第119章 新たなる参加者
極東連合の首都、東京にある首相官邸では、極東連合首相の伊藤首相が運命の瞬間をじっと待っていた。周囲には閣僚も揃っており、じっとしている。そして、伊藤首相は国防を任せられている藤堂長官を見た。
「長官、我が軍の配置はどうなっておりかね?」
「は、地上軍は佐世保港に第2艦隊が、沖縄には第3艦隊が出撃準備状態で待機しております。また、呉の第1艦隊も出せる準備をさせております。宇宙におきましては第2艦隊を軌道上に待機させており、御命令があればすぐにアメノミハシラに駆けつけられるよう準備をしております。グランソート要塞の第1艦隊、第3艦隊も戦闘準備を終えております」
「そうか、いよいよだな。我々の参加で世界の軍事バランスは連合に大きく傾く事になる」
そう言って、伊藤首相はにこやかに笑っていた。今や世界の情勢は連合有利に傾いている。ヨーロッパでのザフトの大敗を見れば分かるように、既にザフトは開戦初期の力を失っているのだ。宇宙でもその優位を確保できず、制宙権争いが続いている。この情勢で極東連合が擁する4つの洋上艦隊、3つの宇宙艦隊が加われば、ザフトの制宙権、制海権は事実上崩壊する事になるだろう。
地球軌道に展開する第2艦隊は戦艦ナガトとムツを主力とする16隻の艦隊で、自国製のMSオリオンを運用できるように改装が施されている。極東連合はこれまで参戦していなかったので、戦訓を元に装備をじっくりと改修する余裕があったため、最初から優れた装備をもって戦場に出ようとしていたのだ。
ザフトの負けが見えた時点で参戦してくるというのは卑劣に思えるが、これが国家というものの現実だ。戦争に負けたら大変な事になるので、どうせ参加するなら勝ち組に入った方が良い。既に大洋州連合などはザフトの負けを見越して連合諸国に講和の打診をしてきており、プラントと一緒に沈むのはご免だというエゴ丸出しの外交を秘密裏に展開している。仲介役として極東連合に大西洋連邦との交渉の場を作って欲しいと頼み込んできた事もあり、それを受ける事で大洋州連合に大きな貸しを作ったりもしている。大洋州連合と極東連合はAD世紀の違う国名だった頃から仲は良かったりする。
そしてここに来て遂に連合側に立って参戦する。今頃プラントでは領事が評議会に宣戦布告文書を手渡している筈だから。
「だが、もしプラントがあの要求を呑んだりしたら、参戦できなくなるな」
「流石にそれは無いでしょう。あれが呑めるなら、最初から戦争になどなっていません」
首相の言葉に閣僚達が笑い出す。そう、極東連合がプラントに突きつけた最後通牒は、実にとんでもない要求だったのである。
極東連合からの最後通牒を突きつけられたエザリア・ジュールは体を小刻みに震わせてその文面を目を通していた。そこに書かれていた内容はある意味降伏と同義とさえ言えるような無茶苦茶な内容だったのだ。
「この戦争で貴国が受けた経済的損失の賠償と、地上ザフトの撤退。さらにプラントが保有する資源衛星の譲渡、極東連合の船舶の航行の安全と経済活動の保証だと?」
撤退と船舶の安全の保証は構わない。どうせ地上は放棄するのだし、極東連合艦船は前から無視してきたのだから。だが、確かに経済的損失はあっただろうが、それを今賠償しろとは無茶苦茶だ。今は戦時下であり、金は幾らあっても足りない。いや、戦後でもこんな金は払えまい。極東連合の要求してきた金額はプラントの国家予算を超えているのだから。さらに資源衛星の譲渡とは、プラントを単なる加工工場にするつもりなのだろうか。それに資源衛星を失えば、プラントは戦争継続が出来なくなる。
「貴国はプラントを何だと思っているのだ。こんな要求、呑める訳が無かろう!」
書類をデスクに叩きつけて激怒するエザリア。それはまあ当然だったろうが、大使にはそんな物は関係が無い。まあ当然の反応であり、考慮されたりしたら逆に戸惑っていただろう。
大使は叩きつけられた書類を取り上げて自分の持ってきた封筒に戻すと、少し残念そうな声を作ってエザリアに用意してきた答えを告げた。
「そうですか、残念です。それでは、プラントと我が国はこれより戦争状態となりますが」
「……最初からそのつもりだったのだろうが!?」
「まあ、そうでしょうな。本国もそのつもりだったのでしょう」
大使はエザリアの糾弾の言葉に頷いていた。彼自身は本国の思惑など知る立場では無いが、過去の本国の動きやこの文書の内容などを見れば勘違いをする余地など無い。極東連合は最初からプラントに宣戦布告をするつもりで、今日まで準備を整えて機会を伺っていたのだろう。恐らく勝ち馬に乗るタイミングを待っていたのだ。
エザリアにも大使にもそれは分かっている。だからこそエザリアの糾弾の声には怒りと空しさが感じられ、大使の態度にもやるせなさが溢れている。この文書は単なる口実作りの材料に過ぎない。極東連合が求めた交渉の道をプラントが拒絶した、という大義名分が欲しいだけに過ぎない。AD20世紀の世界大戦においては、アメリカという国は自国の船を戦場に送り、わざと撃沈させて向こうが先に手を出してきたという理由をこじつけようとしたが、この手の大義名分作りは何時の世でも変わらないらしい。
極東連合の大使が退室した後、エザリアは統合作戦本部に極東連合の参戦を伝え、これを交えて戦略の修正を行うように指示した。そして、本部長にこれからどうなるかの予測を聞いた。
「本部長、極東連合の参戦、どれほどの不利となると思う?」
エザリアの問いにヴィジフォンの先の本部長は暫し返答に詰っていたが、それでも答えてくれた。その答えはエザリアを凍りつかせるようなものであったが。
「恐らく、地上軍の崩壊に拍車がかかるでしょう。極東連合はこれまで戦火を経験してはおりませんが、装備は大西洋連邦に並んで一流で、兵士も精鋭揃いです。弱体化した東アジアなどよりよほど恐ろしい相手です。特に海軍は充実していますから、制海権を完全に奪われるかもしれまん」
「では、地上軍を脱出させるという作戦はどうなる?」
「……修正を迫られるでしょう。幾つかの戦線を切り捨てる必要さえあるかもしれません。また、宇宙でも極東連合は無傷の3個艦隊を持っていますから、グランソート要塞があるL2方向には新たな戦線が作られるでしょう」
戦闘正面がまた1つ生まれる。それはザフトにとっては絶望的な現実だ。オーブが参戦した際にはオーブコロニー群があるL3は大した戦力を持たない事からあえて無視していたくらいにこれ以上の戦線拡大を避けていたのに、今度は兵力を向けない訳には行かなくなった。
「……敵の宇宙艦隊の兵力は、どれくらいなのか?」
「連合正規艦隊、2つ分に相当するかと。数は戦闘艦だけで50隻以上になり、MAだけではなく、MSの開発にも成功しています。特に最新鋭艦のヤマト級は、大西洋連邦のアークエンジェル級以上の戦闘力を持つと言われております」
伊達に世界第2位の経済大国では無い。おまけに大西洋連邦とも仲が良いから、兵器技術もかなり高い。そんな連中が遂にこれまでの沈黙を破って参戦してくるのだから、ザフトにとってはたまったものでは無いだろう。
本部長との通話を終えた後、エザリアはデスクの上で両手で頭を抱え込んでしまった。完全に先が見えないこの状況下で、これからどう戦争指導をしていけば良いのだ。
「パトリック・ザラが正しかったというのか。我々はパナマで戦争を終わらせるべきだったのか?」
コーディネイターの力をエザリアは信じていた。自分達は勝てると、このまま頑張れば最後の勝利を必ず掴む事が出来ると信じていたから、中途半端な形で終わらせようとするパトリック・ザラが許せなかった。だからクルーゼの話に乗ってパトリックを排除しようとしたのだ。
結果的にはラクス・クラインが始末してくれたので自分の手は汚れる事無く、合法的に政権を奪えたのでエザリアは素直に喜んでいたわけだが。ただ1つだけ気になる事があるとすれば、パトリックを殺したのは本当にラクスなのかか、という疑問くらいだろうか。こういう政治目的の暗殺は喧伝しなくては意味が無い。それを自ら濡れ衣だと否定しているのだから、ラクスは本当に犯人では無いのではないかとエザリアは考えていた。もっともこれはあくまで推測であり、もし本当に犯人が別に居たとしても反逆者であるラクスの罪が消えるわけではないのだが。
「地上は先の作戦計画以上に予定を切り上げる事になるだろうな。切り捨てる部隊も増えるだろう。だが、それで僅かな兵力を帰還させたとしてもそれでどうなる。地上を奪還すれば連合は総力を挙げてプラントに攻め寄せてくる筈だ。それを食い止める事など……」
その先は呟くまでもなく不可能だと分かりきっている。今でも敵の一部でしか無い月の部隊だけが相手の現時点でもどうにか押さえているという状態で、極東連合の加入で制宙権を奪われるかもしれないのに、連合が全力を振り向けてきたら勝てるはずが無い。頼みのジェネシスは未だに完成には至らず、これが完成するまで戦線を支えられるかどうかさえ不透明なのだから。
いや、仮に勝ったとしても、その後はどうすれば良いのだ。既にザフトが失った兵員は総人口の1%にも達する。民間人の死者は3%に届くのだ。そして軍務に取られている兵員を考慮すれば、プラント国内の人口は開戦時より15%も減った事になる。これは社会システムの維持さえ出来なくなる数字だ。パトリックが居た頃はどうにか支えていたが、エザリア政権になって以来社会システムの崩壊が目に見えるようになっている。
引き下げられていく募兵年齢と、戦地から帰ってこない兵隊たち。そしてプラントに及ぶようになった戦火。月からのマスドライバーを利用した隕石攻撃は本国防衛用の戦力の不足から防ぎきれなくなっており、プラントに大きな被害を及ぼすようになったのだ。それ以外にも2ヶ月前の連合の奇襲攻撃ではコロニー1つが完全破壊され、最終的に3つのコロニーを放棄する羽目になった。これはプラントという作られた世界がどれほど脆いのかを教えている。
もう、プラントは戦争を継続できなくなろうとしている。これ以上の戦争継続はプラントという社会そのものを崩壊させる危険を孕んでいるからだ。経済と社会は限界に達しており、多数の死傷者はコーディネイターという種の未来を奪いかねない数になっている。このままでは例え勝利したとしても、未来を受け継ぐ若者が残っていないという事態になるだろう。
自分がやったことは、プラントを滅亡に引きずり込んだだけだったのではないのか。エザリアはそう考えて激しく苦悩する事になる。たとえ今から講和を持ちかけたとしても、それはパトリックが勝ち取ろうとしていた条件よりはるかに過酷な物となるのは確実で、戦前の植民地状態よりも悪化するのは目に見えているから、講和を持ちかけることも出来ないのだ。
アメノミハシラを巡る戦いは激しさを増していた。キラのフリーダムがゲイツとぶつかりあい、M1とストライクダガー隊がジンやゲイツと消耗戦を繰り広げている。そしてオーブ艦隊と連合の艦隊はザフト艦隊と真っ向から撃ちあっていた。
この艦隊戦はアメノミハシラよりやや離れた宙域で行われていたのだが、その戦いは少しずつオーブ側に不利なものとなっていた。ザフト艦隊は勇将ハーヴィックの指揮の下でザフト艦の足の速さを生かした機動戦を行っていたのだが、オーブ、連合艦隊はただ数が集っただけの寄せ集めなので、数で勝っていても戦力的には今1つだった。加えて最大戦力であるオーブ艦隊はクルーの経験不足とユウナの後手後手の対応で振り回されているので、嬲られているとさえ言える戦いになっている。
MS戦はキラがガザートにかかりきりになっている為にオーブが押され気味となり、艦隊にMSが取り付くという事態に陥っていた。各艦が激しく対空砲火で弾幕を張っているが、ザフトMSは対艦攻撃に慣れているようで対空砲火を物ともせずに突っ込んでくる。
「2時方向からジン5機、来ます!」
「弾幕を絶やすな。狙われてるのは本艦か!?」
「違います、タカナミです。その後方から更にゲイツ3機!」
狙われたのはクサナギの上方を守っていたタカナミだった。5機のジンが散開しながら左右と上方から一斉に襲い掛かり、バズーカと重突撃機銃でタカナミを滅多打ちにしようとしているのだ。そんな事はさせまいと周囲の艦から火線が集中され、さらにM1が2機横から割り込んで邪魔をしてくる。そして更にゲイツまでが突入して来ようとしたのだが、これは割り込んできたM1Sに阻まれた。
シールドを構えて、対艦刀を引っさげて駆けつけてきたシンのM1Sは他のM1型が装備していない胸部マシンキャノンを2門持っており、ビームライフルを使わなくても近距離ではジン以上の砲火力を達成しているのだ。このマシンキャノンはイーゲルシュテルンと同じ弾薬を使っているが、砲長身が頭部のCIWSよりはるかに長く、貫通力と直進性に優れている。
3機のゲイツは割り込んできた小癪なM1をさっさと始末しようとビームライフルを向けたのだが、そこに今度はコスモグラスパーが突入してきてシャワーのような火線を浴びせかけ、そのまま反対側に駆け抜けていく。その攻撃で何発か被弾したゲイツたちが怒ったようにライフルを逃げていくコスモグラスパーに向けようとしたが、それはただの牽制だとすぐに気付いた。本命はもう目の前に来ていたのだ。
「し、しまった!」
目の前に迫るM1Sが既に対艦刀を振り被っている。咄嗟にそれをシールドで受け止めようとしたが、M1Sは構わずにシールドに対艦刀を力任せに叩きつけ、シールドを叩き割ってゲイツを真っ二つに両断してしまった。そしてその近くにいたもう1機が慌ててシールドのビームクローを出したが、そちらも勢いに任せて叩きつけた対艦刀で粉砕した。
仲間が殺られたのを見て最後の1機が逃げ散っていく。それをシンは追う事はせず、機体を翻してタカナミを確かめようとした。だが、既にタカナミはジンの集中攻撃を受けてあちこちから爆発の光を上げており、シンの見ている前で搭載弾薬が誘爆したのか、艦首の方で内部から引き裂かれるような大爆発が起き、僅かに遅れて本体も飲み込まれてしまった。
目の前で助けようとした船を沈められた事で、シンは最初呆然として、すぐに込み上げてきた激しい怒りに身を委ねてしまった。しかしタカナミを沈めて逃げようとするジンを照準に捕らえてマシンキャノンを放ったが、距離が有りすぎて直撃は出せなかった。逃げていくジンをシンは追いかけようとしたが、それはキースに止められる事になった。
「シン、お前はキラの支援に行け。なんか知らんがゲイツ相手に梃子摺ってるようだ」
「でも、あいつ等を追いかけなきゃ!」
「シン、今は言われた通りにするんだ。戦争は喧嘩じゃないんだぞ!」
ジンを追おうとするシンをキースは一喝して無理やりキラの援護に向わせる。キラを早くこっちに戻らせてMS戦の不利を逆転させようと考えたのだ。烏合の衆である友軍部隊では連携のとれるザフトに対してかなり分が悪い。
ただ、シンに対して軍人の理を押し通した事は不味かったかなと少し後悔していた。軍人ではなく、まだ13歳の子供でしかないシンにああいう言うい方をすると反発するだけだと言ってから気付いたのだ。しかし、そんな思春期の複雑な心などに気を配っている余裕は戦場にはなく、キースもすぐにそれを頭から追い出すと周辺の連合のコスモグラスパー部隊に声をかけて部隊を纏めにかかった。
アメノミハシラから戦況を見据えていたカガリは、艦隊が少しずつアメノミハシラから引き離されているのを見て不味いと感じていた。近くで戦われるのも困るが、余り距離が開くとアメノミハシラが無防備になってしまう。
カガリは右手を顎に当てて考え、カズィにユウナを呼び出すように言った。それを受けてカズィがクサナギと連絡を取り、少し待って4番モニターにやや疲れた様子のユウナが現れた。
「ユウナ、艦隊がアメノミハシラから離れすぎてる。そろそろ戻って来い」
「そうしたい所だけど、どいつもこいつも殺気だっててこっちの命令に従おうとしない。特にMS隊が前に出すぎてる」
「MS隊が……馬場一尉か?」
あの血気盛んな馬場一尉が突撃を繰り返しているというのだろうか。カガリはユウナの報告に顔を顰めると、カズィに命じて全域周波数で自分の命令を流せと命じた。カズィがそれを事項してカガリに伝えるが、カガリがマイクを手に大きく息を吸い込んだのを見て思わず耳を両手でふさいだ。
「お前等いい加減にしろ。今すぐ前進を止めろ、これは自由オーブ軍代表である私の命令だっ!」
司令室に轟くような大音量の命令に誰もが顔を顰めている。カズィだけは防御が間に合ったので無事だったが、他のオペレーターたちは結構ダメージを受けたようだ。これは全域周波数で無差別に流された為、オーブ軍どころか救援に来ていた連合軍や敵であるザフトにまで聞かれてしまい、何事かと驚かせていた。
そしてこれに一番驚いたのはオーブ軍の将兵で、カガリの一喝を受けて慌てて後退を始めている。どうもユウナの命令よりもカガリの怒鳴り声の方が彼等には効果があるようだ。
クサナギから艦隊が後退を始めたのを確かめたユウナは少し複雑そうな顔をしていたが、すぐに苦笑に変えてカガリに礼を言ってきた。
「お見事、流石は代表だ」
「お世辞は良い。それより、戦いを切り上げて戻ってくれ。これ以上犠牲を出したく無い」
「分かってる、MS隊を殿にして部隊を下がらせるよ」
ユウナが敬礼をしてモニターから消え、カガリは椅子に腰を降ろして小さく溜息をついた。部下を一喝して命令を聞かせるなどという慣れない事をしたので、気疲れしてしまったのだ。
「代表なんかには向いてないのかもな、私は」
「そんな事無いんじゃないかな、わりと様になってたよ」
オペレーター席で回線の切り替えをしていたカズィがカガリの呟きに気軽に答える。アークエンジェルからの付き合いのせいか、カズィはカガリがオーブ代表となってからも昔と変わらない口調で話している。まあ、カガリがそれで良いと言ったせいでもあるのだが。
しかし、カズィにそう言われてもカガリの気は晴れなかった。命令するのには慣れているのだが、強要するのは慣れていないのだ。この辺りは経験の問題なので、慣れるしかないのだが。
カガリは頭を左右に振って落ち込んできた気持ちを立て直すと、カズィに状況を聞いた。
「カズィ、艦隊は?」
「ユウナさんが指揮系統を立て直したみたいだ、連合軍と一緒に損傷艦を守るようにして後退を始めてる。MS戦も下火になってきたみたいだ」
傍受している通信がだんだんと整い出していることから、艦隊が立て直されてきたようだと判断するカズィ。それを聞いてカガリも戦術スクリーン上で陣形を整えだした自軍部隊を確認し、ほっと安堵の息を吐いた。これでやっと戦いが終わりそうだと思えたから。しかし、まだ戦いは終わっていなかった。両軍のエース同士の最後の対決が続いていたのだ。
余人の介入を許さぬ戦いを続けるキラとガザート。フリーダムがゲイツを相手に梃子摺っているというのはおかしな事であったが、これはフリーダムの状態が関係していた。これまでの5機の核動力機との交戦でフリーダムもまたボロボロにされており、コクピットのキラが焦りを浮かべている。このフリーダムはもう整備班に預けて本格的なメンテナンスを受ける必要があるほどに壊れていたのだ。
加えてこれまでの連戦でキラの疲労がピークに達していた。ジャスティス2機を同時に相手取るのは無茶を通り越した暴挙だったのだ。
このフリーダムに対して、ガザートのゲイツは完全な状態だ。機体もパイロットも完璧なコンディションで戦いに臨んでいる。この差がフリーダムとゲイツに対等の勝負をさせていた。
「メンデルの事は、僕には関係無いだろ。何で僕が狙われなくちゃいけないんだ!?」
「ああ、その通りだ、お前のせいじゃない!」
足が遅くなっているフリーダムに接近戦を仕掛けて得意の砲撃を封じているガザートは、シールドのビームクローでフリーダムにチャージをかけるが、キラはそれをシールドで受け止め、力押しの勝負に持ち込む。
「お前のせいじゃない……だが、メンデルはもう無い。だから、俺にはお前しか恨む相手が居ないんだ!」
「そんな理不尽な事って!」
完璧なまでの八つ当たりにキラが怒りを見せるが、ガザートも恐れをなしたりはしない。そう、この戦いの滑稽な所は、この2人の悲劇を生み出した源泉であるメンデルがもう無いという点にあった。当時の資料もまともに残ってはおらず、メンデルの子らには恨みをぶつける相手がいないのだ。
こんな状況で、ガザートが憎しみをぶつける相手に選んだのがキラだったらしい。メンデルを代表する遺産が最高のコーディネイターだから、そのキラを倒す事でメンデルに復讐してやろうというのだろう。
もっとも、それはキラから見れば理不尽な八つ当たりに過ぎない。自分には何の責任も無いことなのに、何で命を狙われなくてはいけないのだ。いや、まだキースやユーレクなどが言うなら分かる。2人は間違いなく自分が原因で改造された被害者だからだ。だが、メンデル経由の技術でプラントで作られたガザートに恨まれる筋合いは無い筈だ。
「貴方はプラントで作られたんだろ。何で僕を恨むんだ。恨むならプラントの技術者にしてくれ!」
「心配するな、そちらにも計画は進めている!」
「ちょっと待てえ!」
手当たり次第かよ、と判明してキラは理不尽を通り越してふざけるなと叫んでいた。この男は危険すぎる、彼にあるのはすでに被害者意識ではなく、ただ復讐がしたいという出鱈目な欲求ではないのかとさえ思えてきた。
「さあ、そろそろ死んでもらうぞ、キラ・ヒビキ!」
「殺れるものならね!」
パワー差に物を言わせてシールドでゲイツを押し切り、弾き飛ばしてプラズマ砲の照準を向ける。幾ら強いといっても所詮はゲイツであり、ガザートが凄腕でもパワー差まで埋めれるわけではない。ガザートのゲイツはあっさりとフリーダムに弾き飛ばされてしまった。
ただ、弾かれても態勢を崩す事はなく、フリーダムの砲撃が始まる前に回避運動に入っているのは賞賛すべき技量である。キラはフリーダムの4門の固定砲を使った交互射撃で切れ目の無い攻撃を加えたのだが、その事如くを無駄弾に終わらせている。
それどころか、回避の合間に反撃さえ加えてきたビームライフルを向け、回避運動中の射撃としては驚くほど正確な射撃を加えてきてキラに冷や汗をかかせている。大半は至近弾程度だが、中には直撃コースでキラが回避をする事もある。
「くそ、ゲイツであんなに動けるなんて!」
機体性能で劣っている筈なのに当てられない、この事実がキラを苛立たせているが、そんなキラの焦りをガザートは嘲笑っていた。
「ふん、ゴテゴテと武装を増やしたデコレーションに乗って、思い上がったようだな」
「デ、デコレーション?」
「状況によっては沢山の大砲より、1つの名銃が勝る事もあるってことを……」
ゲイツがビームライフルをフリーダムに向ける。
「教えてやる!」
射撃勘頼りの射撃をフリーダムに加える。これがフリーダムへの直撃コースを駆け抜け、フリーダムに回避を強要する。それで射撃が止んだところを突いて再び距離を詰め、シールドからビームクローを出す。
「距離を詰めれば、フリーダムもただのMSだ。砲撃MSを主力に使うしかなかったオーブの情けなさを呪いながら死ね!」
プラズマ砲やレールガンは強力であるが故に最低射程が存在する。余り近付かれると照準システムが上手く狙えなくなるのだ。元々は中距離砲戦を想定して開発された機体であり、こんな至近距離で戦う事を主眼に開発されたわけではない。そういう仕事をする為に前衛用のジャスティスがあったのだから。
再びシールドを叩きつけようとしてくるゲイツにキラはシールドを前に向けるが、ゲイツは途中でいきなりエクステンション・アレスターを射出してきた。ビームクローで接近戦を仕掛けるつもりだと考えていたキラは完全に意表を突かれてしまい、回避も出来そうになかった。
このアレスターでガザートは仕留めたと確信したが、それはすぐに崩された。フリーダムは回避できないと悟ったのか、飛んできたアレスターをビームライフルで受け止めたのだ。ビームライフルを捉えたアレスターがビームを放ってライフルを破壊したが、本体のほうは全くの無傷だ。咄嗟の思い切りの良さが被害を局限したわけで、ガザートは舌打ちして悔しさを表していた。
「やるな。しかし、まだだ!」
このまま格闘距離に踏み込んで叩いてやろうと決め、一気に距離を詰めようとする。だが、いきなりコクピットの響いたロックオンの警報に反射的に機体の進行方向を変えてしまう。そして、自機の至近をビームが貫いていった。
何が、と思ってビームが飛んできた先を見ると、1機のM1がこちらに突っ込んできていた。どうやらフリーダムの援護に来たらしい。
「ふん、雑魚が……」
オーブ軍のM1など、連合のストライクダガーにも劣る雑魚でしかない。機体は確かに良いかもしれないがパイロットが弱すぎて話しにならない。それはオーブ本土決戦、そしてアメノミハシラを巡る幾度かの戦いでオーブ軍自らが証明してきたのだ。まあ、オーブ本土には何機か化物じみて強いM1もいたらしいので、パイロットが良ければ機体を選ばず脅威となる、という事だろう。ザフトにもジンやシグーで連合のG以上の強さを見せる奴がいるのだから。
M1などに構っていても仕方が無いと考え、ビームライフルで叩き落してしまおうと考えたガザートだったが、彼はすぐにその油断を取り立てられる事になった。このM1はデータに無いほどの速度で接近し、しかもビームライフルを捨てて背中から対艦刀を持ち出したのだ。このデータにない性能、武装を持つM1にコンピューターが対応し切れず、ガザートが気付いた時には既にM1は至近距離にまで来ていた。基本的にMS戦闘はコンピューターが策敵、判断をするので、データに無い機体や装備が出てくるとこういう事態が起きる。エクステンション・アレスターなどの奇襲兵器もこのコンピューターの対応が遅れる、という点で効果的な武器となるのだ。だからこそパイロットが常に警戒するのだが、今回はガザートが相手はたかがM1と侮ったのが不味かった。
「対艦刀、M1にそんな武装があったのか!?」
これまでのM1にはそんな武装は無かった。少なくとも公式戦闘ではそんな記録は無い。ジャンク屋が保有するM1系のMSがサーベル型の実剣を持っていることは知られているが、対艦刀は無い。つまりM1がガーベラ・ストレートを持ってたならコンピューターは外観からその可能性をガザートに警告していたのだが、今回は全くのデータ外の装備に対応し切れなかったのだ。
対艦刀を持ったMSに接近戦を仕掛けられた。これはガザートには大きく不利となった。これはその名の通り戦艦さえぶった切ることが可能な、実剣の重さと光剣の熱量を併せ持つ言語道断の白兵装備で、MS相手に使えば一撃でどんな相手でも致命傷を負わせられる威力を持つ。ただ、所詮は白兵武器で間合はこの類に物にしては広い、というレベルであり、距離を取れば脅威になりえない。故に開発した連合でも使う者がなく、廃れていったのだ。射程はそのまま強さに繋がるのだから。
しかし、今回は懐に入られてしまった。しかも使っているのはゲイツ以上に速いM1である。流石にこれは振り切れないと判断し、ガザートは格闘戦を受けてたった。シールドのビームクローとビームライフルで接近戦を仕掛ける。
振るわれた対艦刀をシールドで受けるのではなく、刃を横から叩く事で逸らすという紙一重の防御を行い、ビームライフルを突きつけるガザート。だがそこにM1の胸部に装備されていたマシンキャノンが放たれ、ゲイツの装甲を抉った。これにはたまらずガザートがゲイツを後退させ、シンがそれを追撃する。これらの固定武装と、M1とは思えない機動性にガザートもようやくこのM1が他の機体とは違う新型だと理解した。
そして、シンに助けられたキラは驚いた顔でM1Sを見ていた。まさか、もう戻ってきたというのだろうか。そしてシンの強さに目を疑っている。自分が相手をしていたシンと、目の前のシンは明らかに違うレベルの動きをしているからだ。
「シン、どうしてここに!?」
「どうしてじゃないだろ、何やってんだよあんたは!」
ゲイツを対艦刀の横薙ぎで後退させるシン。キラの問い掛けに対する答えには、明確な怒りさえ感じられ、面食らったキラはそれに答えを返せずにいる。そしてシンはそんなキラなどお構い無しにゲイツをさらに追い詰めながらキラに文句を続けた。
「アメノミハシラを任せたのに、何やってるんだよ。薬は今こっちに向ってるんだ。早くこいつらを叩き出してステラを助けないと!」
「う、うん」
鬼気迫るような勢いを見せるシンにキラは完全に気圧されていたが、我に返ると軽く深呼吸をして気を落ち着け、スティックを握りなおした。
「そうだね、早くステラを楽にしてあげないと」
シンのM1Sの対艦刀を懸命に避けているゲイツをフリーダムで狙う。距離が開いた今ならフリーダムは全力を発揮できるのだ。その高性能なFCSがゲイツに狙いをつけ、プラズマ砲とレールガンを斉射した。シンのM1Sと戦っていたガザートはフリーダムからの砲撃を見て顔色を変え、咄嗟にシールドをそちらに向けて直撃コースのプラズマ砲を受け止めたが、それで動きが止まった所にシンが容赦なく上段から対艦刀を振り下ろしてきた。
これを防ぐ事は出来ないと覚悟したガザートは、迷う事無く機体を左に逸らして右腕を対艦刀に叩きつけ、これの直撃を逸らす。だが叩きつけた右腕も無事ではなく、スクラップに成り果ててしまった。
「くそっ、ここまでだな!」
これ以上は戦えない。そう考えたガザートはM1に向けてアレスターを放った。これをM1が対艦刀で切払う隙にゲイツを反転させ、全速で戦場からの離脱を図る。これを見たシンは対艦刀を下げると、キラのフリーダムを見た。
「大丈夫すか?」
「うん、なんとかね。助かったよシン」
「べ、別に僕が助けに来たわけじゃ……キースさんに言われたから来ただけだよ」
キラに感謝されてか、シンは照れくささを隠すような事を言って誤魔化そうとしている。それがキラには微笑ましく思えた。そして、キラはシンに前衛を頼む事にした。
「シン、フリーダムの前衛を頼めるかな」
「前衛って、前に出ろてこと?」
「ああ、僕のフリーダムは中距離砲戦型だから、接近戦になるとどうしても不利なんだ。その点、君のM1は接近戦向きの装備をしてるからね」
キラの申し出になるほどと頷いたシンは、たいして考える事もせずにそれを受け入れた。
「分かったよ、じゃあ僕が前で、キラさんが後ろね」
「うん、頼むよ」
「じゃあ行きますよ、付いて来てください!」
シンのM1Sが加速して敵のMS隊に突っ込んでいく。それを追ってフリーダムも前に出て、近接支援の形を取った。昔はこの前衛役をトールと自分でやってフレイが後方を固めたのだが、オーブに来てからは頼れる前衛が見当たらず、接近戦には向かないフリーダムで前線に立っていたキラだったが、ここに来てようやく信頼に足る壁役をキラは得たのかもしれなかった。
そして、この2人の参加でMS同士の乱戦はついに決着がつくこととなる。
オーブ・連合艦隊とザフト艦隊の戦いは双方の消耗による痛み分けで終わろうとしていた。流石のハーヴィックもこれ以上の消耗は容認できず、艦隊を後退させている。そして戦闘が終息に向かいだした所に、最後の参加者が現れた。それに気付いたのはザフトの最新鋭艦であるカリオペのレーダー手だった。
「5時の方向から艦隊らしきものが近付いてきます!」
「艦隊? 敵か、味方か?」
この近くに味方は居ない筈なので、これは敵だろうと判断したロナルドだったが、帰ってきた答えは彼の想像外のものであった。
「極東連合艦隊です。ナガト級戦艦2隻を確認しました」
「極東連合だと?」
「極東連合艦隊は攻撃態勢をとっています。MS隊の展開を確認しました!」
「何だと、まさか奴等、攻撃してくる気か!?」
冗談ではない、この状況でまったく無傷の艦隊が出てくるなど反則もいい所だ。ロナルドはハーヴィックに極東連合艦隊が迫っている事を伝えさせ、急いで退避準備を始めさせた。もう勝負どころの話ではなくなったのだ。
ハーヴィックもこの報せに驚愕し、これ以上の交戦を断念して急速離脱を決意した。敵前からの無理な後退は犠牲が増えるが、ここでさらに極東連合艦隊まで相手にしたらこちらが殲滅されてしまう。
「くそ、何で奴等が出てくる。一体何が起きてるんだ!?」
中立だった筈の極東連合がはっきりと攻撃の意思を向けてきたのはこれが初めてではないが、今回は脅しでは無いのが相手の動きから察する事が出来る。だからハーヴィックは逃げる事にしたのだ。もう、勝敗は決したから。
ザフトが撤退した後、生存者の救助と損傷したアメノミハシラの修復を進めていたカガリの下に、駆けつけた連合部隊の指揮官がやってきた。指揮官を司令室に迎えたカガリは、挨拶もそこそこに用件を問い質している。
「状況が状況なんで、手短に頼む」
「分かっております」
連合の指揮官が頷き、カガリに単刀直入に用件を伝えた。
「オーブに連合軍統合司令部からの要請があります。このアメノミハシラをパナマのマスドライバー打ち上げ軌道に移動させ、そこを守る防御拠点として使わせて欲しいのです」
「防御拠点に?」
「はい、マスドライバーは打ち上げ直後が一番危険なのです。そこを狙われればひとたまりも無い。ですから、このアメノミハシラを使いたいと、司令部が言ってきたのです」
この申し出にカガリはなるほどと頷いた。確かにパナマの重要性と、アメノミハシラの存在を考えればそれは納得が行く話だ。それにこの条件ならアメノミハシラはパナマからの補給を受ける事が可能になり、これから先の物資不足を心配する必要が無くなる。これはオーブ軍にとっても悪い話ではなかった。
「分かった、その件はこちらで検討させてもらおう」
「ありがとうございます」
カガリに伝達事項を伝えた指揮官は敬礼して一歩下がり、カガリは彼に衛兵をつけて軍港まで送るように命令した。そしてどっと疲れた顔になり、近くのオペレーター席にいるカズィを見る。
「カズィ、状況はどうなってる?」
「通信回線は問題ないよ。今ユウナさんが生存者の救助をさせてる」
「被害はどれくらいになりそうだ?」
「それはまだなんともね。ユウナさんからの報告だと、MS隊の3割は喪失、機体は半分はスクラップだってさ」
なんともお先真っ暗のニュースに、カガリは頭を抱えてしまった。今回相手にしたのはザフトの大部隊ではあったが、決して類を見ない大軍ではない。そんなものにボロボロにされたというのだから、カガリは改めてオーブ軍の弱さを思い知らされた事になる。
そしてカガリは困り果てた顔で天井を仰ぎ、これからどうするかを考えた。
「とにかく、ユウナとミナが帰ってきたら今回の戦闘の反省会をしないとな。このままじゃ何時までたっても負け続ける」
自国の軍隊の再建の道は険しいと思えるカガリには、自分がこれから歩いて行く道がいかに困難な物であるかを改めて認識させられていた。それは、カガリにとって決して愉快な物ではなかった。
そしてカガリはチラリと自分の横を見て、そこに自分を助けてくれた2人の人間が居ない事に寂しさを見せてしまう。
「キサカ、フレイ、お前達がいてくれたら、私はこんな苦労をしなくて済んだんだぞ」
それは悲しみを秘めた愚痴だった。自分を逃がす為に散っていったキサカ、そしてシャトルに到着する寸前で落とされたフレイ。2人とも自分の指揮の未熟さで失ったかけがえの無い人材だった。この事は今でもカガリを責めたてる刃となって心に突き刺さっている。この自責の念が、カガリを指導者として成長させた力であった。
この後、アメノミハシラに入港したフブキに積まれていたγグリフェプタンが急いで医務室のステラに投与される事になった。この時ステラは衰弱こそしていたものの、眠っていたので暴れる事は無く、投与はスムーズに行われた。そして薬が効いてきたのか何処か苦しげだった寝息は徐々に穏やかなものに変わっていき、見ていた一堂がホッと安堵の息を漏らしていた。
だが、その時ステラが何かをうわ言の様に呟き、右手が何かを掴むかのように僅かに持ち上げられる。それを見たシンがどうしたのかとその手を取ると、ステラはシンの右腕を両手でがっちり確保して物凄い力で自分の方にひっぱり、がぶりと噛み付いた。
その瞬間、医務室内にシンの腕に噛み付かれた激痛による悲鳴が轟いた。ステラはハムハムとシンの右腕を食べようとしていて、離してくれそうにない。
「ちょ、まっ、イダダダダダダダッ!!」
「ス、ステラ、それは食べ物じゃないって!」
見ていたカガリが慌てふためいてステラからシンを解放する。解放されたシンの右腕にはくっきりと歯型がついており、シンが涙目で噛まれた部分を押さえていた。そしてその騒ぎで目が覚めたのか、ステラが眼を開いて上半身を起こし、ぼんやりとした顔で周囲を見回している。
「……あれ、ステラのお芋、何処?」
「芋って何だ、寝ぼけてるだろお前!?」
一体どんな夢見てたんだと突っ込むカガリ。どうやらステラは夢の中で焼き芋を食べていたらしく、たまたま掴んだシンの腕を芋と勘違いして食べようとしたらしかった。まあ睡眠中のことで本人に悪気はまるで無かったわけだが、何故に焼き芋なのだろうか。
「んーとね、艦のみんなとか、おじさんとか、シンと一緒に焼き芋してたの」
「……ああ、思い出したぞ。そういやステラは隊長が作った焼き芋を貰った事があったな」
キースがステラの言ってる事の大元を思い出した。アルフレットはラバウル基地でも自分のペースで動く男で、何を考えたのか落ち葉を集めて焼き芋を焼いていた事があったのだが、ステラはその時に何をしているのかとやってきて、そこでアルフレットに焼き芋を貰っていたのだ。この焼きたての芋はステラに大層好評だったと、アルフレットが笑いながら酒の席で教えてくれたのだ。なお、ステラはアルフレットの事を何故かおじさんと呼ぶらしい。
多分ステラは自分の仲間達と自分の好物と認識した食べ物を夢の中で1つにしてしまったのだろう。しかし、目を覚ました途端から騒動を起こすとは、恐ろしいトラブルメーカーである。
アメノミハシラを巡る戦いが終わった頃、地球ではとうとうカオシュン攻略の為の部隊が集結を終えようとしていた。ハワイにはアークエンジェルなどを含めた大艦隊が集結している。その主力は海軍で、4隻の大型空母が参加する事になっている。他にも多数の戦闘艦や揚陸艦が参加する一大作戦で、マリューたちにとっては久しぶりの友軍との共同作戦であった。
この作戦においてはアークエンジェルは前線統制艦としての役割を与えられており、参謀本部からやってきたサザーランド大佐が乗り込んで陣頭指揮をとる事になっている。ただ、これにはマリューがかなり嫌がったらしい。
カオシュン攻略作戦も間近という事の時期、当然訓練にも余念がなく、MS隊や航空隊のパイロット達は日夜腕を磨いていた。そんな中で一際目立つのは、やはりエース同士の模擬戦だろうか。1機の新型バックパックを付けたクライシスを相手に、ソードパックを付けたストライクとカラミティ、フォビドゥンが戦っている。
「トール、シャニ、左右から挟みこめ、俺が足を止めてやる!」
「分かった!」
「ちっ!」
ホバーで試験場を駆けていくカラミティがバズーカと両肩のビーム砲から演習弾を連射する。それを高速機動で回避しながらも動きを止められたクライシスの左右から対艦刀を構えたストライクと鎌を構えたフォビドゥンが襲い掛かる。それは息のあった同時攻撃で、クライシスはどちらかの攻撃に対応する間にもう一方に倒される筈だ。
だが、クライシスはその状況で焦る様子も見せず、ストライクの対艦刀を左腕のシールドで受け止め、フォビドゥンの鎌はビームライフルを捨てた右腕で柄を掴む事で止めてしまった。
「そんな、止められた!?」
「マジでっ!?」
そんな出鱈目な、と余りの理不尽さにトールとシャニが悲鳴を上げるが、それで終りではなかった。バックパックのウェポンベイが開き、ミサイルが発射されたのだ。それも有線では無いミサイルが。
そのミサイルは至近距離にいたストライクとフォビドゥンを襲い、爆風に2機が包まれる。そして爆風が消え去らぬうちに2機は飛び出すようにして後退して来た。
「ストライクGは先程のミサイルで判定撃破、フォビドゥンは中破です」
「そうか、相変わらず化物だな、隊長は」
アークエンジェルの艦橋でミリアリアが模擬戦の判定データを報告し、聞いていたフラガが呆れた顔をしている。今戦っている3機は全てエース級だ。確かに機体性能はクライシスが頭1つ抜けているが、それを差し引いてもアルフレットは強すぎる。そして、あの新型バックパックも。
フラガはノイマンの操舵席シートに両手でもたれ掛かると、ノイマンに楽しげな声をかけた。
「量子通信技術で制御できるようになった誘導ミサイルか。おかげで射程が大幅に伸びたって言うし、便利な物作ったよな」
「そうですね、ガンバレル型も開発してるそうですよ」
「ほう、そりゃ、是非使ってみたいねえ」
ガンバレルと言えばフラガには馴染みの兵器だ。あれが無線誘導出来るならこれまで以上に強力な武器になる筈であり、かつてエンディミオン・クレーターで壊滅したメビウス・ゼロ部隊の栄光を取り戻せるかもしれない。月基地ではガンバレル装備部隊の再建が行われているそうだから、それに装備させればかなり良い機体が仕上がるだろう。
そしてフラガは背後にいる人物に声をかけた。
「どうですかサザーランド大佐、ご感想は?」
「うむ、中々のものだな。あれが実戦部隊に行き渡れば、今後の作戦で大きな助けとなるだろう。将来的には艦載誘導兵器の復活に繋げたいものだ」
「ミサイルで長距離戦をするんですか?」
「そうだ。そうすれば、あたら若いパイロット達を死なせる事も無くなるだろう」
サザーランドの部下の死を悼むような口調に、フラガは少しだけ真面目な顔になって頷いた。NJの投入以降、どれほど多くのアーマー乗りや戦闘機パイロットが散っていったことだろうか。誘導兵器が使えればこんな犠牲は必要なかったのだ。
MSが投入された今でも死んでいくのは若い新兵達だ。キラやフレイと変わらない年齢の子供達が機動兵器に乗り、前線で今この瞬間も散っている。その現実を良く知っているのがサザーランドであり、フラガだ。その辣腕振りから冷酷な男と酷評されていても、MSの開発を対立していたハルバートンとさえ協力して押し進めたサザーランドは兵士の命の重さを知っている指揮官であった。
そして、通信席のサイが司令部からの通信を受け取ってフラガに伝えてきた。
「フラガ少佐、技術チームからテスト終了だと言ってきました」
「そうか、分かった。ミリアリア、テスト終了だとさ」
「はい、各機に伝えます」
ミリアリアが模擬戦を続けていた4機にテスト終了を伝える。この模擬戦が、連合が量子通信を利用した装備を使用した、初めての戦いになる。そしてこの新型バックパックは、カオシュンで実戦テストが行われる事になっていた。
ジム改 これでアメノミハシラを巡る攻防は暫し終了、ザフトも息切れだ。
カガリ うちはズタボロだあ!
ジム改 次は地上がメイン、久々にアークエンジェルを中心に話が回るぞ。
カガリ 本当に久しぶりだな。
ジム改 すいません、手が回りませんでした。
カガリ これでカオシュン攻略だけど、ぶっちゃけ戦闘になるのか?
ジム改 第8任務部隊だけで落とせそうかも。
カガリ ……いや、それじゃこれは虐めだろ?
ジム改 まあ、戦争なんて弱い者虐めが最上の戦いだし。
カガリ 酷い奴だな。
ジム改 カオシュンでは久々の連合VSザフトだ。オーブが絡まないのは久しぶりだ。
カガリ 何だかなあ。
ジム改 それでは次回。カオシュンに向けて出撃した大西洋連邦、極東連合、赤道連合の大部隊を前に、ザフトは戦慄を隠せなかった。撤収準備を進めていたカオシュンには碌な戦力は無く、連合の侵攻にザフトの運命は。次回「カオシュンの攻略戦」でお会いしましょう。