第137章 散り逝く戦士
ラグランジュ4の宙域にある廃棄コロニー、メンデル。ここにはプラントも連合もその存在を把握していない第3勢力、ラクス軍が潜伏して力を蓄えている。ここでラクスは事務仕事をこなしながら、これからの予定を立てていた。そこに副官であるダコスタが吉報を持ってやってきた。
「ラクス様、月に向かわせた部隊が任務を達成し、帰還するとの事です。マーカスト艦隊は健在だそうです」
「そうですか、良かった」
久々に予定通りに事が運んだ事にラクスは表情を綻ばせた。キラの件といい、アスランの件といい、これまでの予定は完全に達成された事が少ない。この狂い続けてきた予定の中で久しぶりの吉報なのだ。
しかし、ラクスはこの作戦の意味に気乗りがしていなかった。ダコスタが必要だからと言うので許可したのだが、これは悪戯に連合を刺激しただけではないかと言う気がしていたのだ。このラクスの不安に対して、ダコスタは双方のバランスを取らなくてはいけないと答えている。
「第3勢力が意味を持つ為には双方の力がある程度拮抗している必要があります。もしここでマーカスト提督を失えば、プラントと地球連合の力の差はますます開いてしまいますから、助ける必要がありました」
「それは分かりますが、もし私たちの存在が知れれば不味いのではありませんか?」
「不味いですが、両軍のバランスが崩壊する方がもっと危険です。プラントが滅ぼされては元も子もありませんから」
ダコスタはあくまで両軍のバランスを取る事を優先していた。ラクス軍を組織した彼にとって、軍事力はあくまで双方のバランスを保ち、膠着状態を作り出して講和への機運を生み出す為の手段なのだ。そしてラクスにとっては双方が最終戦争への道を突き進むのを阻む為の力である。この辺りの認識の差がラクスたちの行動に不均衡を呼んでいると言える。
ただ、ダコスタはあくまでラクスの理想を優先している。だから自分の考えとラクスの考えがぶつかり合う時は何時もラクスに譲ってきたので、この組織はこれまで空中分解の危機を脱してきたのだ。
この件はこれで終えたラクスは、これからの事と個人的に気にかけている事を問いかけた。どちらとも随分前から進めている事なのだ
「ウィリアムス提督のこちらへの取り込みと、カガリ様との接触はどうなっていますか?」
「カガリ・ユラ・アスハのほうは近くまでのパイプは作りましたが、まだ彼女本人には接触できていません。とりあえずジャンク屋を通じてアメノミハシラのロンド・ミナ・サハクと交渉を行っていますが」
「長引きそうですか?」
「ロンドは姦計に長けた人物です。そう簡単にこちらの話には応じてくれないでしょう」
ロンド・ミナ・サハクの計算高さは有名なのだ。交渉相手としてはカガリよりずっと手ごわい相手といえる。だがほかにコンタクトを取れる相手もおらず、ダコスタはこの交渉を彼女と面識があるロウ・ギュールたちに託していた。
これはロウを信じるしかないラクスたちにとっては歯がゆい事ではあったが、仕方のないことでもある。ラクスは頷くと、ウィリアムスの方を聞いた。こちらにはダコスタは幾分か前向きな返答を返している。
「ウィリアムス提督は現政権に批判的な人物として知られていますし、理知的な人物でもあります。我々の考えを理解してくれる期待が大きいので、本国のファウド隊長に接触してもらう事になっています」
「ファウド隊長がですか」
イブン・ファウド提督はボアズ司令官だったが、ハルバートンのプラント奇襲攻撃を防げなかったという失態の責任を取らされて解任され、隊長職に左遷されてしまったのだ。彼は現在ラクスの同志というわけではないが、協力者として色々と軍部内で手を回してくれている人物だ。特に情報面で協力してくれて、今回のザフトの動きを教えてくれたのも彼だ。
2つの問題に対して答えを得たラクスは安堵して頷き、そしてまた顔を引き締めた。
「それでダコスタさん、父の居場所はつかめましたか。あれからもう随分経つのですが、何も掴めないのですか?」
「申し訳ありません。司法局に潜伏している同志に調査を頼んではいるのですが、居場所が絞り込めません。もしかしたら既に処刑されているのかも……」
そこまで言って、ダコスタはしまったという顔をして慌てて口を噤んでしまった。そして恐る恐るラクスの顔をうかがうと、彼女は酷く消沈した顔をして俯いてしまっている。彼女は彼女なりに自分の行動が父親を窮地に追い込んでしまったという後悔があるのだ。彼女にしては珍しく、自分の行いが生み出した結果を悔やんでいたのだ。
ダコスタはラクスへの報告を終えると退室し、ラクスは座っていた椅子から腰を上げて机の引き出しから写真立てを取り出した。そこには少し昔の自分とアスラン、そしてシーゲルとパトリック、レノアが映し出されている。自分が一番幸せだったころのワンシーンである。
「あの頃から、随分と遠くまで来てしまったものですねアスラン」
あの頃に見ていた希望のある未来は、もう見えなくなってしまった。時代は際限の無い破壊の末に滅亡へと転がり落ちようとしている。それを食い止めようにも、SEEDを持つ筈のキラとアスランは揃って自分の手から零れ落ち、自分に賛同してくれていた筈のフィリスまで離反してしまった。そのために実働戦力は著しく低下し、現在の苦境が続いている。
いや、そもそもの躓きはキラがバルドフェルドを倒してしまった時に始まっていたのかもしれない。彼がバルドフェルドを倒さなければ、自分は信頼できる優秀な指揮官を手元に置けただろうに。
「何故SEEDを持つ者が争う事になったのでしょう。私のやり方が間違っていたのでしょうか?」
アスランは自分が間違っているとはっきりと言い切り、フィリスはアスランが正しいと言って離れていった。キラは自分の理想に共感はしてくれたが、手を貸してはくれなかった。そして今、SEEDを持つ者は各勢力に分かれて激しく争っている。どうしてこんな事になってしまったのだろう。この歪んだ世界を正せるのはSEEDを持つ者たちだけの筈なのに。
宇宙で回収に当たっていたザフト艦隊は満載した艦艇から逐次本国へと戻っていき、少しずつその数を減らしていた。残っている艦艇は必死に上がってくるシャトルの収容に勤め、兵員を回収して回っている。その中にあったオルトマ号もまた、ダナン船長の指示の元、必死に身動きできないシャトルをミストラルで回収に出ていた。
だが、そこにとうとう恐れているものがやってきた。哨戒に出ていた強行偵察型ジンから艦隊に向けて警報が飛んできたのだ。それを受け取ったユーファが小さな悲鳴を漏らし、どうしたのかとダナンが問う。それに対してユーファは引き攣った声で報告をした。
「せ、せ、船長、地球軍の艦隊がこちらに!」
「そうか、とうとう来たか」
マーカストの陽動が上手くいったようで、地球軌道には不自然なほどに敵の姿が無かった。プトレマイオス基地が奇襲を受けた事で周辺の部隊が呼び戻され、一時的とはいえ軍事力の空白状態が生じていた訳だが、全てが居なくなった訳ではなかったらしい。その僅かな部隊がとうとう嗅ぎ付けてきたのだ。
ここからは地獄になると考えたダナンは、腹をくくる事にした。ここから先は敵の攻撃の中での収容作業をしなくてはならないのだと覚悟を決めたのだ。
スーパーメカカガリが活動を停止した頃、地上の戦闘は佳境を過ぎてザフトの完敗へとなだれ込もうとしていた。投入されている戦力に差がありすぎ、1機のジンに3機程度のダガーが襲い掛かるという一方的な戦いが続いている。ジンやゲイツは少しでも食い止めようと必死にその場に踏ん張っていたのだが、集中される砲火を前に次々に倒れていった。
こちらにビームライフルを向けてくるストライクダガーを狙って重突撃機銃を撃ちまくるジンが居る。その隣ではシールドを構えて必死に砲撃から身を守るゲイツが居る。だが彼らが2機で相手をしていた地球軍はMSだけでも20機はいて、更に戦車がぞろぞろ続いているという有様だったのだ。
だが、この状況でもまだ元気に戦っている馬鹿は居たのだ。
「邪魔だどけぇ!」
M1Bが空に飛び上がり、それを狙ってダガー隊がビームライフルを向けてくる。だがその直後に1機が真正面から攻撃を受けて爆発した。M1Bを援護するようにゲイツRが出てきたのだ。その攻撃に注意が向いている間に勢いをつけて降りていたM1Bがストライクダガーの頭を踏み潰して擱座させ、振り向きざまに2機のダガーの側面にビームを叩き込んで破壊する。
だがすぐにまた新しいダガー隊が現れて砲撃を加えてきて、M1Bは急いで後ろに後退していった。そして支援してくれたゲイツRの隣に機体を付け、ビームライフルを3発撃って下がるように言う。
「下がれフィリス、ここはもう駄目だ!」
「もう少し粘りたかったのですが、仕方ありませんか」
既に味方のMSの姿は周囲に無く、攻撃は自分たちに集中してきている。これまでの戦いで極力殿に留まる様にしていた彼らであったが、一緒に戦っていた連中はそうもいかず次々に撃破されていき、この辺りにはもう2人を残して文字通り全滅してしまったのだ。
だが、退くといっても簡単ではない。正面に現れるダガーの数はどんどん増え、放たれる砲火は密度を増していくのだ。大軍を揃えられるというのは絶対的な力であり、余程の技術力、技量の差が無ければ数の差を越えることは出来ない。イザークとフィリスは腕では圧倒できているのだが、機体性能の差は余り大きくは無い。こうなると数の差で埋められてしまうのだ。
地表を埋め尽くすような大軍で押し寄せてくるダガーやM1に流石のイザークも息を呑み、フィリスも震えを隠せなくなる。過去に幾度も敵の大軍を相手にしてきた2人だったが、これほどの圧倒的な戦力差を見せ付けられたのは初めてなのだ。
必死に退いていくM1BとゲイツRに容赦の無い攻撃が加えられる。その切れ目の無い驟雨のように降り注ぐビームと砲弾、ミサイルを前に2機のMSの足は遅く、遮蔽を移動しながらの後退を強いられてしまう。
その砲火に耐えかねて謝意物の影から出れなくなってしまったイザークとフィリスは、流石にこれまでかと覚悟をしていた。
「ちっ、もう逃げれん。出たら蜂の巣だ!」
「どうしますか、こうなった以上、もう?」
降伏という手もある、とフィリスが言外に伝えるが、イザークはそれを受け入れなかった。フィリスもイザークが受け入れるとは思っておらず、やっぱりかという諦めの色を見せて頷いている。
「お前まで付き合う事は無いぞフィリス、俺が出て行った後、お前は降伏しろ」
「いえ、ここまで一緒にやってきたんです。最後までお供させてください」
「……すまん、俺は最後まで迷惑かけっぱなしだな」
「もう慣れましたよ」
フィリスが笑顔を浮かべ、イザークも珍しく苦笑いを浮かべている。そして覚悟を決めて飛び出そうとしたら、いきなり最前列のダガー隊が3機直撃を受けて火を噴いた。そして更に後方から連続した砲撃が行われ、ダガー隊の足が止められる。
支援にやってきたのはルナマリアのフリーダムとジャックとエルフィのゲイツRだった。他にも対空型ザウートやガンナーザウート、ジンF型、ジンK型などがあるだけの砲を動員してダガー隊や航空機に砲撃を加え、その足を止めようとしている。
「ジャックたちか。だが何でルナが居る!?」
ルナマリアのフリーダムが居る事にイザークが何故居るんだと疑問をぶつける。ルナマリアは核動力MS隊に配属された筈なのに、どうしてジャックたちと居るのだ。それに対してルナマリアは驚くべき答えを返してきた。それはイザークでさえ目の前が真っ暗になるような凶報であった。
「ザラ隊長は敵のフリーダムの相手に行きました。他のジャスティス2機は撃墜されて、私が最後の生き残りです」
「ジャスティス2機が、落ちただと?」
核動力MS4機があって、あっという間に半数が撃墜されたというのか。そんな馬鹿げた事がとイザークは否定したかったが、この場にルナマリアのフリーダムがいてジャックたちと行動を共にしているのがその証拠だと言われるとどうにもならなくなる。ザフトが期待していた切り札はもう敗北していたのだ。
この一方的な状況にイザークは目の前が真っ暗になるのを感じていた。この戦力差を見せ付けられた事で、もうプラントは負けたと実感できてきてしまったのだ。
援軍の攻撃を受けて一時は混乱した地球軍であったが、すぐに立ち直ると反撃してきた。これに対してジャックたちも撃ち返し、短いが熾烈な砲戦が行われる。空から攻撃してくるスカイグラスパーやサンダーセプターには対空型ザウートの速射砲が唸りを上げて弾幕を張り巡らし、敵機が攻撃位置に入るのを防いでいる。地上ではルナマリアのフリーダムを中心に火力重視のMSたちが砲も焼けよと撃ちまくる。こういう場面ではジンK型やザウートの火力はありがたい。ゲイツRの2門のレールガンも意味がある。
ただ、MSの数が少なすぎた。1機辺りの砲数を増やして火力の不足を補おうというのは貧乏人の発想であり、戦力の柔軟な運用という面では効果が無い。むしろ1機落とされた時の影響が大きく、しかも多方面には対応できないのだ。砲が10門あっても、MSが2機で運用しているなら同時に2箇所しか撃てない。
「くそっ。ジャック、アスランは、ディアッカとレイ、シホは何処に行った!?」
「ディアッカさんとレイとシホは別の部隊を率いて迎撃に出ました!」
「アスランは分からない訳か!」
距離を詰めようと前に出てきたM1の胴体をビームで撃ち抜いたイザークが吐き捨てるように叫ぶ。日頃はアスランと意見をぶつけ合わせることの多いイザークだが、隊長として誰よりもアスランを認めているのも彼だ。そのアスランが突出したまま戻ってこないというのは彼なりに不安であるらしい。
だがここにこれ以上留まれば自分たちが全滅してしまう。イザークは特務隊次席指揮官としてアスランの代わりに部隊を後退させる事にした。
「よし、俺とフィリス、ジャックの指揮で3つの部隊に別れろ。交互に応戦、支援、撤退を繰り返しながらここから退くぞ!」
「ですが、それじゃザラ隊長が孤立します!」
ここから退くと言うイザークにエルフィが反対してきた。自分たちが最後尾に居るのだから、その自分たちが退けばアスランが1人で取り残される事になるのだ。
しかしイザークはエルフィの反対を無視して部隊を撤退させた。これ以上踏み止まればここに居る全員が戦死する事になってしまう。今のザフトにとって特務隊のパイロットたちは消耗品にするなど考えられない貴重な人材なのだ。彼らを後方に連れ帰り、最新鋭機に機種転換させればまだまだ役に立てるのだ。
「退けエルフィ、これは命令だ。お前1人のために全員を犠牲には出来ん!」
「ですが……」
「アスランはジャスティスに乗っている、大丈夫だ!」
イザークは自分でも信じていない嘘を口にした。ジャスティスも無敵のMSではない事は既に2機が叩き落された事で証明されている。それに地球連合にもジャスティス級の化け物のようなMSやアスランとサシで戦えるような凄腕が居ることはイザークも良く知っている。それらと交戦すればアスランも無事では済むまい。
だがアスランを待てばここで全滅させられてしまう。ここは退くしかないのだ。イザークはエルフィのゲイツを引き摺るようにして無理やりこの場を後退して行った。アスランが帰ってくると期待しながら。
中央から少し外れたところで地球軍のMS隊に追われて逃げ惑っている小数のザフトMS隊が居た。まとまった部隊という感じではなく、僅かな生き残りが必死に逃げているという感じだ。その中にはディアッカのシグーとシホとレイのゲイツの姿もあった。どうやら敗北して逃げている真っ最中であるらしい。
「まったく、地球の島でナチュラルに追われて逃げまくるなんてことになるとはな!」
込み上げてくる苛立ちをそう声に出してディアッカは機体を跳躍させ、右肩のレールガンと右腕の銃突撃機銃、左腕のシールドガトリングを敵に向けて撃ち放った。狙いを定めない掃射で、敵の足を止めるのが狙いの砲撃だ。これを受けて追撃してきていたダガー隊の足が止まり、盾を構えたり遮蔽物に身を隠したりしている。
砲撃を終えて機体を着地させたディアッカは周囲の機体に走るよう怒鳴りつけ、自らもわき目も振らずに逃げ出していく。その背後からまたビームが浴びせかけられ、ディアッカは罵声を放っていた。
「シット、キリが無いぜ!」
「ディアッカさん、このままじゃ全滅しますよ!」
「ああ、分かってる。分かってるが、シグーであの数は無理だ!」
シホが泣きそうな声で絶望を口にし、ディアッカが己の無力さに歯軋りする。ここに居る者では一番の凄腕であるディアッカだが、それでもどうする事も出来ないのだ。だから後輩を安心させてやる事も出来ない。せめて、今使っている機体がジャスティスやフリーダムならとディアッカは思ったが、それはどうにもならない愚痴であった。
ここまで戦力差が開くともう性能差とか腕の差とかいうレベルの話ではない。ザフトでも凄腕に分類されるディアッカでさえ牽制をするだけでも命懸けという有様なのだから、シホやレイでは何も出来ないのも無理は無い。
しかし、このままでは全滅させられてしまう。ディアッカも流石に観念しだしていたのだが、そこにようやく神の助けのようなものがやってきた。上空を1機の赤いMSが駆け抜け、戦闘機やMSに被害を与えて叩き落していったのだ。それを見たダガー隊が怯みを見せ、慌てて散開しながら後退していく。それはここまで孤軍奮闘を続けていたアスランのジャスティスであった。
「ディアッカさん、あれザラ隊長のジャスティスです!」
「ああ、でもなんであいつ1機なんだ?」
「ディアッカさん、シホ、敵の動きが止まったようだ。今の内に退こう!」
シホとディアッカが驚いているのを他所にレイが冷静に敵の動きを確かめ、敵が空を飛ぶジャスティスを警戒して前に出てこないのを確認して2人に退くように促す。それを聞いて2人は慌てて後退を始め、少し後退した所でアスランと合流する事が出来た。降りてきたアスランは3人にイザークたちのことを聞いてくる。
「ディアッカ。シホとレイも無事だったか。他の奴らはどうした!?」
「イザークたちは別のところで戦ってる筈だが、とっくの昔に連絡が取れないんだよ。あっちこっちで味方が分断されてるみたいなんだ」
「そうなんです。私たちの隊もこっちで頑張ってたんですが、後方と音信不通になって援軍も来なくて、とうとう総崩れになってここまで押し込まれてしまいました」
ディアッカとシホが迷子の子供のような情けない顔でアスランに泣き言を言ってくる。元々彼らは50機ほども居たのだが、ここに来るまでに8機にまで撃ち減らされてしまったのだ。アスランがこなければ追撃部隊の数に飲み込まれ、文字通り全滅させられていただろう。
事情を聞いたアスランはなるほどと頷き、とりあえず残存を纏めてカグヤに向かう事にした。ここに留まっていても全滅するだけであり、さっさと逃げるに越した事は無い。
アスランの指示に従ってディアッカたちが後退して行くのを見送ったアスランが最後尾を守ろうかと考えて振り返ると、まだレイのゲイツが残っているのを見てどうしたのかと声をかけた。
「どうしたレイ、早く退かないか」
「……あ、すいません。すぐ退きます」
アスランに急かされてレイが慌てて移動を始める。だが、レイはどうにも妙な違和感を拭えないでいた。レイはこれまでにも幾度か感じていた妙な違和感をまた感じていたのだ。そう、自分と同じような存在を感じ取れる力が反応している。
「何だ、この感じは前にも幾度か感じていたが。1つはフレイ・アルスターで、もう1つはオーブの中で感じていた気配、そして更に2つこの戦いが始まってから現れた。俺と同じような者が他にもいるのか?」
高度な空間認識能力を持つ者同士は互いの存在を直感的に感じる事が出来ると言われている。クルーゼはフラガを感じる事が出来ると言っていた事があるのだ。フレイもそういう力の持ち主であった。この力を持つ人間は少ない筈なのだが、この戦場にはそういった人間が集まってきているのだろうか。
この時、カガリはアークエンジェルをオノゴロ島中央にまで前進させていた。周辺にはダガーとM1が3重に展開しており、ザフトMSが攻撃してくるような余地は無い。だが飛び込んでくる報告はカガリを驚かせるものであった。
「右翼の先鋒部隊が壊滅状態になっただと。幾つかのMS隊が出鱈目に強くて被害が増大してるだ!?」
「オルガのカラミティがシグーを中心とした部隊に撃破されて後退してきてる。他にもダガー隊が大損害を出してるみたいだ」
CICで自軍の戦況を処理していたサイが前線の状況の変化をカガリに報告し、カガリがそれに驚いている。そしてその後ろで報告を聞いていたサザーランドもまた良い顔をしていなかった。この段階で尚抵抗を続けられるだけの戦力を持っているとは思わなかったのだ。
「流石はコーディネイター、という事ですかな。アスハ代表」
「コーディネイターって言ったって、どいつもこいつもキラみたいな奴じゃないんだぞ?」
「それはまあ、彼のようなのがゴロゴロしていてはたまりませんな」
「とにかく面倒な奴が居るのは確かみたいだ。こっちもそれなりの奴を送った方が良いんじゃないのか?」
「そうですな。パワーのMS隊にダガー隊をつけて送り出しましょう」
「アルフレットのおっさんか。なら安心かな」
サザーランドの推薦にカガリも納得して頷いた。アルフレットの強さはカガリも幾度か見た事があり、その化け物じみた強さには感服しているのだ。何しろフラガやキースが歯が立たないほどで、キラでも勝てるかどうか分からないというナチュラルじゃないだろとつっこみたくなるような男なのだ。
サザーランドの指示を受けてカズィがパワーに連絡を入れ、パワーが指示された方向に移動していく。それを見送ったカガリに今度はミリアリアが確認を取ってきた。
「トールが105ダガーに乗り換えて出撃すると言ってるけど、行き先はフラガ少佐たちのところで良いかしら?」
「ああ、それで構わない。装備はあいつの好みで出してやってくれ」
カガリの了解を得てミリアリアはトールに出撃許可を出し、トールはエールパックをつけて飛び出していった。それを見送り、カガリはマリューを振り返る。
「艦長、アークエンジェルを前に出してくれ。そろそろカグヤが見える筈だ」
「了解しましたが、それではこちらも狙い撃ちにされますよ。ザフトは強力な長距離砲を使用していますから、危険です」
カガリに対して友達気分が抜けないサイたちとは異なり、マリューは一応相手への礼儀を払った言葉遣いをしていた。まあ公式の場でなければ彼女の口調も砕けてしまうのだが。
だがカガリはマリューの進言を受け入れず、艦を前進させるように言った。それを受けてマリューも仕方がないかと諦め、艦を前進させる。
しかし、マリューたちは知らなかった。カガリの判断が遅かった事に。フラガたちの方に敵の主力が集中しようとしていたことに。ここでアルフレットたちが抜けた事が大きな失策であった事を彼女はすぐに思い知らされる事になる。
「撃ちまくれ、奴の足を止めろ!」
ダガー隊の隊長の命令が飛び、4機のストライクダガーがビームライフルを撃ちまくるが、それまで命令を飛ばし続けていた隊長機の上半身に重斬刀の刀身が突き立った。それはアサルトシュラウドを纏ったシグー3型で、かなりの重武装を施した機体だ。これが地球軍の右翼部隊を叩き潰した部隊の指揮官機だった。
そのままグリアノスは返す刀で右側に居たダガーの頭を斬り飛ばし、シールドガトリングで左側に居たダガーを撃ち抜いて破壊する。とにかく戦闘力を奪えればよく、止めなど刺している暇は無い。一瞬で3機も無力化されたのを見て他のダガーが怯えたように退こうとしたが、そこに雪崩れ込んできた8機のジンやシグーによって被害を拡大され、ボロボロになってしまった。彼らはグリアノスと共にここに残ったパイロットたちで開戦した時から戦ってきたベテランたちだ。
瞬く間にダガー隊を蹴散らし、敗退させたグリアノスたちは周囲を確かめ、ほかに敵がいない事を確認して一息ついていた。流石に連戦に次ぐ連戦は疲労が激しい。
「ふう、かなり叩いたな。これだけ叩けば行き足が止まっても良さそうなものだが……」
「無理っぽいですね、連中叩いた部隊を後送して予備で穴埋めしてるみたいです」
「叩いた部隊を後送できる余裕と損害を即座に埋められる予備兵力か、羨ましい限りだ」
ザフトにそれがあれば、この戦争はとっくに終わっていただろう。ザフトは地球連合の圧倒的な数と軍事システムに止められてしまい、今日の敗北を強要されている。地球連合諸国の軍隊は豊富な経験によって作られた高度な軍事組織と運用ドクトリンをもち、歴史と伝統に裏づけされたシステムによって長期戦に耐えられる基礎体力を持っていたのだが、作られて間もなかったザフトにはそういったものがなく、机上のドクトリンと急造の組織と経験の浅い、もしくは全く無い将兵で戦うしかなかった。結果として兵士の能力と兵器の性能差で緒戦こそ押し切れたのだが、その後はあっさりと攻勢限界点を超えてしまい、補給が続かなくなってしまった。それからずるずるとここまで来てしまったのだ。
だが、今更愚痴っても何の意味も無い。現場の兵隊は目の前の現実に対処する事しか出来ないのだから。
「そろそろ弾薬が限界だ。一度カグヤまで退くぞ」
「そうですね、カグヤの方に向かった敵を行きがけの駄賃に叩いて退くとしますか」
そう決めると、彼らはカグヤの方向に向かって移動を開始した。丁度この頃パワーを中心とする部隊がこちらに向かっており、移動が遅くなればこれとぶつかっていただろう。彼らは運が良かったと言える。
そしてカグヤの前面では特務隊を中心とする部隊が必死の抵抗を繰り広げていた。殿に残っていたMS隊を纏めてフラガを中心とするMS隊を防いでいるのだが、こちらも数が違いすぎてどんどん押し込まれていた。だが頼みの核動力MS部隊はルナマリアを残すのみとなり、アスランはまだ戻ってこない。このままでは抜かれるのも時間の問題と言える状況であった。
「ちっ、これ以上は退けない、ここで踏ん張るぞ、ジャック!」
「だけどジュール副長、足付きが押し込んできたらどうしようもないですよ!」
地球軍の猛烈な砲火の中で必死に反撃を行っていたイザークは決死の覚悟で踏み止まるよう命令していたが、周囲の仲間たちの士気は崩れかけていた。普段は強気なジャックでさえ弱気になっているのだ、より経験の浅い兵はもうとっくに逃げ腰なのではないだろうか。
ここに悪い事にアークエンジェルが迫ってきていた。これはフリーダムを含む最強の打撃部隊を伴っており、これがなだれ込んでくればこの戦線は間違いなく突破されてしまうだろう。それだけは防がねばならないとイザークたちは考えていたが、それを可能とするような戦力はもう残ってはいなかった。たとえ死ぬ覚悟を決めて踏み留まったとしても僅かな時間を稼ぐのが精一杯だ。それでは意味が無い。
せめてアスランやグリアノス級のパイロットが居てくれれば敵に痛撃を与える事も可能だろうに、これでは全滅までの階段を転がり落ちるしかない。
しかし、視界に徐々に膨れ上がってきていたアークエンジェルの巨体が、いきなり側面からの直撃弾を受けて大きく揺らいだ。バスターの高エネルギー収束ライフルや超高インパルス砲の直撃さえ持ち堪えるアークエンジェル級の装甲を一撃でぶち抜くような砲など限られている。まして地上で運用できるとなると1つしか存在はしない。
「アーバレストか。だが誰が撃った、ガンナーザウートか!?」
この場にアーバレストを装備した機体はガンナーザウートしか居ない筈。だがこれらは後方からMSへの狙撃に忙しく、アークエンジェルを狙う暇は無い筈だ。しかもその構造上から仰角俯角の余裕が少ないので空を飛ぶアークエンジェルを狙うのは困難な筈なのだ。となるとどこかにアーバレストを持ったゲイツでも居たのだろうか。そう思って周囲を見渡したイザークの目に飛び込んできたのは、側面の岩山を背に機体を支えている真っ赤なストライクの姿であった。その腕にはアーバレストの砲身が抱えられている。
そう、アークエンジェルを狙ったのはユーレクだったのだ。機体を支える力の不足は岩山を背にする事でこれに吸収させたのだ。直撃を受けたアークエンジェルの右舷後部から煙が上がるのを確かめたユーレクは、感心した目でアーバレストの砲身を見ていた。
「なるほど、当てればどんな装甲でも貫通してみせる、というキャッチフレーズに偽り無しだな。あのアークエンジェル級の装甲を紙のようにぶち抜くとは」
とんでもない砲を作ったものだとユーレクは感心したが、そんな事に気を向けている暇は無かった。これで場所を明かしたストライクルージュに怒ったように105ダガーやストライクダガー、そしてフォビドゥンが向かってきたのだ。
「舐めたマネしてくれるじゃんか!」
ニーズヘグを構えてストライクルージュに突っ込んでくるフォビドゥンに、ユーレクは薄笑いを浮かべてアーバレストを手放し、対艦刀を握り締めた。そして背負っているレールガン2門を発射してフォビドゥンの足を止めると、スラスターを吹かせて機体を跳躍させて一気に斬りかかった。それに対してシャニもニ-ズヘグで応戦しようとしたのだが、迎え撃とうとしたのが不味かった。斬りかかってきたストライクルージュは迎撃の構えを見せたフォビドゥンにコンバインドシールドの6連ガトリング砲を向けて砲撃を加えてきたのだ。この砲撃をまともに受けたフォビドゥンはTP装甲のおかげで大した被害は無かったのだが、それに怯んだ隙にルージュに懐に入られる失態を犯している。
そのまま袈裟懸けに振り下ろされた対艦刀がニーズヘグと左側のゲシュマイディッヒ・パンツァーを両断してしまった。鎌を斬られたのを見たシャニが驚愕して目を見開いている間にもルージュの動きは止まらず、背面に突き出しているレールガンの砲身を掴んでルージュをフォビドゥンの上に引き上げ、そのまま背負い式の背部ユニットを蹴ってアークエンジェルに向かって跳躍した。踏み台にされたフォビドゥンは地上に向けて吹き飛ばされ、シャニが顔を真っ赤にして振り返り、フレスベルグを起動させていた。
「てめぇぇぇ!」
鎌と偏向シールドを破壊された上にレールガンを一門へし曲げられたフォビドゥンは無残な姿になっており、怒ったシャニは怒りに任せて誘導プラズマ砲を発射した。それはルージュに向かっていったが、途中に居た味方の105ダガー4機を吹き飛ばしてルージュには届かなかったりする。ルージュの迎撃にために味方機が集まっていたのが災いしたといえる。
シャニが突破されたのを見て空戦パックやジェットストライカーを装備した105ダガーやダガーLがルージュを食い止めようと前に出てくるのだが、その途端それまで空を飛んでいたルージュが地上に向けて降下してしまった。元々自由機動が出来るようなMSでは無いので落ちる事はおかしくないのだが、問題なのはこれでルージュが森の木々に隠れてしまった事だ。
何処に行ったのかと熱源を探そうとしたダガー隊に森の中から正確なレールガンとリニアガンの砲撃が叩きつけられ、2機が直撃を受けて落とされてしまう。更に森に火が付き、熱源探索が出来なくなってしまった。
「くそったれ、戦い慣れた奴だな。トール、降りてあいつを叩くぞ!」
「了解!」
フラガのクライシスとトールの105ダガーが地上に降下していく。敵が地上に居るのだから地上でこれを討ち取ろうと考えたのだが、その前に更に砲撃が加えられ、アークエンジェルの底面に続けて被弾の火花が散り、アークエンジェルが傾くのが見えた。
この時被弾したアークエンジェルでは大変な事になっていた。ユーレクが放ったアーバレストの砲弾は右舷機関部を撃ち抜いており、右舷側の推力を著しく低下させていたのだ。これでバランスを取るのが難しくなった所にさらに砲弾が続けて着弾した為に姿勢を維持できなくなるほどの被害を受けてしまったのだ。ユーレクは弱っていた右舷機関部を集中的に狙い、アークエンジェルを落とそうとしていたのだ。
この状況で総舵手のノイマン中尉はなお屈そうとはせず、天才的なセンスによってアークエンジェルの墜落を防ごうとしていた。だが推力が衰えると共に高度が下がるのは避けられず、ついにマリューに着水の許可を求めた。
「艦長、推力急速に低下、高度を維持できません。海に着水します!」
「海岸まで持つの、ノイマン中尉!?」
「持たせますよ、艦長!」
この絶体絶命の窮状にあってなお余裕を口元に浮かべて見せるノイマン。その皮肉な笑みはマリューたちを安心させるだけの効果があった。ノイマンの操縦の腕はアークエンジェルクルーなら誰もが認めるものなのだ。
ただ、この状況の中でマリューは苦みばしった顔でカガリを見やり、やっぱりと呟いていた。オーブ旗艦を襲うジンクスは本当だったのだ、と。
ふらつきながらも必死に海岸に向かうアークエンジェルの傾いた艦橋で適当な物につかまって体を保持していたカガリは、あれは何だとユウナに聞いていた。
「おいユウナ、何だあのストライクは!?」
「あれはストライクルージュだよ。元々は君の為にストライクの予備部品を使って作ってた玩具なんだが、君がM1Sを自分用に持ち出しちゃったから代わりに新技術の試験機にしてたんだよね」
ユウナはカガリにジャーマンを決められて目を回して空いた椅子に固定されていたのだが、いつの間にか目を覚ましていたらしい。この状態でもカガリの質問に答えるのだから大したものだろう。ある意味参謀の鏡と言えるかもしれない。
ユウナの説明によると、元々ストライクルージュはパワーエクステンダーと命名された新型バッテリ-と改良型PS装甲を装備したストライクとでも言うもので、IWSPの搭載試験機という意味合いもあった。実はIWSPはモルゲンレーテが大西洋連邦のPMP社から譲られた新型兵装パックであったのだが、オーブでは扱いきれるパイロットもおらず、またM1の華奢なフレームでは扱いかねる装備であった為に量産型にまでは発展しなかったのだ。ただそのデータと実機はPMP社に送り返され、大西洋連邦で開発された新型パワーパックと組み合わされる事でようやく実用化されていたりする。中々に波乱に満ちたストライカーパックといえるだろう。
目の前のルージュはPMP社から送ってもらったその量産型IWSPを装備したルージュで、数次にわたる改修を受けた事で基本性能はストライクG型と同等レベルに達している。いや防御力は新型PS装甲によって世界最高のものを持っているとさえ言える機体である。
なお、このルージュから得られたデータを元にザフトがインパルスなどに採用したVPS装甲を開発して地球連合軍を苦しめる事になるのだが、それはまた未来の話なので割愛する。
「んで、何でそのヤバイルージュが敵に渡ってるんだ?」
「そりゃまあ、モルゲンレーテの試験場にスーパーメカカガリなんかと一緒に置いてあったからねえ。あれも接収されたんだろうねえ」
「そんな物騒な物放っておくんじゃねえよ!」
「あの状況で爆破する余裕があったと思う?」
逆切れしていたカガリであったが、ユウナに冷静に切り返されて言葉に詰まってしまった。あの状況でそんな器用な事が出来るのかといわれたら、まあ無理だろう。そんな暇は無かったのだから。
カガリが黙り込んだのを見てサザーランドがマリューに何か言おうとした時、いきなりフラガから緊急の通信が飛び込んできた。それは想像を絶するような恐ろしい内容であった。
「艦長、キラとフレイをこっちに回してくれ。かなり厄介な事になってる!」
「どういう事です?」
「俺たちが地上に降りて敵を探したんだが、見つかるのは撃破された味方のダガーばかりなんだよ。どいつもこいつも真っ二つにされたり撃ち抜かれたりで、酷い有様だぜ」
「それじゃあ、地上部隊は?」
「かなり酷い有様になってる。一度退いた方が良いかも知れんぞ」
あのフラガが弱気な事を言ってくるのだから、余程の事態なのだろう。この話を聞いたサザーランドはなるほどと頷き、カガリに全軍の一時後退と攻撃の再編成を進言する事にした。
「アスハ代表、このままの無理攻めは味方の被害が大きすぎると思われます。ここは一度仕切り直し、再度攻勢をかけましょう」
「でも、それじゃ敵を取り逃す事にならないか?」
「どうせ宇宙軍が待ち伏せしています。彼らはプラントの土を踏めません」
宇宙軍を軌道上に展開させて脱出した部隊も逃がすまいと画策していたらしいサザーランド。だが、この時宇宙の地球軍はプトレマイオス基地が襲われたという知らせを受けて月基地に集結を始めており、地球軌道は一時的とはいえむしろ手薄な状態になっていたのだ。その事を彼はまだ知らなかった。
サザーランドの進言を受け入れたカガリが全軍の後退を命じ、カズィがそれを各部隊に伝達していく。そしてCICが再編成の準備に入ろうとしたとき、ミリアリアが悲鳴を上げた。
「トール、トール返事をして、トール!?」
「どうしたの、ミリアリア!?」
「トールが、トールのシグナルが消えました!」
「何ですって。フラガ少佐を呼び出して、トール君の状況を確認させなさい。何が起きたっていうの!?」
フラガと一緒に居た筈のトールがそう簡単に落ちる筈が無い。マリューはそう思ったのだが、続いて通信機から聞こえてきたのはフラガの悲鳴であった。
「こちらフラガ、赤いストライクとぶつかってる!」
「少佐、トール君のダガーは!?」
「胴体に大穴開けられて擱座してる。生きてるかどうかは確認できん、そんな暇が無……」
フラガの報告は最後まで続かなかった。何かが壊されるような音が突然響き渡り、そのまま空電の音が艦橋に響いている。それが何を意味するのか言うまでも無いだろう。そしてミリアリアの呆然とした声が艦橋に妙に大きく伝わっていた。
「フラガ少佐機、シグナルロスト!?」
「そんな、ムウまでっ!?」
アークエンジェルの誇るエンディミオンの鷹が落とされた。この事に艦橋の全員が声を無くし、マリューが悲鳴を上げる。彼女にとってこれは昔の辛い記憶を呼び覚ます状況だった。
モルゲンレーテの工場に進出してきたフレイはエドワードとマユラ、アサギのダガーLを連れて地下格納庫に来ていた。その後ろにレジスタンスや自由オーブ軍の歩兵が続き、社内を捜索している。ここはオーブの重要施設の1つなので速めに確保しておきたかったのだ。
フレイは歩兵隊と工兵隊からの報告を受け取り、社内各所に設置されていた爆破装置を解体したという知らせを受けてほっと一息ついていた。これで目的は達成したからだ。だが、そんな彼女に地下からとんでもない報告がもたらされた。地下に核弾頭があったというのだ。この知らせを受けたフレイは急いで最下層に降り、そこにある核弾頭を確認した。
「これが核なんだ。でも、隣にあるガラクタは何?」
「さあ、我々にも分かりません」
工兵がフレイの質問に困った顔で首を横に振っている。彼らもこんな物は見た事が無いらしい。ただ、核弾頭は起爆シークエンスは発動しているそうで、NJの影響で爆発しなかったらしいと答えている。
そして、最下層に転がっているザフトの兵士らしい複数の死体もまた訳が分からなかった。これを設置したのはザフトで間違いないだろうが、どうして死体が転がっているのだろうか。しかも全員とんでもない口径の銃で撃たれたようで、体が砕かれていたり千切れてしまっている。その遺体を見ていたエドワードは服の内側に施されている棺桶を象ったマークを見て顔を顰めていた。
「やっぱり、ザルクか。となるとあれはクルーゼ隊長の仕業か」
「ん、どうしたのエドワード?」
エドワードの呟きが耳に入ったのか、マユラがどうかしたのかと近づいてくる。エドワードはすぐに服を戻してやるとなんでも無いと言ってその場から離れていった。それを見送ったマユラは変な奴と首を傾げていたが、アサギから呼び付けられて慌ててアサギの方に走って行ってしまった。
地球軍が後退した事でザフトもカグヤ正面まで後退する事が出来た。だがカグヤに集結出来たザフトの数は初期の防衛配置戦力の3割以下であり、どれほどの犠牲が出たのかを無言のうちに物語っている。
アスランたちもカグヤで再会する事が出来、エルフィが泣きながらアスランに抱きついてきたり、イザークとディアッカが腕をぶつけあおうとしてクロスカウンターになったり、ルナマリアが歯軋りして悔しがっている隣でレイが呆れたため息を漏らしていたりと、まあいつも通りの光景が見られている。
だが彼らに再会を喜び合っている暇は無かった。最後のシャトル3機がレール上に待機しており、これに乗り遅れたらもう帰る事はできないのだ。MSはフリーダムとジャスティスだけ積み込み、残りは全て放棄して人間だけでも送り出す事になっている。アスランはエルフィたちにシャトルに乗り込むように言い聞かせると、報告をしにグリアノスのところにやってきた。
「グリアノス隊長、残存戦力をシャトルに移乗させます。敵の攻撃が何時再会するか分かりませんから、隊長たちも早く乗ってください」
「おお、アスランか、良い所に来たな」
アスランを迎えたグリアノスは笑顔でアスランを招きよせる。だが、その笑顔を見たアスランは何故か妙な胸騒ぎを覚えてしまった。こういった顔に、アスランはこれまでの戦いの中で幾度かこういう顔を目にした事があったのだ。そう、死を覚悟した顔を。
不安に駆られたアスランは恐る恐る、その悪い予感をグリアノスに問い質した。間違っている事を期待しながら。
「あ、あの、グリアノス隊長、まさか……」
「アスラン、我々が残って敵を食い止める。その間にお前が全員を脱出させるのだ」
やはり、とアスランは思った。確かに誰かが残って地球軍を食い止める必要がある。敵がこのまま黙って行かせてくれるなどと思うのは甘すぎる妄想でしかない。グリアノスの武人型の性格を考えればこう言い出すのは予想できた事だった。
アスランはグリアノスの考えに反対したかったが、反対できなかった。アスランとて指揮官として半年以上戦い続けてきたのだ。その頭の中には感情に流されない指揮官としての冷静な部分が確かにある。その部分がグリアノスの判断を妥当なものだと答えを出しているのだ。しかし、アスランという人間は誰かを犠牲にして自分が生き残るという行動を良しとはしない。
己の中の葛藤に苦しんでいるアスラン。それを見たグリアノスはアスランの肩に右手を置くと、静かに首を横に振った。
「アスラン、お前の仕事はみんなを無事に連れ帰る事だ、いいな」
「ですが、隊長には家族が居るでしょう。私は天涯孤独の身ですから、私が残った方が……」
「アスラン、先のある若者がそんな事を言うものではないぞ。それに、プラントに家族が居るからこそ我々は残るのだよ」
そう言ってグリアノスは自分と共に残ってくれる8人のパイロットたちを見た。彼らはみな30を超えた、パイロットとしては適齢期を過ぎたと言える老兵なのだが、その技量は凄まじいの一言に尽きる。グリアノスと共に世界中を転戦してきた歴戦の勇者たちであり、プラントに家族を残してきている父であり夫でもあるのだ。その彼らが揃って残るというのがアスランには分からなかった。
「何故ですか、残された家族が悲しむとは思わないのですか!?」
「勿論、それは分かっている。だがなアスラン、我々は政府の掲げる大儀の為ではなく、家族のために戦場に出てきたのだよ。戦火がプラントに及ばない事、それだけを願って戦ってきたのだ」
「だから、ここに踏み止まって我々を逃がすと?」
少数の精鋭が残って多数を逃がす為に踏ん張るというのは昔から幾度となく行われてきた軍事上の常套手段であり、撤退を成功させるのに最も有効な戦術の1つだ。1を犠牲にして9を逃がせれば再度仕切り直す事が出来る。1を失う事を恐れて全てを無くしたという事例が掃いて捨てるほどあることを考えれば、この殿を犠牲にするという考えは極めて効果的だといえる。
グリアノスの判断もそうしたものだろう。たった9人の犠牲でシャトル3機分の将兵を脱出させる事が出来るなら、それはプラントにとって大きな意味を持つ。たとえ兵器を無くしても兵が残れば軍の再建は不可能ではないからだ。戦う者が残らなければプラントを守る事は出来なくなる。そうなればプラントは地球軍に破壊されるか、降伏して隷属状態におかれることになる。それだけは防ぎたいのだ。
「それにだ、我々は余りに多くの若者を犠牲にしすぎたよ。戦争は大人の仕事だというのに、10代の少年が何十万人散っていった事か」
「……そう、ですね」
アスランにとってもそれは重い意味を持つ。足付きを巡る戦いだけでもアスランはラスティ、ニコルを失い、台湾でミゲルも戦死した。精鋭を称えられ際立った生還率を誇る自分たちでさえ3人も失っているのだが、他の隊では新人は最初の出撃で全員未帰還ということが珍しくはない。特にヨーロッパ、アジア全域での敗北で失われた兵力は60万に達するのだ。これは大量の増援を受けて兵力を強化した地上軍であっても50%にも達する損害である。このうち何割が戦死したのかは分からないが、その半数以上が捨石にされた未訓練の14、5歳の子供であった。
後方の評議会や統合作戦本部は訓練兵を投入してその死体でもって敵を食い止め、ベテランを宇宙に脱出させるという作戦を立てているのだが、それが生み出した現実に立ち向かうのはその前線のベテランたちなのだ。評議会の方針を考えればシャトルに乗った少年兵を出してでもグリアノスを宇宙に上げるべきなのだろうが、彼はこれを拒否している。
「アスラン、1人でも多くあの子達をプラントに連れ帰ってくれ。後に続く者が居なければ、戦争に勝てもプラントに未来は無いのだからな」
「グリアノス隊長……」
「これ以上何も言わせるなよアスラン、お前も指揮官なのだからな。これからはお前たちが新兵の面倒を見てやれ、いいな」
アスランの肩を強く叩いて、グリアノスはアスランから離れて部下たちにMSに搭乗しろと指示を出した。そして自らは管制塔に向かう。こちらにも脱出のチャンスを捨てて最後まで管制を続けてくれている兵士たちが居るのだ。
だが、その途中でグリアノスはユーレクの待ち伏せを受ける事となった。壁に背をつけて腕組みをしながらじっと待っていたらしい彼は、やってきたグリアノスに声をかけてきた。
「物好きな男だな、自分から死にに行くのか?」
「貴様は、確かクルーゼの傭兵のユーレク、といったか?」
グリアノスはクルーゼの部下がこんな所に居る事を不審に思ったのか、訝しげな目を向けている。しかしユーレクはそんな視線など全く意に介さず、自分のペースで話を続けていた。
「ここを脱出できたとしても、宇宙には敵の待ち伏せがあるぞ。其方はどうするのだ?」
「アスランたちが居る、彼なら上手くやるさ」
「……そうならば、良いがな」
グリアノスの答えを聞いて、ユーレクは壁から背を離した。自分もこの便に乗らないと宇宙に出れなくなってしまうのだ。去っていこうとするユーレクの背中に向けて、グリアノスがすこし躊躇った後にシャトルの安全確保を頼んだ。
「シャトルの事を頼んでも良いかな?」
「生憎だが、私はボランティアでは動かん事にしている。何かを頼むなら相応の報酬が必要だ」
「なるほど、金さえ払えばクルーゼにも手を貸す、か。プロ根性があって結構な事だな」
グリアノスはユーレクの答えに些か侮蔑の色を浮かべていたが、これが傭兵というものだと自分を納得させ、彼に財布を投げつけてやった。それを右手で掴んだユーレクは、何のつもりだと問い返す。
「その中に私のサイン入りの請求書がある、好きな額を書いてザフトの会計に申請しておけ。財布の中身は前金だ」
「……こんな杜撰な払いの仕事など、請けると思うのか?」
「金が入れば何でも良かろう。後の事、頼んだぞ」
ユーレクに護衛を頼んでグリアノスは管制塔に行ってしまった。ユーレクはどうしたものかと財布の中を確かめ、そしてそれをポケットにねじ込んでスタスタとシャトルの方に歩いて行ってしまった。
再編成を完了した地球軍は進撃を再開した。総旗艦であったアークエンジェルはどうにか海岸まで辿りつき、着水して海底に底を着いている。いずれ工作艦で浮揚修理をする事になるだろう。だが通信機能は維持できている為、カガリはアークエンジェルに留まって全体に指示を出し続けていた。
「良いかお前ら、今度こそカグヤを落とすんだぞ!」
軍の命令というより喧嘩に向かう学生のような指示であったが、とりあえずMS隊は気勢を上げてカグヤへと突入していった。この部隊を率いているのはアルフレットであり、キラやフレイ、シンなども含まれている。だが、彼らはカグヤを目前にしてザフトの最後の抵抗を受ける事となった。たった9機のMSが突入してきただけだったのだが、これが想像以上に強くて地球軍に夥しい犠牲を強いてきたのだ。
この最後の抵抗に対して予想以上の被害を出したアルフレットは、まずこの連中を片付ける事にした。この場で戦っているMS隊に対して敵を1機ずつ包囲して攻撃を集中して確実に仕留めろと命令を出したのだ。
これを受けてジンやシグー、ゲイツが1機ずつ分断されていき、10機ほどに包囲されて集中攻撃を受けて確実に破壊されだした。幾ら強かろうとこういう戦い方をされれば持ち堪える事は出来ないのだ。
この無茶な戦場の中で、グリアノスのシグーは重突撃機銃と重斬刀を振り回して死神のような活躍をしていた。彼が通った後には擱座したダガーやデュエルが転がっており、地球軍のパイロットたちが怯えて逃げ出す有様だ。
この出鱈目に強いシグーを落とすべく、キラのフリーダムとシンのヴァンガードがやってきた。フリーダムの姿を見たグリアノスは流石に焦りを見せ、シャトルの方を確かめる。
「まだか、まだ出ないのか。こちらはもう持たんぞ!」
放たれるプラズマ砲を回避しながらグリアノスがたまりかねて叫んだ。既に部下が何人残っているのかさえわからない状態なのだ。
この時シャトルは発進準備をようやく終えようとしていた。兵員の搭乗も殆ど終わり、アスランが一番前の席でじっと目を閉じて座っている。そこにイザークが搭乗が完了したと知らせてきた。
それに頷いたアスランが管制塔に発進準備完了を告げ、管制塔からはカウントダウンを短縮して緊急発進させるという返事が返ってくる。だが、それを聞いた隣に座っているエルフィが驚いた顔でアスランを見てきた。
「待ってくださいザラ隊長、管制塔の人たちはどうするんです。それにグリアノス隊長たちもまだ……!?」
まだ基地に残っている人たちが居る、戦場に残っている人たちが居る。それを置いて行くというのかとエルフィが声を上げようとしたが、アスランの横顔を見て声を無くしてしまった。その顔には例えようも無いほどの無念の感情が滲み出ていて、口元からはかみ締めすぎた唇から血を滲ませていたのだ。
隣で勢いを無くしているエルフィに気付いているのかいないのか、アスランは其方を全く気にせずに管制塔に最後の指示を出した。
「我々が飛び立った後、降伏しろ。オーブの新代表カガリ・ユラ・アスハは話の分かる人物らしいからこちらに申し出れば少しはマシかもしれない。もしくはレジスタンスのフレイ・アルスターを頼れ。俺の名を出せば無碍にはされん筈だ」
「……そうしますよ。後はお願いします、隊長たちに星の加護があることを祈っていますよ」
「ありがとう。戦争が終わったらまた会おう」
それを最後の通信が切れ、シャトルの中を沈黙が支配した。自分たちが逃げる為に命を投げ出している人間がそこに居る、その事を初めて知った者がこの中にどれほど居るだろうか。その中でもアスランやイザークなどは取り乱す事も無く、じっと椅子に腰掛けて静かに耐えている。彼らはこういう事態への覚悟が出来ていたのだ。
だが、耐えられない者も居る。シャトルの中の兵士たちの幾人かが席を立って外に向かおうと通路に出ようとして、先頭の奴がその足をディアッカに払われて豪快に転んでしまう。
それ足を止めた残りの奴らに向けて、ディアッカは少し据わった目で釘を刺してきた。
「座ってろ、もう発進だ」
「だけど、まだ外には!?」
「行ってどうする、お前らが行って何の役に立つってんだ。足手まといを増やすより、俺たちがさっさと出て行って降伏してもらった方がまだ生き残れるんだよ!」
叩きつけるようなディアッカの言葉に、兵士たちはその場に立ち竦んでしまった。普段は陽気で羽目を外しており、問題児として知られるディアッカがこんな事を言うとは誰も思わなかったのだろう。
そして、ディアッカは彼らに止めとも言える言葉を叩き付けた。
「俺たちには、もう何も出来ないんだよ!」
何も出来ないと言われた兵士たちは屈辱に肩を震わせていたが、ディアッカに言い返すだけの何かを持ち合わせていなかったようで全員がスゴスゴと席に戻っていった。
この騒ぎを見ていたエルフィは、これで本当に良いのかとアスランに聞きたくて仕方が無かったのだが、アスランの震えている肩や必死に何かを堪えている顔を見ると、その答えが分かりきっているように思えて何も聞けないでいる。アスランも辛いのだと分かってしまうから。
戦場では鬼神が踊っていた。周囲には無数のダガーやM1の残骸が転がり、3機のMSが超人的な強さで他者の入り込めない戦いを演じている。1機のシグーがフリーダムやヴァンガードを相手に退くどころか、むしろ押し返している。76mm弾の連射がフリーダムの装甲を叩き、重斬刀がプラズマ砲の砲身を1つ叩き折る。キラは必死にフリーダムを操っていたが、シグーはキラの動きを上回って見せて、キラをパニックに陥らせていた。
「何で、どうしてシグーなんかに。これユーレクさんが乗ってるの!?」
ユーレクが使っていたシグーの新型と同じ機体なので、パイロットがよければフリーダムに負けない動きをするのは分かる。だが、生半可なパイロットでは自分とフリーダムには付いてこれない筈なのだ。ならばこれを使っているのはユーレクなのだろうか。
そんな事を考えている間にも肩のレールガンが放たれ、上半身に直撃を受けたフリーダムが大きく仰け反った。そこに追撃をかけるように右肩のジョイント部にシールドガトリング砲を押し当て、高速弾をジョイント部にありったけ撃ちこんでここを千切ってしまった。
砲弾を撃ちつくしたガトリング砲を放棄してグリアノスは一度フリーダムから離れた。流石にこれ以上の攻撃は機体に無理がかかりすぎる。しかし、グリアノスはどうにも違和感を拭えなかった。このフリーダムの動きにおかしさを感じてしまったのだ。
「このフリーダム、動きが単調だから読めるが、何なのだ一体?」
強い事は強いのだ。反応は化け物じみて速いし、感も優れている。パイロットとしてみれば自分をも凌ぐ資質を持っていると思えるのに、動きは単調でバリエーションが無い。何時も同じ情況になると同じ動きを見せるし、同じ方向に避けようとする。まあそのおかげで持ち堪えているのだからありがたい事ではあるのだが。
そして、フリーダムとは全く逆に出鱈目な動きでさっぱり読む事が出来ないヴァンガードが槍を手に襲い掛かってきた。こちらは素人丸出しの出鱈目な動きを見せ、定石というものさえ知らないとしか思えない無駄の多い動きを繰り返している。ただ、こちらもパイロットの資質は優れているようで反応などは凄く良かった。
「だが、まだ機体の性能に頼りすぎているな!」
突き出された槍の穂先を重斬刀で殴りつけ、重斬刀を失いながらも地上に逸らしてしまう。そしてガトリング砲の無くなったシールドの先を胸部に突き刺すように叩きつけて弾き飛ばし、そのままシールドを捨ててビームサーベルを抜いた。
「クライシスがビームに強い事は分かっているが、ビームサーベルはどうかな!?」
「こいつ、槍の中に!?」
穂先を下げられて地面に突き刺してしまったシンが慌てて槍を引こうとするが、その槍を持っている右腕をビームサーベルの一閃で両断されてしまい、右の二の腕ごと突撃槍を無くしてしまった。
そのまま止めの一撃を加えようとしたグリアノスであったが、背後から撃ち込まれたレールガンに重突撃機銃を持っている右腕を吹き飛ばされて姿勢を大きく崩してしまった。右腕を無くしたシグーが無様に大地に転がり、すぐに起き上がってきた。
「フリーダム、よく当ててきた!」
フリーダムのプラズマ砲がこちらを向くのを見たグリアノスはまだ立ち直っていないヴァンガードを盾に取るように動き、射線が取れない事にキラが苛立ちをシンにぶつけてくる。
「シン、邪魔だから退いてくれ!」
「退きたいけど、こいつちょこまか動いて!」
シンがシグーを振り切れない事にキラが怒るが、シンも必死だったのだ。だが、周囲の戦いが終わってきたのかこちらにも他のMSが集まりだした。上空から迫ってくるレイダーがMSに変形して破砕球を打ち込んできて、シグーがそれを機体を捻って回避して鎖をビームサーベルで両断する。それを見たクロトが舌打ちしたが、その直後にシグーが驚くべき行動に出た。両断した鎖を足で押さえつけ、機体重量を載せてきたのだ。それに引っ張られてバランスを崩したレイダーが地上に落ちて叩きつけられてしまう。
レイダーを落としたグリアノスであったが、一息つく間もなく今度はマローダー3機がホバーで駆け抜けながらビームガトリング砲を向けて掃射してきた。弱いが連続して撃ち込まれるビームの弾幕に機体の各所が抉られ、シグーの動きが鈍っていく。それでもグリアノスは照準をつけ、レールガンの砲撃で先頭を行くマローダーに直撃を出した。だが、残念ながらTP装甲に弾かれてしまった。
そして急いで位置を変えようと動こうとしたグリアノスは、左足が反応しない事に気付いた。先の砲撃でやられてしまったのだ。そしてロックオン警報が鳴り響き、はっとしてモニターを見たグリアノスの目に飛び込んできたのは、至近距離にあるヴァンガードのリニアガンの砲口であった。そしてリニアガンが咆哮し、放たれた高速弾がシグーの胴体を撃ち抜き、鬼神はついに大地に倒れた。
これでようやく終わったかと思われたその時、カグヤから最後のシャトルが3機、続けて飛び立っていった。何機かのMSがそれに向けてビームを発射しているが、分厚い空気の壁に阻まれて掠りもしなかった。プラズマビームに限らず、荷電粒子砲は大気での減衰と重力偏向が激しいのだ。
3機のシャトルが飛び立ったのを見た地球軍の将兵はこれで戦いも終わったかと気を抜いてしまったのだが、まだ全てが終わった訳ではなかった。シャトルが宇宙に向けて飛びたった後にカグヤのレールと支持部が次々に爆発を始め、崩壊し始めたのだ。どうやら爆薬が仕掛けられていたらしい。
これを見たカガリが泡を食ってパニックを起こしている中で、1人困った顔をしていたユウナが参ったなあという感じで呟いた。
「カグヤの自爆装置って、本当にあったんだね。話は聞いた事があったけど何かの冗談だと思ってたよ」
まさか本当に自国の最重要資産に自爆装置を組み込んであるとは思わなかったユウナであったが、カガリにとっては洒落にならない事態である。あれはオーブの富の源泉であり、各地のマスドライバーが次々に失われていく中でますます重要性を増し、宇宙への打ち上げ事業を独占してオーブの再建に繋げる為の財源と考えていたのだ。それが目の前で吹き飛ばされたのだから、カガリが平常心を無くすのも仕方が無い。
パニックに陥ったカガリはぐったりと椅子の背凭れに体を預けているユウナの体を掴むと、どうしようと半泣きでユウナに詰め寄っていた。
「どうしよう、どうしようユウナ、カグヤが吹き飛んじまったぞ!?」
「いや、どうしようって言われても、どうしようも無いよ」
「これからどうすんだよ、どっから金出て来るんだよ!?」
「その辺はアズラエル理事にでも相談するしかないんじゃないかなあ」
ジャーマンスープレクスで大打撃を受けた頭をシェイクされているユウナは顔色を青くしてカガリの泣き言に答えている。その姿にサザーランドとサイがそっと目頭を拭っていた。苦労人同士、何か感じ入るところがあったらしい。
こうしてオーブ開放作戦は終了した。オーブに残っていたザフトはその半数以上を脱出させる事に成功し、地球軍は戦略的な価値を減じたオーブを手に入れて大洋州連合攻略に乗り出す事になる。だが、このオーブ開放作戦で失ったものは余りにも大きく、暫く身動きは取れそうも無かった。
後書き
ジム改 オーブ開放作戦終了!
カガリ カグヤがぶっ壊されたあ~。
ジム改 原作でも壊れたから良いだろ。
カガリ あれ無かったらどうやって国を再建するんだよ!?
ジム改 ……お札を刷りまくるとか?
カガリ お前は札束の重さで商売させる気か!?
ジム改 大丈夫だ、モルゲンレーテはあるからフランス並みに武器を売りまくれば良い。
カガリ いや、あそこまで節操無しにはなりたくない。
ジム改 まあこれで地上戦は終わりと言っていいな。後は小競り合いくらいだ。
カガリ いよいよ宇宙か。オーブ艦隊もあるし、私の出番はまだまだ続くな。
ジム改 君はその前に国家元首として頑張ってもらわんと。
カガリ え、そういう事は叔父貴に押し付ければいいのでは?
ジム改 水面下はともかく、一応、公式にはホムラ氏はザフトに協力した裏切り者なのだよ。
カガリ ちょっと待て、この状況で使える人材を切れってのか!?
ジム改 それが政治というものなのだよ。まあお前が切らなくても自分から退くだろうけど。
カガリ ああ~、私の苦労がどんどん増えていく。
ジム改 それでは次回、宇宙に脱出したアスランたちに襲い掛かる地球軍。プラントでは評議会が継続派と講和派に分かれて対立を始める。そして開放されたオーブでは久々の再会が。次回、「再会、そして……」でお会いしましょう。
ジム改 ところで、種死のOVAのHPなのだが、ファントムペインは私兵だから条約に縛られないとあるんだが。
カガリ ラクスのあれが公式設定になったんだろ。
ジム改 国際条約は国内法より上位に来るもんなんだが、良いのかこれで? これが許されるなら種死1話の攻撃は合法になるぞ。
カガリ なんで?
ジム改 ファントムペインの仕業だから休戦協定違反にならないじゃないか。核攻撃もうちの軍じゃないと言い張ればOK。
カガリ …………。
ジム改 条約の意味ってあるのかね。