第136章  金色の覇王

 月のコペルニクス市に向かう軌道を取るザフト艦隊。それはマーカスト提督率いる陽動艦隊であった。その数は一見すると30隻に達する大艦隊であり、月への侵攻をザフトが企図しているように見える。これを発見した遊撃艦隊は報告を送って寄越した後、連絡を絶っている。恐らく撃破されてしまったのだろう。
 このオーブの都市を守る為に地球軍は月基地から第3艦隊と第4艦隊を出撃させると共に、周辺航路から独立艦隊をかき集めてこれを迎撃しようとしていた。地球に向かう複数の小船団は確認されていたのだが、これよりもコペルニクス市への攻撃を阻止することが優先された形だ。
 だが、コペルニクス市とプラントの間に展開した地球艦隊の前に現れたザフト艦隊は、すぐにそれがただの張りぼてである事が判明した。鉄材とフィルムで作られた張りぼてに簡易推進器と熱源を搭載して索敵機器を誤魔化したダミー艦隊だったのだ。数が報告より10隻ほど少ないので、どうやら本物の艦艇は途中で分離し、こちらにはダミーだけが流れてきたらしい。
 騙されたと悟った地球艦隊は慌てて周辺を捜索にかかろうとしたのだが、この時マーカストは何とプトレマイオス基地に迫っていたのだ。それまでザフトにとって近づく事の出来ない聖域と言えたプトレマイオス基地の制宙圏内に自分の艦隊を侵入させたマーカストは、基地上空に浮かぶ監視衛星や哨戒に出ていた駆逐隊などを攻撃しながらプトレマイオス基地に迫ってきたのだ。
 この知らせを受けた基地司令部は仰天してしまった。まさか弱体化が著しいザフト宇宙軍がこの基地に奇襲をかけてくるなどとは誰も想像もしなかったのだ。あのハルバートンでさえそこまでの無茶はしないだろうと思っていた。
 だが、マーカストはそれをやったのだ。たった8隻の艦隊で大胆にも地球連合の宇宙における最大拠点を襲撃していたのだ。かつては30隻の大艦隊でもって攻撃しようとして迎撃され、指一本触れる事が出来なかったマーカストであったが、今回はそれを8隻という小艦隊で成功させたのだ。だが流石に基地を徹底的に叩く事は出来ず、上空を通過するだけに留まっている。それでも放たれたミサイルは岩盤を抉り、基地施設にそれなりの被害を与えていたが。
 一撃しただけでプトレマイオス基地の絶対制宙圏を離脱しようとしたマーカストであったが、事はそう簡単にはいかなかった。地球艦隊も迅速に動き、マーカスト艦隊の退路を断つように駆逐隊やMSなどが展開を始めていたのだ。またプトレマイオス基地からもメビウスやコスモグラスパーが上がってきている。

「流石にそう簡単には帰る事はできんか」

 正面に立ち塞がる地球軍艦隊を見たマーカストはやれやれと思いながらも迎撃の指示を出した。搭載してきたジンとジンHM、ゲイツが展開を始め、艦隊陣形を突撃隊形に組み直す。艦隊陣形の組み直しを素早く行える辺りにこの部隊の技量の高さが伺えた。
 迫るメビウスやファントム、コスモグラスパーと迎撃に出たジンやゲイツが激しい戦いを始めたが、これはジンやゲイツが押され気味であった。元々はベテランの駆るジンとメビウスのキルレシオは1対5で、この差は連合側のパイロットの技量の低下に従って開く傾向にあった。だが、これは連合パイロットの技量が向上し、ザフトパイロットの技量が低下するという現在の状況下では逆に差が縮まるという現象を起こしている。ザフトのパイロットは後方に下がる余裕が無いので慢性的に訓練不足であり、しかも受けた損害の穴は訓練を完了していない新兵が埋めるという悪循環が起きている。これは反撃を始める前の連合と同じ状況だった。
 ベテランの駆るゲイツがメビウスをビームライフルで撃ち抜き、擦れ違いざまにビームサーベルで両断して落としていくかと思えば、複数のメビウスやコスモグラスパーに集られたジンが滅多打ちにされて撃墜されてしまう。
 ジンのハイマニューバ型への改修が進む中で、未だに旧型のジンが前線配備されているのはハイマニューバ型が操縦に癖の強い機体で、MSに慣れていない新兵には扱いかねる機体なので、素直な操縦性を持つ旧型のジンが新兵に好まれている為だ。前線の指揮官たちはゲイツやゲイツRの配備を要望しつつも、新兵の為に性能に劣るジンの配備も望んでいた。扱いかねる新型よりも扱い易い旧型が戦力になる時もあるのだ。
 味方のMSが数を減らしていくのを見たマーカストは、やはり月基地に少数で殴り込みをかけるのは無謀だったかと後悔し始めていた。だが少数でなければ地球軍の哨戒ラインを掻い潜る事が出来なかった事も確かであり、ここまでやらなくては地球周辺の哨戒部隊をこちらに引き摺りだすことは出来ないと考えたのだ。
 こちらの進路を塞ごうとする駆逐隊がデュエルやバスター、ダガーを展開していく様子を見据えて、マーカストは非情な命令を発した。

「全艦最大戦速で敵艦隊を突破せよ。落伍した艦は見捨てていく。MS隊にはこちらに追いつけと伝えろ!」
「提督、それではMS隊の大半を見捨てる事になります!?」

 後方で交戦中のMS隊が最大戦速を出して逃げる艦隊に追いつける筈が無い。マーカストはMS対を見殺しにするつもりなのだろうか。しかも落伍した艦は見捨てると言い切るとは。
 だが、部下に止められてもマーカストは出した命令を撤回する事は無かった。残酷かもしれないが、踏み止まればより大きな犠牲が出るのだから。

 だが、まさに激突しようとしたマーカスト艦隊の前でいきなり地球軍の駆逐艦が爆発した。それだけではなくMSが背後からの攻撃を受けて何機かが撃墜されてしまう。
 何事がと思うマーカストに、オペレーターが驚いた声で報告を寄越してきた。

「地球軍の後方に友軍艦隊を確認、ローラシア級2、連合駆逐艦3。ジンとシグー、ザクの姿もあります!」
「どういうことだ、何故この宙域に我々以外のザフトがいる。そんな話は聞いていないぞ!?」
「わ、分かりません。シグナルは味方の登録に無いものです!」
「何処の部隊だ。私の知らない特殊部隊なのか!?」

 確かにザフトには指揮系統に属さない議長直属の特務隊など、歪な存在が幾つかある。あれもその類なのだろうかと思うマーカストの前で、背後から奇襲を受けた地球艦隊は壊滅しようとしていた。マーカストはとにかく考えるのは後回しにし、今はこのチャンスを生かしてこの宙域からの脱出を優先する。

 

 この時連合軍を襲撃していた部隊をマーカストが知らなかったのも無理はあるまい。この部隊はザフトの部隊ではなく、ラクスが送り込んできた部隊だったのだから。実際にここに居たのはマーカストたちが確認した以外にもオルテュギアなどが展開していた。
 駆逐艦から発艦していたファントム隊がこれに立ち向かったのだが、ラクス軍の圧倒的な強さに歯が立たないでいた。特にザフトがまだ量産型の為のデータ収集に使っている筈の試作ザク3機とユーラシア軍が開発したハイペリオンが圧倒的な強さを見せ付けている。
 3機の試作ザクを駆るヒルダ、マーズ、ヘルベルトは向かってきたファントムを蹴散らしながら駆逐艦の1隻を狙って突っ込んでいた。それを見た駆逐艦がイーゲルシュテルン2基で弾幕を張ってきたが、PS装甲の前には致命傷とはなりえない。

「お前ら行くよ、ラクス様のために!」
「おう!」
「たまには名前で呼んで欲しいものだが」

 マーズとヘルベルトが応じ、駆逐艦の上面と両舷をビーム突撃銃で滅多打ちにして素早く離脱する。船体を蜂の巣のようにされた駆逐艦は搭載弾薬にでも誘爆したのか、内側から引き裂かれるように爆発してしまった。

 そしてハイペリオンはといえば、こちらは3機のザクに較べると随分とやる気が無さそうだった。周りを飛ぶファントムを時折つまらなそうな顔で撃ち落すくらいで、自分から積極的に戦いに出てはいない。
 いや、実際にハイペリオンを駆るカナードはつまらなかったのだ。自分は最高のコーディネイターを探しているのであって、こんな雑魚の相手をしたくてここに居るのではない。

「ふん、くだらない戦いだ。月基地なら面白い奴が出てくると思ったのだがな」

 ハイペリオンは自慢のアルミューレ・リュミエールさえ展開していない。カナードとしては連合が投入しているという噂のクライシスと戦えるのではと期待していたので、まさかファントム風情の相手をする羽目になるとは思ってもいなかったのだ。これならメンデルに残っていた方が良かった。
 だが、真面目に戦っていないカナードにオルテュギアのメリオルが文句を言ってきた。

「カナード、これも仕事なのですから、もう少し真面目に戦っていただきたい」
「煩いぞ、こんなくだらない戦いに俺を使うなとあの女に言っておけ!」
「私たちは傭兵なのですよ。それに、彼女に協力すれば報酬として最高のコーディネイターに関する情報とNJCの提供を受けられるのですから」
「……くそっ、分かっているさ」

 悔しいがキラ・ヒビキの情報に関する手掛かりが途絶えてしまった今ではラクスは縋る藁なのだ。加えてNJCと核動力機関の提供を受けてハイペリオンを完璧にしたいという欲求もある。カナードとしては不本意であったが、今はラクスの駒として動くしかないのだ。


 このラクス軍の援護の元にマーカストはどうにか包囲を脱する事が出来た。全滅してもおかしくない賭けであったが、終わってみれば艦艇2隻と艦載機の半数の犠牲という当初の見積もりよりずっと軽微な損害で月宙域を脱する事が出来たのだ。
 だが、マーカストは自分を助けてくれた艦隊が何なのか気になって仕方がなかった。本国に照会しても該当するような艦隊は無く、ザク3機を含む艦隊をあんな所に配置する余裕がザフトにある訳が無いと笑われてしまう有様だった。この件で疑問を抱いたマーカストは3機のザクの出所を調べ、輸送中に3機の試作ザクが輸送艦ごと失われている事を突き止めることになる。





 地球軌道ではザフトの回収部隊が軌道上に到達し、上がってきたシャトルやコンテナを次々に回収していた。ただやってきた艦艇はプラントを出立した数よりも少なく、何隻かが途中で食われた事を伺わせている。
 クルーゼも幕僚と共に回収船団に拾われ、思っていたより多くの船が地球にたどり着けた事に満足そうに頷いていた。

「半数を回収できれば上出来かと思っていたが、これなら何とか全部回収出来そうではないか。本国もたまには良い仕事をするものだな」
「クルーゼ隊長、そういう事を言わないでください」

 クルーゼの物言いにアンテラが疲れた顔で文句を言う。彼女の隣では回収船団の司令部スタッフが顔を赤くして怒りを露にしており、クルーゼの傍若無人な物言いに感情を逆撫でされたのが分かる。
 ここに来るまでの努力を思えばクルーゼは彼らにむしろ感謝の声の1つでもかけるべきであり、たまには良い仕事をするなどという皮肉を投げかけるのは愚の骨頂と言っても良い。だがこれがクルーゼという男であり、ザフトに数いる隊長の中でも群を抜いて嫌われている理由でもある。まあこれでは好かれる訳も無く、影で変態仮面などと呼ばれてしまうのも無理の無いところだろう。

 だが、ここでクルーゼはとんでもない命令を出した。収容の終わった艦艇はすぐにプラントに引き返せと命じてきたのだ。まだ上がってきていないシャトルもあるというのに、彼らを見捨てるつもりなのだろうか。
 流石のアンテラもこれには我慢できなかったようで、まだオーブで頑張っているアスランたちを見捨てるつもりなのかとクルーゼに詰め寄っている。

「隊長、船団を引き上げるなど、アスランたちはどうなるのです!?」
「そう怒鳴るなアンテラ。何も全てを引き上げろと言っているのではない、何隻か残せば良いだろう」
「何隻かって、その程度で何が出来ますか。もし地球軍の艦隊に発見されれば虐殺されますよ!」

 貴方は本気でその程度の数でどうにかできると考えているのかと額に青筋浮かべて詰め寄ってくるアンテラ。その殺気すら滲ませる迫力にはさしものクルーゼもたじろぎ、押されていた。何となく下手な事を言えば五体満足ではすまないと感じさせるやばげな殺気をアンテラは放っている。

「だ、大丈夫だ、心配せずともまだユーレクが残っている。あいつが居れば10倍の敵が居ても何とかできるさ」
「ユ、ユーレク、ですか。まあ彼の規格外の強さは私も認めますが、でも彼が居るというだけでは……」

 ユーレクの名を出されたアンテラは途端に勢いを無くして歯切れが悪くなった。アンテラもユーレクの正体と実力を知っており、たとえ自分であっても1対1では勝利の見込みは無い事も知っている。彼が居るのならば確かに何とかなるのではないかという気がしてしまうのだ。
 一度そう思ってしまうとたちまち勢いを無くしてしまうもので、アンテラはクルーゼの命令に抗議する為の勢いを無くして押し切られてしまった。





 モルゲンレーテ工場がある丘の上に姿を現したスーパーメカカガリ。その悪趣味な成金の見栄としか思えないような全身金ぴかの姿はある意味見る者を畏怖させる迫力がある。流石にこんなふうには晒し者にされたくは無いだろう。
 だが、その攻防の性能は凄まじいを通り越して出鱈目であった。クライシスのビームを何発か耐えられる、という装甲は脅威だったろう。ヴァンガードの対ビーム防御システムは反則と罵られるものだろう。だが、それらもこれに較べればまだマシだと言える。この金ぴかは何と受けたビームを反射してくるのだ。しかもどれだけ受けてもまるで答えた様子が無い。
 この化け物にオルガのカラミティとシャニのフォビドゥンが挑んだのだが、カラミティの砲撃は悲しいくらいに効果が無かった。ビームは逆に跳ね返ってきてカラミティを危険に晒すわ、バズーカの弾は弾き返すわでオルガが弱音を吐くほどだ。
 そしてならばと突っ込んで接近戦をシャニが挑んだのだが、フォビドゥンはスーパーサウンドブラスターの餌食となってしまった。口がこちらに向けられて開いたのを見たシャニは慌てて回避したのだが間に合わず、右腕を鎌ごと粉々にされてしまった。一枚板のTP装甲はどうにか耐えたのだが中の部品や露出部が砕かれてしまったのだ。この一撃を受けて正気を無くしたシャニが特攻をかけようとして、慌てて駆けつけたオルガのカラミティに取り押さえられている。

「落ち着けシャニ、鎌無しでアレに突っ込んでどうする気だ!?」
「煩い、離せ、離せ――!!」

 暴れるフォビドゥンを捕まえて後退していくカラミティ。近くにいたストライクダガーも手を貸して損傷したフォビドゥンを無理やり下げたのだが、その途中でスーパーメカカガリを見たオルガは忌々しそうに吐き捨てていた。

「阿婆擦れロボットかよ。オーブの奴ら、何て物を作りやがるんだ!」



 このふざけた化け物にダガー隊やM1隊がありったけのビームライフルを向けてビームを叩き込んでいるのだが、この金色の覇王は受けたビームを跳ね返しながら、そのまん丸の白目をMS部隊に向けてきた。その目に見られたMSたちは慌てふためいてその場から逃げていき、そして逃げ遅れた何機かが口から放たれた超音波の嵐に飲み込まれて粉々にされてしまった。

 そのシュール過ぎる敵を落とすべく3機のマローダーがホバーで大地を高速で駆け抜け、スーパーメカカガリとの距離を詰める。先頭にいたスティングは後続のアウルとステラに散るように言った。

「散れアウル、ステラ。奴の周囲からビームを浴びせかけるぞ。どこかに弱点があるはずだ!」
「OK!」
「分かった」

 スティングの指示に頷いたアウルとステラが左右に散り、三方からビームガトリングガンによるビームの雨を浴びせかける。だが、スーパーメカカガリはこのビームの雨を受けても痛くも痒くもないようだった。
 この化け物ぶりには流石にスティングたちも圧倒されてしまった。余りの出鱈目ぶりに文句の声も出てこない。だが、そこに別の奴がやってきた。

「何やってんだよ、バーカ!」
「なっ、クロトか!?」
「見てなよ、あんなの一発でやっつけてやるからさ!」

 クロトのレイダーが空中で変形し、スーパーメカカガリに向けて破砕球を発射する。PS装甲にさえダメージを与えるとされるこの巨大な棘付き鉄球を受ければ流石のあれも無事では済むまいと期待させるような一撃であったが、その直後の光景は見ている者を絶句させるようなものであった。
 なんと、スーパーメカカガリは放たれた破砕球を両手でキャッチしてしまったのだ。微妙にデフォルメされた腕の先には不釣合いに大きな手が付いているのだが、それが飛んできた破砕球をがっちりキャッチしてしまったのだ。

「う、うそだああああっ!」

 自慢の武器をキャッチされたのを見たクロトは現実を否定したくて絶叫していたが、現実は変えられなかった。だが、この手の武器はキャッチされてしまうという伝統があるから仕方があるまい。
 このレイダーの攻撃が通用しなかったのを見た地球軍はゆっくりと後退しはじめた。こんな化け物を相手にどうしろというのだ。





「むう、まさかカガリ様のお姿を模した巨大メカとは……」

 双眼鏡でその姿を確かめたティリングは頭痛を堪えるような顔をしてしまっていた。まあ流石に自分たちの国の元首が20メートル以上の巨体で金メッキをして、おまけに口から怪光線まで吐くとなれば何も言いたくなくなるだろう。ちなみに姿は5頭身くらいで足は短い。
 他の幕僚もどうしたものかと顔を見合わせている。あれにミサイル撃ち込んでいいものだろうかという迷いがあったのだ。流石に自分たちの代表の姿をしている物に攻撃を加えるというのはいろんな意味で不味い気がする。
 だが、そんな事気にしないどころか、むしろかえってやる気を出している者たちも居た。

「ふ、ふふふ、ふふふふふふふ、今こそ日頃の暴虐の恨みを晴らす時だあ!」

 キラだった。どうやら日頃カガリにあれこれやり込められたり、暴行を振るわれていたのを結構根に持っていたらしい。でもカガリ本人が相手だと強く出れないから控えめの文句を言うくらいしか出来ず、悶々とした物を抱え込んでいた彼は、遂に正当な理由をつけて復讐するチャンスを得たのだ。
 そしてもう1人、彼もこの時をチャンスと槍を手に立ち上がっていた。

「チャンスだ、我侭暴力女にやっと復讐できる!」

 これまたカガリに幾度もボコられた経験を持つシンであった。まさかカガリを闇討ちするわけにもいかず、頭の中でカガリに復讐をするだけに留めていたシンであったが、ここに来てついに合法的に鬱憤を晴らす機会を得たのだ。
 だが勇んでスーパーメカカガリに襲い掛かろうと飛び上がったキラの前に、よりにもよってアスランのジャスティスが現れたのだ。

「見つけたぞキラ!」
「げっ、アスラン。何でこんな時に!?」

 キラを見つけたアスランは闘志を剥き出しにして襲い掛かってきたが、襲い掛かられたキラは台所の黒い奴でも見つけたかのような反応をしていた。今はアスランの相手をしている暇は無いとばかりに直接対決を避けてスーパーメカカガリとの距離を詰めようとするが、フリーダムではジャスティスは振り切れず距離を詰められ、砲撃を受けてしまった。

「逃げるなキラ、俺と戦え!」
「アスラン、今日は君の相手をしてる暇は無いんだ!」
「ふざけた事を、今日こそ決着をつけるぞ!」

 背負い式ビームキャノン2門を発射し、フリーダムの足を止めようとするアスラン。その砲撃を回避しているキラはスーパーメカカガリに向かうどころか距離が離れていく有様であり、その隙にシンのヴァンガードが喜び勇んでこれに向かっている。それを見たキラは悲鳴のような声を上げた。

「シ、シン、抜け駆けする気かい!」
「いや、キラさんは赤いのの相手が忙しいでしょ。あれは俺がきっちり片付けてきますよ!」
「シン、ちょっと待って、僕にも一発殴らせてくれ!」

 だがシンは止まってくれるどころかチャージモードを起動させ、全力でスーパーメカカガリに突っ込んでいったのである。それを見たキラはせっかくのチャンスが手のひらから零れ落ちていく感触を実感してしまい、絶望のどん底に落ちてしまった。そしてその絶望感は手近な邪魔者への怒りへと理不尽な変化を起こし、殺意すら篭った目でジャスティスを振り返った。
 そしてアスランは突然足が止まったフリーダムを見てやっと戦う気になったかと思ったのだが、こちらを振り向いたフリーダムを見て反射的に機体を後退させてしまった。

「な、何だ、今背中を駆け抜けた悪寒は?」

 フリーダムから異様なまでの殺気が放たれている。これまで幾度もキラと戦ってきたアスランであったが、ここまでの殺気を滲ませているのは随分と久しぶりだ。そしてその迫力に気圧されているアスランに向かって、キラは込み上げる怒りに身を任せて襲い掛かった。

「アスラン、どうして君は何時も何時も、僕の邪魔ばかりするんだ!?」
「い、いきなり何の事だ!?」
「カガリと出会って1年近く、これまでどれだけ酷い目にあってきたか。その怨み辛みを晴らす絶好のチャンスを、君は、君はああぁぁぁ!」
「ちょっと待て、だから何の事だ一体!?」

 怒りの余り種割れさえ起こして襲い掛かるキラ。プラズマ砲とレールガンから交互射撃で放たれたビームと砲弾がジャスティスに襲い掛かり、ジャスティスがそれを空中を舞うような機動で回避していく。そして反撃のビームを放つのだが、発射した時には既にフリーダムは照準から姿を消している。その動きの良さにアスランは驚く間すら与えられなかった。
 ジャスティスに動きが劣る筈のフリーダムが自分の懐に飛び込んできてビームサーベルを横薙ぎにしてビームライフルを両断してしまう。そして素早く斬り返しが来るのを見たとき、避け切れないと感じたアスランはもまたSEEDを発現させてしまった。

「舐めるなキラァ!」

 斬り返されるビームサーベルにシールドを叩き付けるようにして止め、右足でフリーダムを思いっきり蹴り飛ばす。そして距離が離れたところで2本のビームサーベルを連結し、ツインビームサーベルを用いたトリッキーな連続攻撃を加えてきた。
 これをシールドで受け止め、あるいはビームサーベルで切り払いながら、だが後退する事無く格闘戦を受けてたっていた。これまでの経験から砲撃だけではアスランのジャスティスは追い詰められないと考えていたキラは、不利と承知でフリーダムで格闘戦を受けて立っていたのだ。

「アスラン、もうザフトは負けたんだ。そろそろ諦めたらどうだい!」
「ふざけるな、俺たちはまだ負けたわけじゃない!」
「知ってるかい、負け犬が一番好きなのはまだとか次こそはだよ!」
「ならお前は負け犬だな、昔から何時もそう言ってた!」
「今は勝ってるから良いんだよ!」

 双方同時にシールドチャージをかけ、シールド同士が激突して摩擦の火花を散らし、力比べをしている。だがこの勝負は、意外なことにパワーに勝っている筈のジャスティスがフリーダムに押される結果となった。整備部品の不足と度重なる戦闘で機体のコンディションが最悪になっていたジャスティスと、クローカーの手によって改良に次ぐ改良を受けて、性能と信頼性を向上させて十分な整備を受けているフリーダムでは大きな差があったのだ。勿論フリーダムを改造しても基本設計の差を埋める事は出来ないのだが、今回は100%の力を出しているフリーダムと70%の性能も出せていないジャスティスというハンディキャップがあったのだ。
 腕はほとんど互角である2人だが、バックアップの差で勝負はアスランの不利に傾こうとしていた。力比べをしている間にジャスティスのコクピットには異常を示す警報表示が幾つか出てきているのに、フリーダムの方は全く問題が出ていない事からもその状態の差が分かる。
 機体の状態が完全ではない事をアスランも知っていたので、すぐに力押しの勝負ではなくスピードと小回りの勝負に切り替えてくる。それを受けてキラもビームサーベルを手に格闘戦を受けて立ったのだが、ここでキラは意外な、少なくともキラは意外と感じた、苦戦を強いられる事となった。ジャスティスの攻撃動作がフリーダムの動きより速く、同時に攻撃と回避に入ったのにジャスティスの攻撃がフリーダムを度々捉えているのに気付いたのだ。

「くそっ、やっぱりフリーダムはジャスティスより遅いのか!」

 この差は機体特性の差だと感じたキラはもう一度力勝負に出るか、砲撃戦で押し切ろうとした。ようするにジャスティスの特異なスピード勝負に付き合わなければ、今のジャスティスが相手なら十分勝てると感じていたから。
 距離をとられて砲撃を開始するフリーダム。これを許すまいと距離を詰めようとするアスランだったが、推力が落ちているのか距離を詰める事が出来ず、フリーダムの距離での戦闘を強いられてしまう事になる。砲撃力と照準能力ではジャスティスはフリーダムに遠く及ばないのだから。砲撃戦とは砲が多ければ良いというものではないのだ。
 このままでは負ける、そう悟ったアスランはとにかくキラの油断を引き出そうと考え、ある意味最も効果的で一番危険な方法に手を出した。

「キラ、フレイが怒ってたぞ!」
「……な、何をいきなり?」

 効果は覿面であった。フレイの名前を出しただけなのにキラは明らかに動揺している。それまで互角以上のパワー勝負をしていたフリーダムが立場を逆転され、押され始めている。その露骨なまでの反応にアスランは内心でほくそえんだ。

「マドラスでお前がフレイを彼女扱いしてたのを話したらな、私はキラの彼女じゃないと真顔で否定していたんだ!」
「そ、そんな……嘘だ……」
「嘘じゃないさ。俺が直接聞いたんだからな!」

 それまでの勢いを無くして落ち込みだすキラ。その心理的な劣勢が戦いにまで反映され、たちまち劣勢になるフリーダム。キラは必死に操作していたがその動きは精彩を欠き、アスランの攻撃に対処しきれなくなっている。
 これを見てアスランは勝てると確信した。今のキラなら確実に勝てる。そう判断したアスランは勝負に出ようとしたが、そのアスランを下方から攻撃してくる新手がいた。

「キラ、何をしてるんだ!?」
「ストライク、足付きの奴か!?」

 援護に来たのはトールのストライクGだった。ジェットストライカーを装備し、ビームライフルとシールドをつけている。ストライクはジェットストライカーのパイロンに搭載したミサイルを発射し、フリーダムを援護しつつジャスティスと距離を詰めて格闘戦を挑んできた。トールは接近戦で真価を発揮するタイプなのだ。
 しかし、それは種割れしたアスランの相手が務まるレベルではなかった。高速で距離を詰めつつジャスティスの至近距離に入ってビームサーベルを振るおうとするストライクに殺気だった顔を向けるアスラン。

「邪魔をするな、これは俺とキラの勝負だ!」

 シールドをマウントした左手で改良されたビームブーメランを投擲する。パナマの時には投げたっきり戻ってこなかったビームブーメランであるが、今度はちゃんと弧を描いてストライクに向かっていった。まあトールもこんな見え見えの攻撃を受けるほど馬鹿ではなく、ビームサーベルで逆にブーメランのユニットをぶった切って破壊してしまった。
 しかし、その僅かな隙を突いて距離を詰めてきたジャスティスには完全に奇襲を受けてしまった。シールドを構える間もなくジャスティスの推力に重力加速を加えた強烈な蹴りを受け、海に向けて蹴落とされてしまう。その衝撃にトールは目を回しかけ、ついで海面に叩きつけられる衝撃に備えようとしたのだが予想された衝撃は無く、変わりに何かに受け止められた衝撃を受けた。そして通信機から懐かしい声が飛び出してきた。

「ちょっと、大丈夫トール!?」
「……もしかして、フレイか?」
「ええ、久しぶりね」

 現れたのはフレイのウィンダムだった。落下したトールのストライクを空中で受け止めてくれたのだ。クライシスそっくりの新型、ウィンダムはクライシスと同様に自力で空を飛ぶ能力を持っている事が特徴で、ダガーLなどのようにバックパックを換装する必要が無く安定した姿勢を維持する事が出来る。
 フレイのウィンダムはトールを助けるとそのまま癖しているフリーダムを庇うようにジャスティスに勝負を挑んだ。

「アスラン!」
「フレイ、何で俺の前に出てきた!?」
「決まってるじゃない、3ヶ月前に負けた時の借りを返す為よ!」

 フレイはウィンダムと一緒に送られてきたビームライフルとも火薬型マシンガンとも違う、オーブのリニアライフルをベースに強化、改良を施したアズラエル財団が開発した次世代携行火器の1つである磁気加速型自動小銃、ガウスライフルを装備していた。元々フレイはビームライフルよりマシンガンのような弾をばら撒ける火器の方が好みという、このビーム兵器万能主義が広がってきている世界にあっては変わった好みを持つパイロットであったが、これはまさに彼女好みの火器であった。欠点は撃ち過ぎると簡単に弾切れになる事で、利点はビーム兵器とは比較にならないほど電力消費が軽い事だ。
 ガウスライフルから連続で放たれた超高速の50mm新型徹甲弾がジャスティスを下方から撃ち上げ、アスランはこれを避けようと回避運動をしたのだが、それは必死さを欠いた適当なものであった。アスランはPS装甲の防御力に絶対の自信を持っていたのだ。
 だが、その自信が今崩壊した。フレイが放ってきた銃弾がジャスティスの装甲を捕らえたのだが、その多くが装甲に弾き返されたのだが、2発が装甲を貫通して内部機構に被害を与えたのだ。連続しての着弾に装甲が持たなかったらしい。

「馬鹿な、PS装甲を貫通されただと!?」

 これまでも度重なる戦闘と、それによるダメージの蓄積でPS装甲が効力を失ってしまって貫通された事はあったが、今回はその辺りの問題は修理して出てきた筈なのだ。それを幾ら立て続けに被弾したとはいえ貫通したのだから、あのライフルの弾速と弾丸の強度がそれまでの常識を超えた代物だという事だろう。
 恐らく、連合も対PS装甲用実弾兵器の開発をスタートしていて、ザフトと同じように超高速砲弾を使用するという答えに行き着いたのだろう。そしてザフトは運用性に難はあるがPS装甲機を一撃で完全破壊することが可能な史上最強の大口径砲アーバレストを作り上げ、連合はPS装甲を貫通するのも不可能ではない程度の自動小銃を作り上げたのだ。
 どちらが優れているのかは分からない。アーバレストは確かに運用は大変で当てるのも難しい砲ではあるが、現在のところ如何なる装甲をも紙のように貫通する事が可能であり、破壊不可能なものは存在しない。対するガウスライフルはほどほどの威力で連射が可能、銃自体もMSが片手で運用可能という使い易い火器である。ただし一撃でPS装甲を貫通する事は出来ず、狭い範囲に連続で命中させないと効果が無い。だがPS装甲を貫通できる火砲という意味では画期的な銃だろう。
 ただ、このガウスライフルが量産されるような事があればザフトにとって大いなる脅威となる。同じ部位に続けて当てないといけないとはいえジャスティスの装甲を貫通出来る銃なのだ。となればジャスティスに劣る防御力のMSでは勝負できないだろう。

 アスランは自分にいきなり当ててきたフレイの技量と、彼女が駆るクライシス型のMSを舐めていた事を認めた。そして今度は激しい動きでフレイの射撃を回避し、ツインビームサーベルで斬りつける。その内心には迷いがあったが、体は完璧にフレイを仕留める動きをしていた。

「退がれフレイ、俺はお前とは戦いたくない!」
「そういう事は、戦争が終わってから言う事よ!」

 ツインビームサーベルの刃をシールドで受け止めるフレイ。だがアスランはそのままツインビームサーベルをウィンダムのシールドを軸にするように回し、逆側の刃でウィンダムを切り裂こうとした。その攻撃にフレイの反応は一瞬遅れ、キラはフレイのMSが両断される光景を想像して目を閉じてしまう。あれでは防ぐ事は出来ない。
 だが、キラの予想は外れた。フレイはガウスライフルをツインビームサーベルに叩き付け、その加速バレルの崩壊爆発を利用してジャスティスと無理やり距離をとったのだ。そのフレイの思い切りの良さにアスランは賞賛交じりの舌打ちをしていた。そしてキラは、フレイがあの攻撃に対処できた事が信じられなかった。

「どうして、あのタイミングで動いたんじゃ僕でも間に合わないのに……?」

 アスランの攻撃に一瞬遅れて動いたフレイ。その僅かな時間差は致命的なものであったはずだ。もしあれが自分ならアスランの攻撃に対応するのは間に合わず、ビームサーベルに機体を抉られていた。致命傷を避けるくらいのことは可能かもしれないが、それ以上は出来まい。
 最高のコーディネイターと言われる自分がフリーダムでも間に合わない筈の防御をフレイは間に合わせてしまった。だがフレイの反応速度は間違いなく自分に劣る筈なのだ。それがどうして間に合わせる事が出来たのか、それがキラには分からなかった。

「俺を忘れるなよ!」

 そしてキラが動きを止めている間に、フレイと激突していたアスランの背後からトールのストライクが襲い掛かってきた。ストライクが振るったビームサーベルをシールドで受け止めたジャスティスであったが、反対側からはフレイのウィンダムが腰のアタッチメントから外したビームライフルで射撃してくるので反撃を加えている余裕がなくなってきている。エース級2人が同時に襲い掛かってくるというのは流石に種割れしたアスランでも手を焼くのだ。

「不味い、流石にこれ以上は不味い!」

 2機がかりで挟撃してくるウィンダムとストライクにアスランは焦っていた。これで更にフリーダムも居るので、意識を1機に集中できないのだ。そして次いでで相手が出来るほどフレイは甘い相手ではない。ストライクの方も良い腕をしていて厄介な相手だ。
 だがストライクがこの中では一番弱いと考えたアスランは、まずストライクを始末しにかかった。もう1つあるビームブーメランを取り出して投擲し、ビームキャノンをストライクに向けて放つ。その砲撃をシールドで防いだトールであったが、その直後にフレイから逃げてと悲鳴のような声で言われ、慌てて周囲を確かめる。すると先ほどジャスティスが投げたブーメランが大きく粉を描いて真後ろから自分を襲おうとしているのが見えた。

「おいおい、マジか!?」

 あれを食らうわけにはいかない。トールは回避しようとしたのだが、再度のジャスティスからの砲撃に動きを止められてしまった。アスランはこれを狙っていたのだ。動きを止められたストライクの右足をブーメランが直撃し、足を両断してジャスティスの手に戻ってくる。そして姿勢を崩されたストライクにジャスティスはビームライフルを向けようとしたが、これはフレイが接近戦を挑む事で邪魔をした。


 そして更にここに致命的な援軍がやってきた。

「お前ら、まだ生きてるな!?」
「お父さん!」
「アルフレット少佐!?」

 そう、アルフレットのクライシスがやってきたのだ。背中に背負ったIWSPから大量の砲弾が叩き出され、何発かがアスランのジャスティスを捕らえて吹き飛ばしてしまう。このクライシスに覚えがあったアスランはよりによってなんでこいつが来ると怒鳴っていた。

「ポートモレスビーで出てきたあのクライシスか。何でこんな時にこんな奴が!」

 このクライシスの強さはアスランも良く知っている。残念だがこの状況で更にこんな化け物まで相手取る余裕は無く、アスランはクライシスの相手をする前に戦場から離脱して行った。どうせもう撤退の時間だろうから。
 ジャスティスを追い払ったアルフレットは、何故か空中で動きを止めているフリーダムの傍によってその肩を掴んだ。さっきからこいつは何をしているのだ。

「おい、何さぼってやがる小僧。今は戦闘中だぞ!」
「……あ、少佐?」
「おい、本当に大丈夫かよ。何ボーとしてたんだ?」

 アルフレットに声をかけられてやっと我に返ったようなキラの反応にアルフレットは呆れた声をかけたが、キラは大丈夫だといって機体を立て直した。

「ちょっと考え込んじゃって。こう色々と、彼女じゃないとか、何で僕より速いんだろうとか……」
「あん?」

 何を言ってるんだこいつはとアルフレットは思ったが、それ以上追及している暇も無く、トールには戻るように言って他の機体を連れて内陸へと進んでいった。既にフラガが率いる部隊がオノゴロの内陸に進んでいる筈なのだ。





 一方、スーパーメカカガリに襲い掛かろうとしたシンはまさに突撃槍でチャージをかけようとしたところでユウナに止められていた。ユウナはなんだか必死さを醸し出してシンにちょっと待てと呼び止めてきたのだ。

「待ってくれシン、それはとんでもなく高いんだ、スクラップにはしないでくれ!」
「な、何言ってるんすか。今戦争中なんですよ!?」
「分かってるけど、それはオーブの新技術の塊なんだ。壊すならデータ取った後映画の撮影で煮るなり焼くなりさせてあげるから、修理可能な状態で動きを止めてくれ!」
「無理難題吹っかけるなあ!」

 ユウナの頼みにそんな無茶苦茶できるかよと抗議の声を上げるシン。もっともユウナの方はカガリにオクトパスホールドをかけられながらの頼み事なので、シンの抗議にいちいち答えている余裕は無かったりする。むしろその状態でシンに頼み事をしてこれた根性に敬意を表すべきかもしれない。
 だが、この僅かな躊躇はシンを窮地に追い込むこととなった。スーパーメカカガリは自分の前を飛ぶヴァンガードを見つけたのか、其方にまん丸な白目を向けてきたのだ。その目になんだかやる気を抜かれていくような脱力感を味わったシンだったが、次の瞬間には慌てふためく事となった。何とそのまん丸の白目からいきなりレーザービームが発射され、ヴァンガードの右側のエネルギー偏向装甲を捉え、破壊されてしまったのだ。流石の偏向装甲も光であるレーザーまでは曲げられなかった。

「ちょっと待てえ、口から怪光線の次は目からビームかよ!?」

 何処まで趣味に走ったものを作ったんだよと抗議の声を上げながらヴァンガードは墜落し、大地に叩き付けられた。墜落したヴァンガードを見下ろしたメカカガリがゆっくりと歩き出し、ヴァンガードに向かっていく。

「シン、逃げて!」

 ヴァンガードが撃墜されたのを見たステラが慌てて助けに行こうと走り出したが、その時何かに足を取られてマローダーが思いっきり前のめりに転んでしまった。その衝撃でコクピットの中で目を回しかけたステラが何を引っ掛けたのかと涙目で足元を確かめると、何かの太いケーブルが右足の部分に引っかかっているのを見つける事が出来た。それはモルゲンレーテの地下施設の方に伸びていて、途中で切れてしまっている。どうやらマローダーの走る勢いと重量に耐えられなかったらしい。

「……あれ?」

 ひょっとしてと思ってスーパーメカカガリの方を振り返ったステラが目にしたものは、ヴァンガードの方に歩いていく途中で動きと止め、完全に停止してしまったスーパーメカカガリの雄姿であった。そう、スーパーメカカガリの尋常ならざるパワーは外部からの電源供給によって得られたものだったのだ。
 スーパーメカカガリ停止の知らせを受けたカガリはどういうことかとユウナに聞いたのだが、返ってきた答えに呆れ果ててしまった。

「何で有線なんだよ、ありゃでかいリモコン玩具か!?」
「いやだって、特撮メカなんだから無理に内部電源にする必要ないし」

 尻尾の先に電源とリモコンの同軸ケーブルが延びてたんだよね、と笑って答えたユウナに、カガリは今日何本目になるか分からない血管のぶち切れる音を聞いた。そのままユウナの背中に回りこんだカガリは胴体に両手を回し、思いっきりユウナの背中を持ち上げて姿勢を後ろに倒していく。
 そして、アークエンジェルの艦橋になんとも鈍い音が響き渡った。





 モルゲンレーテの地下でスーパーメカカガリの操作をしていたユーレクは、突然操縦不能になったのを見てどうやらケーブルが切れたようだと理解していた。まあ時間稼ぎは出来たようであるし、役目は果たしたと見るべきだろう。

「これでザフトの撤収準備は終わるだろう。後はどうやってここから逃げるかだが」

 ユーレクはモルゲンレーテの地下で見つけていたMSを見上げていた。それはIWSPを背負った赤いストライクであったりする。右肩に獅子の紋章が描かれており、アスハ家の人間が作らせた機体であることを伺わせているが、結局使われる事は無かったのであろう。ザフトも技術データを入手した後は実機には興味を示さなかったようで、ハンガーのMSデッキで埃を被っていた機体だ。

「しかし、あの悪趣味な金色の玩具といい、このストライクといい、ここには変な物ばかりあるな」

 これでも逃げるくらいの役には立つだろうと思い、ユーレクはヘルメットを掴んで昇降機に向かっていった。ユーレクは知らなかったが、この機体こそモルゲンレーテがカガリのために作っていたオーブ製ストライク、ストライクルージュである。


機体解説


スーパーメカカガリ

兵装 スーパーサウンドブラスター
   アイレーザー×2
   ビッグハンド

<解説>
 オーブの新技術をこれでもかと盛り込んだ世界最強の特撮用リモコンロボット。オーブ防衛戦の際にはほとんど完成していたが、製作側がその凄さを理解していなかった為に実戦には投入されなかった。戦後に残ったスタッフが完成させたのだが、流石のザフトも特撮機材には見向きもせず、というか関わりたくなかったようで、その貴重なデータを見過ごす失態を犯している。
 オーブ奪還後にこれに関わった人間はカガリから予算の出所などを厳しく追及されることになる。なお、オーブ開放作戦における戦闘記録映像が後に映画で使われ、大ヒットの原動力となったらしい。




GAT-X04 ウィンダム試作型

兵装 ガウスライフル
   ビームサーベル×2
   頭部40mmバルカン×2
   攻盾タイプE型ABシールド
   シールド裏ミサイル×2

<解説>
 X403クライシスの量産試作モデル。ダガー系列に続く次世代主力機として開発され、クライシスと共通する基本装備を持ち、新型ラミネート装甲、自力飛行能力を有している。ライフルとシールドだけは新規に開発された物で、シールドはミサイルを装備している。ただ強制冷却システムは除去されてしまった。
 基本性能はクライシスと同等ながら、クライシスのデータを元に大幅な改善が行われて実用性が向上している。特に操縦系の改良は目覚しく、一般のパイロットでも使いこなせるものとなった。これらの改良には各地から集まったコーディネイター技術者の手助けがある。
 最大の変更点としてはストライカーシステムの排除があり、コスト削減や機体バランス、機体強度の大幅な向上が達成されている。結果として汎用性が低下したが、それらは機体各所に設けられているハードポイントに追加装備を加える事で補っている。また、機体の特性を汎用型一本に絞る事でパイロットの訓練の負担を大幅に軽減した。


後書き

ジム改 むしゃくしゃしてやった、メカなら何でも良かった、今は反省している。
カガリ お前は自己チュ-な犯罪者か!
ジム改 いや、一応最初で最後のスーパーメカカガリの活躍だし。
カガリ 強すぎないか、これ?
ジム改 うむ、特撮用としてはちと火力がありすぎたな。
カガリ いや、絶対に特撮用じゃないから。これ本土決戦で出してればなあ。
ジム改 いやまあ、出せたんだけどね。完成目前だったから無理すれば出せた。
カガリ 出してりゃオーブ落ちなかったんじゃねえのか!?
ジム改 そうだな、1機で1局面を支え切れそうだし、AAが来るまで持ったかもな。
カガリ 何で使わないんだよ!?
ジム改 誰も特撮用ロボットが戦闘で使えるとは思わなかったのだ。
カガリ おいおい……。
ジム改 それでは次回、地球軍の猛攻に総崩れになるザフト。最後まで抵抗していた特務隊もグリアノスに言われてシャトルに引き上げる。アスランは全ての装備を捨てさせてシャトルに多くの人間を詰め込んでいくが、カグヤに地球軍が迫るのを見て絶望してしまう。だが、そのアスランにグリアノスが最後の命令を与えた。次回「散り逝く戦士」でお会いしましょう。

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