれば個人的にこちらに介入してきかねない。特にアルビム連合のイタラや大西洋連邦のアズラエルは大きな力を持っているから介入されたりしたら面倒なことこの上ない。
 そして文字通り命がけで必死に動き続けた科学者たちが出した回答は、入り口だけとはいえ形成されたワームホールの影響がまだ残っていてそこにこことは異なる別のどこかからエネルギーが注ぎ込まれてそちら側の世界と回廊が形成されてしまったという意味不明なものであった。

「ほかのどこかからの謎のエネルギー?」
「はい、どこか、とは言えませんがとにかく大きなエネルギーが空間に穴をあけてワームホールに流れ込み、向こう側との不安定な通路を開いてしまったようです」
「……SFではあるまいし、ワームホールとか何処かの世界とか面倒な事ばかり」

 頭痛のしてきた頭を押さえてミナが唸り声を上げる。そして今度はミナに変わってアスランが質問をぶつけてきた。

「どこかの世界という話だが、それは異世界とか平行世界とかいう類のものか?」
「そういう意味ではおそらく平行世界ではないかと。こことは少し違う可能性の隣の世界です
「そんな物が実在するのかという疑問は置いておいて、こことは少し違う可能性の世界、か」

 アスランの頭の中にラスティやミゲル、二コルが生きていたとか世界がこんな混乱の中ではない世界とかコーディネイターが生まれていない世界とかが過ったが、すぐにそれを振り払うと科学者に質問を重ねた。

「それで、3人は無事なのか?」
「いえ、それは全く分かりません。現在分かっているのはこの奇妙な光の力場が向こう側からの引き寄せ、アポートゲートだということだけです」
「つまり、こちらから行くことは出来るが向こうからこちらに来る手段は無いと?」
「現時点ではそうです。ただ現在開発中の装置を完成させればこちらに引き戻すことは可能かもしれません。もともとこの研究は最初にお話しした通り亜空間からエネルギーをこちらに引き出すことを目的としておりましたので、向こうからこちらに引き込むアスポート装置の開発もしておりました」
「それが完成すれば戻せるのか?」
「いえ、それだけでは足りません。向こうから戻すには向こうにいるカガリ様たちの正確な位置データが必要です。この装置は特定の座標にあるものをこちらに引き寄せる装置で、向こうにいる特定の何かを引き寄せる物ではありません」

 科学者の回答はアスランを失望させるものであった。確かに戻せるかもしれないが、平行世界上での特定の位置座標などどうやって特定できるというのだ。そもそもそのような装置で亜空間からどうやってエネルギーを見つけて引き出すつもりだったのか。プラントの科学者の相変わらずの残念過ぎる頭には慣れていたアスランであったが、オーブの科学者もこうだったとは。それが手を組んだら相乗効果でさらに駄目になったとでもいうのだろうか。
 事態の余りの救いの無さに絶望したアスランは膝から崩れ落ちて両手を床に付いている。この状況を逆転できる見込みが全く立たない。せめて3人が生きていてくれることを願うくらいしかないのかと絶望の中でアスランの頭の中に浮かんだが、その時いきなり室内の内線が鳴りミナを呼び出した。

「ミナ様、そちらに居られますか?」
「……ああ、居る。だが今取り込み中だ。暫く誰からも取り次ぐな」

 彼女らしくなく絶望から立ち直れないでいたミナは内線の呼び出しに全く力の無い声で返した。

「分かりました。ですが、この通信はカガリ様からですが本当に宜しいのですか?」
「……今、何と言った?」

 事態の急変に頭が付いていけず、ミナは聞き返した。

「カガリ様からの緊急の呼び出しです。かなり焦っておられるようですが、本当にお繋ぎしなくてもよろしいのでしょうか?」
「待て、すぐに繋げ。今すぐにだ!」

 ようやく頭が動き出したミナが何時もの冷静さをかなぐり捨てて怒鳴るように命じ、絶望していたアスランや科学者たちも顔を上げてミナを見る。そしてしばし待った後、内線のスピーカーから聞き慣れたカガリの怒声が聞こえてきた。

「ミナ、これは一体どういうことだ!?」
「カ、カ、カガリ、お前は今どこにいる、無事なのか、全員揃っているのか!?」

 カガリの怒声にミナの表情には生気が戻り、慌てふためいて逆に聞きたいことをぶつけている。それを聞いたカガリは少しの間を開けて回答を寄越してきた。

「分からん、周囲の風景から地球の何処かだとは思うが、なんで軌道上のステーションから気が付いたら地球に居るんだよ」
「つまり、そこは生存可能な環境なんだな。問題は無いんだな?」
「あ、ああ、それは大丈夫そうだ。今はフレイとトールと一緒にいる。トールが軍用通信機を持っててくれて助かった」

 一緒に飛ばされたトールが通信機を持っていたからこちらに通信を送れたということなのだろう。とりあえずカガリたちに生命の危険はないと分かったことでミナは安堵の余り崩れ落ちそうになった。そして話を聞いていた科学者が意外そうな声を上げる。

「なるほど、アポートゲートであっても通信電波は双方向で移動できるのか。それともこれはアポートゲートと思っているだけで実は違うものなのか?」

 電波は通れるのかと意外そうに呟いた科学者は不意に両手を胸の前で合わせるように叩き、ミナとアスランを見た。

「電波が双方向で通じるのでしたら、先ほど言った座標の固定が一気に容易になります。向こうにガイドビーコン送信機を送り、こちらからそのビーコンの発信源をまとめてこちらに転送すれば全員を救出できます!」
「送るといっても、どうやってそのビーコンを送るんだ?」

 科学者の言葉にアスランが疑問をぶつける。科学者はいまだ光り続ける光源に向けて手を振り、アスランに説明した。

「幸いゲートはまだ閉じていません、いずれ消えるでしょうが、今ならこれで送れるはずです」
「なるほど……だが向こうの3人にそれは使えるのか。あれこれ説明していつか装置が完成してアスポートゲートが開いたときそれを稼働させろと?」
「それは、まあ……説明書などを用意して」
「分かった、誰かがレクチャーを受けて向こうに持っていくしかないということだな」

 余りにも頼りにならない会頭にアスランはため息をついた。自分の知る限りアスハ代表やフレイにはそんな物をうまく扱うスキルは無い。もう1人の男は分からないがこの状況であてにするのは危険すぎる。誰かメカに強い人間が向こうに行って操作するしかないだろう。
 アスランは意を決するとミナを見て言った。

「サハク外務卿、私が装備を持って向こうに行きます」
「だが、余りにも危険だぞ。このゲートが閉じたらこちらからの支援は一切できぬし、アスポート装置とやらが完成する保証もないのだ」
「3人を見殺しにするわけにはいきません。幸い私は多少技術屋としての知識がありますので機械には慣れておりますし、ザフト出身ですから戦闘訓練も受けています。あちらでアスハ代表たちを守ることも可能です」
「だが、貴公はプラントの駐在武官だろう。そんな人間を」
「本国から受けた命令は共に事態を収拾しろというものですから、命令違反にはなりませんよ。それに……」

 そこでアスランは一度言葉を切り、先の大戦で亡くした旧友の顔を思い浮かべる。

「フレイをこんなことで死なせたら、キラが化けて出てきそうで」
「貴公も難儀な性格をしているな」

 亡き友のために命を懸けると言い出すとは思わなかったミナは呆れて頭を左右に振ったが、暫く考え込んだのちに頷くと科学者にそのビーコンという物を彼に渡すように言い、内線で部下に歩兵用の装備一式を持ってくるように伝えた。
 命じられた科学者は急いで必要なガイドビーコンの用意に入り、そして扉が開いてミナの部下が歩兵用の背負い袋やライフルなどの装備を持ち込んでくる。
 すべての装備と科学者から受けといった道具を持ったアスランはミナを見て頷くと、駆け足で一気に光の中へと飛び込んでいた。アスランの姿が徐々に消えていくのを見送ったミナは目を閉じて勇敢な男の無事を信じてもいない神に祈り、そして何時もの冷徹な目で科学者たちを睨んだ。

「さて、お前たちの仕事は分かっているな。すぐにそのアスポート装置とやらの制作にかかるのだ。言わずとも分かっているだろうが完成できなければ」

 ミナの言葉に震えあがる科学者たち。やがて装置の光は消えていき、完全に焼失したのを見たミナはそれ以上は何も言わず身を翻して開発室を後にした。それを見送った科学者たちは顔を見合わせると、慌てふためいて仕事にとりかかった。もう興奮している状況ではない、向こう側に行ってしまった4人を助けられなかったら自分たちはエアロックから放り出されかねない。自分たちの命がかかってしまった彼らは必死にこの作業に取り組むことになる。

 そして室外に出たミナは本当にどうしたものかと天井を見上げて途方に暮れていた。装置とやらがいつ完成するのかは分からないが、それまでカガリは不在になるのだ。これをどうやてごまかせばいいのか、考えるだけで目の前が真っ暗になってくる。

「とりあえず、ユウナとホムラ殿に相談するか。今後の事を決めなくてはな」

 ユウナがまた悲鳴を上げるだろうなと頭の片隅で思いつつ、ミナは重い足取りで宇宙港に向けて歩き出した。とてもではないが通信でやれるような話ではない、おろふぁとで直接2人と顔を合わせて話し合うしかない重大事なのだ。
 ミナが厄介な事になったと思いながらステーションの管制室に戻ると、何やらやけに騒がしくなっている。オペレーターたちが必死に何かを調べていて、何か事故でもあったのだろうか。

「どうした、何を騒いでいる?」
「ミナ様、実はステーションの近くを航行していた大西洋連邦の軍艦があったのですが」
「軍艦がどうしたのだ?」
「……その、どう説明したら良いのか分からないのですが、忽然と姿を消しました」
「…………」

当惑した部下の報告に、ミナは目の前が真っ暗になりそうな衝撃を受けてしまった。まさか、あの場所だけの問題ではなかったというのか。周囲にも影響が及んでいたというのか。
 向こう側の世界とやらへ行ってしまう条件は分からない。だがステーションの外に居た軍艦がもしカガリと同じように向こう側の世界へと飛ばされたのだとしたら、そのワームホールとやらをくぐれる物にはサイズや質量の制限は無いのだろうか。
 部下の声がだんだん遠くなる中で、ミナはド説明したらいいのかと薄れゆく意識の中でそんな事を考えていた。

 
 こうしてオーブで起きた小さな、だが世界中を巻き込むことになる重大事件、カガリ消失事件は始まった。



ジム改 なんか久しぶりに書いてみた。
カガリ リアルが忙しくなったり色々あったりで完全に離れたからな。
ジム改 今頃になって余裕ができて映画をネトフリで見たんだよね。
カガリ 結局映画館には行かなかったな。
ジム改 ガンダム熱もすっかり消えちゃったしね、映画見たのも20年前の付き合いで何となくだったし。
カガリ 趣味をリアルに優先させるのは難しいからな。
ジム改 映画見て出てきた感想もお祭り映画だなー、20年ぶりだから当然だがなんか作風とかかなり変わったな~てだけだったし。
カガリ 前半SEEDっぽくて後半勇者ロボとかスーパーロボット物だったな。
ジム改 おかげでSEEDの映画見てる気がしなかった。
カガリ それでなんでこんな事してるんだ?
ジム改 いや、映画見てアホなネタが浮かんでそれが頭の中で展開してしまって、物語が出来ちゃったんだよ。
カガリ アホなネタって。
ジム改 いや、この世界に流離うの面倒組が迷い込んだらギャグ展開にしかならんよな~と。
カガリ 面倒組って私もか?
ジム改 死んでるフレイとトール、姿消してるアスラン、オーブに居るはずのカガリが珍道中してるんだ、分かる奴が見かけたらぶっ倒れるぞ。
カガリ 厄ネタ以外の何物でもねえ……
ジム改 そんな訳でカガリと愉快な仲間たちの物語をやってみたくなったのだ。
カガリ つまり主役は私か。それは良いがガンダムならMSはどうやって持ち込むんだ?
ジム改 頑張ってマリューさんと合流してください。
カガリ でもなんでイングリッド?
ジム改 映画見てて唯一気になったキャラだから。
カガリ ところで私らがもしキラに会ったら、キラがパニック起こして壊れないか?
ジム改 いきなり会ったら心霊現象遭遇レベルの恐怖とトラウマ再発コンボだからな。フレイとトールはキラが壊れた理由のトップ2だろうから。


 


次へ  前へ  一覧へ